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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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170部分:三頭の竜その三


三頭の竜その三

 明朝解放軍とトラキア軍はトラキア城西のトラキア台地の入口部分で遭遇した。双方はたちまち干戈を交えた。
「はじまったか。兵力では我が軍が圧倒的に有利だね。けれど・・・・・・」
「はい。地の利は敵方にあり空戦能力及び機動力で我が軍は劣っております。それにアリオーン王子はトラバント王の下で兵法を学びアルテナ王女と共にトラバント王の両腕として活躍してきた人物、苦戦は免れないと思います」
「そうなればこちらも気を引き締めなければいけないね。ここは竜騎士が苦手とする弓や魔法を中心とした防戦で敵の攻撃を凌ぎつつ相手の消耗を図ろう」
「御意に」
 セリスとオイフェの会話通り解放軍は弓と魔法を中心とした防衛陣を敷き竜騎士団の攻撃を防いだ。対するトラキア軍は一点を集中的に波状攻撃を仕掛けるが解放軍の圧倒的な兵力と巧みな用兵の前に妨げられ中々陣を突破出来ずにいた。
 その中飛竜に乗り指揮を執るアリオーンは至って冷静であった。解放軍の堅固な陣に対して幾度も攻撃を命じながら戦局を見ていた。
 チラリ、と太陽を見た。戦いがはじまった時にはまだ山々に半ば隠れていたが今は天高く昇っている。
「そろそろだな」
 その時だった。ミーズ、カパドキア、ルテキアのそれぞれの方角から竜騎士の一団が姿を現わしたのだ。
「なっ・・・・・・」
 これにはセリスもオイフェも絶句した。兵を三方に進めたのは各地を攻めるのではなく解放軍の戦力を分散させ、かつ解放軍の本軍を包囲し、時間差攻撃を仕掛ける為だったのだ。
「くっ・・・・・・。裏をかかれたな」
 シャナンは迫り来る竜騎士達を見上げつつセリスの傍らで忌々しげに呟いた。
「これはまるで竜ですな。三つの首を持ち空を舞う飛竜です」
 オイフェが唇を噛み締めながら言った。
「三方から来た軍を首だとすれば胴はアリオーン王子が直率する本軍か。おそらく胴もすぐに総攻撃を掛けて来るだろうね」
 セリスの言葉にオイフェは頷いた。
「はい。ですからアリオーン王子率いる本軍に対しては予備兵力を全て向けましょう。今が勝負の分かれ目です。気を抜いてはなりません」
 セリスの予想通りアリオーン率いる本軍は全軍一丸となって総攻撃を開始した。全速力で突撃するその先頭にはアリオーンの姿があった。
 手に持つグングニルを横に払った。馬や人の首、胴、手足が木の葉の如く乱れ飛ぶ。
 グングニルを突き出した。厚い鎧を貫かれた兵士がそのまま天高く投げ飛ばされる。
 縦に払う。騎士が愛馬ごと両断され地に転がる。
 アリオーンが血路を開いた後を竜騎士達が雪崩れ込む。解放軍の重厚な防衛線に穴を開けようとする。
「あれがアリオーン王子か、恐るべき強さだ」
 前線で指揮を執るハルヴァンが思わず声を出した。
「ちょっとぉ、暢気な事言ってる場合じゃないでしょ」
 リンダが突っ込みを入れる。口調こそ緊張感に欠けるがその顔は違っていた。
 アリオーンの強さは今まで見たこともないものであった。前線で指揮を執る諸将もセリスやシャナン達も彼とトラキア軍の強さに色を失っていた。
「まずいね、このままじゃ陣が破られてしまうよ」
「はい、ですが今あの場には持てる兵力を全て投入しております。今さらに送れる戦力といえば・・・・・・」
「我々しかいないね。行こう、オイフェ、シャナン」
「はい」
「うむ」
 トラキア軍が押し切るかに思われたがセリスの陣頭指揮により押し戻し戦線は膠着した。同時にそれまで勢いづいていた左側面に攻撃をかけていた三頭の竜も押し戻されていった。
「よし、その調子だ。敵を喰い止めるんだ!」
 セリスの指揮により勢いを取り戻した解放軍に対し今度はトラキア軍が焦りだした。次第にその攻撃が弱まっていく。
「くっ、そうはさせるか!」
 アリオーンがグングニルを手に再び突撃をかけようとした。だが上から自分を兄と呼ぶ声がした。自分をそう呼ぶ者を彼は一人だけしか知らない。そしてその者の事を彼はよく知っている。上を見上げた。そこにその者はいた。
「アルテナ・・・・・・」
 妹は兄を切ない、やりきれない顔で見ている。
「兄上・・・・・・。もうお止め下さい。兄上にはこの戦が何の意味も無いことはわかっておられる筈です」
 兄は妹の願いに対し首を振る事で答えた。
 
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