提督はBarにいる・外伝
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大泥棒が鎮守府にやって来る~視察編・その3~
工廠へと向かう道すがら、青葉はルパンの周りにまとわりついてバシャバシャとシャッターを切っていく。それに応じてルパンもピースサイン等で応じているのを見ると、話通りにサービス精神旺盛な人物なのかもしれん。工廠に向かうには、一旦本館から出て屋外から向かう形になっている。そこでランニングをしている一団と出会す。その先頭を走るのは普段引きこもりがちな比叡だ。
「よぅ、お疲れさん」
「あぁ、司令。お客様をご案内中でしたか。お疲れ様です」
「どうだ?走り込みの具合は」
「新人の娘達も大分慣れてきてますよ!後で霧島にデータ纏めて貰って報告書に……」
「お前なぁ、たまにゃあ自分で書けよ…」
「あはは……、まぁいいじゃないですか。んじゃ私はこれで。気合い、いれて、再開します!」
比叡がその場から逃げるように再び走り出した。その先導で様々な艦種の娘達が走っていく。その様子を眺めながらルパンが一言、
「走り込み、ねぇ……随分と古臭いトレーニングじゃないの?」
「古臭かろうが有効な物は使うさ」
これは俺の持論だが、兵とはすなわち『走る者』だ。走る事で基礎体力を上げ、行軍速度を確保する。行軍するだけで疲れきっていては戦闘にすらならねぇ。艦娘の航行の方法だとスケートに近い感覚なのだろうが、脚を鍛えて損はない筈だ。それに、足が早けりゃ当然、逃げ足も身に付く。生き残る事は良い兵の最低条件だ。
「ま、とりあえず視察を続けようじゃないか?ルパン提督」
そしてウチの鎮守府の目玉的施設、工廠にやって来た。
「随分とデカいな?」
恐らくは自分の鎮守府の規模と比べたのだろう、次元がそう呟いた。
「本館の時にも説明したが、ここは元々艦娘の量産化の為の実験施設でな。その名残だよ」
重厚な鉄製の扉を開けると、中では多数の妖精さんと明石と夕張がテキパキと作業をしていた。工廠の中は広く多種多様な工作機械が置かれており、整備場というよりも巨大な工場、といった雰囲気だ。
「あぁ、提督!お疲れ様です!」
こちらに気付いたのか、明石が整備用の皮手袋を外しながら近寄ってくる。余程作業に夢中だったのか、鼻っ面に機械油が付いたままだ。
「よっ、随分熱心に弄ってるな?」
「そりゃそうですよ!今朝方技研から届いた試作品艤装のフィッティングですから……あ、もしかして見せちゃマズい感じでした?」
しまった、と言った表情で顔を曇らせる明石。まぁトップシークレットの類いだが、この『一味』には無意味な事だ。別に隠し立てするような物でもないしな。
「別に今更だろ~?そこまでお前がベラベラ喋ったら。機密もクソもねぇだろが」
「で、ですよねぇ~……アハハ」
顔をひきつらせて笑う明石に近寄っていくルパン。その瞬間、龍田の顔が僅かに歪んだ。……あら、もしかして嫉妬か?まぁ、すぐに戻ったから邪推は止めておこう。
「どもども初めましてお嬢さん、俺はルパン三世って最近提督になったモンなんだけっども。さっき弄くり回してたのは艦娘の艤装かな~?」
「え、えぇまぁ。ただ、特殊な試作品でして……」
チラリと明石がこちらに視線を送ってきた。見せても良いのか、という意思確認だろう。俺が小さく頷くと明石も腹を決めたようで、
「もしよろしければ見学します?」
「是非是非!」
ルパンの申し出によってその試作品を見学することに。作業スペースにいたのは夕張と数人の妖精さん、それに駆逐艦の村雨だった。
「どうぞこちらへ。今朝方届いたばかりなんですが、『技研』からのデータ取りを頼まれた試作品の艤装です」
「ハイハイ先生質問~!」
