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ガンスリンガーガール短編

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クラエス その後

 
前書き
アニメ一期、単行本1,2巻頃に書いたので設定違いがあります、ご容赦ください。
出来レースで有名なアニマックス大賞で酷いのが選ばれて批判していた時「お前のを晒せ」と著者か関係者に言われ、ハァハァスレかどこかに貼りましたので、ログが残っているかもしれません。 

 
 アンジェが眠った数年後、他の子達も一人、また一人と旅立って行った。
 あの子達は何のために生まれて来たのだろうか? ある者はこう言った。
「彼女達は悪しき者を摘み取るため、この世に遣わされた天使だ」と、「そして役目を終えた天使達は、穢れた世界から召されて天国に帰ったのだ」と。
 誰がそんな戯言を信じる? 自分達の行いを正当化しようとする表面だけの慰めの言葉では、あの子達は救われはしない。

 しかし、後になってその原因が突き止められ、ドクタービアンキから説明を受けた。医学的な難しい内容は分からなかったが、こう言う事らしい。
 人は常に苦痛に晒されている。大気圧に押し潰され、重力に縛り付けられ、息をするにも歩くにも苦痛を伴う。
 普通の人間は、それが痛みと認識されないよう、脳の中で調整が行われているが、私達は撃たれた時にも冷静に行動できるよう、表皮と筋肉の痛感は最小限に抑えられていた。

 人工筋肉により月面を歩くように軽やかに歩み、日常の動作が何の苦も無く行える。それは痛みと共に刷り込まれる記憶にとって、大きな障害を伴っていた。
 そして苦痛に抗うように生きる生物は、痛みを奪われ、赦しにも似た癒しが与えられた時、生き抜く事をたやすく放棄する。

 かく言う私もあの子達と同じ体を持っていたが、度重なる手術と耐久テストが皮肉にも私にだけ免罪を与えてくれなかったのだ。
 それからの私は儀体を永く生かすための実験体となった。
 再び痛みと共に生きて行く事を強要された私は、あの子達の記憶を持ちながら歩いて行かなければならない。
 それは一人で歩くには辛い道のり、一度痛みの無い体を持ってしまった私にとって荊の道を歩くような苦行。
 そこで私は自分を維持するため、あの子達の残した遺品を求めた。 消耗した体は保管されていた部品と取り替えられ、私は次第に暖かい物で包まれて行った……

「やあ、クラエス、体の調子はどうだい?」
 妹を失って以降、この担当官は特に優しく接してくれた。エッタの部品を持つ私に、在りし日の彼女を重ね合わせているのかも知れない。
「はい、おかげ様ですっかり良くなりました。脳が学習したって言うんですか? これからは痛み止めも減らして様子を見るそうです」
 そこでまた視界が歪み始めた。この褐色の瞳は、眼底に焼き付いているこの人の姿を映すと、だらしなく涙を流そうとするのだ。
 以前なら逃げるように走り去れば涙も動悸も治まった。しかし今日は両足の持ち主がそれを許してくれそうに無い。
「どうしたんだ? どこか痛むのかい?」
 曇り始めた眼鏡を外すと、彼がハンカチを取り出して涙を拭ってくれた。痛い、胸の奥が締め付けられるように痛い。
「いいえ、そうじゃないんです。私、私っ」
 普段の私からは考えられないような猫撫で声が口から出て行く。喉の筋肉の持ち主が以前そうしていたように。
 そこで自己主張を始めた震える両手に自由を与えると、彼の手を取って愛おしそうに頬擦りを始め、手の甲と袖を涙で濡らした。
 そう、私は自分の意思で体をコントロールできていない。人工筋肉が記憶していた動作を容認しているだけなのである。
 そして体からの感情は表情をも変えさせ、エッタと同じ縋るような目で彼を見上げた。
「ヘンリエッ…… いや、すまないクラエス」
 狼狽した表情で彼が私から目を逸らす。失った妹の代役を立てるのを申し訳ないと思っているのだろうか? だがそれは間違っている。
「いいんです、ジョゼさん。私は、エッタはここにいます、ここに」
 抱えた手を胸に引き寄せ、心臓の鼓動を伝えた途端、彼は駄目になった。
「へ、ヘンリエッタッ」
 その場に座り込んで私を抱き締め、肩に顔を埋めて泣くジョゼさん。他の職員が怪訝な顔をして通り過ぎるが、それすら気にならないらしい。
「ジョゼさん……」

