相良絵梨の聖杯戦争報告書
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米国大使館対盗聴防止貴賓室
アトラム・ガリアスタという人物が居る。
今回の聖杯戦争における協会からの派遣魔術師らしいのだが、その入国を入国管理局が嫌がっているのだ。
中東の石油王系の一族なのだが、その一族が中東の宗教過激派テロ組織と繋がっている情報が米国経由で流れたからに他ならない。
で、現在彼の入国を巡って協会と政府が激しく火花を散らしていたのである。
「魔術協会は彼を入国させろと要求するし、入管はその経歴から入れたくはない。
あとは、宗教過激派テロ組織の件で判別するべきなんだけど……」
タイミングよく携帯がなり、相手はアンジェラ書記官だった。
「ハイ。
ミス神奈。
先に要件を伝えますわ。
例の件、こちらで調べた結果真っ黒でした。
彼からは、過激派テロ組織から人身売買の取引の経歴が見つかったわ。
こっちでは、自爆テロ要員と判断しています」
「わかりました。
この情報は関係各所に回しても?」
「もちろん。
ですが、ソースは秘蔵してくださいね」
通話を切ってため息をつく。
これで彼がこの国に入国することは正規では難しくなった。
もっとも、それをどうにかする程度のコネもあるだろうが、それをするとあの国がどう出るか簡単に想像がつく。
アトラム・ガリアスタは案の定、こちらの警告を無視して入国を試みる事になる。
で、聖杯戦争最初に脱落したマスターとして記録される事になった。
「ニュースです。
地中海某独裁国家上空で撃墜されたジェット機について、米国は某独裁国家の仕業と断定。
これを非難しました。
これに対して某独裁国家指導者の大佐は事実無根と反論しており……
この飛行機は10人乗りのプライベートジェット機で、中東の富豪が搭乗していたと……」
やりやがった。
国家が本気でやるとここまでできるという良い見本である。
冷戦中にちょくちょくあったらしいブラック・オペレーションに私は苦笑するしか無い。
さて、誰がやったかは分かっているので、そのお伺いをするために私は米国大使館にアポイントを取る。
向こうから車が回されて米国大使館に到着した時に、私は軽くポケットからタロットカードをかざす。
何かが壊れる音がして、大使館員が即座に警戒しながら私を大使館内に迎え入れる。
「ミス神奈!
大丈夫ですか!?」
「ご心配なく。
虫を払っただけですよ。
これは、そちらではできないでしょうから」
魔術絡みの案件と察して慌てて出てきたアンジェラ書記官が苦虫を噛み潰した顔になる。
まだ米国の、少なくともアンジェラ書記官の居る部署には、対魔術人員が居ない事が確認できたのだから。
通された応接室は調度品が整っているが窓が無い防諜を意識した部屋である。
つまり、そういう話という訳だ。
「とりあえず、表向きの用件を先に片付けましょう。
魔術協会カンカンです」
「良いことです。
こちらが既に怒っている事を分かってくれるでしょうから」
このあたりの温度差がそもそもの背景なのに、まだ魔術協会は事態を楽観視しているふしがある。
既に彼らは世界を裏から操る合衆国の敵認定されかかっているというのに、お気楽なものである。
「で、本題に入りましょう。
彼の死体を見せていただきたいのです」
まさか女子高生から死体を見たいをのたまわれるとは思っていなかったらしく、がちCIAエージェントの顔が少しだけ歪む。
とはいえ、その少しだけで元のスマイルに戻ったのはさすがと言わざるを得ないのだが。
「聖杯戦争の概要は既にお伝えしましたね。
令呪が出ているかを確認しておきたいのです」
サーヴァントへの絶対命令権である令呪と呼ばれる紋章の確認は、魔術協会からも確認を求められていた案件である。
この令呪そのものが魔力の塊であると同時に、聖杯から認められた聖杯戦争参加者の証であるのだから。
「ミス神奈。
お聞きしたいのですが、その令呪が未使用だった場合、別の第三者が聖杯戦争に参加できる可能性があると?」
「協会や教会にはそのような技術もあると聞き及んでおります。
さきほど払った虫はそれがらみですよ」
虫、つまりどこかの魔術師達が放った使い魔の事なんだが、彼らの目的もこの令呪にある。
それが未使用で、移設や第三者が使用できるならば、入手した者のアドバンテージになるからだ。
アンジェラ書記官の顔色が一気に悪くなる。
つまり、揉め事を処理したと思ったら、別の揉め事に変わっただけなんて事になりうるからだ。
「どうぞ」
しばらくしてアンジェラ書記官が数枚の写真を私に渡す。
機体は空中分解では無く、海に激突した時に分解したらしく彼の死因は衝撃死ではなく水死だった。
そして、彼の利き腕の令呪らしき紋章は全て薄く消えかかっている。
「……令呪が使われている?」
私の声にアンジェラ書記官が嫌な顔をする。
令呪の使用。
つまり、そこにはサーヴァントが居た事を意味しているのだから。
「ミス神奈。
