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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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197部分:聖杖その二


聖杖その二

「セリス皇子、御初に御目にかかります。我等アグストリア解放軍七万、解放軍の末席に加えさせて頂きたく参上致しました」
「喜んで。ところで七万というにはいささか数が少ないようですが」
「我等が同志の一人デューが一万の兵を率いゴート砦へ向かっています。またヴェルダンのユングヴィとの国境にはイーヴ、ユヴァ、アルヴァ等三兄弟が指揮する十万以上の軍が控えております。その点は御心配無く」
 レックスが答えた。
「そうですか。心強い限りです」
「ところでセリス皇子・・・・・・」
 五人の顔が強張った。
「このミレトスで起こっている事、ご存知だと思いますが・・・・・・」
「はい、暗黒教団ですね」
「やはり・・・・・・。どうやら彼等は再びこのユグドラルを絶望と恐怖が支配する世界にしようと考えているようなのです」
「それは僕もわかっています。暗黒神を復活させる為このミレトスで子供狩りを行い罪無き人々の命を弄んでいます。このままを放っておけば恐ろしい事になります」
「その通りです。・・・・・・そして」
 クロードは顔を曇らせたが言った。セリスは彼が何やら恐ろしいものを見たと悟った。
「ラドス城に来て下さい。是非見て頂きたいものがあります」
「はい」
 セリスはその言葉に是非もなく従った。今から自分が見るものを彼は既に悟っていたのだ。
 ラドス城の中はセリスが思っていた通りであった。人気が全く無い、廃墟と化していた。
 至るところに人骨が転がっている。粉々になったものや頭や手足が分かれたもの、四散したものや焼けたもの等様々だ。
「殺し方を楽しんでいたな。下衆な連中がやりそうな事だ」
 シャナンが忌々しげに言った。
「それもゆっくりと時間をかけている。古のロプト帝国の頃と何ら変わるところは無い」
 噛み跡の残るバラバラになった骨も転がっている。
「獣に食わせたな。しかも池の中にまである。鰐まで使ったか」
 内城の前まで来た。そこには串刺しにされたとおぼしき白骨化した死体が林立していた。身体の一部が切断されたらしいものまである。
「・・・・・・今度は串刺しか。よくもこれだけ趣味の悪い処刑を次から次へと考え付き実行出来るものだな」
 シャナンの声には不快さと憎悪が現われていた。
「・・・・・・やはりね」
 セリスはそれ以上言えなかった。どの死体の顔にも苦悶と恐怖、そして凄まじい断末魔が描かれており子供のものは一つもなかったからである。
「暗黒神の下では人は生きていけぬ。もし再びこの世に君臨したならばユグドラル全土がこのラドス城のようになってしまう」
 セイラムが言った。
「だからこそ僕達は行かなければならないんだね。大陸を闇の支配する世界にしない為に」
 一同セリスの言葉に頷いた。クロードが言った。
「さあミレトスへ向かいましょう。ユリウス皇子こそロプト教団を操りこの世を支配せんとする暗黒神の化身、彼を討ち滅ぼさない限り世界に光は訪れません」
 セリスはその言葉に頷いた。
「よし皆ミレトスへ行こう。そしてユリウス皇子を倒し暗黒神を滅ぼすんだ!」
「ハッ!」
 一同敬礼した。そしてただちに全軍をもって暗黒教団の者達が守るゴート砦へ向かった。
 ミレトス南の山脈には峡谷がある。その幅は狭く、またクロノス、ラドスからミレトスへ向かう唯一の路である為その戦略的意義は大きかった。だがミレトス地方は自由都市群であった為大規模な軍隊を持つ都市も無く小さな関所が置かれているだけだった。ここに砦を築いたのはグランベル帝国であった。
 この峡谷にゴート砦を築き直轄地としたのは防衛上の意味合いもあったが経済的意義の方が大きかった。旅人や商人から徴収する通行税は帝国に相当の収入をもたらした。
 ユリウス皇子がミレトスに駐屯すると防衛拠点となった。彼が鎮座するミレトスの南方の護りとしてこの砦は不可欠なものであったからだ。だが今ここに暗黒教団の者は誰一人として残ってはいなかった。
「どういう事だ、本当に空城なんて」
 スラリとした身体を黄色のシャツとズボンで包んだ男が首を傾げて言った。黒い瞳の若々しく、かつ幼さの残る顔立ちである。長い金髪を後ろで束ねている。腰には剣が下げられている。この男の名をデューという。大陸では知らぬ者の無い大盗賊である。
 
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