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フリージングFINALアンリミテッド

作者:gomachan
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UNLIMITED04――初戦――

 
前書き
年明けから大分開けてすみません!諸事情で行事が立て込んでしまい、データが消えたりと散々な目にあいながらも、何とか投稿に行きつけました!
(ちょっと急ぎ足な展開ですが、何卒御容赦ください)
ではどうぞ。 

 
パンドラ――人間の女性を基礎母体(マトリクス)にした聖痕媒介者(スティグマライダー)の前進は、ハイエンドスキルなしの武装が頼りの神風特攻隊だった。ちっぽけにしてありふれた人間の身体が、のちに質量兵器を素通りして戦局を占う主力兵士へと変わっていくことを、一体誰が予想しただろう。
人間は自在に動く2本の腕と、平面以外の移動を可能にする2本の脚、さらにそれらを統合する高度な判断知能をもっている。この、究極の汎用構造を持つ生物に兵器としての開発を見出したシュバリエの科学者たちは、高次元での戦いを征する兵器こそが、人間と異次元体の戦いを左右すると信じていた。
それは、戦闘機よりも優れた機動力――
それは、戦車をも上回る強固な防御力――
それは、戦艦よりも凌駕する火力を有すること――
『神』と比するノヴァへ手をかけるには、何より生き延びるための『力』がなくてはならない。
こうして開発された聖痕技術は、それまで主戦力であったミサイルや拠点防衛装置に変わって台頭し、数多の犠牲と引き換えに、めざましい働きを見せたパンドラは体一つで戦局を左右するほどとなった。
だが、技術者たちにも誤算が生じていた。それは、万が一暴走したパンドラの抑止力として開発されたはずのリミッターの『フリージング』が、ノヴァとの戦闘において高い順応性を示した事である。
異次元体襲撃、通称『ノヴァクラッシュ』に際して、シュバリエ側は同調率(シンパレード)の高いパンドラとリミッターを一対として、ノヴァの戦線へ次々と送り込んだ。これらの戦力は、ノヴァの鎧袖一触を体現する『フリージング』による制約下において、なくてはならぬものとなった。
物質の強制停止領域を降された地上では、リミッターのフリージング領域が、パンドラの主な活動可能領域となる。その性質上、フリージングによって阻害された領域では、ミサイルのような遠距離からの攻撃が全くの無効となる。通常兵器が早くも骨董品となる中、主戦力となるのがパンドラとなる。人間の女性のみがパンドラになれるという特性故に、『総』よりも『個』としての高い機動力と火力を求められた。
鉄を寄り集めた高級な飛び道具より、一人のパンドラが有効とされる時代となったのである。
その事実は初戦してから幾多の聖戦を得て、各国の主要人にも認知されるようになる。シュバリエが拿捕した超越式パンドラ、『マリア=ランスロット』を研究し、独自に対異次元体兵器の開発に着手したのは、その認識があったからこそだ。
ほぼ同時期に、最先端の技術を持つとされるアメリカにおいてもまた、聖痕運用の開発が進んでいた。
シュバリエを軸として各国は互いに利用し合う形で、共にいくつかのボルトウエポンを生み出すことに成功する。だがじきに彼らは『ヒト』としての壁にぶち当たることとなる。
パンドラを遥かに超える反射神経、瞬発力、認識力、適応性を持つ異次元体だからこそ、多次元的な殺傷を可能とする――という事実だ。
奴らに対抗する為にも、人間達は旧世代のパンドラを凌駕する性能を、次世代のパンドラに求めた。それまで実用化のめどが立っていなかったボルトテクスチャーによる質量装甲、聖痕の開放レベルを解禁するパンドラモード。極端に小型高性能化したSSS(スティグマ・サテライト・システム)なのである。
しかし、無敵とも思えるパンドラを戦場の姫君に仕立てたものの、それを運用するパンドラ自身と実践における経験値は、全く解決されていなかった。要するに、ボルトウエポンやボルトテクスチャーたる物理的要素(ハードウエア)に、聖痕自体の処理的要素(ソフトウエア)が追随できていなかったのだ。結局のところ、人類がそれを実戦の場において用いることになったのは、皮肉なことにアオイ=カズヤというリミッターの力によるものである。
骨格の3割以上が聖痕による構成体という驚くべきスペックを持つ少年の存在を、ゼネティックス要人は深刻な脅威と受けとめた。なにしろ、元々パンドラの聖痕暴走を危惧して生み出されたリミッターシステムなのだが、逆転するかのようにパンドラを完全停止させる彼のフリージングは、本来のリミッターの運用目的(エッセンス)を逸脱している。彼自身が強力なフリージングを制御できなければ、強制停止の氷嵐に巻き込まれパンドラは当然無力化となる為、彼に対する聖痕組織とフリージングの秘匿は最重要課題となる。
だが、そうなると今度は別の問題も生じてくる。
ノヴァクラッシュに対するパンドラの損耗率が新兵(ルーキー)の志願率を上回ること。それに伴って、アオイ=源吾が秘密裏に試験運用している『ヴァルキリープロジェクト』における、聖痕補充器(スティグマパック)を換装するという発想は、その問題に対する一つの回答ともいえるだろう。
それにしても……異次元体と同等の物質である聖痕を人体に直接運用させることによって、ヒトは初めて本当の意味で、ノヴァという存在に指をひっかけることができたのではないだろうか?
脆弱な肉体を持つ人間と、それのみでは意志を持たない聖痕は、ひとつの一式(ユニット)としてみれば、未知の可能性を秘めた新たな新人類と言えなくもない。
ただ、その進化の萌芽にノヴァクラッシュという戦争の土壌が必要とされたことは、いつの時代もそうではあるが、絶望な事と言わざるを得ないだろう。

