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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第85話「行こう」

 
前書き
リニスさんがいきなり強くなったのは、場所が司の心の闇を映す結界だったからです。
使い魔として、助けたい、救いたいという想いが力となって現れました。
...と言っても、所謂バフみたいなもので、実際は時間をかけて術式を用意しただけです。
 

 






       =out side=





「っ、帰ってきた!」

 転送ポートが反応し、それを見たアリシアは喜んで駆け寄る。
 そして、優輝達が転移で帰還した。

「おっ帰りー!!」

「うおっ!?アリシア!?」

 帰ってきたクロノ達に、アリシアはいきなり突っ込む。
 そのまま、偶然優輝に抱き着く感じになる。

「なんで僕に?」

「偶々だよ!....っと、よく無事だったね。」

 すぐにアリシアは離れ、労いの言葉を掛ける。

「通信が切れた時はどうなるかと思ったけど...。」

「...やっぱり、ジャミングが掛かってたのか。」

「うん。元々音声は拾えてなかったぐらい悪かったからね。」

 クロノも、薄々通信が途切れているのではないかと気づいていたようだ。

「(....音声が拾えてなかったって事は、司さんと僕の関係の話は聞こえてないんだな。)」

 ふと、あれを聞かれていれば、説明などで面倒な事になっていたと、優輝は気づく。

「ジュエルシードを回収したのは反応が消えた事から把握してるよ。」

「後は状況説明か...。クロノ、頼んだ。」

「ああ。皆はしばらく休んでいてくれ。」

 説明はクロノに任せ、優輝達は各々休憩に入る。

「丁度夕飯時か。」

「じゃあ食堂にでも行く?」

 時間を確認し、優輝がそう呟くと、隣に立つアリシアがそう提案する。

「...アリシアはクロノから話を聞かないのか?」

「んー?私は優輝達から聞くよ。」

 なぜ自分に同行するのか疑問な優輝だが、断る理由もないので連れて行く。

「奏とリニスさんはどうする?」

「...私も行くわ。」

「私も同行します。...その、アリシアが何かしでかさないように...。」

「ちょっ、リニス!?私そんなお転婆じゃないよ!?」

 リニスと奏も同行する事になり、それなりの人数になる。

「母さんと父さんは?」

「私は光輝と一緒にいるわ。ゆっくりしてきなさい。」

「モテモテだな、優輝。」

 優香と光輝は、敢えて同行はせずに見送るようだ。

「(...偶然か否か、記憶持ちが揃ったな....。)」

 一緒にいる面子を見て、優輝はそう思った。
 何気に全員が司の事を想い出しているのだ。

「...まぁ、とりあえず食堂に行くか。」

 腹が減っては戦はできぬと考え、とにかく優輝は食堂へと向かった。
 ちなみに、そんなアリシア達と仲良くする優輝を神夜は睨んでいたが、クロノからの話も聞かないといけなかったため、それだけに留まっていた。







「....へぇー、じゃあ、リニスも司の事を思い出したの?」

「はい。...いつまでも、忘れている訳にも行きませんから。」

 食事を取りながら、雑談のように皆はアリシアに何があったか説明する。

「何気に、自力で認識阻害を打ち破ったのってリニスさんだけなんだよね。」

「あれ?優輝達は違うの?」

 優輝の言葉に、アリシアが疑問に思って問う。

「僕らは自力...とは言い難いかな?シュラインに導かれたからな...。」

「あ、そうなんだ。」

 “だからいきなり学校に向かってたんだ”と、アリシアは納得する。

〈...導いてませんよ?〉

「...え?」

〈確かに私は貴方に賭けていました。ですが、導く事まではできていませんでしたよ?〉

「でも、確かにシュラインの声が...あれ?」

 話が食い違っている事に、優輝は戸惑う。

〈私が優輝様方に念話を飛ばしたのは、あの校庭が最初です。〉

「....え?」

 シュラインの言葉に、優輝は固まる。
 ...優輝達は、確かに家でシュラインの念話を聞き取ったのだ。
 しかし、当のシュラインは校庭でしか念話を使ってなかったという。