まるで社会科見学に来た小学生のようなノリで、ルパンが手を挙げている。
「な、何でしょうか?ルパン提督」
「さっきから言ってる『技研』って何の事ですか~?俺っち新米だから知らないのよ~!」
どこまで本気なんだか、この男は。
「『技研』ってのはラバウルにある『艦娘技術研究所』の事でな。通称『ラバウル技研』……ウチでは長いんで、略して技研と呼んでる」
ウチの鎮守府のあるブルネイから更に東にあるラバウルは、大本営から一、二を争う程距離が離れており、最果ての泊地と言っても過言ではない。だが、逆にその環境が良かったのか技術畑の変人連中ばかりが集まり、いつしか艦娘の装備向上の為の研究所の様相を呈してしまったのだ。そのぶっ飛んだ開発のアイディアから、『魔窟』なんて呼ばれ方もしたりしている。
「お前さんらの鎮守府での装備の『魔改造』についての話は調べが着いてる。……だがな、あそこの連中のいかれ具合はそれ以上だ」
俺はそう言って言葉を続ける。
「あそこの連中はほとんど『既存の装備』を弄らない。妖精さんとの共同開発で、新機軸の武装の開発をやってる。その中でも大きな功績が艦娘の改二艤装の開発だ」
ある一定の錬度に達した特定の艦娘を更に強化する改二……その艤装の開発に成功したのがラバウル技研だった。まぁ、後から荒木の奴に聞いたら失敗から偶然に産まれた産物だったらしいが。
「へぇ……それで、この村雨ちゃんが付けてるのがそこの研究所の試作品、と」
ルパンは品定めをするようにしげしげと眺めている。俺も改めて眺めるが、既存の駆逐艦の艤装というよりも、イージス艦や護衛艦に近い印象を受ける。
「なんでも、『現代化改修』という開発段階の技術らしくて。海上自衛隊等に引き継がれた名前の娘限定ですが、その後継ぎの艦の装備を使えるようにする……らしいです」
明石も説明書を読んだだけなのだろう、推察での物言いだった。
「成る程……どうだ村雨、着けた感じは?」
「うーん……実際動かした訳じゃないから解らないけど、多分馬力とかはこっちの方が上かな?それに、固定の武装もどんなのか解んないし」
「そうか。まぁテストだから無理はするなよ?怪我でもされたら敵わんしな」
そう言って頭をくしゃくしゃと撫でてやる。金剛からの嫉妬の視線を感じるが、妬くな妬くなこれくらいで。
「でもぉ、こんな凄い装備が回って来るなんて……どんな取り引きをしてるのかしら~?」
ここでも突っ込んで来たのはルパン鎮守府の龍田か。流石に雑務担当、目敏いな。
「何の事ぁねぇ、そこの研究員の一人に知り合いが居てな。その伝でウチが頼まれる事が多い……それだけよ」
「……けれど、それだと他の鎮守府では不満に感じるのではないかしら?」
おっと、意外な所からの指摘だな。ルパン鎮守府の加賀か。どうにも加賀って艦娘とは深い縁が有るらしいな、俺は。思わず苦笑いしてしまった。
「なぁに、簡単よ。『他の鎮守府』はやりたがらねぇのさ、何せ試作品だからよ……何が起こるか危なっかしいてんで、ほとんど技研の内部でテストしてるんだがな?」
研究所と呼ばれてはいても、鎮守府は鎮守府だ。艦娘も当然いる。
「それでも手が足りない時にはたま~に、な。試作品のデータの採取と譲渡の条件で、ウチに期限付きで回してもらってるのよ」
「はぁ~……随分とぶっ飛んだ事を考える奴も居たもんだ」
感心したように村雨をしげしげと眺めるルパン。お前の所の魔改造された『装備』も、かなりぶっ飛んでるがな、という突っ込みは飲み込む事にした。
「さて、と。そろそろ見学もいいだろう?会食に移りたいと思うんだが……どうかな?」
「いいねぇ、俺様達も歩き回って程よく腹も減ってきた。そろそろ飯にしようじゃないの」
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