――聖戦という大地に、種が息吹く未来は……果たして希望か、絶望か――





『ドイツゼネティックス・パンジャ研究所・屋上ヘリポート』





一隻の、軍用ヘリが留まっている。
アオイ博士から新型IDアーマーを受け取った凱は、現役最強パンドラであるスナと耐久テストを得て、異国の大地を離れようとしていた。
ヴァルキリープロジェクト参加者の一人であるフランカ=ポルシェは、日本へ向かおうとしているアオイ=源吾、イ=スナ、獅子王凱を見送る為、外へ出ていた。プロペラの風圧が、フランカの淡いピンク色の髪を揺らす。

「先日はありがとう。フランカ」

そうアオイ博士にいわれて一瞬、礼を失することになる前に、何とか一礼できた。

「いいえ、私のほうこそ、ありがとうございました、アオイ博士」

するとフランカは、何やら怪しげな笑みを浮かべて、凱を見やる。その視線を受けて凱はギクリとする。

「今度また、ガイさんの身体調査をさせてください。ここまで興味を持てたのは聖痕体のアオイ=カズヤさん以来ですよ?」

うーん?この雰囲気はどこかパピヨンかスワンに似通ったところがあるな。自分の定期健診の苦い思い出が蘇ってくるようだ。(※1)
だが、今後はそういった身体検査も本当に行われるであろう。新型IDアーマー『殲滅特殊装甲服』はまだ実戦データにおいて真っ白な状態だ。戦闘経験値蓄積による凱のアビリティ向上に合わせて、IDアーマーのOSをアップデートする必要がある。これを怠った場合、勇者のステータスを底上げするはずの鎧が、逆に重りとなるからだ。耐久値、EN値、運動性、限界反応値等々、細かい項目を随時修正するには、現段階だとアオイ博士やフランカに依頼しなければならない。ハードたる凱の能力に、ソフトたるIDアーマーがついていかなければ、GGGクーデター時に発生した『エヴォリュアルシステムのフリーズ』のような痛恨事を繰り返す。その事実を、凱は深く理解していた。

「獅子王君、エヴォリュダーの肉体はパンドラの占める時代では、もしかしたら辛いかもしれない。だが、我々は君の味方だ。何でも頼ってほしい」

「ええ!その分、たっぷり研究に微力ながら協力させてもらいますよ!」

「なんと……すでに気づいていたか」

アオイ博士の励ましに、凱は誠意をもって返事する。元々、アオイ博士は対ノヴァ専任顧問という重責のある立場の人物だ。近いうちに、シュバリエへ一時帰還することが言い渡されていた。ヴァルキリープロジェクトのような秘匿計画もある為、得体の知れない組織を刺激させないためにも、言う事を聞くしかなかった。

「日本ゼネティックスには綺麗なお姉さんがいっぱいいるから、本当ならシュバリエ本部に帰りたくないのだよ」

アオイ博士側が折れるときになったとき、つい本音を漏らした感想だった。先日、スナにセクハラ発言をした時から「そういうヒト」なのかと認識していたが、やはり彼らしいと凱は思った。

三人はもう一度、それぞれフランカに礼を言ってから、軍の輸送機に乗り込んだ。
日本ゼネティックスが、待っている。





『日本・東京・イーストゼネティックス(旧Gアイランドシティ跡地)』





「久しぶりだな……イーストゼネティックス」

軍用ヘリで移動している三人の行き先は、今の時代にとって日本の砦となる特別施設。
その名はゼネティックス――遺伝子を意味するその言葉は、緑の星で遺伝子を意味するジェネシックの言葉を、遊び心から取ったのだろうか?もしそうなら、三重連太陽系の超勇者黙示録を知っていることとなる。この仮説が本節だとすると、アオイ博士の心底知れない器容がうかがえる。ともかく――
聖痕に適合する女性達を、人類防衛という方向へ導く為に創設された育成機関。それは東京湾人工埋立地に……早い話がGアイランドシティのあった場所をそのまま流用した人工島だ。
到着手段としては、60年前と同様のモノレール。さらに最短時間の空路によるエアレール、陸路のような障害物を迂回する海路のシーレール。海底トンネルもある整備振る舞いだ。
そんなコンクリートや鉄鋼的な人工世界なのにも関わらず、自然に満ち溢れた美観と調和している。多くのビルや観光施設が立ち並ぶというのに、太陽との両立を果たした理想都市とも言えよう。
現代の人たちは、その人類の希望を、その種を育てる施設をこう呼んでいた。聖戦士(パンドラ)を育てる聖域(サンクチュアリ)と――
やがて軍用ヘリは、その理想都市の一角に、白亜の建物の屋上ヘリポートへ降り立つ。