〈認識阻害も、私は一切干渉していません。...そこから考えるに、やはり優輝様方は自力で認識阻害を解いたのでは?〉

「....そういえば、僕らって司さんがいない事を漠然とだけど感じ取っていたな...。」

 自分達は皆とどこか違う事に気づき、優輝は考え込む。

「(確かにあの時シュラインの声を聞いた。だけど、シュラインはそれを知らない。...無意識?いや、それ以前になぜ僕らは司さんがいない事に“違和感”を感じる事ができた?)」

「...優輝?」

 思考を巡らし、黙り込んでしまった優輝にアリシアは声を掛けるが、反応はない。

「(よくよく考えてみれば僕らだけ...いや、最初は僕だけだったか。僕だけ例外なのか?一体、何が違うというんだ?前世と前々世があるから?....待てよ?)」

 そこまで考えて、ふと優輝はあるものを思い出す。
 今では使えなくなり、二度と見る事のできなくなったもの...。

「(ステータス...!確か、あれに...!)」

 “キャラクターステータス”。以前は使えた、おそらく特典であろう能力。
 最後に確認した時、優輝のステータスにはいくつか効果が不明な項目があったのだ。

「(“止まらぬ歩み(パッシブ・エボリューション)”?“道を示す者(ケーニヒ・ガイダンス)”?“共に歩む道(ポッシビリティー・シェア)”?....うーん...。)」