サーヴァントというのは、飛行機事故からでも助かる存在なので?」
「可能性はあります。
何しろ、英霊なんですから否定できない所がやっかいです」
私はこれみよがしにため息をつく。
これで魔力切れで消滅してくれたら万々歳なのだが、こういう時は最悪の可能性を考えておいたほうが良い。
「アンジェラ書記官。
我々は科学技術の恩恵を受けて、この地球を狭くしてしまいました。
具体的に言えば、一日で地中海からこの日本に飛行機でこれるぐらいには。
で、サーヴァントは召喚時にある程度の現代知識の補正を受けるそうですよ」
「つまり、主無しのサーヴァントがこの国にやってきている可能性があると?」
「低くは無いでしょうね。
こういう野良サーヴァントは魔力が切れる前に、別の魔術師と契約を結ぶことで戦争を続行する事ができます」
歩く時限爆弾がこの国をうろついていると言っているようなものである。
私から、若宮分析官に話をあげたら確実にケジメ案件である。
アンジェラ書記官が露骨に悪い顔をして何か罵倒しているが聞かなかったことにしよう。
「戦争なんてものは、開始前の準備で大体の結果が決まるものです。
これはその準備段階の小競り合いというものになるでしょうね。
で、虫は払っています。
見なかった事にしましょうか?」
露骨な裏取引の提案にアンジェラ書記官がしばし考え込む。
握っていてもいずれ分かる情報だが、今この時点で黙る事についてのメリットはアンジェラ書記官側には多分あるのだ。
だからこそ、別部署である私を呼んで情報の確認をさせたのだから。
「私にも報告義務がありますので、二日。
それが限界ですが、その二日分の貸しに対してそちらはどれぐらいの値段をつけて頂けるので?」
アンジェラ書記官が嘲笑う。
背後に殺気を漂わせて私を睨みつけるが、悲しいことに私も似たような顔をしているのだろう。
「いいわ。
あなたとても良い。
ねぇ。
こっちに来ない?
我が国は才能があって星条旗に忠誠を誓えるならば、誰でも受け入れるわよ」
「あいにく、私は占い師をしながら平凡に恋愛するのがささやかな願いなので。
世界の危機とか、スパイ映画の人生はとてもとても」
そこで互いの殺気が消える。
値段をつけ終わったから、あとは取引の時間だ。
「こちらの要求はささやかなものです。
こんな事をやった馬鹿をそちらが押さえつけられるのかと、そんな馬鹿がこの国に入って同じことをしないかの二つだけ。
私の立ち位置は魔術協会ではなく、日本政府の代弁者という事にしておいてください」
ただの女子高生が日本政府の代弁者とは大きく出たものだが、今回の聖杯戦争の監視についてる若宮分析官が内調出向だから、彼女に話せばもっとたちが悪くなるとも言う。
で、私そのものより私を送り出した姉弟子様の顧客が与党の大物議員だから、証拠を残せない裏の取引においてはったりはかなり有効な武器である。
「分かりました。
この件は、日本政府の非公式の抗議として我が国の情報機関共同体に正式にあげさせて頂きます。
それと、この聖杯戦争における日米共同の監視と連絡については、今まで通り私を通して頂けると助かります」
撃墜なんて派手なことをやってくれたから、多分国防総省系の組織じゃないかと私は疑っている。
で、そことCIAはとにかく仲が悪い。
閑話休題。
とりあえず話は終わった。
「そういえば、遠坂凛の取り込みには成功しましたか?」
帰る前に軽く触れてみる。
のこのこと出てきた彼女に対して、アンジェラ書記官は札束をちらつかせての勧誘をしたらしいが首を縦には振らなかったらしい。
金額を聞いてみたら、たしかに一般人には大金だが、寝返るほどの額ではなかったと苦笑する。
「ダメですよ。
アンジェラ書記官。
彼女の使う宝石魔術ってとにかくお金がかかりますから。
数億では寝返りませんよ。
桁二つほどあげて交渉してください」
「戦闘機一機で戦術核が買えるのでしたら、安い物ですか。
これも情報機関共同体に話を通さないといけない案件になりそうで頭がいたいわ」
「はやく話を通しておかないと、他の組織に掻っ攫われますよ。
既に、こちらもいくつかの組織らしいエージェントが入っているらしい情報は掴んでいます。
お早めに」
またせた車に乗る前に、アンジェラ書記官が私の耳元で囁く。
どうやら、先程までの楽しい会話のお礼らしい。
「こっちが掴んでいるのは、中東のテロ組織、ナチの残党、東側の亡霊、中華よ
また来てちょうだいね。
ミス神奈」
車が走り出して、私は大使館を出てからため息をつく。
テロ組織と中華については情報は来ていたが、ナチの残党と東側の亡霊については初耳だった。
帰ったら、若宮分析官に話をあげておかないといけない。
「やっぱり、覇権国家は違うなぁ……」
後書き
なお、この二組織ロアナプラでも仲が悪いらしい。
タロットカード 『ワールド』 敵の魔法攻撃を無効化する
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