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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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218部分:闇の血脈その一


闇の血脈その一

                    闇の血脈
 シアルフィ平原において対峙した翌日解放軍九十万と帝国軍三十三万は同じシアルフィ平原において再び対峙した。だが今回は単なる顔合わせではなかった。両軍の将達がそれぞれの軍が睨み合うその中間点で武装し立ったまま会談を行なっていた。その内容は無論講和などではなかった。改めて宣戦を布告する為の会談であった。
 古来よりユグドラルにおいては戦端を開くにあたり双方の将達が一同に会しその場において宣戦を布告するのが慣わしとなっていた。これは最後のその場で戦乱が生ずるのを何とか防ごうという考えによるものだがユグドラルにおいては由緒正しい騎士としての儀礼となっていた。マンスターにおける解放軍とトラキア軍のそれもである。だがこの様な慣わしは戦争においては己が野心を遂げんとする野心家達にとっては無意味なだけでなく邪魔なものであった。そういった輩達によりこの宣戦の会談は無視されるようになった。
 とりわけアルヴィスはそうであった。彼は今まで叛徒を討伐すると称してこの会見を持ったことが無かった。その彼も今では一連の謀議が明るみになったことにより彼自身が簒奪者、反逆者として非難され討伐される側となってしまった。会談を申し入れてきたのは帝国側であったがアーダンやアレク等シグルド以来の将達は宣戦なぞ行なわず謀反人としてアルヴィスを討伐すべしとセリスに提案したがセリスはこの申し入れを受けることにした。それが騎士として正しい在り方だと思ったからである。
 バーハラにおいてのアルヴィスの騙し討ちをよく知る彼等は何かあれば帝国軍の将達を皆殺しにしそのうえで帝国軍を一兵残らず掃滅出来るように武装を整え服の下に鎧や暗器を仕込ませ軍を臨戦状態に置いた。そのうえで解放軍と帝国軍の将達、セリスとアルヴィスの会談が執り行なわれた。
「よく私の申し出に応じてくれた、セリスよ。このアルヴィス心から礼を言おう」
「はい」
 父の仇、と思った。だが憎しみは生じなかった。むしろアルヴィスから発せられる力強く、かつ熱い気に惹かれるものさえ感じていた。
「それにしてもそちらから会談を申し出されるとは流石にお見事な神経ですな、アルヴィス卿」
 オイフェが言った。皇帝とあえて呼ばなかった。
「今度は一体どの様な奸計をお考えですか?」
 オイフェは敵意を露わにしている。
「オイフェ・・・・・・」
 制止しようとした。だがそれ以上言葉を出せなかった。
 オイフェだけではなかった。解放軍のどの者もアルヴィスと帝国軍の諸将を憎悪の眼差しで睨んでいたのだ。
 無論セリスも帝国を嫌っていた。だがそれは帝国の悪行を嫌っていたのであり帝国の者を嫌っていたのではなかった。当然憎んでいたのでもない。
 だがセリスの様な考えを持つ者は少なかったのだ。
 人間の業の一つとして憎しみがある。これは罪や悪といった抽象的なものより人や物等実質的なものに向けられる。それはその対象として実体の無いものよりあるものの方が向けやすい。
 罪を犯した者や悪人ばかりがこの世にいるわけではない。だが人間という不完全な思考回路を持つ生物は憎しみの対象をしばしば憎む者がいた組織のそれとは直接関係の無い者や罪を犯したわけでもない縁者にまで向ける。それが今まで多くの陰惨な悲劇を引き起こしてきたにも拘わらず、だ。
 この時それを知ったセリスは幸運であった。後に彼がユグドラルを治めるにあたりこの認識が大いに生きた。その事が彼を『聖王』と後世の歴史家や詩人達に称えさせることになるのだがこの時神ならぬ彼はその事をまだ知らなかった。
 セリスはオイフェを制した。そして向き直り改めてアルヴィスと向かい合った。
 アルヴィスも自分に向けられている強烈な憎悪の念の強さをよく認識していた。だがそれを表には出さなかった。
「今日この場に来てもらったのは他でもない。この度の卿の我が帝国に対する反乱の事だ」
 アルヴィスの言葉に対しセリスは一言も発しない。アルヴィスは言葉を続ける。
「速やかに兵を解き投降するならば罪は問わぬ。卿をシアルフィ公、及び帝国軍務相に任じ他の者達の地位と安全も保障しよう」
 セリスはまだ一言も発しない。
 
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