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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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109部分:鏡を持つ少女その四


鏡を持つ少女その四

 老人は血が混ざったような赤紫の法衣とそれと同じ色のマントを羽織っていた。皺だらけの顔に異様な黒い眼は邪気に満ちている。どうやら邪眼と呼ばれるものらしい。それも左眼だけだ。右眼は無い。眼窟があるだけだった。しかもその左の瞳は二つある。異様な眼であった。
(・・・・・・・・・)
 サラはその老人を見て眉を顰めた。イシュトーはその老人を見たことがあった。確かユリウスの側にいた者だ。素性の知れぬ怪しげな人物だった。
(名は確かマンフロイ・・・・・・。ユリウス殿下の側近の一人だったな)
 もう一人は背の高い中年の女だった。黒く長い髪と黒い瞳を持っている。歳を感じさせるが整った顔立ちをしている。唇と長く伸ばした爪は紅く塗られている。鮮血の様な色のドレスを着、その上から黒い上着を着ている。
(母上・・・・・・!)
 彼女こそレンスターのブルーム王の妃にしてイシュトーとイシュタルの母ヒルダであった。先代ヴェルトマー公の妹の子として生まれ強力な魔力を持っていた。同時にその残虐さも知られていた。
 少し手違いをした女中を裸にし鞭打ったり焼印を胸に押し付けたりした。自分に吼えた犬は首から下を地に埋めそのまま餓死させた。
 王妃としてレンスターに赴いてからはレイドリック等を重用し苛酷な法と血生臭い刑罰を次々と発した。逆らう者は一族全員鋸引きとしたり獣の餌にした。自らはそれを眺め酒を飲み贅を尽くした食事に舌鼓を打ち悦に入っていた。イシュトーとイシュタルが国の統治に携わるようになるとそういった事は行われなくなったが密かに罪人を過酷なやり方で殺していた。
イシュタルがティニーを常に自らの手元に置いたのも彼女を怖れたからであった。その母が怪しげな老人と共に暗黒神の礼拝堂に入ってきたのである。何かある、イシュトーは思った。
「例の件はどうなったのじゃ?」
 ヒルダが低いが張りのある声で言った。
「はい、子供は全てミレトスの神殿に送りそれ以外の者や家畜共は全て始末しました」
 マンフロイが答えた。しわがれ何処か邪悪さを感じさせる声である。
「ホホホ、そうかえ。わらわも行きたかったのう」
「何を仰います。ラドスであれ程楽しまれたのではないですか」
「ラドス?ああの時かえ。楽しかったのう、串刺しは。だがそなたも随分楽しんでおったではないか」
「フォフォフォ、そうでしたかな」
「まったく人が悪いのう。まあ良いわ、お互い様じゃからのう。それにしても思う存分人を嬲り殺す楽しみを味わえるとはな。暗黒教団とはよいものじゃ」
「そうでございましょう。ですが暗黒神様が降臨なさればより素晴らしい宴が毎日開かれますぞ」
「ホホホホホ、嬉しいのう。そち達には感謝しているぞ」
「有り難き御言葉。では礼拝の後ヒルダ様に贈り物を献上いたしましょう」
「ほう、何じゃ」
「若い娘が手に入りました。如何致します?」
 ヒルダはその紅い唇を歪めて笑った。
「そうじゃのう、針の鉄籠に入れ血を絞り取りその血の風呂に入るとするか」
「それは素晴らしい。さぞかし気分がよろしいでしょう」
 二人は邪悪な笑い声をあげながら礼拝を終え部屋を後にした。暫くしてイシュトーとサラ達が暗黒竜の像の裏から出て来た。
「援軍を頼むどころではないな。恐ろしい事がこの地で行なわれている」
 イシュトーが二人が去った扉を見ながら言った。その顔は蒼白になっている。
「これからどう為されます?やはりレンスターのお父上を助けに行かれるのですか?」
 サラの言葉に暫く思案していたが意を決し顔を上げた。
「いや、暗黒教団を跋扈させるわけにはいかない。教団と関係がある以上帝国も倒さなくてはならない。私は今からこの大陸の為帝国と戦う」
 毅然として言った。
「それではセリス公子の下へ?」
「それも良いが私はシレジアへ行こうと思う。かの地における反乱の指導者には魔法に長けた者はいない。私の力は必要とされる筈だ」
 サラはそれを聞くとニコリと笑った。
「それでは私もご一緒に。王子だけでは中々信じてもらえないでしょうから」
 その通りだった。彼はフリージの王族なのだから。
「その前にメルゲンへ寄ってくれないか。私の部下が残っているんだ」
「はい」
 サラはそれに答えた。
 一行は緑の光に包まれ礼拝堂から消えた。暫く後シレジアの反乱軍はさらに勢力を増していった。その中にイシュトーとサラの姿もあった。
 
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