 巷では心臓を移植された者は、元の持ち主のような人柄に変わると言う俗説がある。
 それは単に心拍数や血圧の変化により、嗜好が影響を受けるだけと言われるが、筋肉に情報を伝達するには神経細胞が必要であり、それは脳や脊髄の延長でもある。
 僅かな神経細胞に残されたあの子達の大切な記憶は、今も私の胸を締め付け、彼らの心も翻弄する。
「もう僕の前から消えたりしないでくれっ、少しでも、ほんの少しでもいいから残っていて欲しいっ」
 懐かしい香りを鼻腔に感じながら、まるで母親のように彼を抱き、頭を撫でて落ち着かせる。
「はい、ずっと一緒です」
 哀れな操り人形だった私。だが操者が居なくなった今、その操り糸を亡き戦友達が握ってくれているのが心の支えでもある。
 しかし、条件付けが薄れ、正気を取り戻し始めた私は、まだ彼らを許せないでいた。
 他の担当官にも同じ思いをさせておく必要がある。特に金髪の担当官には念入りに思い知らせてやらなければ気が済まない。
 彼の望みである復讐を果たしたこの耳の持ち主に、謝罪の言葉と愛の言葉の1ダースも聞かせてやりたい。

 それ以降、ささやかなお願いや、おねだりでジョゼさんを操れるようになった私は、眼鏡を外して前髪を切り揃え、髪にリボンを結んだ。
 眼鏡を外す、それは私にとって戦いの始まりを意味した。
「失礼します」
 担当官や職員の部屋を回り、私が焼いたケーキを配る。儀体棟の人数が減ってからは頻繁に行っていた作業だが、毒を入れたりはしない。
 だが今日の私の扮装は、その担当官にとって猛毒だったようだ。
「アンジェ……」
 普段はこちらを向こうともせず、「そこに置いといてくれ」としか言わないマルコーさん。 それでも視界の端に見えた、アンジェのズボンと上着には気付いたらしい。
「何のつもりだっ、クラエスッ、性質の悪い悪戯はやめろっ」
 虚勢を張って声を荒げるマルコーさんだが、その目にある怯えの色は隠せはしない。
「ビアンキ先生やジョゼさんから聞いてませんか? 私はエッタであり、アンジェでもあるんです」
「違う、違うっ」
 声もアンジェ、表情もアンジェ、そんな私から逃れるように席を立ったマルコーさん。
 そこで片手を差し出して触れようとすると足がもつれたのか、マルコーさんはその場で尻餅をついた。
「うふっ、「そんなフラフラじゃ足手まといになるだけだ、着替えて走って来い」でしたか?」
 あの場所にいた二人だけが知っている言葉、何故それを私が覚えているのかは分からない。でも、突き放されて寂しかった事だけは、この体の震えが教えてくれる。
「本当に、アンジェ、なのか……?」
「ええ、マルコーさん」
 とびきりの作り笑いを返すと、彼も納得してくれたようだ。何ならこの場で彼らの作った稚拙な童話を朗読してやってもいい。

 それから、寂しくなっていた私達の部屋には新しい創作絵本が届き、テーブルの空席には昔と同じ頭数のクマのぬいぐるみが座るようになっていた。
「エッタ、お砂糖入れ過ぎ」
「え? でも味とか良く分からないし」
「やっぱりエッタは砂糖女と呼ぶ事にしよう」
「それ、何かおいしそう」
 4人分の言葉が私の口から出て行く。私は狂っているだけなのだろうか? それでも構わない、この狂った世界で生きて行くには、それが正しい方法なのだから。
 しかし私は練習もせずにアマティのバイオリンを弾けるようになり、ジョゼさんを喜ばせる事も出来た。
 読んだ覚えも無いパスタ王国のお話を諳んじ、マルコーさんを泣かせる事も出来た。
 まだ三ヶ国語を操るのは難しいが、基本は文字通り体が覚えている、使えるようになるのも時間の問題だろう。

