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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#42
  FAREWELL CAUSATIONⅡ~Double Detonation~



【1】

『LUUUUUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――
―――――ッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!』
 原型を留めないほどにズタズタに、墓も遺らないほどに微塵なく、
少女を被虐し餌食(えば)もうと猛進する血染めの獅子。
 最早実力の差は歴然、近距離、中距離、遠隔での攻防でも勝ち目はない。
 それを認識し受け入れたシャナの取った選択。
(さぁ、息が止まるまでトコトン行くわよ……
この空条 シャナには、たった一つだけ残されたとっておきの戦法がある……
また真っ向からバカみたいに突っ込んできたのがおまえの運の尽きよ……ッ!)
 全身から立ち上る深紅の炎気、瞳に宿る黄金の光。
 アラストールさえも瞠目する驚天動地の “手” とは――
「逃げる――ッッ!!」
(なぁ――!?)
『GUGAッッ!?』
 急迫の心中で猛進の最中でソラトとアラストールが頓狂な声を発したのはほぼ同時、
凄爪が少女のいた場所で空転する。
 静かな水音の後棚引く波紋、燃え立つ気炎とは裏腹に、
少女の存在はいとも呆気なくその場から消え去った。
『……』
 死をも厭わぬ覚悟、策に頼らぬ勇気を差し示した者まさかの遁走に、
さしもの獣王も唖然と運河の前に立ち尽くす。
 だが。
『LUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
―――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
 己を虚仮(コケ)にする、誇りなき者の所業に獅子の鬣が烈火の如く逆立つ。
 手負いの状況で、姑息な振る舞いで己から逃げ果せるとでも想ったか、
沿岸が氾濫する勢いで怒りの狂獣が少女を追走する。
 少し離れて、河面に消えた二つの存在をみつめる瞳。
「……困りましたわね」
 最大のスタンド使いエンヤに見込まれアラストールにもその才を認められた、
才気溢るる紅世の “自在師” その少女にも想わぬ 「弱点」 が一つ。 
「泳げませんわ……」
 宝珠のように白い素肌を、冷たい雫がゆっくりと伝った。






