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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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210部分:金銀妖瞳その三


金銀妖瞳その三

「その瞳はシアルフィの瞳だ。ユリア、御前はシアルフィの娘なのだよ」
「それではセリス様は・・・・・・」
「そうだ、セリス皇子は御前の実の兄、そして御前の本当の父は・・・・・・かって私が陥れバーハラの戦いで死に追いやったシグルド公子なのだよ」
 ユリアの心が割れた。地に落ち砕け散った。今までの自分が自分ではなかったのだ。それまで父と呼んでいた人がそうではなかった。何もかもが嵐の中の花の様に乱れ様々な色彩が心を不規則に染めていった。
「かってマンフロイが私の前にディアドラを連れて来たとき既に御前は彼女の中に宿ろうとしていた。そしてユリウスも宿った。
「・・・・・・御前とユリウスは双子だが父が異なるのだ。・・・・・・あの子は私の忌々しい闇の血脈を受け継いでしまった」
「そして私が光の・・・・・・」
「そうだ。私が謀殺していったヘイムの血だ。・・・・・・ここにいるのは御前の父ではない。お前の父と二人の祖父、そして御前の一族の者達を次々と殺した卑劣な簒奪者だ。・・・・・・私を恨み、憎むだろう。私は御前にそうされる事をしてきたのだからな」
 アルヴィスはそう言うとユリアに背を向けた。最早顔を見せる事すら値しないと思ったのだ。
 だがユリアは違っていた。アルヴィスの背に歩み寄るとその両肩にそっと手を置いた。
「ユリア・・・・・・」
「御父様をどうして恨んだり憎んだり出来ましょう。いつも私に優しくして下さった御父様を」
「・・・・・・済まぬ」
「そして御父様は私の御父様です。私のお友達であるアルテナ王女が私に言われた事があります。私には父が二人いるのだと。それでは私も御父様が二人おられる事になります。シアルフィとヴェルトマーの」
「ユリア・・・・・・」
 目からは流れなかった。だが心で泣いた。涙が止まることなく溢れ出てきた。この優しい少女に、自身の罪をも包んでくれたこの少女の心に対して。涙は止めどなく流れた。
「ユリア・・・・・・」
「向き直った。紫と青の瞳が自分の顔を見上げている。
「パルマーク司祭と共に早く逃げなさい。そして御前の兄のところへ帰るんだ」
「はい・・・・・・」
 ユリアはそれに対し静かに頷いた。これが最後の別れだと思った。だがその時であった。
「これは困りますな」
 不意に声がした。しわがれた老人の声だ。二人はハッとして声のした方を振り向いた。
 そこには黒い渦が生じていた。それは次第に大きくなり人程の大きさになった。見れば二人を取り囲む様にそれと同じ渦が幾つも生じていた。渦からあの男が出て来た。
「その娘はナーガの血を引く者。逃がすわけにはいきませぬ」
「マンフロイ・・・・・・」
 アルヴィスが彼の姿を認めて呻く様に言った。
「しかも独断で子供達まで逃がしてしまわれるとは。この様に勝手な事ばかりされては困りますな」
 彼は口の端を歪めて言った。
「勝手な事だと!?」
 アルヴィスはその言葉に顔を歪ませた。
「貴様は私が誰だかわかって言っているのか!」
 語気を荒めた。だがマンフロイはそれに対して怖れもしない。否、侮蔑でもって返したのだ。
「フン、何時まで皇帝でいるつもりだ」
 それは皇帝に対する物言いではなかった。蔑みと嘲笑と悪意で濃く味付けされた醜い料理であった。まるで用済みとなった死にかけの家畜に対する様な言葉であった。
「貴様はユリウス様の使い捨ての駒に過ぎぬ。忌まわしきファラの血筋とはいえ皇家の血を引くからこそユリウス様も我等も今まで生かしておいたのだ。それを忘れるな」
「クッ・・・・・・」
 何も言い返せなかった。今の自分がどれだけ無力な存在であるか、それは他ならぬ彼自身が最もよくわかっていたからだ。
 
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