FAIRY TAIL~無表情な妖精
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3,カナとギルダーツ
彼がギルドに入って二年が過ぎた。相も変わらず表情一つ変えずに日々ギルドで淡々と仕事を熟すだけだった。
朝目を覚まし、ギルドへ赴き、依頼書の貼られたクエストボードを眺め、好みの依頼を手に取り、マスターであるマカロフに許可を貰い、仕事場所へと赴く。
受ける依頼の殆どは討伐系の物だ、理由は簡単で倒せばいいだけ。そんなシンプルな依頼だからだ。その他の依頼は不向きだからというのもある。
例を上げるのであれば捕獲系や人探しなどだ。前者はスカーが力の制御が上手く出来ないから。以前に動物の捕獲を依頼され、赴いた際に捕獲対象の動物を殺しかけたなどがある。後者は彼が単純に苦手としているからだ。捜索から依頼主までの報告、それらが戦闘より時間が掛かる事などがある。あと単純に彼は人の名前と顔を覚えるのが苦手なのがある。ギルドに居る人物の半分以上は愛称で呼んでいる。例えばワカバならリーゼント、マカオなら髭坊主などだ。しかし、しっかり名前を憶えているの人物は名前が短く覚えやすい事やギルドの重要人物などだ。同期のカナやマスターのマカロフ。後は一人だけ名前を憶えていた。その人物はこのギルドでは最強の男候補として名前を挙げているらしい。
男の名前はギルダーツ・クライヴ。s級魔導士。
因みにS級魔導士はクエストの中でもS級クエストを初めとした上位クエストに参加できるだけの力を持つ魔導士の事を差す。
実力は本物、特に彼の使う魔法が強いらしい。それを見たくて彼は何度も接触を試みた、だが悉く失敗している。彼が帰って来たと聞いて急いでギルドに戻るとすれ違いで出発した、帰って来た時にスカーが仕事に行っていた、彼はギルドに立ち寄らず、スカーが帰宅したとにギルドに赴き、次の日には出発していた。などあり二年間彼と出会えていない。
「‥‥」
そしてスカーはギルダーツに一目会いたく、仕事を休み、ギルドのテーブルに座り、ただボォ~とその日を過ごしていた。仕事をしなくても生活するだけの貯金をもうしているからできる行動だ。
「‥‥ん?」
後ろで人の気配を感じたスカーは振り返る、其処には同期のカナが立っていた。カナは突然振り返ったことに驚いたのか体をビクッと震わせた。もう慣れたとは言え、言い難い気持ちが胸を打つ。
「カナか、如何した?」
「あ、あのね、ちょっと相談したい事があるの」
少し思い詰めている顔をしていた、スカーは此処で話せる事かと聞く。
「うん」
「そうか、なら聞こう」
カナが話したことは俄かにも信じがたい事だった。
「‥‥つまり、カナはギルダーツの娘、それを伝えたいから協力してくれと?」
カナはコクリと頷いた。俄かに信じ難いがとても嘘を吐いてるようには見えない。どの道ギルダーツには会いたかったので別に彼女の望みを拒否する必要が無い。スカーは協力に応じる事を決めた。
「協力は構わないが俺は何をすればいい?」
「んーと」
如何も具体的な事は何も決めていなかった様だ。
そうこうしている内にギルドのメンバーが走って現れた。
「ギルダーツが帰って来たぞ!」
その一言でギルドの面々は雄たけびを上げる。
この時を待っていたと言わんばかりにスカーも立ち上がる。
ギルダーツと思わしき人物はギルドの門を開け、中に入って来た。
一言でいえばとても最強の男と思えない。どう見たっておっさんだからだ。
しかし、その目の奥には確かに強者と言わぜる負えないモノが光って居た。
人ごみを掻き分け、彼は初めてギルダーツと対面した。
「ギルダーツ・クライヴか?」
「そうだが‥‥お前は? 見ねぇ顔だが」
「スカーだ、新しく来た者だ、よろしく頼む」
