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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第81話「一時の休息」

 
前書き
アースラでの休息のひと時...。
戦闘だけで数話に渡るのでこういう回もありませんとね。
 

 






       =優輝side=







「.....ん....。」

 目を覚ます。...いつの間にか寝ていたらしい。

「...すぅ...すぅ...。」

「....ぅ...ん....。」

 両サイドを見れば、椿と葵は未だに眠っていた。
 それを見て、二人も相当疲れていたんだと実感した。

「(まだ、戦いは残っている...か。)」

 最後のジュエルシードに...司さん。
 多分...いや、ほぼ確実に戦闘になってしまうだろうからな。

「(体の状態でも確認しておくか。)」

 リンカーコアが完治していない状態で色々やったんだ。確認しておかなくては。

「リヒト、起きてるか?」

〈...はい。スキャンですね?〉

「ああ。頼む。」

 僕自身が解析してもいいのだが、寝起きなためそんな集中力がない。
 まぁ、リヒトによる身体スキャンも僕並に細かいから別にいいだろう。

〈....身体、異常なし。ただ、疲労と戦闘での傷が残っています。安静にするべきです。〉

「...まぁ、妥当だな。さすがに厳しすぎた。」

 あれほど連続の戦闘、導王時代を合わせても数える程しかない。

〈...そして、これは驚きなのですが...リンカーコアが七割まで回復しています。〉

「何...?」

 リンカーコアはシュラインを活用しても半分以下までしか回復していなかったはず。
 さらにあれほどの戦闘だ。また損傷を広げたはずだが...。

〈...おそらく、偽物を倒した事によって、偽物が吸収していた分が回復に回されたのだと思います。実際、偽物が消えた際に優輝様のリンカーコアが急速に回復していたので。〉

「シュライン...。...なるほど、そういう事か...。」

 シュラインの言葉に納得する。
 元々、僕のリンカーコアは偽物に吸収されたのだ。
 偽物が自身が消える際に僕のリンカーコアを治療されるようにしていてもおかしくない。
 ...僕に賭けていたぐらいだし、な。

「魔力結晶は...やば、20個を切ったか...。」

 奏に預けていたものもあるが、それらは時間稼ぎでほとんど使われただろう。
 ...僕の予備魔力がないのは少し厳しいか...?

「(...いや、関係ないな。)」

 以前は魔力結晶なしで戦っていたんだ。この程度、ハンデにならない。

「...そういえば、奏は大丈夫なのか?」

 ふと、奏で思い出す。
 奏は相当な無茶をしていたはずだ。...というか僕がそう指示した。

「様子を見に行くか....っ?」

 何か引っ張られる感覚がして、立てなかった。

「...二人とも...。」

 見れば、椿と葵がどちらも僕の服の裾を持っていた。
 取ろうと思えば取れるが、未だに起きない二人を見ているとなんか憚れる。

「椿も、いつもは隠している耳と尻尾を出してるもんな...。」

 普段日常で隠すのが癖になったのか、戦闘時以外は大抵耳と尻尾を隠している椿は、まるで無防備かのように耳と尻尾を出していた。
 ...それほどまでに、此度の戦闘は激しかった訳だ。
 疲労が溜まっているのか、戦闘の意識が抜けきってないって訳だしな。

「寝てるって事は前者だろうけどな...。」

 そういって、自然と椿を撫でてしまう。
 軽くでも誉めると確実に照れる椿だけど、撫でたらどうなるんだろう?
 ふと、そんな好奇心が湧いた。

「....寝てるし、ちょっとだけ...。」

 悪戯心で椿の頭を撫でてみる。

「ん....。」

「(...かわいい。)」

 耳がピクッと動き、反応を見せる椿。...あ、なんかスイッチ入りそう。

「(し、尻尾も...。)」

 起こさないように気を付けながら、尻尾も撫でてみる。
 あ、もふもふしてる....。

「んっ....ふ.....。」

「.....落ち着け僕。」

 何やっているんだと、ふと気づく。

「(尻尾や耳に触れる機会なんて、すずかの家に行った時の猫くらいだからかなぁ...?)」

 動物的な癒しが欲しかったのだろうか?
 椿は狐の耳と尻尾を持っているけど、狐そのものではないのに...。
 ...いや、狐の姿にもなれるから狐では...あるのか?...ダメだ、混乱してきた。

「(とりあえず、狐に触れたいのなら今度久遠にでも頼もう。)」

 久遠は人見知りするらしいから触らしてもらえるかは分からないけど。
 とりあえず、普段は人として暮らしている椿を動物として見る訳にはいかない。
 ...かわいいと思ったのは確かだけど。
 後、そんな事を言ったら久遠もどうかと思うけど...久遠は普段は狐の姿だから...。