(逃げるって言っても水の中によ……!) 
 口唇に咥えた大刀、左肩は引きつるがそれ以外は鮮鋭なフォームで、
少女は(うお)の如く清流を掻き分けていた。
 数刻前の無頼の貴公子同様シンガポールの美景に感謝、
視界はクリアーで滞留する遮蔽物もなく汚泥で五感が阻害される事もない、
寧ろ冷水で研ぎ澄まされる。
 そして自分の優位はそのまま相手の枷に。
『LUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO―――――――
―――――――――――――ッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!』
 裡に燃え盛る存在力を集束して煉り挙げながら、狂喚が水を震わせる。
(追ってきた……! でも……ッ!)
 頑強な装甲はその重量故に水の呪縛をモロに蒙り
スピードで遙かに勝るソラトが手負いのシャナに追いつけないという事実、
同様の理由で凄まじい殺傷力も半減。
『LUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッッッッ!!!!!!!』
 唯一の懸念は近代建造物を軒並み寸断する不可視の遠隔吼斬波、
「――ッ!」
だがソレすらも受撃した先刻と打って変わり片手持ちの大刀、
その修練の技巧で瞬く間に弾き返した。
 不可視の刃でも “水の中” なら
そのものが描く 「軌跡」 によって視える。
 更にその鋭さ故に水が刃に絡み付きソレによって生じる抵抗力が
(ワザ)の威力と命中率を著しく減退せしめるのだ。
 アレほど拒否していた 「逃げる」 という選択をあっさりと反故にし、
水中に逃げ込んだシャナの機転。
 気高きながらも狡猾な策謀を同時に巡らしている精神形態は
正に彼女が信頼している無頼の貴公子に類似。
 本来フレイムヘイズは宿している王の顕力(チカラ)故に
戦闘思考力はさほど高くない。
(一説には戦闘無経験の、精神的にも
余りに愚劣な痴れ者にも遅れを取るという)
 だがソコは係わる人間の相関性、「環境」 によって
人は 『正義』 にも “悪”にも成り得る。
 一つの出逢いが、一つの出来事が、
その者の 『運命』 を大きく変えてしまう事も在り得る。
 人と人との出逢いに最も重要なのは、それが正義か悪かではなく
互いにとって 『吉良』 で在るか否というコト。
 この少女にとってソレが何れかで在るというコトは、
最早語る必要もないだろう。
 話を戻す。
『シンガポール運河・水中戦』
 清流の中で対峙した両者の距離は約15メートルといった所。
先刻の一合ではシャナ優勢に見えたが厳密にはそうではない。
 ソラトには確かに装甲の重さのハンデがあるがシャナもまた、
此処では所有する焔儀の大半が遣えない。
(正確には威力、精度、命中率が陸上のソレより著しく殺がれる) 
 また持つ武器の威力が半減するという点は彼女も同じコト、
被虐したダメージを鑑みれば決して優位な状況に立ったとは云い難い。
『Luuuu、LULULUッッッッ!!!!』
 相手が 『勇者』 であるなら剣を納め互いの誇りを懸けた
決闘という戦形(カタチ)に成るのであろうが相手は血染めの獅子、
紅世の獣王、河面を朱に濡らす惨滅戦に変更はない。
『――ッ!』
 猛威充分な獅子に怯まず仕掛けたのはシャナ(水中なので掛け声は出さない)
左腕が死んだ状態で威力に欠ける贄殿遮那を活かす為には用いた手は。
 うねる旋流を纏わしながら水中を掻き分ける煌めきに繋がれた刃、
変質伸長させた鎖を大刀の柄に巻き付けて射程距離を延ばした
黄金の “鎖 鎌(くさりがま)
 鎖の長さによる遠心力と実質 「片手武器」 であるため負傷のハンデは軽減される、
更に装甲を 「斬る」 力ではなく継ぎ目の脆い部分を 「刺す」 技術を要求される
得物であるため、現在の彼女には最適の装備。
 蛇のように不規則な軌道を描いて最短最長の距離を
目紛しい速度で交錯した刃が、ソラトの左側面からほぼ無音で襲来する。
『LUGAッッ!!』
 ソレを片爪で鬱陶しそうに、一瞥もせず弾き返す獣王。
(かかった――!)
 強さを宿しつつも繊細且つ鮮鋭な指捌き、
ヴィルヘルミナを瞠目されるに充分な技巧で
操られた鎖は迎撃の反動も利用して旋転、
水の呪縛など意に介さず襲い掛かろうとする
獅子の背面から先刻以上の鋭さで急襲する。
『LUU――ッ!?』
 しかしそこは百獣の野性勘、僅かな水流の変化と己に迫る危機を敏感に察知し
鬣を狭めて前傾回避、だがその挙動に装甲の重量が引っ張られ頑強な体躯が沈み込む。 
 滞留する刃はまだソラトの傍に、遠隔での追撃を掛けるに是非なき状況。
 だがシャナは更に潜った、追う者と追われる者が逆転したかの如く、
血染めの獣を仕留める灼熱の狩人が水底へと追い縋る。
「正気か――!? 間合いの優位を棄て何故潜行するッ!」
 裡で響くアラストールの声に首を振るだけで応え、
少女は片手で大きく鎖を振り回しながら体勢を立て直した獅子を見据える。
 虚は突いたが攻撃が命中したわけではない、初見が躱された以上
ソラトに同じ手は二度通用しない。
 だが。
『LUGAッ!?』
 うねる水流、歪む水圧、紅世の獅子その活性した超感覚が
周囲の異変を初動で察知した。