「久しぶりね。獅子王凱」

「あれ、エリズ先生、もう来ていたんですか?」

ヘリの風圧で乱れる髪を抑えながら深い緑の髪の女性は再会の挨拶をした。
エリズ=シュミッツ。ゼネティックス名誉組(ナンバーズ)の一人にして、第8次ノヴァクラッシュ(エイティス・ノヴァクラッシュ)で活躍したパンドラにして、世界有数のパンドラ校医である。現在は退役し、ウエストゼネティックスの保健医として責務していたが、その学園長、シスター=マーガレットがアオイ博士の極秘要請を受けてエリズを派遣したのだった。
聖痕とGストーンの性質は同じわけはないが、今凱の治療を任せられる地球上の人間は、聖痕医学に最も通ずる彼女しかいない。

(……確かに雷牙おじさんの言う通り、エヴォリュダーの肉体で生きていく事は、ある意味じゃサイボーグ時代よりきついかもしれないな)

以前、神秘の肉体の命名者の一人である、自分の叔父の言葉を凱は思い出す。
あの時代……まだGGGメンバー健在時は信頼できる仲間達に恵まれていたが、Gストーンの代わりに聖痕という得体の知れないものが社会的要素(ソーシャル)を占めている。その凱の悩みを察したのか、アオイ博士も今後の未来を見据えて、『だからこそ、獅子王凱の存在は秘匿しなければならない。訪れる次元空間の革命』に備える為に。
これからエリズ先生に寄り掛かる負担を考えると、凱としても少し申し訳なく思えてくる。しかし、その分を『自分が戦う』ことで負担を一祓したいとも思っている。
ともあれ、凱はエリズ先生達の歓迎を受けて、イーストゼネティックスという新しい環境へ身を投じていく事となる。

――勇者にとっての2回目の周回プレイ――
――原種大戦、三重連太陽系で培った特典をひっさげて――

――勇者王神話の新章(ニューゲーム)が幕をあける――





『訓練棟・仮想ノヴァ制御室』





前回のゼネティックス説明より――
パンドラは、今の時代の人類にとって、ノヴァへ唯一抗う事の出来る財産のようなものだ。財産は資産。才能の発芽どころか種である彼女たちに、聖痕という種をまく庭官が必要。すなわち、パンドラを教え導く庭官――略して『教官』を――
10代という薔薇の咲くお年頃の彼女たちが、リミッターとペアを組んで、洗礼を結んでは戦争の渦中へ身を投じていく。勝つためでなく、一人でもパンドラを帰還させ、死なせない為の日常訓練が施されていく。
パンドラ・リミッター育成機関という施風もあり、教官は必然といって女性が殆どだ。上位組織シュバリエから派遣される教官、固定勤務の専任教官、そして、退役して後進を見守る嘱託教官もいたりする。
そんな様々な教員が在籍するイーストゼネティックスで、獅子王凱は嘱託員として(形式上)居座ることとなった。
アオイ博士曰く『勇者としての目線で、パンドラがどのように映るかを知りたい』といい――
シスター=マーガレット校長曰く『パンドラ達と同じ目線で、生徒達の成長を見守っていてほしい』とのことで――
そんなこんなで、凱は様々な環境に巻き込まれながらも、聖痕を宿した生徒達との日々を過ごしていた。――
たくさんのパンドラとも巡り合えた。大勢のリミッターとも知り合えた。出会いと巡り合いの経験は、凱を勇者として育て上げるには役に立つはずだ。そう判断したアオイ博士達の判断は正解とも言えよう。
『心ともいえるAIとの親和性が群を抜いて高い』という、宇宙飛行士時代から続く凱の性格は、2060年代という時代でも、遺憾なく発揮されている。慕われやすい直視的な行動と包容力によって、パンドラとリミッター、教官達とも打ち明けるにはさほど時間は有しなかった。

ある日、凱はとあるご縁から、仮想ノヴァ対パンドラの実技演習を見学させてもらえることとなった。

訓練棟のシュミレートセンターにある制御室。廃墟オブジェで構成するバトルフィールド、ノヴァの架空ボディを構築する。
パンドラ達の熟練度に合わせてノヴァの戦闘レベルを設定し、過去に遭遇した歴代の異次元体大規模襲撃、即ち架空ノヴァクラッシュとも呼べる状況も作り出せる。
これによってパンドラ達の訓練校率、施設の経済効率を両立させられる事となる。
キーボードを叩く音のみが部屋一体に響く。
現在、一人の女性訓練教官が明日の訓練に使用するノヴァの戦闘パターンの設定作業を行っていた。

「戦闘レベルは……これ位にして、武装と攻撃力とクリティカル補正に、そして射程と命中率は……」

それから、各種設定データを書き換えていく。
運動性、装甲値、移動力、HP(耐久値)にEN(エネルギー値)、編成コストときめ細かく設定していく。
それから一番重要である地形適応、特殊能力の限定設定を加えていく。

「リミッターのいない場合を想定して、フリージングは……これでヨシ!と」

フリージング領域を肌で体感させる為に、最低レベルで決定を行った。
ちなみに、このシミュレート設備は近日更新されたばかりである。ゆえに、どのGGG設備よりも操作性や反応速度、あらゆる面で性能を凌駕している。
制御室を後にしようとした教官は、偶然自動ドア越しで見かけた凱に声をかけた。

