夏のお留守番

「誰も入れるなよ」
「知らない人は」
「そうしろ、いいな」
「じゃあそうして」
「二人で留守番をしてくれ」
「お昼やおやつは適当に食べてね」
　母は食べることの話をした。
「沙織ちゃんもお料理出来る様になったし」
「簡単なのだけね」
「インスタントラーメンでも食べてね」
「うん、それじゃあ」
「お母さん達はもうすぐ行くから」
「俺もな」
　茂もここでまた言ってきた。
「食ったら行くからな」
「うん、じゃあね」
　沙織はジャムをたっぷり塗ったトーストを食べつつ応えた、そしてだった。
　食事の後で実際にだ、両親も兄も家を出た。沙織は忽ち家に一人になった。ここで留守番がはじまったことを自覚していると。
　家のチャイムが鳴った、それで玄関のモニターを観るとだ。明るい顔立ちで背の高い小学校高学年位の男の子がいた。赤いシャツに膝までのクリーム色の半ズボンといった格好だ。両親が話した沙織と同じ歳の従兄弟の健太郎だ、尚通っている小学校は隣同士だ。
　その健一にだ、沙織はモニターに付いているマイクから彼に言った。
「おはよう、健ちゃん」
「おう、おはよう」　
　健太郎の方も明るく言ってきた。
「おじさんおばさんに言われてさ」
「一緒に留守番してくれって言われてよね」
「ああ、来たよ」
　屈託のない声で言ってきた。
「今日一日宜しくな」
「じゃあ入って」
「それじゃあな」
　健太郎も応えてだ、そしてだった。
　彼を玄関の中に入れた、するとすぐにだった。沙織は家の鍵を閉めた。健太郎は靴を脱いで家にあがりつつ扉が閉まる音を聞いて言った。
「締めるんだな」
「だって危ないから」
　だからだとだ、沙織は健太郎に答えた。
「何かとね」
「変質者が入ったりするから」
「そう、用心によ」
「留守番していてもか」
「女の子一人じゃ危ないから」
「だから俺も呼ばれてか」
「今日お願いね」
　沙織は家に完全に上がった健太郎に言った。
「本当に、ただ」
「ただ、何だよ」
「もう、靴脱ぎっぱなしじゃない」
　健太郎の脱いだ靴が乱れてるのを見てだ、沙織は眉を顰めさせた。
「ちゃんと揃えないと」
「相変わらず細かいな」
「こういうことはしっかりしないと」
　眉を顰めさせたまま言う。
「奇麗に整えてよ」
「細かいこと言うなよ」
「言うわよ、全く」　
　沙織は身体を屈め手を出してだ、健太郎の靴を戻した。そのうえで彼にあらためて言った。
「しっかりしなさい」
「次からそうするよ」
「今からよ、まあとにかくね」
「今日はな」
「一日宜しくね」
「それじゃあな、とはいっても今日ここで留守番するとして」
　それはいいとしてとだ、健太郎は沙織にあらためて言った。
「何をすればいいんだよ」
「何って？」
「だからこの家で何をすればいいんだよ」
「留守番でしょ」
　健太郎の問いにだ、沙織はあっさりと返した。
「それでしょ」
「いや、留守番している間何をするんだよ」
「何っていうと」
「ゲームとか漫画読んだりな」
「プレステしたら？」
　沙織はゲームと聞いてこちらを話に出した。