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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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231部分:決戦その十


決戦その十

「それは適わなくなりましたな」
 彼はそう言うと馬首を返した。その部下達も続く。
「ここは私にお任せを。先にシアルフィへお行き下さい!」
 彼は剣を構えた。その前にターバンを巻いた騎士が現われた。忽ち激しい剣撃が戦場に響いた。
「オテロ、それは許さんぞ!」
 アルヴィスが叫んだ。
「戻れ、そしてシアルフィに行くんだ!」
 そう叫び前に出た。
「いけません、陛下!」
 フェリペはそれを押し止める。
「お戻り下さい!」
 近衛兵達もそれに続く。だがアルヴィスは叫び続ける。その目の前では帝国軍の騎士達が次々に倒れ伏していく。
「オテロ、戻れ!」
 アルヴィスはまだ叫んでいた。だがフェリペが言った。
「陛下、オテロ将軍のお気持ち、御察し下さい。どうか、どうかここはシアルフィまで落ち延びて下さい・・・・・・!」
 その老いた瞳には涙が滲んでいた。
「・・・・・・・・・しかし」
 アルヴィスも彼や近衛兵達も心がわかっていた。辛かった。オテロの心もわかっていた。無念だった。
「・・・・・・・・・わかった」
 アルヴィスは踵を返した。そして二度と後ろを振り返らなかった。
 オテロの決死の足止めが功を奏しアルヴィスは何とかシアルフィ城に辿り着いた。この時周りにいたのはフェリペの他には五十名足らずの近衛兵達であり皆瀕死の重傷を負っていた。最早大陸最強と謳われた帝国軍の精鋭炎騎士団の姿は何処にも無かった。
 天下分け目と言われたシアルフィ会戦は解放軍の歴史的な大勝利で幕を降ろした。参加兵力は解放軍九十万、帝国軍三十三万、両軍合わせて百二十万を越える兵力が激突した大会戦であった。損害は解放軍が一万に満たなかったのに対して帝国軍は三十万以上、兵力のおよそ九割以上を失いシアルフィ城に戻れたのは二万に満たなかった。戦死した主だった将は解放軍が皆無であったのに対して帝国軍は十一将を筆頭として名のある将の殆どが戦死した。圧倒的な兵力と相手の戦術の隙を衝いた解放軍の地滑り的な勝利であった。
「さあ、いよいよシアルフィ入城ですな」
 陽も落ち夕闇が急速に世界を支配していく中オイフェは満面に笑みをたたえセリスに対して言った。
 辺りでは夕食を炊く煙が立ち昇り勝利を喜ぶ声が聞こえて来る。どの者の顔も晴れやかであり勝利の美酒を堪能している。
「そうか、入城か。僕達は勝ったんだね」
 何故か実感が湧いてこない。今までとは全く違う。それが自分にも不思議だった。
「そうですよ、我々は勝ったんです。バイロン様、シグルド様のご無念をようやく晴らしたのです」
「それもこれ程の大勝利でです。天下に仇をなした不義の輩達に裁きを下した勝利なのですよ」
「祝いましょう。そしてこの日を生涯忘れぬようにしましょう」
 ノィッシュ、アレク、アーダン等も口々も言う。彼等が最も喜んでいるようだ。
「ノィッシュ達の言う通りです。さああちらへ行きましょう。皆が祝杯を持って待っておりますぞ」
「うん・・・・・・」
 いつもは謹厳なオイフェまでもがそう言いセリスを宴の場へと誘った。セリスは内に思うことがあったがそれを秘め宴の席へと向かった。
 宴はオイフェが音頭を取り無礼講となった。年長の者達が席を立つと後はいつも通りであった。だがセリスはその中においても黙々と食べ飲むだけであった。
 宴の後セリスは解放軍帝国軍を問わずこの会戦で戦死した将兵達を手厚く葬るよう命じた。これは以前よりそうであったが相手が仇敵ヴェルトマーであっただけに世の者を驚かせた。
ーシアルフィ城ー
 解放軍大勝利の報はすぐにシアルフィの市民達の間にも広まった。それは瞬く間に歓喜の声と化した。
 傷付いた敗残兵である帝国軍なそ最早関係なかった。反乱こそ起こさなかったが街はセリスと解放軍を讃える声で満ち居酒屋は何処も客で溢れかえった。
 それは夜でも変わらなかった。市民達の声は夜の街を見たしていた。
 その中アルヴィスは宮城の天主に登り一人夜の空を眺めていた。天主の頂上は何も無く殺風景である。
 黒というより濃紫に近い夜の空に無数の星達が瞬いている。青い巨星の輝きはさらに強いものとなり周りの星達も皆その光が鮮やかになっていた。
 それに対して青い星の対極にある赤い星は今にも消えそうであった。周りの星はもうその殆どが空から消えている。
 赤い星が落ちた。そしてそれに続く様に周りに残っていた僅かな星達も次々に落ちていった。
「そうか、それが宿命か。やはりな」
 アルヴィスはそう呟くと肩を落とし下へ降りて行った。後には誰も残ってはいなかった。
 シアルフィの夜が明け朝が来た。解放軍は二日の休養を取った後でシアルフィ城へと進撃を開始した。同時にアルヴィスも動いた。過去と現在、未来を統べる三柱の女神達はこの時は母である大地と智恵の女神エルダに与えられた自らの職務をどう考えたであろうか。それを知る者は誰もいなかった。
 
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