 どれもしっくり来ず、頭を悩ませる優輝。
 唯一近いと思えるのは、“道を示す者(ケーニヒ・ガイダンス)”だが、それもどこか違うようだった。

「(...いや、能力じゃない...。確か...“導きし者”...。)」

 それは、能力ではなく、所謂“称号”であった項目。
 “導かれた”のであるならば、“導き”が関係していると優輝は考えた。

「(誰かを導くだけじゃなく、“自分自身”をそうなるように導いた?いや、さすがに深く考えすぎか?いや、でも―――)」

「えい。」

     ビシッ

「いつっ!?ちょ、いきなりなんだ!?」

 ずっと考え事をしていた優輝の頭を、アリシアが軽くチョップする。
 そこでようやく優輝は現実に戻ってきた。

「いや、ずっと考え事してたし。」

「...あー、思考を巡らしすぎてたか...。」

 アリシアの言葉に、自身が考え事に耽りすぎていたと自覚する優輝。

「結局、自力なの?違うの?」

「...一応、自力だな。シュラインが干渉していないのなら、そうなる。」

「明らかに他の事で悩んでいたように見えたのだけど。」

「細かい事だ。...今は深く考える必要はない。」

 優輝が考え事をする時は、何か気になる事ができた時。
 それがわかっている椿は優輝に問うたが、考える必要はないとはぐらかされる。

「ともかく、これで地球上にあるジュエルシードは全部集めたんだね。」

「ああ。後は....。」

「司を救うだけ...です。」

 もちろん、それだけで簡単に終わるとは誰も思っていない。
 それでも、優輝とリニスは確固たる“意志”を持ってそういった。

「...あ、忘れてた...。」

「奏ちゃん?」

「ジュエルシード...クロノに渡し損ねてたわ。」

 最後に封印したジュエルシードをクロノに渡しそびれていた事に、奏はふと気づく。

「...あー、まぁ、後で本来の“形”に戻すから、今の内に僕が預かっておくよ。」

「優輝さんが?...はい。」

「っと、あっさり渡すんだな。...ま、現状ジュエルシードを元に戻せるのは僕だけだしな。」

 なぜ優輝がと疑問に思いつつ渡す奏に、優輝は簡単に答える。

「...司、大丈夫だよね...?」

「...大丈夫かどうかじゃない、助けるんだ。...今度こそ。」

 アリシアの不安げな言葉に対し、優輝は淡々と...だが力強く断言する。

「親友として。」

「使い魔として。」

「「...絶対に。」」

 三度目の正直にするため、使い魔として主を救いたいがため、優輝とリニスはそういう。

「...食堂じゃなくて、相応の場所なら、凄く格好よく決まってたね。」

「茶化したらダメだよシアちゃん。かやちゃんなんか羨ましがってるんだから。」

「なっ!?べ、別にリニスと優輝の息が合ってる事を羨んでなんか...!」

「...全部暴露してるわ...。」

 アリシア達は、その二人に感銘を受けながらも、重苦しい空気にならないように茶化す。

「...あのなぁ...これでも真面目なんだけど...。」

「司にとっては、助けられた時にこういう風に明るい雰囲気の方がいいでしょ?」

「堅苦しい雰囲気だと、また責任を負っちゃうよ。」

「っ...!」

 さすがに文句を言おうとした優輝だが、アリシアと葵の言葉にハッとする。

「...そう、か。...そうだな。」

「暖かく迎えてくれる...確かに、その方が司にとっては嬉しいですよね...。」

 気負いすぎていたと、二人は気づく。

「ま、とにかく助け出さないとね。」

「そうだな。...とりあえず、このジュエルシードを直す事から始めるか。」

 昼食を取り終わると、優輝はそういってクロノとリンディの所へと向かった。







「...ふぅ。」

「...早いな。」

 数十分後、無事に優輝はクロノ達の監視の下、ジュエルシードを直し終わった。

「...見てて面白かったか?」

「なんか凄かった!」

「まるでわかってないのがわかったよ。」

 なお、アリシア達はそのまま優輝についてきていた。
 ずっと優輝の作業を見ていたアリシアだが、まるで理解が及ばなかったらしい。

「っ、ジュエルシードが...!?」

 すると、徐に直したジュエルシードが浮き上がる。
 それにつられるように、クロノが保管しておいたジュエルシードも浮かび上がる。

「...シュライン。」

〈...危険性、暴走する可能性は皆無です。ですが、これは....。〉

 優輝がシュラインに聞くが、シュラインは“危険はない”という。
 そして、シュラインも呼応するように浮かび上がる。

〈....なるほど、そういう事でしたか。〉

「どういうことなんだ...?」

 シュラインが一人で納得し、他の皆はよくわからずに疑問符を浮かべる。

〈.......。〉

「...シュライン?」

 ジュエルシード同士で呼応するように明滅し、シュラインはしばらく沈黙する。

     カッ―――!

