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第四章

「いよいよね」
「そうだね。じゃあ今から?」
「今からこの湖を出るんだね」
「そうするんだね」
「うん。空に昇るよ」
 龍になってです。そうするというのです。
 そして蛟はゆっくりとです。身体を、すっかり大きくなった身体を起こしてです。
 水面に向かいます。それからでした。
 水面を突き破りました。すると外は雨が降っていました。空は真っ暗です。
 しかも雷が始終落ちて鳴っています。湖の皆はそれを見てです。
 水面を出た蛟にです。自分達も水面から顔を出して言うのでした。
「今日は止めておかない?」
「天気が悪いよ」
「だから龍になって天に昇るのはね」
「次の日にでもしない?」
「いや、今日なんだよ」
 ですが蛟はです。こう湖の皆に言ったのでした。
「今日でいいんだよ」
「けれど雨が降ってるしお空は真っ暗だし」
「それに雷も一杯落ちて鳴ってるよ」
「それでも天に昇るの?」
「そうするの?」
「うん、どうして雨が降って雷が落ちているのか」
 それはどうしてかと。蛟は皆にお話しました。
「それは龍だからなんだよ」
「龍だから?」
「それでなの?」
「そうだよ。龍は雨を降らして雷を呼ぶものだからね」
 それでだというのです。今のお空の状況はというとです。
「だからこうしてね」
「雨が降ってるんだ」
「雷が鳴ってるんだね」
「そうだよ。僕が龍になるから」
 そうなっていると言って。そしてなのでした。
 蛟は遂にお空にあがりました。そして。
 そのまま昇っていきます。その姿を見てです。湖の皆は言いました。
「うん、本当になれたんだね」
「蛟さん龍になれたんだね」
「そうなれたんだね」
「そうだね。なれたんだよ」
 お空を飛びながらです。龍になれた蛟は水面から顔を出している。湖の皆に言いました。
「僕は龍になれたんだよ」
「五百年待ってそれで」
「本当にそれになれたんだね」
「嘘みたいだよ。けれど」
 雨と雷の中でお空を飛びながら。蛟は言っていきます。
「僕は龍になれたんだよ。ずっと待ってね」
「待てばなれるんだね」
「じっと待てば」
「そうだね。僕みたいな蛟でもね」
 その蛟でもです。龍ではなくても。
「待てば。なれるんだよ、龍に」
 その喜びを噛み締めながらです。蛟は龍としてお空を飛びます。雨と雷はその周りを動いています。湖の皆はその姿を見てです。暖かい笑顔で見守るのでした。


蛟   完


                            2012・3・2 
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