「あっ、獅子王先生」

「夜遅くまでお疲れ様です、もしかして残業ですか?」

軽く微笑み、何気ない言葉を返す凱。

「ええ、明日の訓練にここを使わせてもらおうと思って」

へえぇ、と言葉を漏らしながら訓練ルーム全体を見渡していた。
凱は、先ほど女性教官が設定したノヴァの戦闘データが表示されているモニターに視線を移した。

「難易度の詳細設定も可能なんですね、すごいな」

凱のいた時代では、プログラムによる戦闘訓練は実現不可能であった。
選択式で表示されている四つの項目。

「これはですね、獅子王先生……」

凱の素朴な質問に、具体的な説明をしてくれた教官。
一つ目は、EASY MODE(簡易モード)
お試し版ともいうべき、別名体験版モード。
このシミュレートシステムがどのようなモノなのか理解してもらう為、各種設定は最低限のレベルで固定されている。
一学年は絶対に受ける義務がある必須モードである。

二つ目は、NORMAL MODE(標準仕様モード)
一連の訓練フローチャートをこなす為、攻撃パターンや各種行動といった機能が追加される。
このモードから、あらゆる環境を考慮した戦闘フィールド、市街都市やジャングルといった極端な地形も選択可能となる。
ハイエンドスキルの習得具合を採点するにも必要なモードである。
三学年からこのモードを受ける資格がある。

三つ目は、HERD MOHD (特別設定モード)
ノヴァにほぼ近い性能を再現する実戦訓練モード。
このモードからノヴァの特徴であるフリージングが設定可能となる。
それだけでなく、戦闘開始場所がランダムで設定され、ノヴァを探索する所から始まるのか、突然ノヴァに遭遇するのかで大きく勝敗に左右される。これによって、熟練したパンドラでも場合によっては一瞬で敗北し、経験不足のパンドラでも僅かな勝機を得ることができる。
全GGG(ゼネティックス)三学年までが経験できるモードはここまでである。

四つ目は、EXTRA HURD MOHD(ノヴァクラッシュ想定モード)
過去に人類が遭遇した異次元体の大規模襲来、ノヴァクラッシュをMG(マスターグレート)レベルで完全再現を可能とするゼネティックスの最上級訓練モード。
物理ダメージに制限が無い為、重傷者を大量に出すのがこのモード唯一の欠点である。
フリージングレベルの強化、ノヴァの大連続討伐といった難易度の高い課題まで用意されている。
このモードを受けられるのは、シュバリエ予備軍である四年生のみである。

「さすが、人類最新のテクノロジーですね。これを作った人は天才ですよ」

一通りの説明を受けた凱は、ほぉーと感涙の息を吐いた。

「訓練は何時ですか?」

「13:30から開始の予定です」

「宜しければ、俺も見学してもいいですか?」

「ええ、構いませんよ。むしろ獅子王先生なら大歓迎です」

「ありがとうございます!何分まだ俺はノヴァに対しては勉強不足でして……」

恥ずかしそうに右頬をポリポリと掻く凱。その表情は若干赤らめていた。
エリズに一回施設を見せてもらったことがあるが、他の施設を回る時間が削られるため長時間は滞在できなかった。
ノヴァの戦闘を目前で把握できる。
この次元の生命体の天敵である異次元体。
人類はこの定められた運命に対し、抗う手段を手に入れた。
この訓練施設であるシミュレート施設もその一つである。
未だノヴァを見た事のない凱にとっては、この見学は非常に大きな意味を持つ。

「私の授業をぜひ見学していってくださいね。獅子王先生」

「ええ、明日は宜しくお願いします。」

教官はシミュレートシステムのシャットダウンを行い、それからルームの戸締りを確認する。

 それから二人は、明日と言う日を楽しみにしていた。

(あっそういえば、もう一つ難易度があったように見えけど俺の見間違いか)

そして、訓練日の当日がやってきた。
凱の授業は午前中で終了した為、時間を少し持て余していた。
一般教員や訓練教官が集うイーストGGGの教務室に、凱は佇んでいた。

「あら、凱。今日はやけに機嫌が良さそうね」

ぬっと人の雰囲気を感じ、凱は困惑した。
こんな気配を消しては突然現れる悪趣味な人はあの人しかいない、と凱は即座に振り返る。

「コーヒーはいかがですか?獅子王センセ♪」

「心臓に悪いから気配を消して近づくのは勘弁してくださいよ、エリズ先生」

「へーい」

それから凱とエリズはゆったりとコーヒーを味わう。

(命の入れてくれたコーヒーにそっくりだな)

懐かしいとびきり濃いコーヒーを堪能する凱は、GGG隊員に好評だった命の味を噛み締めていた。
特に、初代GGG(ガッツィ・ジオイド・ガード)長官である大河幸太郎は特にこのコーヒーが好きだった。
堪能時間を満喫した凱は、エリズを誘おうとしていた。