   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
 




「こ、コレは――!?」
 水底の青き戦場から20メートル、
存在力の移動に合わせて運河沿いを駆けていた
紅世の少女は、その可憐な双眸を驚愕と共に見開いた。
 吹き散る水飛沫が柔肌をはたき、巻き起こる乱気流がドレスの裾を揺らした。
 対岸と此方側を埋め尽くすほどの大渦流、河面に現れた水の蟻地獄。
 その巨大な “渦” の中心に凄まじい速度で黄金の鎖を旋回させる少女が在り、
荒れ狂う激流に翻弄される獅子の姿が在った。
 高速の螺旋運動、高密度の慣性力により河川の水圧が変化、
領域に在るモノをスベテ呑む込み粉砕する水の竜巻となって 
異界の魔獣に服従を強いる。
 さながら寓話の一場面、傍若無人の限りを尽くす魔物を
一人の魔術師が知略を以て討伐を果たす伝承の光景。
「お兄様ッ!」
 その魔物を心優しき彼の妹が延ばした荊で大渦から救い出そうと試みる。
 しかし。
「え!?」
 卓越した自在師で在るが故にその強度は折り紙付き、
その細い蔓一本で鉄骨をも吊り上げられる荊が渦に触れた瞬間、
枯葉の如くバラバラに引き千切られた。
「何ですの!? 水流の圧力だけならこうはならないはず!
一体あの渦の中には “ナニ” が仕掛けてありますのッ!」
 水中に飛び込めないティリエルにその解答(こたえ)を知る術はない、
だがソレの効果は徐々に確実に、渦に翻弄されるソラトの躯を削り取っていた。
『LUUUUUUUUUUUッッ!! LULULUッッ!!』
 剥がれる風貌、毀れる鬣、削がれる装甲、
ソラト本体には届かない微細なダメージではあるが、
一合から被虐しまくっていたシャナがようやく攻撃に転じた。
 相手の動作を封じる水の蟻地獄、それを切っ掛けに抜け目ない一手を打っていた。
 投擲目的の火刃 “蓮華” それを更に細かく砕き
渦巻く激流の中に混ぜて攪拌させる。
元々刺すコトが目的の焔儀なので熱量よりは硬度に力が注がれ
水で表面の温度が下がってもさほど問題ではない。
 加えて硬質化した黒衣の切れ端も織り交ぜて迷彩に、
云うなれば水硝子(みずがらす)の蟻地獄、
ソラトの感覚を阻害しながら後はじっくり時間を掛けて相手が力尽きるのを待つだけ。
 あの圧倒的戦力差がこうもあっさりと、
水の中という状況がソラトには枷に、
シャナには追い風と成って立場を逆転せしめた。
( “一点()られるってコトは、一点不利になるってコトじゃないのよッ!” )
 まだ日本にいた頃、夜のリビングでトランプやダイスゲームに興じていた折り
承太郎が云っていた言葉 (何回ヤッても一度も勝てなかったが)
 最終的な勝利の為に、敢えて差し出す敗北がある、
窮地に陥ったなら陥ったなりに、
ソコでしか気づけない発想が有る、出来ない行動が在る。
 己の優位を確信した時、勝機が飽和状態に達した時、
相手の危機感は脆くも霧散する。
 それを如実に体現するのが現在のソラトの状況、
シャナと同じ、否、それ以上の術を撃つコトが出来たにも関わらず
重傷を負い逃走を図った少女に先手、反撃を許すという不覚。
 全ては高過ぎる戦闘力が故に起こった事、
己に優位な場所へ誘い込むシャナの陽動を本当に逃げたと思い込み、
追いつかれる迄の間、この状況を逆に利用する陥穽(ワナ)
巡らしていた等とは夢にも想わなかった。
 文字通り “流れ” を引き寄せたシャナ、うねる激流の中、
上下の区別も付かず攪拌されるソラトの悪形に対すれば負傷も戦力差も関係ない。
(さあおまえ、 “ナニになりたいの?” )
 遠方にて絶戦を繰り広げる無頼の貴公子が乗り移ったかのように、
弛まぬ闘志を漲らせてシャナは水縛の獣に訊いた。
(このまま刃に斬り刻まれて細切れになるか、
それとも水圧の廻転に()り潰されて粉々になるか!
どっちでも好きな方を選びなさいッッ!!)
 渦の勢いに促進されて威力を増した刃が装甲の隙間に無数突き刺さり、
内部ソラトの力を殺いでいく、それは時間が経過すればするほど
雪達磨式に累積していく。
 泳いで水面には逃がさない、この射程は渡さない。
 炎を主体とする “フレイムヘイズ” の戦闘スタイルとは著しく異なるが、
コレが 『スタンド使い』 と交わった者の成長、
能力のみに頼らず状況の全てを利用し対応する。
『LUUUUUUUUUUUUUUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAA―――――――――――――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!』