「何を...!」

 すると、突然光り出し、一筋の光がどこかへ伸びていく。

『艦長!探知機に何者かの干渉を受けています!』

「なんですって!?」

 突然管制室からそんな報告を受け、リンディは驚愕する。
 なんの前触れもなしに、アースラへシステムハッキングを仕掛けられたからだ。

〈大丈夫です。これは....。〉

「...シュライン?」

 相変わらず一筋の光はどこか示していたが、シュラインは“大丈夫”だと断言する。

『これは...座標...?どこかの座標が示されています!』

「光...座標...もしかして...!」

 そこで、優輝が気づく。

「これは、司さんの居場所を示しているのか?」

〈...はい。マスターの今いる座標を示しています。どうやら、ジュエルシード達が私たちを導くつもりのようです。〉

 そう。ジュエルシードが示す光。そして、アースラのシステムに干渉し示した座標。
 そのどちらも、司が現在いる場所を示していた。

「...どうやらシュラインの動きに従っているようだな。」

〈器がジュエルシードとはいえ、私はジュエルシードを管理するデバイスですからね。天巫女でなくともある程度は従ってくれます。〉

 シュラインが優輝の傍に戻ると、それにつられるように他のジュエルシードも優輝に纏うように移動する。

「とにかく、一度全員を集めて訳を説明するか。...艦長、管制室への説明はお願いします。」

「分かったわ。エイミィ、聞こえるかしら?」

 リンディが通信を行ってきたエイミィに説明を始める。

「それじゃあ、手間をかけるが、これから説明のために皆を集める。優輝達は一足先に会議室に行っておいてくれ。」

「分かった。...行くぞ、皆。」

 クロノは足早に部屋を出て行き、優輝も椿たちを引き連れて部屋を後にした。









       =優輝side=





「...それにしても、これじゃあまるで優ちゃんが所有者みたいだね。」

「実際は僕がシュラインを所持してるだけなんだけどね。」

 僕の周りを浮かぶように存在するジュエルシードを見て、葵がそんな事を言う。
 ...それにしても、まさかいきなりジュエルシードが司さんの位置を示すとは...。

「....説明が終われば、アースラは司の居場所へと向かうでしょうね。」

「だろうね。...決着も近い...か。」

 リニスさんとアリシアがそんなやり取りをする。

「...となれば、神降しも事前にしておかなくちゃな...。」

「そうね。」

 霊脈はアースラにいる時点で途切れている。離れすぎているからだ。
 神降しの方も同様で、次元世界を移動すれば長時間はもたないだろう。

「空いた時間で確かめたけど、この場所ならまだ神降しは普通に行えるわ。それと、本体と掛け合ってみた所、次元を跨いでもしばらくはもつそうよ。」

「なるほど。」

「...尤も、私が蓄えられる力の分だけだけどね。」

 つまり、椿の力が尽きれば神降しは使えなくなるのか...。

「短期決戦...か。」

「そうなるわね。」

 厄介な条件だ。
 前提として、僕らは司さんを救い出さなければいけない。
 救うためには、説得も必要だろう。...だけど、その時間が少ない。

「(...いざという時は、“アレ”も視野に入れておくか...。)」

 神降しが時間切れになった時の対策も必要だと考え、その策を頭の中で用意しておく。
 すると、クロノが他の皆を引き連れてやってきた。

「よし、全員いるな。」

 クロノが皆を見渡し、そういう。
 既に来ていた人以外は、皆僕を見てくる。
 ...まぁ、当然だな。ジュエルシードが大量にあるんだし。

「優輝の手によって直されたジュエルシードにより、今回の事件の中心人物...“聖奈司”の居場所が判明した。」

「っ.....!」

 そして、クロノの放った言葉に織崎が驚き、なぜか僕を睨む。
 ...いや、何も悪い事してないから。

「...優輝さんの傍に浮いてるけど、これは優輝さんがジュエルシードの所持者って事を示してるん?」

「いや、違う。...優輝。」

「ああ。...シュライン。」

 はやての問いに、クロノは否定して僕を呼ぶ。
 それに応じて、僕はシュラインを取り出して会議に使うテーブルの中心に行かせる。

「この通り、どちらかと言えばシュラインに従っているようだ。」

「ほえ~...。」

 淡い光を放ち続けるジュエルシード達を見て、はやてはそんな声を上げた。

「ジュエルシードが一筋の光を放っているのが見えるな?その光の先に、“聖奈司”はいるらしい。」

「どうしていきなりジュエルシードが場所を?」

 今度はなのはが疑問をぶつけてくる。

〈おそらくは、地球上のジュエルシードを集めたからかと。なぜ示すかは、ジュエルシードもマスターを助けたいと思っているからでしょう。〉

「...そっか。だからあの時...。」

 なのはは偽物の最後の言葉を聞いている。
 だから、シュラインが言った事ですぐに納得したようだ。

「これより、ジュエルシードが示した座標へ僕らは向かう。...事態は一刻の猶予もない。突然で悪いが、全員戦闘に備えておいてくれ。」

「...なぁ、クロノ。目的地って遠いのか?」

 織崎がふと気づいたのか、クロノに問う。

「...そうだな...。エイミィ!」

『どうしたの?』

「ジュエルシードが示した座標まで、どれくらいだ?」

『そうだねぇ...近いってどころじゃないよ。次元で言えば、すぐ隣。一つ次元を跨いだ所にいるよ。移動に十分もかからない。』

「なっ....!?」

 ...エイミィさんの報告に、僕らも驚いていた。

『座標をよく見てると、少しずつ近づいてきているんだよ。まるで、惹かれ合うように。』

「...そうか。わかった。」

 通信を切り、クロノは少し考え込む。
 ...さすがに予想外だったのだろう。ここまで接近されていたのは。

「なぜ、ここまで接近を...。」

「....おそらく、司の想いが...。」

 呟いたクロノの言葉に、リニスさんが反応する。

「...私は司の使い魔ですから、一部の感情を感じ取れます。今でこそ、何かに妨害されて感じ取れませんが、半年前のプリエールで....微かに、助けを求める想いが感じられました。」

