提督はBarにいる・外伝
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大泥棒が鎮守府にやって来る~視察編・その1~
ルパン提督の声に反応してか、機内から降りてきたのは3人の艦娘。事前に連絡のあった通り、護衛の意味も兼ねての為に艤装も持ち込みだ。
「エスコートの一つも無いなんて、酷い提督よね~?」
「……少々、頭に来ました」
「まぁ、そうなるな」
口々に皮肉を言いながら降りてきたのは龍田、加賀、日向の3人。開設間もない筈のルパン鎮守府だが、他の鎮守府からの配置転換組が多く、短い間に戦果を上げつつあるらしい。
『ふむ……』
確かに面構えは建造間もない艦娘のそれではなく、幾多の戦いを潜り抜けて来た歴戦の艦娘のそれだった。特にも、龍田の顔は印象的だ。その貼り付いたような笑顔の下に人間に対しての不信感を燻らせている。ルパン提督の前任に随分と『社会勉強』させられたらしいな。
「あら~、私の顔に何か付いてるかしら~?」
俺の視線に気付いたらしい龍田が問いかけてきた。
「いやいや、そちらさんの秘書艦が美人だったモンでね。見とれてたのさ」
「あら~?もしかして龍田ちゃん口説いちゃったりなんかしちゃったりしてるワケぇ?」
ぐふふふふ、と笑うルパン提督。どうやらこいつも俺の視線に気付いたらしい。流石は裏社会を渡り歩いてきた男、腹の内の探り合いに気が抜けない。後ろの二人も自然体に見えつつも、いつでも得物を抜ける体勢でいる。
「まさか。んな事したらウチのカミさんに殺されちまうわ」
苦笑いしながら後ろに控えている金剛を親指で差した。
「へーぇ、そちらさんが?」
「ハイ!テートクのwifeの金剛デース!宜しくお願いシマース!」
そう言いながら俺の腕に抱き着いてくる金剛。イチャついてそのラブラブぶりを見せ付けたいらしい。ルパン一行もその様子に苦笑いを浮かべている。
「んじゃま、とりあえず鎮守府の中を見学させてもらいてぇんだけっども?」
「このまま会食……でも俺は構わねぇんだがな」
まぁ、この位の提案は想定の範囲内。別に見られて疚しい物はない。
「いや~、滅多に他の鎮守府なんて来る事ぁねぇし、何より海外遠征なんて提督なってから初でねぇ。是非とも見学させて貰いたいんだわ。な?センパイ」
「よく言うぜ、ったく。……まぁいいさ、大淀!青葉!」
金剛よりも更に後ろに控えさせていた大淀と青葉を呼び寄せる。
「はい、ここに」
「今日は宜しくお願いします!」
「ウチの鎮守府の総務担当の大淀と、広報の青葉だ。この二人も同行して鎮守府の案内をさせる」
「あらま~、そちらも別嬪揃いで。俺様嬉しいねぇ♪」
後ろの次元と五右衛門はやれやれ、と呆れたような表情だ。どうやら報告通り、女好きってのはマジらしいな。
「ではまず庁舎をご案内します、こちらへどうぞ」
大淀の先導に従って歩き出すルパン一行の横に付くように俺達も歩き出す。その間に胸元に仕込んでおいたインカムで警備担当の川内に通信を入れる。
『川内、聞こえるか?』
『はいよ提督、感度良好だよ』
『念の為、気取られないように貼り付いておけよ』
『りょうかーい。見つからずに、ってのは無理だと思うけどね』
それでも、用心に越した事はない。今は同業とはいえ元は大泥棒なのだから。
「まずは本館です。ここで普段の執務や業務、出撃の準備などを整えます」
大淀の解説と共に見学ツアーの様な形で施設を巡っていく一行。ルパン鎮守府の一行は、物珍しそうに周りをキョロキョロと見回している。
「随分と建物の造りが広いな?」
恐らくは自分の鎮守府と比べたのだろう、次元がボソリと呟いた。
