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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第六話 宣戦布告 好きなケーキはリンツァートルテ

 
前書き
リンツァートルテとは、リンツ地方発祥の菓子で、主にドイツ、オーストリアでよく食されるケーキの一種でアーモンドやクルミの粉末とシナモンやナツメグ等の香辛料を入れた生地の間に、アカスグリ(レッドカラント)ジャムをはさみ、格子模様を付けて焼いた丸いケーキである。 ウィーンでは生地とジャムの間にオブラートをはさんで焼くことが多い。 細長く作り、切り分けてシュニッテンにすることもある。

アルフレートの好きなケーキ、でも日本ではなかなか売っていないので最近は自分で作ってる。団員の中ではそこそこ好評。特にヴィルヘルムは意外とよく食べる。  

 
―――黒円卓―――

「座って、しばしお待ちなさい。だが、副首領閣下の席だけはやめた方がいい。そこはハイドリヒ卿と近すぎる。(ゼクス)(ズィーベン)、その当たりが良いでしょう。対面ですし、あながちあなたと無関係でもない席だ」

クリストフが蓮にそう忠告し、扉を閉める。緊張の面持ちで蓮は前に進む。

「しかし、円卓か……」

漆黒の大円卓を眺めながら蓮はそう呟く。闘技場や劇場を思わせるすり鉢状の空間で、そこにあたる平地にはそれが設置されている。加えて、円卓を取り囲む席は十三。平等を取り計らう為の席で唯一違和感を感じる部分があるとするならラインハルトが座るのであろう席、そしてその後ろ。
刻まれた印は変形したNかHの文字、だがそれが意味するところを蓮は理解は出来ないが不吉なものと感じることは出来る。例えるなら外人が“殺”や“滅”の字をみて愛や平和とは思わないのと同じような感覚、それだけ量が違うと言うことなのだろう。
そしてその後ろ、感じる表現をもっとも近い形で表すなら疎外感。そこだけがはっきりと他の席と違う。違和感、本来なら同類であろう存在の中で違和感しか認識出来ない。どの席にも個性はあるがあくまでも彼らの範疇を超えない。ラインハルトの席とて同じこと圧倒的なまでに量が違うだけで質は変わらない。
だが、ラインハルトの後ろ、そこに席は無いが質が違う。周りを光とするならそこだけが闇となっている。

「掛けたまえよ、そう警戒せずともよい。聖餐杯に何やら脅されたのだろうが、私も礼は重んじる。ここの主人として、客への対応くらいは弁えているつもりだよ。もっともナウヨックスが居ないのでね、茶の一つを出すことも出来ないが、まあそこは許したまえ」

蓮に席に掛けるように促し、蓮の目の前にある六番の席を目でラインハルトは指し示す。しかし、蓮はせめてもの抵抗とばかりにラインハルトに逆らって七番の席に座る。

「ふふ、なるほど。なかなか面白い選択だ。象徴的とでも言うかな。卿、そこが誰の席か知っているかね?」

「別に……」

蓮はそっけなく返答する。しかし、彼の瞳には闘志が宿っている。マリィを取り戻す。そんな信念が見え隠れしラインハルトにむしろ挑むような目線を向けていた。

「あんたは何のために俺を生かしたんだ」

「フム、私は唯卿と話したかったんのだよ」

「な……」

「ツァラトゥストラ。たとえば卿は、今と同じ状況を以前にもあったと、感じたことはあるまいか。言うなれば既知だよ」

「それがいったい……どうしたってんだ……?」

「たとえば私は…この瞬間、卿と対峙するこの空間、空気に、覚えがある。かつて私は卿に同様のことを説いた。それを覚えているのだ、思い出さないかね?」

「人違いだろ……」

精一杯の表情で蓮はそう返す。

「フム、卿の記憶に齟齬は無い。私と卿が話すのは確かに初めてだろう」

一拍間を置きそして言う。

「つまり私が覚えているのは、過去ではないのだよ」

「過去じゃないって……予知能力でも持ってるのか?」

「未来を予知することが出来れば、どれ程楽だろうな。残念ながら私にそんな力は無いよ。まあ、或いは彼ならばそれを出来るのかもしれんが。
ともかく、かつて、私は私の人生を生きた。その中で卿とも出会い、そして、このように話をした。卿は忘れているようだが、私は覚えている。
無論それは過去ではない。この日このとき、この空間での話だ。私はそれを覚えているのだよ」