「まぁ、とにかく、起きてく...れ....?」

「........。」

 裾を放してもらうために、椿と葵に声を掛けようとして、固まる。
 なぜなら、葵がじっとこちらを見ていたからだ。
 しかも、滅茶苦茶目を輝かせて。...あ、でも若干羨ましさも混ざってる。

「...いつの間に?」

「優ちゃんが、かやちゃんを撫で始めた辺り?」

 葵の応答に、手で顔を覆いながら上を仰ぐ。
 ...なんというか、見られてしまった感がやばい。

「....黙っててくれる?」

「じゃあ、あたしも撫でて!」

 どうしてそうなる。

「撫でられたいのか?」

「かやちゃんだけずるいからね。」

 ...うーん。ただ不公平だからって訳じゃなさそうだけど...。
 まぁ、これで黙っててくれるなら...。

「じゃあ、失礼して...。」

「ん....。」

 期待した顔で見てくる葵を撫でる。

「....えへへー.....。」

「(凄い顔が緩んでる....。)」

 僕ってそんな撫でるの上手いか?...それとも、撫でられるのがそんな嬉しいのか?

「....何、やってるの?」

「...あ、椿....。」

 ...そして、今度は椿が起きて僕らを見ていた。

「撫でて貰ってるんだよ?」

「...いえ、それは見てわかるのだけど...。理由と経緯が知りたいわ。」

 ジト目で見てくる椿。...これは、正直に話した方がいいか...?

「かやちゃんだけじゃ不公平だからあたしも撫でて貰ったんだよ。」

「...え?」

 僕と葵の顔を交互に見て、椿の顔が一気に赤くなる。

「な、撫で、撫でた!?優輝が私を!?」

「...あー、うん。好奇心に負けて...。」

 もう、ぶっちゃけてしまって謝った方が早いな、これ。
 そう覚悟して椿を見ると...。

「...ど、通りでどこか心地よかった訳ね....。」

「....椿?」

「な、なんでもないわ!」

 ボソリと呟いた言葉を、僕は聞き取れなかった。
 声を掛けてみても、顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。

「....ほ、他の人にはやっちゃダメよ!ダメなんだからね!」

「え、あ、ああ。...ごめん...。」

「次はないんだから!」

 怒ったように顔を逸らす椿だが、許してもらえはしたようだ。
 ...というか、花が咲いてるって事は、むしろ嬉しいのか?

「.........。」

「.......。」

「....皆、疲れていたのね。」

 沈黙が続き、気まずくなりかけた所で椿がそういう。

「...まぁ、ね。皆してぐっすり眠った程だし...。」

「それほどまで厳しい戦いだったものね...。」

 “疲れていた”と自覚した途端に、お腹が空いてくる。
 時間を見れば、ついさっきの戦闘の事が昨日になっていた。

「...食堂に行こうか。」

「そうね。」

「あたしもお腹減ったよー...。丸一日何も食べてないし...。」

 そういえば葵は瀕死の状態でずっと国守山にいたんだったな...。
 葵のためにも、さっさと食堂に行くか。







「あら、優輝おはよう。」

「あ、母さん。それに父さんも。」

 食堂に行くと、ちょうど料理を受け取っていた母さんと父さんに出会った。

「さすがに昨日は疲れたみたいね。三人でぐっすり眠っちゃって♪」

「うぇっ!?母さん、僕らが寝た後に部屋に来たの!?」

「ええ。息子たちの事ですもの。気になって様子を見に行くのも当然だわ。」

 まさかあんな無防備に寝ていたのを見られたなんて...。

「あ、それじゃあ私たちは朝食を食べてくるわ。席もまだ空いてるし、よかったら来なさい。」

「...はーい...。」

 第三者に見られるって結構恥ずかしいな...。

「....とりあえず、料理を頼むか。」

「...そうね。」

「そうだねー....。」

 椿と葵も恥ずかしいのか顔が赤かった。
 ...腹ごしらえして、気分を切り替えるか。





「...そういえば、あの銀髪の子...奏ちゃんだったか?その子が優輝の部屋に来ていたぞ?」

「奏が...?」

 結局母さんたちの近くに席を取り、朝食を取っていると父さんにそう言われた。

「私が疲れて眠っているって伝えたら、帰っていったけど...。」

「...ふむ...。」

 魅了が解けて、戦いが一度終わったから何か言いたい事とかできたのか?