 ある夏の日、よく日焼けしていた私は、脱色した茶色の髪を金色に染め直し、ツインテールにまとめてみた。だがそれは「私の担当官達」には不評だったようだ。
「ヘンリエッタ、どうして髪を染めたりしたんだ? 栗色の髪の方が似合っていたのに」
「いや、アンジェはやっぱり黒髪だ」
 担当官には私を呼ぶ時、自分のフラテッロの名で呼んで貰っている。
 あの子達の扮装をすると始めはよく間違えられたので、止めないでいると自然にこうなった。
 彼らにも、この狂った芝居に参加して貰っている訳なのだが、髪型を変えて表情を別の人格に委ねると、自分でも気味が悪いほど似ている時がある。
 昨日、この服に着替えてネクタイを結んだ時、鏡の中に懐かしいルームメイトを見付け、泣きながら笑い合った。
 呪いでも掛かったように成長しない体、やつれて酷い顔になった私を指差して笑う戦友に抗議して、変な顔を映してやると降参したので昨夜は二人で語り明かした。
「いいじゃないですか、こう言うのって順番でしょ? 夏の間ぐらい、私も昔の格好してみたいし」
「おいおい、夏だけなのかい?」
 少し落胆したように笑って言ったヒルシャーさんだが、暫く昔通りの関係を堪能させてあげると、この人の目も狂って行くのが見えるようだった。
 ヒルシャー先生による個人授業の結果、私が3ヶ国語を使いこなせるようになると、以前は躊躇していた呼び名を使うようになった。
 この私に向かって「トリエラ」と言ったのだ。他の担当官と同じ、薄笑いを浮かべた奇妙な表情で。

 その後、担当官達の働きかけにより、私は部品のテストからも外され、公社の中で軟禁されるだけになった。どうやら課長の犬よりは大切に扱われているらしい。
 相変わらずジョゼさんは、私をカフェやレストランに連れ回しているので閉塞感は無かったが、ヒルシャーさんが私を着せ替え人形のように扱い始めた。何か対抗意識でも芽生えたのだろうか?
 マルコーさんのおかげで蔵書にも不自由していないが、絵本のような程度の低い本を、わざわざ朗読して聞かせるのは勘弁して欲しい。
 もっとも、アンジェとして話している時の言葉は幼く稚拙なので、私の知能はその程度だと思っているのかも知れない。

 やがて秋になり、肌が白くなって来た頃、金髪のまま三つ編みにしてみた。
 しかし誰も喜んでくれる人はいなかったので、三つ編みを切り落として短く刈った数日後、公社の通路で金髪の担当官に出会った。
「…………」
 呆然として、亡霊でも見るように私を見下ろし、手に持っていた書類を無様に落とした彼。 その書類を拾い集めて手渡すと、ようやくその口が動いた。
「いたんだ……」
「何がいたんですか? ジャンさん」
 この声を出すのは初めてのような気がする、普段お茶会で話している時とは違う、緊張したリコの声。
「私にも子供がいた…… もし生きていれば、そのぐらいの年頃になっていたはずだ」
 肝心な言葉は抜け落ちていたが、彼の弟からの情報によると、亡くなった奥さんと、お腹の子がいたらしい。名前は多分、リコ。
 それがジョゼさんの姉と甥になるのか、詳しい事まで教えてくれなかったので分からないが、二人とも共和国派のテロで犠牲になったそうだ。
「私はお前達を利用して復習を果たそうとした、そしてその引き金は、リコ自身に……」
 彼は彼なりに、家族や親しい知人を失った時の苦痛から逃れるため、あらかじめ境界線を引いていたのだろう。
 それがリコへの態度の理由? いいえ、その程度の苦しみでは決して許しはしない。
 だがそこまで聞いて、私の中のリコが勝手に口を開いた。
「いいんです、私、自由に動けるようになってすごく嬉しかったんです。 みんなと一緒に走ったり、お仕事したりして楽しかったんです」
 このお人好しは、自分が彼の息子の代わりにされたのを、悪く思っていないらしい。
「リコ?」
「エヘッ、私に男の子の名前を付けたのって、そう言う意味だったんですね。それに私が負けないように、強くなるように鍛えて下さったんですよね」
 そこで金髪の担当官が崩れ落ちた。確かに私のように汚い手段で罠にはめようとすれば、こうはならなかっただろう。
 リコのどこまでも純粋な心と、あどけない表情があったからこそ、この冷血な男に悔恨の涙を流させる事に成功したのだ。
「すまない…… 本当に、すまなかった」
「いいんですジャンさん。いいえ、お父さん」
 父と呼んだのは私、この男を絡め取るために使った汚い言葉、だがその一言は、ついにこの男を私の前に跪かせた。
「私を、父と呼んでくれるのか?」
 私の中のリコは今の呼び方をとても気に入っているようだ。この男に抱き付いて涙まで流している。やめなさいっ、まだこの男を許しては駄目!
「はい、お父さん」

