弔花
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第五章
「殺人だけで数百らしいしな」
「自分でやったので二十か」
「少なくとも自分で二十人は殺してるんだぞ」
人数ではなく件数なのでそれより多いことは間違いない。
「それじゃあな」
「アルカトラズに行って当然でか」
「ここで言っても仕方ないさ」
「そうなるか」
「ああ、仕方ないさ」
「そうか、旦那あっちじゃどうなるだろうな」
「さてな、今の旦那だとな」
コズイレフも今のカポネを思い出して言った。
「あそこじゃ辛いかもな」
「そうだろうな、しかしな」
「しかし?どうしたんだ?」
「いや、旦那ここに来た時は堂々としててドンらしかったらしいな」
このことから言うのだった。
「それがどうしてなんだ?」
「ああも大人しくて弱気なのか、か」
「こっちでも小者に言わせなかっただろ」
「それはそうだな」
その通りだとだ、コズイレフも言う。
「デブだのな」
「こっちにも知り合いが多いし外から手先を送ったり出来るからな」
「それでどうしてだろうな」
「あそこまで大人しいのか」
「不思議だな」
「それはそうだな」
二人で今のカポネのことも話した、彼等から見てカポネはとてもマフィアのドンはおろか刑務所にいることすら不思議だった。
カポネは噂通りアルカトラズに送られ窃盗だの詐欺だのチンケと言っていい罪で入所していたドック達は程なく出所した、二人は出所するとだ。
真人間になろうと思って実際になった、ドックはフライドチキンの店をはじめコズイレフは工事現場の作業員になった、二人は奇しくも同じシカゴで近い場所で働いていた。
それでよく合い付き合いは続いていたがだ。
コズイレフはドックの店に来て彼が焼いたフライドチキンを食べてだ、まずはこう言った。
「相変わらずいい焼き加減だな」
「美味いだろ」
「いけてるぜ」
「そうだろ、やっぱり空き巣やるよりな」
「こうしたまともな仕事の方がいいな」
「そっちもいい感じみたいだな」
工事現場の作業員もというのだ。
「天職か」
「ああ、この体格だしな」
「詐欺師やるよりもか」
「いいな、俺にとっては」
「そっちもいい感じで働いてるんだな」
「そうさ、それでな」
コズイレフはフライドチキンを食べつつだ、話題を変えた。今度の話題はというと。
「カポネの旦那な」
「ああ、旦那か」
「亡くなったらしいな」
こう話した。
「どうもな」
「えっ、旦那死んだのか」
「そうらしいぜ、今朝新聞に載ってたぜ」
ドックにこのことを話した。
「病院で」
「旦那そんなに歳取ってなかっただろ」
「それでも亡くなったらしい」
「そうか」
「ああ、それでな」
あらためて言うコズイレフだった。
「刑務所で一緒だったしな」
「その縁でか」
「二人で旦那の墓参り行くか?」
こうドックに提案したのだった。
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