「エリズ先生、今から訓練棟でノヴァの模擬戦闘の見学に行きますけど、一緒にどうですか?」

するとエリズは両手を拝むような形を作り、申し訳なさそうなかわいい顔を出した。

「ごめん、凱。午後からは実地訓練のメディック(救急医療従事)をしなきゃいけないの。」

「そうですか、それは残念です。ではまた次の機会で」

そういって凱は、教務室とエリズに背を向けて訓練棟を目指していった。

しばらくの間、エリズは「あーん」と悔しそうな顔を露骨に表していた。

(せっかくの凱のお誘いだったのに~悔しいぃ)

両脇で胸ををむぎゅっ、とするエリズ。

お誘い場所が訓練棟という殺風景な場所というのはいかがなものか、と普通思うがエリズにとっては、場所などどうでもいいらしい。凱の好意を受け取れなかった自分がとても腹立たしかった。





『イーストゼネティックス・シュミレ―ション訓練場』





イーストゼネティックス三学年Aクラスの生徒達は、大型シュミレートルームに集まっていた。
簡易ボルトテクスチャーの一つ、パンドラ達は体操服の姿でシステム起動の瞬間を待っていた。
現在はシステムをスタンバイ状態にしてある為、遮蔽物のようなオブジェは存在しない。
戦闘訓練の主役であるパンドラの少女達は、ひそひそ話をはじめていた。

「ねえねえ、キャシー。獅子王先生が来てるわよ」

「本当?どこにいるの?ネナ、ジュン」

「あそこよ。入口の片隅にいるじゃない」

そんな中、フィールドの片隅でたたずむ凱の姿も見えていた。

凱に気づいたのはキャシー、ネナ、ジュンの三人のみであり、彼女達と目線があった凱は、軽く「オッス」と片手を挙げて挨拶した。

「やっぱ遠くから見てもカッコイイよね、キャシーもそう思うでしょ?」

「え、ええ、そうね。ジュン」

憧れなのか、それとも別の感情なのかがキャシーを動揺させた。ジュンの返事にもまともに返せなかった自分がそこにいた。
やがて凱に気づくパンドラが増えてきた。いつしか、フィールド一体は黄色い声で埋め尽くされていた。キャシーはそんなキャアキャアと騒ぐ声に押し倒されそうになった。

「獅子王先生!見に来てくれたの!?」

「やっほー!獅子王先生!」

「こら!お前達、真面目に取り組めよ!」

凱はパンドラ達に注意を促すが、返って逆効果だった。
もともと凱は叱れる人間性ではない故に、パンドラ達からは軽くいなされてしまった。他人から見ればどうだか知らないが、このやりとりが凱とパンドラ達の一種のコミュニケーションなのだろう。

「あーん!獅子王先生こわーい!」

「でもそんな獅子王先生もカッコイイ!」

「お前らなぁ!」「そろそろ始めるぞ!整列!」

突然、凱の忠告をかき消す号令の合図が聞こえてきた。パンドラ達は一斉に規律正しく整列した。

「私だって、獅子王先生に構ってもらいたいのに……」と思う教官だったが、決して表には出さない。もし、出してしまえば生徒達に示しがつかなくなる。
教師の仮面に切り替えて、訓練の内容を説明した。

「本日はリミッター不在を想定したノヴァとの模擬戦闘を行う。各パンドラはボルトウエポンを装着!」

「ボルトウエポン、展開!」

キャシー、ネナ、ジュンをはじめとするパンドラ達はそれぞれ得意の得物を装着する。

「ステージは都市の廃墟!タイプRが2体!各小隊のポジションを確認後、模擬戦闘を開始する!」

「了解!」

「大した相手ではないが、決して油断しない事だ!落ち着いて対処すれば無理して勝てない相手ではないはずだ!」

「早く始めましょうよ。教官」

「うむ、ではシミュレートプログラムを起動させるぞ」

ウィィィーン

パソコン特有の起動音を残しながら、設定プログラムを次々と読み込んでいく。
淡々と構成されていく光景を見た凱は目が釘付けになった。

(これが戦闘シミュレーター構成の瞬間なのか)

3Dアニメを制作するような、線と線が作り出す世界はまさにそれだった。
東京を思わせる大都市を構成。天候は快晴にして夜の戸張。それらは淡々と構成し、何も問題がないかのように進んでいた――かに思われた。





◇◇◇◇◇





普段の彼女たちなら問題ない相手と思われていた。その姿は何度も何度も繰り返し訓練の相手をしてもらった仮想上のノヴァ。
簡単に倒せる。もはや倒し飽きた相手だ。
かっこいいところを獅子王先生に見せられる。切望な展開を願っていたが、それらは最悪の形で裏切られることとなる。
その光景はまさに、阿鼻叫喚の地獄絵図のようであった。
パンドラ生徒達の目先にあるのは、20メートルを有する巨体。異教の神を思わせる架空建造物(オブジェクト)。タイプFと呼ばれる第8次ノヴァクラッシュに出現した異次元体を元にした訓練プログラムだ。
しかし、屈強なパンドラ達が上げた悲鳴は、戦闘訓練に対するものではない。通常、架空訓練用のノヴァは『初戦においてノヴァという高次元の存在に触れてほしい』という目的のもと、プログラミングされたものだからだ。