「ここは元々艦娘量産化の実験施設を兼ねててな。どれだけ艦娘が増えても良いように元の設計から広く作ってある」
ここブルネイの地が、今では当たり前となっている『同一の艦娘も量産出来る』という技術の巨大な実験場になっていた、というのは海軍の歴史的事実だ。まぁ、その根幹にある技術の源がウチの鎮守府かもしれない、ってのは誰にも明かしていない秘密だが。
「それに万が一の時は、ここを要塞代わりにして籠城戦も出来るようにしてあんだろ?多分」
大淀の説明を補うようにルパンが口を開く。
「ご明察、流石だな」
「いやね、ここの土地と海域の位置関係を考えりゃあ誰でも解るこった」
ここブルネイやラバウル、トラック諸島やショートランドといった泊地は、激戦地である南西諸島海域や南方海域、西方海域へと向かう艦隊にとっては玄関口に等しく、また敵艦隊の攻勢の際には本土への接近を塞き止める防壁だ。更には海路物流の中継地点でもあり交通の要衝だ。防備を固める意味でも、鎮守府の巨大化・強大化は避けられない……ハズなのだが、どうにも中央のやんごとなきモグラ共はウチの力が強くなるのが気に食わんらしい。
「でも、これだけ設備が大きいと維持費や設備投資費が凄い額よねぇ~、そのお金……どうしてるのぉ~?」
やはりな、そういう具体的な話に突っ込んできたのは龍田か。事前の調査通り、ルパン鎮守府において執務室に詰めている複数の艦娘の中でまとめ役を担っているのがこの龍田だ。個人の判断なのかルパンの指示なのかは知らんが、ウチの経営に探りを入れてきている。
「では、それに関しては私がご説明を」
そう言って口を開いたのはウチの金庫番にして総務を仕切っている大淀だ。この間少し揉め事があったが、それは解消している。
「我が鎮守府では大本営からの予算の他に、ブルネイや日本、その他協力関係にある国の企業から海上輸送の際の護衛任務を受注し、それによって報酬を得て運営予算に計上、私達艦娘の給与もそこから支払われています」
「つまり……現金支給か?」
「えぇ、そういう事になります」
「オイオイ、そいつはまずいんじゃねぇのか?だってそりゃあ傭兵稼業みてぇなもんだろうが」
補佐官の次元が口を開く。報告書によればこの男、ルパンと組む前は用心棒や殺し屋、傭兵等々裏社会での仕事に精通している。報酬の額等もおおよそ見当を付けているのだろう、きな臭い商売だと疑っているのか?
「その点は問題ありません。日本・ブルネイ両政府からも認可を得ている歴とした正規の依頼です」
「つまり、半国営の傭兵稼業ってワケだ。……まぁ、ウチの鎮守府がテストケースらしいがな」
このシステムの確立にも相当骨を折った。最初に立案した時には『前例がない』と突っぱねられたが、最終的には
「大本営のお歴々は同盟国であるドイツ・イタリアのみならず、協力関係にあるブルネイの油槽船団等が敵の手によって沈んでも良い、こう仰るんですな!?」
と演説をぶち上げ、大本営のモグラ共を納得させた。ほぼ恫喝のようにさえ聞こえるが、それだけブルネイの石油資源は日本にはデカい。
何せアジア最大の産油国は敵と繋がっている可能性が高いのだから、そこから輸入など望めるべくも無く、シーレーンが滅茶苦茶の今、中東やアメリカ等からの輸送も望み薄だ。…となれば、ブルネイの石油は日本の大動脈であり、その元栓を俺に掴まれるに等しい。黙り込むしか方法が無い。詰め将棋と寝技は得意分野なんだ、昔からな。
「な~る程、熊みてぇなガタイかと思ったら、とんでもねぇ狸親父だったワケだ」
「よせやい、褒めても何も出んぞ」
ルパンと俺は互いにニヤリと笑い、言葉を交わした。
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