「こりゃ丁寧にどうも」
やはり、何処か気が抜けている、だが根はしっかりしていた。さて、挨拶も済ませた、カナの用事を済ませよう。
「さて、ギルダーツ、いきなりだが言いたいことがある」
「なんだ?」
「ギルダーツ、カナはお前のむs「わあぁっ‼‼‼‼」」
言う直前でカナが大声を上げながら口をふさぐ。
「ん? なんだって?」
ギルダーツは再度問うがカナは何もないよと言いながら俺を引っ張る。
「カナ、何故邪魔をする?」
「私が言うからそれとなく二人になるようにして‼」
回りくどいなと思いつつ方法を考える。
其処でピンと来た。
「ギルダーツ・クライヴ、俺と一勝負してほしい」
「何?」
辺りが騒めく、それでも気にせず言う。
「以前から気になって居た、S級魔導士の実力を‥‥このギルドで最強と言われる男、何れ超えなければなら早い方が良い‥‥どうだろう、子供の我が儘だと受けても良い、受けてくれるのであれば全力でやるだけだが、勿論無視してくれても構わない、まぁそのような男に見えはしないが?」
ギルダーツはスカーを見て、ニッと笑みを浮かべ、一言。
「裏に来い」
そう言って出て行った。スカーはギルダーツの後を追うかのように出る。
スカーの取った行動は詰まる所、彼をケガさせる事だった。そうすれば見舞いなどの場ができ、カナも行きやすい。そう考えての行動なのだが。実際はそんな事より、戦ってみたいという感情が先に合った。
そして二人が出ると何時の間にかギルドの全員が彼等の戦いを一目するべく集まって居た。
影では賭博の様な事もされている。
「おぉ~おぉ~一杯見にきやがったな」
「‥‥始めるぞ」
周りの目など彼は気にしない、開始の合図はされていないがギルダーツに向かいとびかかる。
「そら!」
ギルダーツも応戦する。
拳をぶつけあい、片方が弾き飛ぶ。吹っ飛ばされた方は‥‥ギルダーツだった。
「うおッ!?」
先程まで騒いでいたギルドの面々が急に静まり返った。状況を把握しきれていない事が表情で察せる。
その中で状況を把握できたものは二人、吹っ飛ばされた本人のギルダーツ、そしてマカロフだ。
(俺が飛んだのか? スゲェ馬鹿力!)
(力だけで吹っ飛ばしたじゃと!?)
大人と子供、力の差など明白だ、なのだがスカーはそれを軽々しく上回った。
「ふっ!」
跳躍し、上から向かってくる。
「面白れぇ!」
スカーに手をと向ける。それと同時に網上に魔法が広がり、襲い掛かる。
「いかん!」
マスターマカロフは叫ぶ、ギルダーツの魔法は砕く魔法。
空中に居るスカーは魔法を避ける事は不可能、しかし既に遅い。
網上に広がりスカーへと迫る。
スカーは構えていた腕を魔法に向け突き出した。その刹那に空間にゆがみが出来る。
強い魔力同士の衝突で大気は震え出す。
そしてギルダーツは目の当たりにした。
「まじか!」
自分の魔法が徐々に押され始める事を。それは砕ききれない程の膨大な魔力だと言う事。
「うおぉぉぉぉ!!??」
魔法を解いて、横に跳んだ。寸前の所で躱す事に成功した。自分が立って居た場所はぼっくりとへこみが出来き、其処にスカーが傷一つなくそこに居る事を目にしてギルダーツは冷や汗を流す。
「やべぇな」
感傷にし浸っている暇はない、スカー直ぐに攻めて来た。体制を建て直し、応戦する。
観戦していたギルドのメンバーは息を飲む。ギルダーツは紛れも無く最強の男だ。その男に子供が食い付いて居る。それも力技で。
ギルダーツのクラッシュの魔法を真っ向から弾く。砕けない程の魔力量でぶつかる。理には適っている
然しそれを実行できる者は居ない、それだけの魔力の持ち主は一握りしかいないから。だがスカーはそれを平然と遣って退ける。まさかと言う声すら上がった。
「ギルダーツが押されてる?」