 さしもの獣王も、自身の躯が重枷となり
尚かつ平衡の感覚がメチャメチャに掻き乱される
この状況では満足に動く事が出来ない。
狂暴な牙も爪も、水の中では虚しく空転するしかない。
 スタンドの中にも、ある 「限定的」 な場所や条件でなければ
能力を発揮出来ないモノがある。
 しかし長所と短所は 「表裏一体」
恒常的に使えないリスクを孕む事によって
生じるリターンは途轍もなく大きい。
 これはソレと全く同じ現象、通常の戦闘とは違う、
スタンドバトルの異能定跡。
 単純なパワーやスピードだけでは勝てない、
それはそっくりそのまま敵にも当て嵌まる。
 空条 承太郎との度重なる戦闘訓練、戦闘経験、
その交わりによって少女は己でも気づかぬまま、
『スタンド使い』 の戦闘思考法を身につけていた。
「お兄様ッ!? いけない! 衰弱してもう藻掻く事も出来ないようですわッ!」
 直上20メートル、無理に飛び込んでも兄諸共 “渦刃(かじん)” の餌食になる事は
解っているので焦燥に歯噛みするしかない愛妹。
 何とか大樹を遠隔操作して運河に叩き込み
渦を消そうと鑑みるも、時間が掛かり過ぎる上に精神集中も覚束ない。
 このまま黙って見殺しにするしかないないのか、出来る事は何もないのか、
敬愛するアノ女性(ヒト)ほどの絶大な能力(チカラ)が己に在れば、
雫の滲む双眸にて石畳を叩いた瞬間。
『LUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
―――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!』
 ティリエルの想いに応えるが如く獅子が吼えた。
 激流に翻弄され狂った感覚のなか “本能(カン)” のみで、
打つべき術と向かうべき場を瞬時見定めそして放つ。
 歪む円環を縦に割く凄爪螺旋双掌撃(せいそうらせんそうしょうげき)
 自然の法則を味方に付けているとはいえ
片腕しか使っていないシャナと比べその威力は歴然の開き、
ましてやこの場合力を広域に拡散させるではなく一極に集中している。
 どんなに途轍もない渦だったとしても、
“渦で在るが故に”
荒天の乱流には一点だけ動かない部分が存在する。
 それは取りも直さずのその 『中心』
渦を生み出し続けているシャナのいる位置だけは
蟻地獄の死点と成っている。
 故にその位置に飛び込めば勝敗は明らか、
奇しくも武器を鎖の先端に巻き付けてしまっている少女に
防御と反撃の術はない。
 全身を刃塗(はまみ)れにされ罅割れた被甲の隙間から
山吹色の炎を散らしながらも、
血染めの獅子は捨て身の叛逆に打って出た。
 藻掻かず衰弱したと見せ掛けたのは、
この渦を突破する力を溜め込む意図を欺くための擬態。
 思考するのではなくそれこそ野生動物が自然に行うように、
ソラトは本能にのみでこの危機的状況を打開せしめた。
 動きの鈍る水中とはいえ直近まで踏み込めれば、己の不利はそのまま優位に。
 渦を生み出しているが故に後退できない少女に組み付き、
後は装甲の重量を利用してその華奢な()(ガジ)り尽くすのみ。
 万全と想われたシャナの執った術にも想わぬ弱点が在った、
今の己の力は海中の乱流だろうが地上の暴風だろうが容易に超越せしめる。
(って、(かお)してるわよ! おまえッ!)
 シャナに背を向けた双掌の構えから反転、
力の流れを最大限に生かして撃ち出された右の尖撃が、
それを繰り出すより前に躰を捻っていた
少女の体捌きにより紙一重で躱された。
 だが水中とはいえ凄まじい威力とキレで放たれたモノ故に、
その衝撃と水圧のみで制服の脇が裂け露わになった白肌から血が繁吹く。
「ぐ――ッ!」
 だがこの事は折り込み済み、
無理に足掻かず激流に身を任せるように
していた様子から類推できた。
 だからこの後の展開も予測出来る、
相手はこのまま肩の傷口に齧り付く為
猛攻を繰り返し組み付こうとする筈、
そしてそれを防ぐ術は自分にはない。
 水中で相手より鋭い攻撃が繰り出せる能力でもあれば話は別だが、
自分は 『スタンド使い』 ではないしそのような能力も持ってない。
 この後攻められれば終わり、“攻め続けられれば終わり” だが。
 グャギンッ!
 不可避の猛攻を繰り出すため、シャナに覆い被さるように
凄爪を拡げた獅子が突如停止した。
 これより遠方で、無頼の貴公子が未曾有の最大最強能力を
発動させるコトになるがソレは関係ない。
 動きを止めたのはソラトのみでシャナは装甲の脇腹に
大刀の切っ先を突き立てている。
 右腕は鎖の操作、左腕は使用不能、両脚など論外、
ならば “何処で” 大刀の柄を握ったのか。
  