「それって、つまり司は本当は助けてほしいって事?」

 アリシアがリニスの言葉を聞いてそういう。

「...おそらく、そうよ。」

「“自分のせいだ。自分のせいだ。”って思っていても、心のどこかではそれでも助けてほしい。救ってほしいって願う。...それが人間の欲深い所だからね。」

 そして、それに賛同するように椿と葵がそういう。
 僕自身、同意見だ。あんな理不尽を受けて、心の底から自分はいない方がいいと、救われるのを本当に拒絶するはずがない。

「...とにかく、“聖奈司”を助け出す事には変わりない。けど、認識阻害が未だに残っている今、僕らにどんな影響があるかはわからない。だから...。」

「指示はアースラからは私。現場では優輝が主に行うよ。」

 クロノと目で会話したのか、アリシアがそう言ってのける。
 ...僕、そんなの聞いてないんだが。

「待ってくれ!バックアップのアリシアが指示するのはいい。だけど、なんで志導が現場での指示役なんだ!?」

「適任だからだ。...逆に聞くが、優輝以上に現場で指揮できると自負する者はいるか?しかも、前提として認識阻害の影響を受けない。もしくは受けても関係ない人物で、だ。」

「ぐ....。」

 クロノの返しに、織崎は言葉に詰まる。...わかってはいるのだろう。

「連携や作戦を練っている時間はない。その場で臨機応変に対応を行ってくれ。では、準備をするために一時解散だ。準備ができ次第、出発する。」

 クロノはそう言って締めくくり、全員が慌ただしく動き始める。

「...僕らも神降しをしておくか。」

 アリシアが言った指示に関する事なら問題ないだろう。
 これでも、前々世で王をやってたからそれぐらいは可能だ。

「クロノ、トレーニングルームを使わせてもらうぞ。」

「今言った神降しをするんだな?了解した。」

 態々八束神社に転移する訳にもいかないので、トレーニングルームで神降しを行う。
 クロノに使用許可を貰い、僕らは移動した。





「...うん。まぁ、ついてくるのはいいけどさ。皆は準備とかいいのか?」

 移動した後、未だについて来るアリシアと奏に言う。
 ちなみに、リニスさんは戦闘に備えて瞑想などを行うために別行動になった。

「私は戦闘できないからね...。むしろやる事もないし、精神的に気楽にしておこうかなって。」

「...私も大丈夫。」

 ...まぁ、軽く表情とかから状態を見てみたけど、大丈夫だからいいか。

「椿。」

「ええ、いいわよ。」

 椿に合図を送り、椿は陣を描き、霊力を迸らせながら言葉を紡ぐ。

「....時間はもって1時間もないわ。気を付けなさい。」

「分かった...。」

 椿の姿が消え、僕から力は溢れる。

「っ....!」

「凄い...。」

 僕らをじっと見ていたアリシアと奏がそんな声をあげる。
 その間に、僕の姿は椿に近い姿へと変わり、神降しが完了する。

「....ふぅ...。」

「準備完了だね。」

 一息吐いた僕へ、葵が声を掛けてくる。

「....それじゃ、クロノの所へ戻ろうか。」

「あ、じゃああたしが先に行って準備が終わった事を知らせてくるよ。」

 やる事がなかったからか、葵が先に行って準備が完了した事を伝えに行った。
 ...できるだけ体力は温存しておくか。





「.....誰?」

 ...再集合場所である会議室に着いた時の皆の反応がこれだった。
 いや、確かに誰か分からなくなるけどさ。

「...本当、優輝には見えないわね。」

「見間違えるとしても、椿ちゃんか...。けど、雰囲気が違うと断言してるな。」

 母さんと父さんがそういいながら僕を見てくる。
 ...そういや、偽物の時は二人も驚いてたっけな。

「優輝達で最後だ。では、出発する。...エイミィ!」

『了解!』

 クロノが飛ばした指示で、アースラが移動を開始する。

「長くは保てないから、短期決戦で行くつもりだ。」

「分かった。指示は任せるぞ。」