「……どうして!?どうしてダミーノヴァが!?」

「落ち着いて!ネナ!きっとプログラムのバグか何かだと……」

キャシーは表情を強張らせて、ネナは動揺を隠さずに言い詰める。徐々に同様の声色は伝染し、やがて現実味を帯びた危機感となって全員を包み込む。もはや訓練とは言い難いものとなっていた。
徹底されたサポートプログラムでは決してあり得ないエラー。誰かが改ざんした可能性がある?
一応、戦闘教官から注意事項を受けていた。
本来はフリージングの性質を持つノヴァの性質に近づけるため、物理攻撃を受けた場合は『疑似損傷(クラッシュエミュレート)』が発生する。
それは骨折して腕の神経が麻痺したり――出血して混濁減少に見舞われたりしてしまうと。
何度も実技仮想訓練を受けているパンドラ及びリミッターの生徒には、熟知している内容だ。その為、誰もが当然そのように留意して今日の訓練に挑んでいたのだ。
戦闘は序盤、パンドラ達が優位に事を進めていた。リミッターがパンドラの進撃に華を添えるようなフリージングを展開。仮想ノヴァの予期せぬ行動に気を付ければ、あとはそのままストライクして終了だ。
ただ彼女たちとて、闇雲に突っ込んでコアを壊そうと思っていない。
それぞれのパンドラが受け持つ旋律、その働きも成績に十分関与する。

――パンドラの聖痕調律を指揮とるオールラウンダー――

――誘導、陽動、囮の調和を戦場に刻み込むデコイ――

――コアの外殻をこじ開ける原曲破壊のストライカー――

――文字通り、コアをぶち抜く強制終止符のフィニッシャー――

必勝法の確立されているプログラムだからこそ、今回も楽勝で終われると思った。そう思われていた。

――ところが、ノヴァの残HPが3割程度に落ち込んだ所で、事態は一変した。
突如、ノヴァの運動性が急激に上昇したというのだ。
単純な回避行動と命中精度なら、GGG機動部隊に匹敵する恐ろしいものだ。さらに加えれば、フリージングの出力も当然と言わんばかりに上昇している。リミッターも負けじとフリージングを展開し中和を図るが、徐々にノヴァのフリージングへ食われようとしている。このままノヴァの餌食になるのも時間の問題だ。
パンドラ達の動揺に波状攻撃をかけるような奇襲は、幾人かの戦闘不能(リタイア)を生み出した。

「くそ!全員訓練場から退避しろ!」

担当戦技教官の判断は的確で素早かった。本来セットしていないプログラムの動作だけで、最善の手を導き出したのだろう。
だが、戦技教官の判断は、仮想ノヴァに読まれていた。

「先回りされた!?」

「うそ!どうなってるの!?先生」

目の前の現実は確かな恐怖となり、皆は教官に振り向いた。しかし、帰ってきた返事は生徒と同じ困惑だ。
必死にエアパネルを展開してタッチするが、『強制停止』は働くことはない。

「わ、分からない!再強制停止(リフリージング)が働かないなんて……システムが暴走したとしか思えない!まるで『限りなくオリジナルのノヴァ』に近いステータスをもっているような……」

信じられない。その言葉が真実を示すならば、今目の前に起きているのは紛れもない『異次元体襲撃(ノヴァクラッシュ)
キャシーはそれ以上、教官の言葉を聞くのを止める。彼女も自分と同じで、事態を受け入れるには時間を有するだろう。だが、驚き戸惑うよりも、自分がいま何をすべきか、懸命に捜索する。

「ネナちゃん!ジュン!私が時間を稼ぐわ!みんなと一緒に避難して!恭一はフリージングで援護をお願い!」

「ちょっと待ちなよ!キャシー!」

「了解!キャシー先輩!!」

応援のパンドラか、シュバリエの精鋭が到着するまで時間稼ぎをするしかない。そう判断したキャシーは、『脊髄』に意識を集中させて、聖痕出力を高める。

「……トリプルアクセル!」

発動したのは3重加速。急激な加速度に平然と耐えながら、まっすぐ仮想ノヴァの核へ突撃。命中するかと思われた。しかし――

「固い!?」

キャシーは息を呑んだ。彼女の得物『ファルシオン』が、ノヴァへ命中する瞬間に外殻が強化されて、キャシーのボルトウエポンが四散したからだ。緑の髪の少女は息を呑む。
だが、仮想ノヴァはそんな彼女の都合などお構いなし。既にノヴァの攻撃目標(カーソル)はキャシーに狙いを定めていた。仮想ノヴァの全身から鋭利な物体が無数に浮き出ている。一気にパンドラの群れを殲滅しようとするノヴァの予備動作だ。

「このままでは……やられない!」

対するキャシーも『イーストの神速』の意地にかけて、目の前の運命に抗う。
その心の奥底で……怖い、と感じている。
イーストゼネティックスという施設だというのに、ここで起きているのは紛れもないノヴァクラッシュだとさえ、思えてしまう。

――これが……実戦……――

唇が震える。瞳がぶれる。ワールドランカーの二つ名で抑えてきた恐怖が、明確な仕草となってキャシーに現れる。

――!!!!!!!!!!!!!!!――

突如、仮想ノヴァの奇声が反響する。それは、パンドラ達にとって死の宣告のようなものであった。

「――――――――!!!!」

同時に、パンドラ達も奇声を上げた。目の前の恐怖の建造物(オブジェクト)が、少女たちを駆逐しようと臨戦態勢に入っている。
誰もがその場を逃げ出そうと、躍起になる。その悲鳴はすぐさまフリージングによって無残に強制停止させられた。
震えだす大気のうねり。フリージングという未曽有の檻。ノヴァの全身から鳥の羽のようなものが一斉に射出された。

