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弔花

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第一章

                 弔花
 ジョニー=ドックは窃盗、よくある空き巣狙いで捕まって有罪となったうえで刑務所に送られることになった。その刑務所に入る時にだ。彼に看守の者達が囁いた。
「この刑務所には有名人がいるぞ」
「御前もよく知っている奴だ」
「とんでもなく悪い奴だ」
「それは誰なんだ?」
 ドックは彼等の笑っての言葉にすぐに顔を向けて問うた。
「殺人鬼か?それともマフィアのドンか大泥棒かギャングのリーダーか?」
「二番目だ」
 正解はそれだというのだ。
「二番目がいるんだ」
「二番目、まさか」
 そう聞いてだ、ドックははっとした。今現在刑務所に入っているマフィアのドンの中でもとりわけ有名人はというと。
「アル=カポネか」
「そうさ、ここにはあいつがいるんだ」
「あのアル=カポネがな」
「シカゴの闇の帝王だ」
「あいつがいるんだ」
「おい、そんな凄いのがいるのか」
 看守達の笑っての説明にだ、ドックは血相を変えた。白人にしては鼻が低く丸い黒い瞳の顔を驚かせて。髪の毛も黒く肌が白くないと黒人を思わせる顔だ。
「俺なんかとても」
「ははは、御前は所詮窃盗だしな」
「空き巣だからな」
「誰も殺してないしちょっと盗んだだけだ」
「小さいものだな」
「俺はただ盗むだけだ」
 ドック自身もこう言う。
「ほんのちょっとな、しかしな」
「ああ、カポネは違うぞ」
「一体何百件の殺人に関わったんだろうな」
「自分でやったのが二十はあるらしいな」
「酒の密造、密売だ」
「とかく色々やってたぞ」
 アメリカのマフィアの社会で特に有名だった訳ではない、しかもマフィアはイタリア系でもシチリアにルーツがあるがカポネはナポリにルーツがある。ナポリはマフィアではなくカモラという別の系列の犯罪組織だ、だがカポネはマフィアのドンになっている。ルーツが違う場所のドンになっているところにもそうした意味での非凡さが出ている。
「そうした奴だ」
「もう窃盗なんかめじゃないな」
「御前なんか小悪党のうちにも入らない」
「本物だぞ、あいつは」
「まさに暗黒街の帝王だ」
「俺はそんなのと同じ場所に行くのかよ」 
 ドックは震え上がった、実は小心者で空き巣位しか悪いことは出来ない、詐欺は口に自信がなくスリも手の動きに自信がない。強盗には腕っ節にも銃やナイフの腕も自信がなくそもそも喧嘩をする度胸もない。
 そんな彼がだ、殺人だけで数百件も関わっているカポネと一緒の場所に行くなぞだ。
「怖いなんてものじゃないぞ」
「気をつけろよ、今も手下が外に一杯いるぞ」
「銃の腕がいいのがな」
「刑務所の中から自由に指示を出しているらしい」
「だからちょっと何かあったらな」
「刑務所の中でも安全じゃないぞ」
「中で何もなくてもな」 
 出た時にというのだ。
「川に浮かぶか蜂の巣か」
「どうなるやらな」
「まあそうした相手だ」
「一緒に仕事する時は注意しろよ」
「わかったよ、これも天罰か」
 思わずだ、ドックは天を仰いだ。 
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