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ガンスリンガーガール短編

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平均的なイタリア人男性

 訓練後、自室で着替えているリコとエッタ。 お仕置きにより痣だらけになっている自分の体と見比べ、リコは傷の少ないエッタの背中に指を這わせた。

「エッタの肌ってきれいだね、真っ白」
「きゃっ、そんなとこ触っちゃだめっ、リコだって……」
 そこでリコの痣に目が行って口ごもってしまうが、手を当てて心配してやる。
「こんなになって…… ジャンさんも、もっと優しくしてくれればいいのに」
 先日の失敗を記憶していない二人は、着替えの途中に乳繰り合いながら、お互いの「体のヒミツ」を探り合っていた。
「ねえねえ、エッタの体も、どこかから「ぎじゅつきょーよ」されてるの?」
「よく知らないの…… そうだ、ジョゼさんに聞いてみよう」
 ジョゼに会う口実が出来て得意絶頂のエッタと、仕事中そんなことを聞けば間違いなくグーで殴られ、おまけにキックも頂けるかもしれない自分の境遇を思い、三千世界の彼方に思いを馳せるリコちゃん。
 それからエッタは、清潔な下着とブランド物の服に袖を通し、リコはメイドインチャイナの安い男の子用の服を着て二課の詰所に向かった。
「あ、あの、ジョゼさん、お仕事中すみません。 少し質問があるんですけど」
「いや、いいんだよ。丁度休憩しようと思ってた所だ、今日はどんな質問かな?」
 山のような書類に背を向け、笑顔で応対するジョゼ。それを見てリコは腹の奥にドス黒い物が芽生えていくのを抑えられなかった。
「じゃあ、坐学の一環として教えてあげるよ、カフェに…… いや、教室に行こうか」
「はいっ」
 頬を染め、嬉しそうにしているエッタの横で、無理に笑顔を作るリコの能面のような表情が怖かったジョゼ。その日の悪夢は、リコがジャンをキシュキシュする夢に決定した。

「エッタ、君の体はね、日本の技術で作られているんだ」
「へえ、そうなんですか。日本だったら、小さな機械とか得意そうですね」
「うん、でもイタリアではカーボン素材と言えばフェラーリ。アプリリアのフレームやホイールまで作ったぐらいだからね。だから最初はフェラーリから技術を提供して貰ってたんだけど、あの会社は政治的なゴタゴタが多くて……」
 遠い目をしながら過去の情景を思い出しているジョゼ。
「レースでも、子供の頃、兄さんと一緒にテレビを見ていた頃もそうだ、しまいには1週目でエンジンブローさ、あれには流石の僕も頭に来たよっ」
 そこで二人は、ジョゼの表情と言葉使いが変わったのに気付いた。 もっともこの場合、平均的なイタリア人男性の本性を剥き出しにした、と言った方が適切かも知れない。
「余りにも不甲斐無い成績だったから、日本のメーカーが撤退する時に、「紳士的な提携」でV12気筒エンジンの技術を供与して貰ったんだ、技術者と一緒にね…… この偉大なイタリアの象徴、素晴らしいフェラーリが、あの黄色い猿どもの車に劣るだと、くそおおっ!」
 普段冷静で優しいジョゼの目に次第に狂気が宿って行く。
「その腐れ縁が切れずに、今度も実験の参加を捻じ込まれたって訳さ…… ヘンリエッタ、君に分かるか? この悔しさが、君もイタリアで育ったなら分かるはずだっ!」
 もう泣きながらヘンリエッタの肩を掴み、前後にガクガクと揺さぶっているジョゼ。そして幼い少女には言ってはならない汚い言葉を使ってしまう。
「お前の体はなっ! あのサルどもの中で特に卑劣な、HONDAに作られたんだよっ! 我らの聖地であるモンツァやイモラで1,2フィニッシュを決めた、あの汚らしい白赤の車と同じ……」
 目の幅もあるような滝涙を流しながら、絶句してしまうジョゼ。拳で床を殴り、次第に血が滲んで行く。
「Do You Have a HONDA?」
「夢をありがとうっ」
 ジョゼの余りの剣幕と絶望の深さを見て、あらぬ事を叫んで驚く二人。
「だが今は違うっ! 今のレギュレーションでは我らのスクーデリアは無敵だっ!」
 ジョゼが上着とワイシャツを脱ぐと、その下から真紅に染め上げられたシャツが現れ、胸には公式ロゴで「Ferrari」のと印刷された文字があり、完全にアッチの世界に行った目付きのまま、イタリア国家を斉唱し始めた。
「ジョゼさん……」
 壊れてしまった主を見上げて泣いているエッタと、ドス黒い表情でニヤニヤ笑っているリコちゃん。そこでジョゼの背後に人影が現れ、背中にスタンガンを押し当てて昏倒させた。

「一応説明しておいてやろう、イタリア人の男は、「フェラーリがレースで負けた時」「オリンピックやワールドカップでイタリアサッカーチームが負けた時」「母親が死んだ時」この3つの「事故」があった場合、我を忘れて暴徒と化す事が法的にも認められている」
((ぜってー嘘だ……))
 ジャンのおちゃめなイタリアンジョークを理解できず、呆然としている二人。
「二人共、今日見た事は忘れるんだな。 でなければまた、条件付けのページを増やして寿命を縮める事になる、分かったな?」
「「は、はい……」」
 弟を肩に担いで去って行くジャン。性能の良い目を持っていたヘンリエッタは、ジャンの肌着も赤である事と、背中にジョゼのシャツ同じ文字が印刷されているのが見えた。
「昨日はセリエAだったのに……」
 ちなみにその時、ジョゼが見ていた悪夢は、フェラーリがピット出口で「ドライブシャフト」を落としてリタイアし、兄と一緒に泣いた瞬間が脳裏で再現されていたと言う……
 
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