「まさか、スカーの奴、こんままギルダーツを倒すじゃねぇか?」
「ばか! スカーはまだ子供だぞ、ギルダーツが手を抜いてるだけだよ」
様々な意見が飛び交う、ギルダーツはそれを聞いていた。
(手を抜いてるだって? 冗談じゃねぇぞ、抜いたらこっちが遣られる)
押されているの事実、魔力の量はスカーの方が圧倒的上だ、こんな小さな体の何処にそれだけの魔力があるのか聞きたいほどに。
唯一ギルダーツは格闘戦は上回っている。強大な魔力を纏った一撃だが当たらなければ意味は無い、攻撃を捌き、距離を取ろうとするが直ぐに詰めよる。
(魔法が効かねぇ以上、遣る事は一つ)
ギルダーツはスカーの攻撃を捌き、距離を取ろうと一歩下がる。それをさせまいとすぐさま詰め寄ったスカーのこめかみを殴った。
ギルダーツの取った行動は物理攻撃、それも急所を狙った攻撃だ。
遣り過ぎただと言われればそれまでだがそうでもしなければ倒しきる自信が無い。
(これで倒れればいいんだが)
そう願いを込めるがスカーは体制が揺らいだ程度で意識はしっかりあった。
然しそれがいけなかった、身体が揺らいだ瞬間、スカーの魔力は蛇口から出る水の様に溢れ出て来た。今まで調整して出して居たかのように。
「くッ!」
余りの魔力に後ろに下がる、反射だろうか、スカーは瞬時にギルダーツ目掛けて突っ込む。しかし脳の揺れが収まって居ない状態で動いたため、眼前で足がもつれ、魔力の籠った拳は深々と地面に突き刺さった。そして地面は悲鳴にも似た地鳴りと共に罅を表す。
先程の魔力とは違った、確実に此方を仕留めると言う気迫が伝わってくる一撃。
「ッ!?」
思わず後ろに下がった。その際に石に当たり、体勢が崩れた。
「なっ!?」
「好機」
スカーは詰め寄り、ギルダーツの顎目掛けて跳ぶ。右腕に魔力を籠め、振り上げた。
「取った」
まさに好機だった。体勢を崩した状態からの渾身の一撃、躱しようがない。そのはずだった。
「ッと!」
ギルダーツの顎目掛けて振り上げた拳は宙を大きく切り、魔力の波動が空へと昇る。
(何故、躱しきれた)
表情にこそ出ないがスカーは驚いて居た、何故、どうして? どうやって?
だが答えは直ぐに出た、振り上げた拳、それを眺めていると死角から魔力を感じる。
(しまった)
相手はこちらの攻撃を躱した、ならば攻撃に転じるのは至極当然、躱された事に戸惑い、その行動に気付くのが遅れた。防御しようと構えた時にはスカーは宙を舞っていた。ギルドよりも高くだ。その時、彼は見た。
(あぁ成る程)
攻撃の際、バランスを崩した、その時を狙って攻撃した。そんな状態で攻撃を躱す? 不可能と考える。しかしギルダーツの足元はひび割れていた。
躱せた答えは魔法だ。粉砕の魔法で地面を砕いて当たる位置より自分を低くした。上体を反らせられない、言い換えればこれ以上後ろには躱せないと言う事、跳んで避けれるかもしれないが魔法を放出して放つスカーの攻撃は単に数歩の跳躍如きでは躱せない。だからギルダーツはスカーの攻撃角度を確認し、真下に逃げた。魔法で攻撃が当たるであろう場所から地面を砕き、高低差を利用し躱す、そして躱した後は空中で体勢の取れない子供に向かって、踏み出し殴れば死角からの強力な一撃を与えられる。
攻撃は防御しようとしたスカーの腕をするりと抜け、顎を命中、そのまま魔力と腕力で空へと吹っ飛ばす。
(そうか、魔法か)
そう思いながら彼は最高地点まで上がり、重力に引っ張られ、地面に向けて真っ逆さまに落ちた。
体全身を強く地面に叩き付け、其処で意識が途切れてしまった。
ギルダーツは傷を治療して仕事の支度をしていた。
スカーを医務室に運び終えた後、見物客だったメンバーは酒を飲みながら先程の戦いを熱く語っていた。その光景を見ながらマスターとギルダーツもスカーの事を話していた。
