インフレーション
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第一章
インフレーション
その漫画は最初は恋愛コメディーだった、だが。
作者の富山正伸にだ、担当の間後人祐一は言った。
「先生、格闘要素を入れましょう」
「えっ?」
富山は間後人のパーマで痩せた顔に対してまずはこう声をあげた、眼鏡をかけたぼさぼさの黒髪が目立つやや浅黒い太った顔で応えた。
「僕恋愛コメディー描いてるんですが」
「いや、それが任期が今一つで」
間後人は明るく笑って言った。
「雑誌でも順位落ちてるでしょ」
「それは確かに」
「このままいったら打ち切りですから」
「打ち切り!?」
漫画家が一番聞きたくない言葉だ、だから富山もぎくりといった顔になった。
「まさか」
「いえ、そのまさかがですよ」
「ありますか」
「このままですと、ですから」
ネームの打ち合わせ場所のファミレスで話す。
「ここはです」
「格闘要素をですか」
「入れましょう、やっぱりうちの雑誌はです」
「恋愛とかコメディーよりもですか」
「格闘です」
この要素が人気があるというのだ。
「やっぱり、ですから」
「その要素をですね」
「入れていってです」
「打ち切り回避ですね」
「いえいえ、打ち切りどころか」
間後人は能天気なまでに明るい声でだ、富山にぶちあげた。
「看板漫画、ひいてはです」
「まさか」
「そのまさかですよ」
何処かの黒いか笑うかわからないがそんなセールスマンのお決まりの指の指し方になった、ただし奇妙な感じはかけない。
「アニメ化、そしてです」
「世界的なですか」
「大ヒットですよ」
そうなるというのだ。
「我が週刊三回刊少年マガジャンサンピオン伝統のドリームです」
「デビューしたての漫画家が」
「一躍長者版付けに出て」
「世界的な大ヒットですか」
「そうなってみたくないですか?」
間後人はやはり明るくだ、富山に言う。
「そうなってみませんか?」
「それじゃあ」
「はい、決心されましたね」
「格闘要素を入れます」
こう間後人に答えた。
「そうさせてもらいます」
「それでは」
「目指せ世界です」
ただ雑誌の看板雑誌になるだけでなく、というのだ。
「そうなりましょう、先生絵は上手ですから」
「だからですか」
「格闘ものも映えますよ」
実際富山は画力がある、描写はしっかりとしていて背景も細かくキャラクターも可愛い。実際間後人もその絵を観て彼をデビューさせた。
そしてそれだけにだ、富山に言うのだった。
「ではその路線で」
「今後格闘も入れる」
「それでいきましょう」
こうしてだった、富山は自分の恋愛コメディーに格闘要素を入れてみた、すると。
実際に人気は上がった、富山も彼の仕事場で原稿を受け取ってから言った。
「先生、人気上がってますよ」
「そうなんですか」
「はい、実際に」
「それは何よりですね」
「このままこの路線でいけば」
「人気がですね」
「どんどん上がります」
そうなるというのだ。
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