「...まぁ、後で会ってみるよ。」

「そう。...ごちそうさま。じゃあ、私たちは行くわね。」

「うん。」

 母さんと父さんは食器をお盆に乗せて返し、そのままどこかへ行った。

「んぐんぐ...。」

「...よく食べるわね...。まぁ、仕方ないのだろうけど...。」

 会話に入ってこなかった椿と葵に視線を向けると、葵はいつもより多く頼んだ料理を口いっぱいに頬張っていた。
 ...丸一日何も口にしてなかったのだ。仕方ないと言えば仕方ない。

「(ジュエルシードが見つかるまで待機...か。何しようか...。)」

 ただぼーっとしてるだけでは性に合わない。
 だからと言って、不用意に鍛えようとすると不測の事態に対処できない。

「(とりあえず、奏の所に行って...その後は...。)」

 今後の予定を粗方決めながら、僕は葵が食べ終わるのを待った。





     コンコンコンコン

「....誰...?」

「僕だ。奏。」

「優輝さん...!?」

 朝食が終わり、僕らは奏に宛てられている部屋に向かった。
 ノックをして声を掛けると、奏は少し驚いた様子だった。

「...どうして、ここに?」

「母さんと父さんから僕の部屋に来たって聞いてさ。何か用があったんじゃないかって思って来たんだ。」

「...とりあえず、入ってきてください。」

 扉越しの会話もアレなので、奏に入ってくるように促される。
 入ると、奏は椅子を出してくれたので座らせてもらう。

「....用って言っても、そんな絶対に済ませなきゃいけないって訳でもないんです。...ただ、改めてお礼を言いたかっただけで...。」

「お礼....か。」

 おそらく、あの夢の中での話か、前世の事を言っているのだろう。

「改めて言わなくてもいいよ。僕がやりたくてやった事だ。」

「...そう、ですか...。」

 そう言っても納得してなさそうなので、席を立って奏の頭に手を置く。

「僕にとっては、親しくしていた奏が魅了から脱した。それだけでいいんだよ。お礼を言いたいのも分かるけど、それならこれからは友人として接してくれればいい。」

「優輝さん...。」

「...その方が、僕も嬉しいからな。」

「...うんっ....!」

 やっぱり奏には笑顔が似合う。
 前世では、僕の知る限り最後の方以外あまり笑わなかったからな...。

「......。」

「かやちゃん、嫉妬してる?」

「はっ!?ば、馬鹿言わないで!そ、そんなはずないでしょっ!?」

 ずっと黙ってた椿と葵がそんな会話を繰り広げる。

「えー?でも、羨ましそうに奏ちゃんを見てたよ?」

「っ....そ、そんな事....!」

 否定しようとしている椿の視線は、必死に目を逸らそうと泳いでいた。

「...優輝さん、やっぱりモテてる?」

「...やっぱりって、どういう事だ...?」

「そのまま。」

 ジト目で奏に言われる。....やっぱりってそんな事ないと思うが...。

「(でも、少なくとも緋雪と椿には好意向けられてるんだよなぁ...。)」

 緋雪はもう死んでしまっているけど、間違いなくあれは好意を向けられていた。
 それも、“シュネー”としてではなく、“緋雪”として。
 僕は別にどこぞの主人公とかと違って鈍感ではないからね。
 ...鈍感じゃ、ないよな...?なんか自信が持てない...。

「....あ、そういえば、これ...。」

「あ、渡したままだったな。まぁ、半分は奏が持っていてくれ。」

「うん。ありがとう...。」

 渡していた魔力結晶の半分を返してもらう。...尤も、だいぶ消費されてたが。

「優輝さんのおかげで、新しい戦い方も見つけれたよ。」

「そうか?...なら、よかった。」

 まぁ、見つけれてなかったら時間稼ぎもほとんどできなかったけどね。
 それがわかっていたからこそ、僕は魔力結晶を渡したのだ。

「魔力結晶がない状態で、どこまで使えるか試したいけど...。」

「...あー、さすがに、相手になるのはパスで。まだ回復しきってないしな。」

「あ、じゃああたしが相手になるよ。体力なら回復してるよ。」

 試験的な模擬戦の相手に、葵が名乗り出る。
 ...さすが吸血鬼。あの傷を治して体力も回復したんだ...。

「....負けないわ。」

「こっちのセリフだよ。」

「(...あれ?なんか火花が散っているように...?)」

 ...二人に何かあったっけ?正直名前の字面が似ている程度しか...。(奏、葵)







「(...さて、僕もパワーアップした葵や奏の強さを見るのは初めてだ。)」

 奏はともかく、葵は霊脈とのパスを繋いだ事で全盛期に近づいたからな...。
 どう戦うのか、楽しみだ。

「どうして優輝やその周りはこう...休まる暇がないんだろうね。」

「...なんか、悪いなアリシア。」

 そして、その模擬戦を管理するのにアリシアが割り当てられた。
 ...さすがに、他にもやる事があるからな。
 正式な模擬戦ではないから、トレーニングルームの端で僕と椿が守る形になっている。

「まぁ、軽い模擬戦だから息抜きもできるんだけどね...。」

「軽い...ね。」

 確かに本気ではないが、軽く見えるだろうか...?