 クロノと互いに頷き合い、僕はジュエルシード達が差し続ける光を見つめた。

「まず、斬り込むのは認識阻害の影響を受けてない者がメインだ。他はできれば援護に回ってほしい。」

「どうなるかわからない以上、常に対応できる者でないといけないからな。」

 と言っても、これはプリエールでの戦いと同じ条件の話だ。
 今回の場合は、まず戦場となる場所がどうなっているのかすらわからない。

『...っ、間もなく目的地!モニターに映すよ!』

「これは....!?」

 次元を渡った瞬間、全員が体に重りを付けられたような感覚に陥る。
 ...精神攻撃か...!

「全員気をしっかり持て!これぐらいなら大したことはない!」

 僕が一喝し、全員を立ち直らせる。
 意志が強ければ問題ない。現に葵は全く動じてなかった。

『...分類としては、今結界内にいるんだけど...こんなの、一つの次元世界だよ!!』

「世界を一つ作り出す程なのか...!ジュエルシードと天巫女は!」

 エイミィさんの報告に戦慄する。...まさに神の所業だ。

「あれの中に...司が...。」

「なに、あれ...。黒い...塊...?」

 モニターに映る黒い靄のようなものの塊。
 ...神降ししている今ならよくわかる。...あれは、全て“負の感情”だ。

「...どうやって突破するつもりだ?」

「...認識阻害の影響は?」

「ない。...というよりも、あんなのを目にしたら、認識阻害なんて吹き飛んでしまう。」

 どうやら、全員特に影響はないらしい。...好都合だな。

『っ、黒い塊から高魔力反応!攻撃、来ます!』

「まずい!シールドを...!」

「いや、僕が行く!」

 神の如き力には、神の力を。
 僕はアースラの前に浮かぶように転移し、神力による障壁を張る。

     ギィイイイイン!!

「(これ、は...!)」

 放たれた閃光は、障壁にあっさりと阻まれる。
 どうやら、あの“負の感情”は物理方面に働いているらしく、特殊な概念や効果などは付与されていないようだ。

 ...つまり、普通の防御魔法などでも防ぐ事は可能だ。

「(息ができる?もしかして...。)シュライン!」

〈...解析しましたが、どうやら人が活動できる環境となっています。〉

 まるでゲームでの異次元空間だ。
 明らかに人がいられなさそうなのに、普通に活動できる空間のようだ。

「『全員外に出てくるように!幸い、外でも普通に行動が可能だ!突破口を開き、アースラを守るために出撃だ!』」

 念話でそう通達し、僕は御札を懐からいくつも取り出し、前方へ投げる。
 そして、それに神力を通し、強靭な障壁と成す。

『優輝!アースラからの援護は必要?』

「頼む!」

 再び放たれる閃光。しばらくは張っておいた障壁が防ぐだろうが、長くはもたない。
 そこで、アースラから砲撃が放たれ、閃光を相殺する。

「優輝!」

「...全員来たか。」

 前線に出るメンバーが転送ポートからやってくる。
 ...僕も、準備は完了だ。

「今からあの塊に穴を穿つ。護衛にユーノ、はやてとリインフォースさん、ザフィーラさん、シャマルさんは残ってくれ。...他は開けた穴から突入だ!」

 全員に魔力結晶と、精神を守る御札を投げ渡しておく。

「...優輝さん。」

「リニスさん...。...助けましょう、()を。」

 隣にリニスさんが立ち、いつでも行ける体勢になる。







「.....行こう。」

   ―――“弓技・朱雀落”

 そして、朱く燃える矢が、“負”の塊を穿った。











 
 

 
後書き
次元航行艦船って名前なぐらいだから、護衛武装の一つや二つ付けてるだろうという事で、アースラに主砲となる武装を付けました。

半年という年月が、一つの世界を作り上げています。さすがにこの小説のジュエルシードでもあっさり世界一つを作れる程の力はありません。 
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