「くっ……パンドラモード展開!」

咄嗟にキャシーは聖痕出力上昇モード、『パンドラモード』を展開する。英雄カズハの聖痕を与えられたパンドラのみが纏う事を許される、聖戦士の鎧。聖痕出力に伴う暴走を抑制するためのプログラムリングが、四肢に空間生成される。GGGの遺産、ガオファイガーのプログラムリングと、サイボーグガイ、ルネ=カーディフ=獅子王のハイパーモードの技術を引き継いで、聖痕技術で模倣したものだ。勇者王時代から受けつがれた技術は、敵の攻撃を防ぐという形で、確かにパンドラ達の延命へと貢献できていた。

「ちょっと!キャシー!一人で頑張ろうとしないでよ!」

「いくら『神速』でも、一人じゃ勝てないよ!」

「ネナちゃん!?ジュン!?」

心の親友からの指摘に、緑の髪の少女は動揺を露わにした。

「パンドラモードがいくら安全性を改良させたからといっても、キャシーの身にリスクが伴うのは駄目だよ!絶対!」

事実、パンドラモードは戦闘力向上を見込めるが、戦闘可能時間はハイパーモードと同じ3分しかもたない。それ以上持続させると、聖痕浸食が活性化してしまい、キャシーの身体を飲み込んでしまうだろう。

「キャシー先輩が戦っているのに!僕だけ逃げるわけにはいきませんよ!」

「恭一君!?」

すぐそこに、相方のリミッターもいた。
皆がみんな、キャシーを逃さないよう見つめる。いかに神速といえど、揺らぎない意志を秘めた瞳からは逃れようもない。

(……何を一人で背負いこもうとしていたんだろう?私)

心の何処かで、キャシーは『私がみんなを守らなくては』と思っていた。
『英痕』・『天才』・『神速』・『世界最強』・『学年1位』そんな二つ名が、キャシーを自然と責任感という糸でからめとっていた。だが、それはとんだ思い違いだった。ネナやジュンだって、共に肩をならべて戦うパンドラではないか。何より、この恭一という少年こそ、キャシーにとって運命共同体のはずだ。むしろ、頼らないことが親友と相方に対する裏切り行為ではないのか?と――
すると3人は――

「ですが、フリージングは思ったより軽いですね。僕がフリージングで先輩方の活動領域を確保します!」

恭一の宣言に、ネナとジュンはコクリとうなずく。

「デコイはあたしでストライカーはジュン!フィニッシャーは当然キャシーで決まりね!うまく仮想ノヴァを倒せれば、このプログラムは停止してくれるはず!」

ボルトウエポンの特性を最大に生かすには、それぞれのパンドラに適したポジションが必要だ。
キャシーにはありがたかった。もしかしたら、ネナのポジションはオールラウンダーがふさわしいのではないかと、思うくらいに――

ついに、仮想ノヴァとの再戦が始まった。





◇◇◇◇◇





たかが仮想。されど仮想。もし、シュバリエの人間が居合わせていれば、今の惨状はノヴァクラッシュと断定してもらいたい。
彼女たちの奮戦、それをあざ笑うかのようなノヴァの攻撃。それでもキャシーは何度も心を奮い立たせ、ボルトウエポンをふるい続けていた。
大気のうなるような触手の攻撃にキャシーは異常接近(ニアミス)を繰り返しつつ、コアへ突貫する。しかし――

「……あ!」

キャシーの身体から聖痕の供給が途絶えた。力が尽きたのだ。同時にボルトテクスチャーの質量が消失。だが、ノヴァはパンドラの戦装束(ボルトテクスチャー)が解けたことなどお構いない。頭上を覆いつくす軌道で、鋭利な触手が急接近。

「――――あ!?」

ネナとジュンはキャシーの前に躍り出た。失われたキャシーのボルトテクスチャーの代わり……つまり『身代わり』として。
しかし、脆弱な人間の身体など、所詮『盾』にすらならない。たった一撃だけで皆は吹き飛ばされる。

「フリージング!!」

恭一のフリージングがかろうじて、仮想ノヴァの攻撃を緩和する!彼の補助がなければ、この惨事は大惨事になっていただろう。だが、皆は気づく。所詮は自分たちのしていることはただの、悪あがきに過ぎないことを――

「……最後まで……あきらめちゃ……」

リミッター、恭一はよろめきながらも、立ち上がる。受けた損傷は計り知れないのに、どこからそんな力が沸いてくるのか?