 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!






 意外! それは髪の毛ッ!
 腰下まで届く長い炎髪を “贄殿遮那” に巻き付けて、
回避の体幹を捻る動作を同時に攻撃へと直結させていたのだ、
厳密な詳解は以下。
 まず最初の “鎖鎌” による奇襲、
ソラトに躱されたが大きく体勢を崩したあの時、
シャナは追撃を行わず鎖を自分の側に戻し
絡み付いた “贄殿遮那” のみを回収した。
 その後の渦による攪拌、細刃による削撃の最中
本命の大刀は髪の中に、決して相手から見えないよう忍ばせていた。
 渦と刃に身を刻まれている者からは、
それを生み出す鎖先端の変化になど気づきようがない。
後は相手の行動を先読みし攻防一体の刺突を
視界と意識の死角から挿し込むのみ。
 嘗て、 『77の輝輪(リング)』 と呼ばれる
血も凍る地獄の試練法にも、
己が全霊を以て忠誠を誓う愛妃の為に打ち勝った、
誇り高き伝説の “黒騎士” が戦闘に用いていた妙技、
その威力も精度も正 統(オリジナル)と比してなんら遜色なし。
 紅髪刃舞。黒騎の葬踏。
『贄殿遮那・死鞭髪(しべんぱつ)ノ太刀』
遣い手-空条 シャナ
破壊力-A スピード-B 射程距離-C(ただし常時死角から飛んでくる)
持続力-D 精密動作性-A 成長性-A





 並びに!
『GAッッ!! GULUUUUッッッッ!!!!』
 人間なら内臓に達するほど、深々と白刃が脇腹にメリ込んでいるにも関わらず、
戦気弛まぬ獅子の王は凄爪で剥き出しの刀身を掴んだ。
「往生際がッ!」
 予想外のしぶとさだが、先攻の業に屈しようが屈しまいが、
「悪いのよッッ!!」
終結の一撃は、既にこの手の中に。
 螺旋の軌道で渦を生み出していた黄金鎖がシャナの手捌きにより一変歪曲。
 弧を描いて双刃のギロチンのように、左右の広域から鋏んで胴体に襲いかかる。
 少女は一瞬速く躰を反転させ交差する鎖に挟撃される獅子を逆しまに見据えた。
 前後左右更には上下、何れの対方向からも同時攻撃を仕掛けられる、
上述と同じ伝説の “豪騎士” が得意としていた闘法。
 刀身は用いないがソコからの 「連携技」 故にこう呼ばせて戴こう。
 双竜咬断。変旋の乱渦。
『贄殿遮那・天刳獄鎖(てんこうごくさ)ノ太刀』
遣い手-空条 シャナ
破壊力-AA+ スピード-B 射程距離-B(半径20メートル前後)
持続力-AA+ 精密動作性-D 成長性-E