蓮の反応に対して羨むように、しかし同時に落胆したかのようにラインハルトは落胆する。

「卿にとって今とは、今この瞬間だけなのだな。幸せなことだ。妬ましいほどに」

「何が言いたい……?」

「確認しておきたかった。卿が何者であるかを。カールもナウヨックスも何も言わんからな」

「カール……」

そいつは誰だ、と蓮は疑問を浮かべる。ラインハルトは別段隠すことも無いとその正体を言う。

「カール・クラフト。私と知り合ったときは、そう名乗っていた男だよ。卓越した異常者だ。千単位で名を持っているらしいがな。例えばファウスト、サン・ジェルマン、パラケルスス、カリオストロ、そしてメルクリウス…この名が一番通りがよいか。もっともナウヨックス曰く、これだけの名を使っているのは彼が純粋ゆえにらしい」

蓮は名前の一つに引っかかりを覚える。カリオストロ、その名を蓮は聞いたことがあった。

「……信じているのか、それを」

「どちらでもない。どちらでもよい。そんなことは重要ではない。ただ、彼には力があり、面白い男で、私と目的が合致している。ならば何一つ問題はあるまい」

「目的?」

「カールが言うには私は生まれる世界を間違えたらしい。難易度が低すぎる。取るに足らぬ。だが生まれた以上は生きていくしか他に無く、私なりの順応法……知らずのうちに纏っていた不感という名の甲冑を、カールは容赦なく剥ぎ取ったのだよ。
故に既知感だ。私は何をしてもつまらないという気持ちを、無限に味あわされている。ある意味、彼は仇だな。私を壊した。人であろうとした私を」

蓮にはそれがどれだけ意味するのか分からない。しかし彼にとってそれは認められないことなのだろう。だから、そう言わずにはいられなかった。

「……満足したい、だけだと?」

「他に何があるのかね。ここは私の世界ではない。ゆえに私が在るべき世界を(・・・・・・・・・)創造して流れ出させる(・・・・・・・・・・)。踏破するに足る山を出現させて乗り越える
それが旧秩序(きちかん)の終焉だ。我らは牢獄(ゲットー)と呼んでいるが、的を射ているだろう。誰でも繋がれれば暴れたくなる」

自分はこの世界の人間ではなく、それに相応しい世界を創る。現状を壊す。つまり、破壊(ハガル)。旧秩序が終わる日。怒りの日(ディエス・イレ)。

「まだ完全じゃないのか」

そして蓮は理解した。ラインハルトは完全ではない。現状で蓮を圧倒できる実力を持ちながら本来の数十分の幾らかに過ぎないということだ。

「慧眼だ。確かに今の私は虚構に過ぎない。私の大半は、現状私が創った私の世界に今も在る」

「どうやって、そんなことを」

「カールの秘法だよ。何も特別なことをやっているわけではない。それに必要な大掛かりな道具がいるがね。かつてはベルリン。そして今は……」

「この町か……」

「然り」

よくやった、褒めてやろう。そうやってよく出来た赤子を褒め称えるかの様に言う。そしてあざ笑うかのように嘲笑や侮蔑が混じるかのように言う。

「この町と、その住人(おれたち)が道具だと!?」

「その憤りは的外れだな。我々がいなければ、この街など生まれておらん」

呆れたように溜息をつきながらラインハルトはいい、それに蓮がますます怒りを覚える。しかしラインハルトの言葉に同時に疑問も覚える。

「……何?」

「ハウスホーファーという男がいてな。その男を利用してカールとナウヨックスがこの町を作ったのだよ。ナウヨックスの言が正しいならこの町はいたく私に相応しいらしい」

「黄金の練成(ゴルデネ・ハガラズ)。練成陣(スワスチカ)……この(シャンバラ)であるこの町はつまり都市規模の聖遺物に他ならん。それは町だけではない。この都市の総ての命も例外なく我々の糧ということだ」

「餌だと?」

「スワスチカは戦場で開く。数多の血と魂の散華。ゆえに敵という存在が必要なのだ」

つまりは蓮に選択の余地は無いということ。逃げようとも戦おうとも、ラインハルトの完全帰還は防げない。考えられる方法は一つのスワスチカで複数の敵を撃破すること。しかし、それは圧倒的なほど難しい。

「どうするね?理解に至ったなら決断のときだ。退くか進むか―――ここで私と……」

その場の空気が変わる。それを蓮は好機と見る。ずっと圧倒されていた。飲まれないようにするのがやっとだった。しかし、今こそ好機、この場の目的を果たすために博打を打つのはここしかない。

「マリィを返せ。それで試してみろよ、喰えるかどうか。万全じゃないと彼女がいる俺とは向き合えないのか?」

挑発まで加える。綱渡りどころか、彼が気まぐれに指を一本動かす程度で殺されるだろう。それでも続ける。ここで怯えや(へつら)いを見せれば、むしろ彼は期待はずれだとばかりに蓮を殺していたことだろう。ゆえに…