「キャシー先輩と洗礼を結べて……これからだっていうのに……まだ!諦めたくない!こんなところで!終われません!!」

パンドラを庇うようにして歩みを止めないこの人は……自分に告白してくれた……初めてできた運命の人だ。
リミッターはパンドラと違い、戦闘力は皆無に等しい。フリージングという能力を覗けば、普通の人間となんら変わらないのだ。
なのに、今、恭一は最前線に立とうとしている。その行動は、失せかけていた勇気を取り戻してくれた。

「く……」

とはいえ、仮想ノヴァは攻撃の手を緩めるつもりはない。プログラムに過ぎないオブジェクトは、明確な殺意を以てシステムとしての行動を全うしようとしているに過ぎない。

――!!!!!!――

誰もが、目をつむる。
最期まで足掻くことを話ずれずに、頑なに握りこぶしをつくる。
迫りくるノヴァの攻撃。人間を切り刻む爪の数々。











――プロテクトシェェェェェェド!!――










「いいぜ!恭一!それでこそ勇者だ!」

皆は目をゆっくりと開いていく。目の前に、黄金の鎧を着た青年の背中が見えていた。

それは……壮大なる草原のように広く――

それは……母なる大地のように暖かく――

それは……勇者の大いなる背中だった――

言葉でなく行動で、青年は教えてくれた。『君たちはもう大丈夫だ』と――

人智を越えたノヴァの攻撃にも関わらず、直立不動で受け止めていた獅子王凱の姿があった。
この戦い、最後まで勇気を捨てなかった……パンドラ達の勝ちだ!





◇◇◇◇◇





救援に駆け付ける為、膨大な時間を有してしまったのは、認めざるを得ない。
仮想ノヴァの暴走に合わせ、緊急停止プログラムのクラッキングや外部からのシャットアウト、随分と手の込んだトラップが、皆を死地へと追いやった。
見学通路の透過性ガラスから覗き込んでいた凱は、すぐさま演習の異常に気付き、何とか戦闘スペースへの侵入を果たそうとした。しかし、プログラム自体がかき乱されている以上、通常の侵入方法ではとても救援できない。
そこで凱はエヴォリュダーとしての力を使った。訓練制御室では辿りつくのに時間をかけてしまうので、その場でハッキングを仕掛けたのだ。自分の細胞を一つの端末とみなし、ゼネティックスの施設にアクセスした。

「……セキュリティ突破!アクセス開始!」

ここからが勝負だ。プログラムの中枢へ接近するにつれ、凱の意識という異物を排除しようと、バスタープログラムが襲い掛かる。
この感じには覚えがある。かつて、エヴォリュダーとして新生した時、ガオガイガーをハッキングして強奪しようとした『ギガデスク・ドゥ』と『GGGクーデター』の時と同じだ。
ただ、脅威はあの時と比べて軽易だった。訓練プログラムの系統を乗っ取った凱は、すぐさまゲートを開き、キャシー達の所へ駆けつけたのだ。このハッキング能力で仮想ノヴァまでデリートできれば文句なかったが――あまりの膨大なデータ量の為、消去するには至らなかった。そもそも、ここまで暴走したプログラムにエヴォリュダーの力を加えて事態が悪化したら、それこそ目もあてられない。

そして、イークイップの号令と共に黄金の部位を纏って、勇者は舞い降りたのだ。
プロテクトシェードという聖なる盾で、子どもたちを庇いながら――




「これが……異次元体ノヴァか。仮想ボディとはいえ、ゾンダーのような嫌悪感さえ覚えるな」

凱とて、ノヴァの戦闘パターンはよくわからない。何しろ、仮想とはいえ初めて対峙する異次元体なのだ。

ならば!!――

凱は受け止めていたプロテクトシェードを緩め、右の手の甲でノヴァの触手へとあてがい、地面を踏みしめてGパワーを隆起させる!

「――むん!!!」

瞬間、耳をつんざくような轟音と共に、ノヴァの触手はおろか、その巨体を遥か後方へすっ飛ばした!
ブロウクンエネルギーを瞬間的に暴発させた凱の一撃だ。ノヴァにとって文字通り、まるで亀が甲羅をひっくり返されたかのような状態になった。激しい土煙を上げて仮想ノヴァは倒れる。
訓練場の大気が一斉に震えた!

「す……すごい!あの仮想ノヴァの一撃を受け止め……かつ弾き返すなんて!!」

一人のパンドラがそんな感想をつぶやく中、凱は後回しするかのように安否を気遣う。

「みんな!大丈夫だったか!?」

力強い声と表情を見て安心したのか、パンドラ達は腰が抜け落ちそうになり、地面へ尻餅をついた。

「本当に……本当にみんな頑張ったな……あとは俺に任せてくれ!」

あれが……本当に獅子王先生?黄金の鎧を着ちゃって……?
いきなりノヴァの攻撃をひっくりかえして……かと思ったら、先生の顔を見て安心しちゃって……
今のご時世、男性などノヴァの存在に手さえかけられない。倒せるはずのないのに、なぜか凱を見ていると、張り詰めていた心の気を緩めてしまう――

「あの……獅子王先生……ありがとうございます!」

凱は何も言わず、コクリとうなずいた。優しい笑みをフッと浮かべ、緑の髪の少女へ返して――

「さあて……では始めるとするか!」

勇者対異次元体。その初戦が始まろうとしていた。

NEXT


 
 

 
後書き
次回、『勇者の王たる戦い』です。バイオネットのあの方との連戦になります。
では捕捉を――
※1はガオガイガーFINALCDの「エヴォリュダーはつらいよ」に出てきたワンシーンです。
検査というか殆ど拷問です。ガイ兄ちゃんの壊れっぷりがいい味を出しています。
 
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