 グギャンッッ!!
 生身ならば、その交差に挟まれただけで
胴体が骨ごと両断される死の鎖輪が
鮮血の装甲に喰い込んで引き絞った。
 現在片腕しか使えないシャナではあるが、
相手を “絞め殺す” ならコレで充分、
猛殺の爪撃もこのように拘束されてしまえば意味を成さない。
 一度捕らえてしまえば離さない、
業の特性ソノ格別の持続力故に、
累積した圧力が遂に装甲を破砕し内部少年の躰まで肉薄していく。
『LUAAAッッ!! GUOOOッッ!! 
LUOOOOOOOOOOOOOOOOッッッッ!!!!』
 生きながら腹を割かれる猛獣の如く、
ソラトは鎖輪の中で狂ったように暴れ回るが
その力は遠く離れているシャナにまで直接伝わっていかない。
 そしてその少女の双眸は既にソラトを見据えておらず、
光刺す水面に向けて転進を開始している。
「せ・えッ!」
 水中から抜け出る少女の背で血飛沫を灼きながら双翼が発動、
「のおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――
―――――――――――――――――――――ッッッッッッッッ!!!!!!!!」
痛みを堪え大気との境界を蒸発させながらも
鳳凰の昇天さながらの勢いで高空へと翔け上がる。
 その効果は極めて如実に鎖面を伝導、
無慈悲に、そして惨酷に、装甲を圧し砕きソラトの躰を轢断する。
 嘗て、地の利も在ったとはいえ二人の勇壮な “波紋使い” を
同時に屠った男の “凄技”
時を越え、遣い手を変えてもその凄味は全く薄れない。
「見事……」
 上空で静止し、拘引した鎖を引き戻すシャナにアラストールが一言呟いた。
 正直トドメの手応えは無きに等しかったが、
累積圧力に加わった翼の拘引力が恐ろしい地獄の鋏撃(ハサミ)となって
獅子の躯を轢き断ったのだろう。
 またすぐに 「復活」 するかもしれない、
でも相手の能力は完全に封じた。
 懲りずに向かってくるならまた水蟻地獄の中で
存分に掻き混ぜ轢き千切ってやる、
今度は復活なんて出来ないようバラバラにして。
『LUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――――――
――――――――――――――――――――――ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!』
 双翼を解除して降下するシャナに連動して、
水底から血染めの塊が噴き上がった。
「な――!?」
「無傷、だと……」
 距離にして20メートル、氾濫した波が足下を浚う運河沿いで、
刃達磨になり胴体を轢き断たれた筈の獅子が修復された装甲、
咬鎖による破砕も僅かに屹立した。
「そんな、完全に禁縛して思いっ切り引っ張ったのに、
どうしてダメージがないの?」
「広域に張り巡らせた法儀も発動しておらぬ、
にも関わらずどうやってあの場を切り抜けた?」
 唖然とする二人に変わりその解答を語るは声無き水、
透明度の高い清流が光の反射とはまた別に、
キラ、キラ、と艶やかに煌めいていた。
 眼下の波だけではなく運河全体に、
おそらくは渦巻く激流が荒れ狂っていた時から、
シャナの仕込んだ刃とは “別のナニカ” が
水の蟻地獄に 「混入」 されていた。
 その “ナニカ” とは。





 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!




「“黄 蓮 参 拾 参 式 想 滅 焔 儀(ブリリアント・キャスティール・ブレイズ)
捧 げ し 嬰 児 の 喪 失 花(インブリード・サクリファイス・リトルフラワー)』 」
 古風な石造りの河橋、その中央に佇む少女の背後に、
彼女のスタンドで在るが如くあるモノが蠢いていた。
 その形状は有皮鱗茎(ゆうひりんけい)、色彩は麗らかなサルファー・イエロー、
有り体に表現すれば石面に咲いた巨大なチューリップと云った処だろうか。
 その卵形漏斗状の花弁の中から、
視るだけで陶然を喚起される黄蜜が惜しげもなく河面に流し込まれ、
得も言われぬ甘美なる芳香が周囲一体を充たす。
 血で血を洗う戦場には似つかわしくない、夢境の幻想光景。
 しかしコレこそが残酷無尽の咬断から
ソラトを救った能力そのモノに他ならない。
 どんなに鋭い刃でも、否、“鋭いからこそ”
油などに塗れた物体に斬りつけたとき
その刃先が “滑って” しまう
 刃自身に刻み目、ソレが超高速で動いているのでもない限り
粘性のある物体を瞬時に両断する事は困難を極める。
 ティリエル咄嗟の機転で河面に流し込んだ多量の黄蜜、
それが渦の攪拌作用も手伝ってソラトの装甲至る処に絡み付き
砕刃を摘出すると同時に獄鎖の魔の咬断から脱出せしめる結果となった。
 本来焔儀大系内でも比較的低位、
戦闘ではなく疲弊した肉体や精神の回復に充てる
法儀であるが、その特性を(つまび) らかに把握しているならば
ソレを応用して時にコレ以上ないという 「機」 が在る。
 この事象はスタンドバトルに於いて特に顕著であり、
相手を欺き予測を裏切る事を主体とする異能戦闘ならば
『能力そのもの』 だけではなくその 「発生過程」 まで
考慮して戦いに組み込む必要がある。
 ティリエルは心得ていた、敬愛するアノ女性には及ばないが、
真の強者とは与えられた能力(チカラ)に安寧せず更なる研磨を怠らない者だと。
花蜜(かみつ)で鎧を滑らせて、
こっちが引き絞る前に脱出させたって言うの?
普通はどうやって渦を消すか、
どうすればそれを生み出す私に攻撃するか考えるものなのに……」
「通常の紅世の徒が考え得る発想ではない、
おそらく、相当な策士が背後にいるな」
 まだ視ぬ強敵、その凄艶なる姿はなくとも存在のみで
他者を此処まで成長させる影響力にシャナ、アラストールは戦慄を覚えた。
「分断、あわよくば二人同時に始末出来ればと想ったけど、甘かったみたい。
アノ女、やっぱり油断ならないわ。承太郎も気をつけろって言ってたのに――!」
 逃げ果せるかどうかも解らないアノ状況でまさかそんな事を考えていたとは、
失策ではなく失念に歯噛みする少女にアラストールは少なからず当惑した、が
他の者では決して成し得ない、彼女の成長と変化を静かに認める己も在った。
「最早、何も云うまい。おまえの望むままにせよ。
翻らぬ決意なら、我は沿うのみ」
「ごめんね、そしてありがとう、アラストール」
 生と死の別れ道、しかし少女は小さなわがままを許してもらえたように、
無垢な笑顔を向けた。
「さあ、コレでまた仕切り直し、まだまだ頑張りますかッ!」
 状況は一向に好転していない、寧ろ悪くなっているのに
少女は晴れやかな笑顔で死地に向き直った。
 今度こそ血染めの獅子が、その愛妹と同時に掛かってくる、
にも関わらずシャナの心には絶望を吹き飛ばす爽やかな風が駆け抜けた。
 ソレは何れによって存在するものか? ただ互いの身に刻まれた疵痕、
その左腕が、何かを暗示しているかのようだった。


