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冷えたワイン

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第五章

「けれどそれでもなの」
「そうそう、明日もその人とね」
「一緒に遊ぶの」
「凄いだろ。何でも地元の人で丁度彼氏と別れて一人で」
「いい条件が揃ってるわね」
「それで俺と一緒に遊ぼうって」
「全く。どうなのよ」
 そのにこにことしている博之にだ。麻里奈は。
 憮然とした顔でビールを飲みつつだ。こう言うのだった。
「私は一人で飲んでそれであんたはって」
「姉ちゃんも泳げばいいのに」
「泳ぐ?お肌を焼いたら痛いし後でシミとかになるじゃない」
「またおばさん臭いこと言うなあ」
「女の肌は二十五で変わるのよ」
 さらにむっとした顔になって言う麻里奈だった。
「もう後は落ちるだけなのよ」
「そうなんだ」
「そう。ピチピチなのは十代まで」
 まさにそうした年代の女の言葉だった。
「そのこと、覚えておきなさい」
「何か俺にはわからないなあ」
「男は太って禿げるから」
「げっ、デブに禿」
「そう、あんたも今から覚悟しておきなさい」
 こうビールを飲みながら甥相手に悪態を衝くのだった。しかしビールは放さない。この夜も。
 そして次の日も飲もうとした。しかしだった。
 砂浜でまたクーラーボックスを開けて飲もうとしたところでだ。博之が言ってきたのだった。
「ああ、それでさ」
「それで?何よ」
「今日も一緒に遊ぶその女子高生の人だけれど」
「その人がどうしたのよ」
「夜はファミレスで働いてるってさ」
「ファミリーレストラン?」
「そう、地元のね」
 この湘南のだというのだ。
「イタリアンとかフレンチも出る」
「イタリアンやフレンチも出るファミレス」
「そう、そこでバイトしてるんだってさ」
「ああ、あそこね」
「あそこって?」
「トロヴァトーレでしょ。私の勤めてるグループのチェーン店よ」
「ああ、八条グループの」
 まさにそこだった。麻里奈は八条グループの関連企業に勤めているのだ。旅行代理店の事務なのだ。
「そこだったんだ」
「湘南にもお店があったのね」
「で、そこで勤めてるんだってさ」
「そうだったの。イタリアンにフレンチに」
「ワインも美味しいってさ」
 ここでその女子高生から教えてもらったことを無意識のうちに言う博之だった。
「それでそこにさ」
「今夜行くのね」
「そう。誘われてるけれど」
「一人で夜出歩いたら駄目って言ってるでしょ」
 この辺りは真面目に言う麻里奈だった。飲む前なので余計にそうなっている。
「だからそれだと」
「それだと?」
「私も行くわ。いいでしょ」
「えっ、姉ちゃんも」
「八条グループの社員だからサービスも利くし保護者同伴だと問題ないでしょ」
 だからだというのだ。そしてだ。
 麻里奈はここでだ。こうも言うのだった。
「それに。ワインよね」
「うん、ワイン」
「ビールにも飽きてきたところよ」
 二日も散々飲んでだ。いい加減にだった。
「それじゃあ今日はね」
「ああ、今日も飲むんだ」
「御昼は飲まないわ」
 その時はだというのだ。 
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