 でも、それはもう続けられそうに無い。リコの中に芽生えた暖かい物が、私の持つ黒い感情を消してしまったからだ。
 この子達は私から生き甲斐を奪ってしまった。策略という名の菜園を世話し、復讐の甘い果実を収穫しようとした私を邪魔して、愛と呼ばれる下らない実を実らせようとしているのだ、全くお人好しにも程がある。
「これからは私が、私達がお前を守る、守って見せる」
「はい……」
 こうして私には、2人の父親と2人の兄が出来た。いつか永い時が過ぎ、謝罪と贈り物の山が積み重なった頃、私は彼らを許せるかも知れない。
 その時、この体が許すなら子供を産む事にしよう。2人は女の子、他の3人は男の子の方が良いと思う。
 公社とて、記憶の繋がりの無い子供の生活にまで制限を加えたりはしないだろう。そしてその保証は、あの子達の父親に取って貰うつもりだ。

 私は毎朝目が覚めると、まず自分の体が自由に動く事に感謝する。
 そして幸せの魔法が掛かった紅茶を飲み、嫌いになってしまった野菜を残しながら食事を採る。
 午後に日課である菜園の世話を済ませ、夕食が終わった後、眠くなった私は本に栞を挟んで早めにベッドに入った。
「おやすみなさい、ラバロさん」
 クマの縫いぐるみの一つに声をかけて目を閉じると、あの懐かしい日々が思い起こされた。いつかまた、あの賑やかなお茶会を開く事ができるだろうか?

 幸い私は無為に時を過ごす方法を知っている。
 それは遠い昔、父親のようなあの人に教えてもらった事。
 この命と名前をくれた大切な人が、一粒の麦となって私に遺してくれた、素晴らしい物。

 終
 
 

 
後書き
この頃は、これでSSを打ち止めにして、アニメ脚本の募集に応募してみました。
悪名高いアニマックスなので、声優、アニソン歌手を選ぶ時と同じく出来レースで、受賞者が最初から決まっているタイプの奴でした。
水木一郎さんを審査委員長に迎え、「自分の意思は十分に伝えたつもりだ」と報道されたにも関わらず、声も出ない人物が受賞し、YOUTUBEで公開されて笑いの種になったアレの系統です。
100人に同時に芝居をさせて、その中から「最高の声優」をえらんだアレです。
当時は2chにもスレができて、応募者の皆さんのあらすじを見せてもらうと、面白そうな話が多く、発表を楽しみに待っていると、救いようのないゴミ脚本が選ばれて、一同落胆していました。
「何でこんな物が?」「あの話の方がはるかに面白いはず」などなど意見も出て、公式の掲示板も炎上、以後公式は書き込みできなくなって閉鎖したようですが、どこか火消しを雇ったようで、スレに怒涛のように工作員と大賞受賞者本人らしき人物が現れました。
「おまえら如きが受賞作以上とか笑える」「所詮ワナビなんてこんなもん」「だからお前らの書いたの見せてみろよ」などと罵られて、自作品を公開された方も居ました。
その時、こちらは長文を貼れる所を知らなかったので、このSSを2chのSSスレに貼って評価を貰いました。
工作員には罵られましたが、SSスレでは「GOD JOB!」と言って頂けたました。oが一つ少ないようですが、タイプミスでは無く、お褒めの言葉だったと思います。
どちらが正しかったのか、よろしければ感想をお願いします。 
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