←TOBE CONTINUED…

 
 

 
後書き
はいどうもこんにちは。
能力的にも精神的にも、高いレベルで完成されてる「彼女」も、
何か「弱点」があった方が良いというコトで「泳げない」という設定になってます。
(まぁだからソラトを助けられたのですガ)
もう長い事お付き合い戴いてるので解っているかもですが、
ワタシ(作者)は、ジョジョは「肯定的」
シャナは「否定的」に作品を描いています。
コレは単なる「ヘイト」や「ルサンチマン」というのではなく、
(まぁそのような意識があるのは否定しませんが)
両原作の「構造上」必然の流れなのです。
まずジョジョのテーマは今更説明するまでもなく『人間賛歌』です。
じゃあシャナのテーマ(があるかどうかはワタシは疑問ですが・・・・('A`))
は何かというとソレとは逆に『人間蔑視』だとワタシは考えます。
少なくともワタシは読んでてそう感じましたし、
登場人物の誰一人として紅世の徒が人間を喰う事に対して心から怒らない、
寧ろ「仕方ない」と諦観してしまっている部分からもそう感じました。
(だから(原作の)フレイムヘイズは「自分のため」にしか戦えないんです)
現実なんてそんなモンじゃないか、だったらおまえはアフリカの子供が
飢えて死んだら悲しむのかという意見もあるかもですが、
「作品」として描く以上そのような卑俗な「リアル」は必要ありません。
(そして自分と関係なくても小さな子供が悲惨な事件等で殺されたら
口には出しませんが「フザけんな!」と想うのが普通です)
何よりフレイムヘイズの「設定」自体が、
他作品ですが『ベルセルク』の「使徒」と一緒ですし、
ヤってるコトも人の命を蔑ろにするという点では全く「同じ」なのです。
(一巻で壊れた教室を直すのに「それ使うから」と人の命を物扱いする
シャナには不快感を覚えますし、それ以前に「おまえの(存在力)使えよ!」
と想ったのはワタシだけではない筈です)
そして「使徒」には死んだら「地獄逝き(未来永劫負の坩堝を彷徨う)」
というデメリットがありますが、フレイムヘイズはノーリスク
(寧ろ周りが忘れてくれるから好都合)という点もその「傲慢」さに
拍車をかけるのかもしれません。
バトルモノ、所謂王道モノでキャラ(特に主人公やその仲間)に
人間らしい感情を失わせるのは百害あって一利なしで
事実「ジャンプ系」の作品などを見れば解る通り
成功 (大ヒット)した作品にフレイムヘイズのようなキャラは一人もいません。
だから人間を称えその精神を肯定するジョジョのテーマと
人で在る事から逃げたのにも関わらず人間 (元の自分)を見下す
シャナの設定とが噛み合うワケが無いのでソレが元のキャラの改変、
ストーリーの変更へと繫がっていくのです。
では何故このようなコトが生まれるのか?
荒木先生と高橋某という方に一体どのような「差異」が存在するのか?
気が向いたら「つぶやき」で書こうと想います。
ソレでは。ノシ 
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