「爺さん、スカーは俺と同格だ、あんな小さな体で俺と張り合える。全くスゲェな!」
「うむ、ようやったのぉ」
ギルダーツは先の戦いで大きな傷こそ負わなかったものの苦戦を強いられていた、まだ十の子供に押されていた。勝敗を決したのは実戦経験の差だろう。魔力に関してはスカーの方が上だった。
「ただよ~戦い方がどうも人を殺る時のそれに近いんだよなぁ」
「そうじゃの‥‥あやつの事は今度ゆっくり話すわい」
「訳ありか?」
マカロフは黙ってうなずいた。ギルダーツも薄々普通の子供では無い事は解っていた。だが
「まぁでも魔力も力も申し分ねぇな、次のs級試験は此奴で決まりっても過言じゃねぇ」
それを差し引いてもギルダーツと同等の力はある、s級魔導士としては申し分は無い。
「うむ、そうじゃろうな」
次のS級魔導士試験はスカーを選ぶらしい事を言い、ギルダーツは荷物を持つ。
「んじゃ俺はそろそろ行くぞ、またな」
「あっ、ギルダーツ!」
カナは呼び止めた。其処から後は一言いえば終わる、さぁ今こそいうのだ。
「えっと」
「?」
喉元まで出かけた言葉が出ない、カナは苦笑いを浮かべ、言う。
「‥‥お仕事、頑張って」
「おう、ありがとな!」
ギルダーツは手を振りながら仕事へと向かって行った
目が覚めると医務室のベットの上に居た。頭がまだ痛む。
大抵の痛みは耐えれるが残る痛みには限度がある。それが先の攻撃だ。
「‥‥強かった」
先程の戦いが脳裏を過る、最後の一撃は完璧だった、あの体制からの一撃は躱せる訳が無い。そう考えて居たが詰めが甘かった様だ。
「魔法の使い方次第で幾らでも変わるな」
自らの魔法で地面を砕き、ほんの僅かな差を生み出した。あの刹那の瞬間にその行動が取れる、格の違いとでも言おうか。
「面白い」
少なくとも魔力量では此方が上だった。足らないのは経験と魔法の扱い方だ。これらを鍛錬すればいつか届く、そう強く確信していた。
さて、今後の課題も決まった所で先程から扉の隙間から見える少女に声を掛けよう。
「‥‥カナ、居るんだろ?」
「何で解るの?」
扉を少し開け、ひょっと顔を出しながらカナは問う。そんな事は如何でも良いと言いつつカナに成果を聞いた。
「それで、如何だった? 話せたか?」
カナは申し訳なさそう顔で首を横に振る。
「‥‥そうか、次がある」
「言えるかな?」
「言わなければきっと後悔する」
カナはそれでも、ギルダーツは‥‥と顔を俯ける。スカーはぽつりと呟いた。
「‥‥俺の親はもう死んでる」
「え?」
飲み物を飲みながら淡々と話す。
「目の前で死んだよ、死んだら‥‥何も伝えれない」
初めて知らされるスカーの事。
このギルドには様々な事情を抱えた人物が多い、カナもその一人だから解る。
「だから、言える内に言っていた方が良い。自分の様な事にならないとも限らない」
「そんな不吉な事言わないでよ!?」
「‥‥そうだな、すまない」
二人の間に沈黙が漂う、カナは耐えきれずに話し掛けようとした際にスカーが言い出す。
「そうだカナ、お前S級魔導士になれ」
「へ?」
突然の事でカナはきょとんとした。スカーはそんな事お構いなしに言う。
「S級魔導士になればギルダーツと同じ立場だ、話しやすい筈、目標としては丁度いい位だ」
カナは思う、確かにs級魔導士なら話しやすいし、一緒にクエストに行けるかもしれない。更に自分の娘だと言っても信じて貰えるかもしれない。そう考えると確かにs級魔導士は丁度いい目標になる。そう考えた。
「そうだね、よぉ~し、やるぞ!」
カナはs級魔導士になる事を決めた、この時、カナがギルダーツに思いを伝えるのに十年もかかるとはスカーは知りもしなかった。
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