「マリィがいれば、今のお前くらい斃せるんだよ……!」

藤井蓮は間違いなく生涯最大のハッタリをかます。だからこそ、それは届いた。

「ふふ、ククク…ははは、ははははは、はははははっははっはハハハ――――――!」

ラインハルトは俯いて、喉を鳴らし、やがて天を仰いで大笑いした。

「見事、ははは―――まったく、いや……上出来ではないか、教育が行き届きすぎだぞカール!しかし、これすら既知だ、無意味だ。いや福音へ至る道として甘受するかな。終わりは近い!
ナウヨックス、賭けは私の勝ちだぞ。顔を見せろ」

「やれやれこのタイミングで呼びますか、普通?人形も驚くでしょう。あと返してあげてはどうですか。怯える子羊が勇気を振り絞り狼を演じたのです。それ相応の気概には対して報酬は当然のことでしょう」

「そうだな、持っていけ」

「―――がッ」

蓮にマリィが返される。その身に傷は一つとして付いておらず五体満足で返ってきた。

「後のことは任せたぞ、ナウヨックス。彼らは客人なのだからな、丁重に扱え。
ではしばしの別れを、ツァラトゥストラ。よもや逃げまい。今の私では不足と言った卿ならば。楽しみでよ。私に未知を見せてくれよ。
決戦はそのときに、我が軍勢(レギオン)をもってお相手すると約束しよう」

そう言ってラインハルトは一瞬の閃光とも言える輝きと共に消失した。それに対比するかのように影でありまるで漆黒の闇であるかのようなアルフレートがその場に立っていた。

「………くそ」

「気にするな、今のお前じゃその反応が当たり前だ」

ただ最後の最後まで圧倒されていたこと。ラインハルトの余裕を消す事もできず、安堵し、それが悔しく恥じて彼は知らずに舌打ちしていた。

「マリィ、無事で良かった。何処か痛いところとかあるか?」

「ううん、平気だよ」

「立ってみて」

少々不躾な行為だと彼は自覚しつつも上から下まで異常がないかを確認する。じろじろと見る蓮の表情からあまり気が進まないのは事実なのだろう。しかし、

「………………レン、近いよ」

寄るなと言わんばかりにマリィは蓮の胸を両手で押す。

「…なっ」

「なにしようとしてたの?」

「いや、何って……」

「平気って言ったでしょ。じろじろ見ないで。恥ずかしい。目がいやらしかったです」

「いやらしいって……」

ここで蓮の威厳を保つために言っておくが別に蓮はいやらしい目つきでマリィを見ていたわけではなく、怪我の有無や他に異常が無いかを調べていただけだ。他に他意はない、はず。

「……ククク、いやまあそんな目つきで見ていればそう勘違いもするだろう」

「うわぁ!?」

蓮はいきなりマリィ以外の人、アルフレートに声を掛けられ驚き転んでしまう。

「どうしたんだい人形、まさか気付いてなかったのかい?これからラインハルト殿に立ち向かうのに、それで本当に大丈夫なのかい?」

「お前が何でここにいるんだよ!?」

「さっきからいたんだけど…まあ、僕の肩書きはラインハルト殿の腹心だ。ゆえに彼が顕現しているのならお傍にいるのが当然だろう」

「いや、当然だろう、とか言われても……」

蓮は現在の自分の状況にうんざりしながら尋ねる。

「それじゃあ、ラインハルトがいなくなったのにまだいるのは如何してだ?」

「ラインハルト殿が言ってただろう。客人を持てなしてやれと、僕はお前のことが嫌いだけどラインハルト殿が認めたんだ。それ相応の扱いはするさ」

「む~レーンー、さっきからその人と話してばっかいないでよ」

頬を膨らませながらそんなことを言う。連は突然のマリィの変わりように驚き、アルフレートは慈しむ様にマリィを見る。

「ごめんね、マリィちゃん。後で紅茶とケーキを出してあげるから今は我慢して、ね」

「おい、そんなんでマリィが「うん、分かった」ってマリィ!?」

「見たか、これが信頼関係の差だ」

胸を張るアルフレートにガクリと膝をつく蓮。そんな様子を疑問符を浮かべながらも眺めるマリィは連が落ち込んでいるので励ます。

「大丈夫だよ。レンの分のケーキも残しておくから」

「いや、そういうことじゃないんだマリィ……」

色々と先行きが不安になる蓮であった。 
 

 
後書き
前書きとタイトルのケーキは思い付きです。
本文中にラインハルトが賭けと言っていましたがアルフレートとラインハルトは蓮がどういう反応をするのかについて賭けていました。
二人が賭けていた物は書類仕事の類です。その手の仕事を請け負っていたシュピーネは現在、グラムヘイズ城で現実逃避をしているので彼らがするしかないのです。結果的にラインハルトが勝ちましたが、負けてもバックれて押し付ける気満々でした。 
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