「....始まるわ。」

 そして、椿の呟きと同時に奏が駆け出した。
 ...なるほど。葵は迎え撃つつもりか。

「は、ぁっ!」

「っ...!」

     ギ、ギィイン!

 それは一瞬の出来事だった。
 ハンドソニックを使って奏は二連撃を放ち、葵はそれをレイピアで素早く凌ぐ。
 だけど、それは見えない訳でも対処できない訳でもない、ただの様子見だ。

「葵...凄いな...。」

「私としては、奏の動きの方が驚いたわよ。」

「え、えっ?な、何か驚く事があったの?」

 しかし、今のぶつかり合いはただ斬りかかっただけではない。
 アリシアにはそうにしか見えなかったが...。

「葵は最初は普通に受け止めるつもりだったわ。人間と吸血鬼じゃ、力の差が歴然だものね。」

「だけど、葵は()()()()。なぜだかわかるか?」

「...そうしないと、いけなかったから?」

 再び斬り合い、魔力弾も飛び交うようになったのを背景に、アリシアと会話する。
 会話しながらも、ちゃんと試合は見ているから大丈夫だ。

「その通り。...奏はな、攻撃が当たる直前に、その当てる場所をずらしたんだ。」

「ずらす...?」

「そうだな...例えば、武器を叩き落そうと手を狙ってくるだろう?すると、防ごうと狙われた方も動く。そこで、いきなり狙う場所がずれて、腕辺りを狙われるとどうなる?」

「思っていた所と違う場所を攻撃されるから...防御が崩される?」

「概ね正解だな。」

 防御は行う際に、意識を少なからず集中させる。
 だけど、その外...もしくは少しずれた場所から攻撃されると、力が乱される。
 戦闘に関しては未熟なアリシアには分かり辛かったが、概ね理解はしたようだ。

「ちなみに、奏が攻撃をずらすのには、移動魔法を使っている。」

「“ディレイ”...だよね?奏の移動魔法って言えば。」

「ああ。それを瞬間的に使用する事で、先程言った事を実践している。」

 あらゆる“柔”の技を打ち崩す事のできる戦術だ。
 現に、葵も奏の攻撃を“後から判断”して防いでいる。

「消費魔力も全体を見れば相当なものだが、そこはカートリッジや僕の魔力結晶を用いれば解決する事だ。偽物でもそうしてたし。」

「教えられたとしても早々実践できるとは思えないけど...貴方が教えたので間違いないのよね?」

「ああ。...あれは“僕でも防げない戦法”として教えたからな。実践できるかどうかは...まぁ、奏を信じただけさ。...それよりも、葵があれを初見で凌いだのが驚きなんだけど。」

 あれはまさに初見殺し。偽物はあまりにも大きな力量差だったからこそ、初見でも普通に凌いでいたが、僕であれば一撃は確実に喰らっていただろう。

「....幻惑を扱う妖と戦った事がなかったとでも?」

「...あぁ、なるほど。」

 奏の戦法は一種の幻惑に近い。なら、それと同じように動けば多少は防げる..と。
 というか、やっぱり椿や葵たち式姫の戦闘経験は凄いな...。妖は様々な種類がいるから、その種類によって戦法も違い、その経験も凄まじいのだろう。
 確かに僕も戦闘経験はムートの時代も合わせれば相当な量にはなるが、その種類は豊富ではないからな。

「おまけに、奏は先の戦闘と比べて上手く動けていないし、葵は以前よりも強い..か。」

「遠目で見ていたけど、一時的とはいえあそこまで戦えるのが異常なのよ。」

 火事場の馬鹿力みたいなものか?土壇場だからこそ動きが良くなる的な...。

「...あ、奏が負けた。」

「新しい戦法だからな。先に魔力が尽きたか。」

 見れば、戦闘に決着が着いていた。勝者は葵だった。
 まぁ、奏のあの戦法も、葵は蝙蝠になる事で回避できるから、仕方ないか。

「じゃあ、記録取って私は戻るね。」

「ああ。時間を取って悪かったな。」

 そう言って去っていくアリシアを後目に、僕は用意しておいた飲み物とタオルを持って二人の所へ走っていった。

「お疲れ。」

「いやぁ...奏ちゃん、強くなったねぇ...。」

「....負けた....。」

 椿が回復術を掛け、僕は二人に飲み物とタオルを渡す。
 奏、以前と違って目に見えて落ち込んでるな。
 魅了が解けて感受性が高くなったのか?

「奏はまだまだ伸びしろがあるさ。短期決戦なら、僕を上回れるだろうしね。」

「....うん。」

 さて、模擬戦も終わった事だし、どうするか...。

「(....それにしても...。)」

 ふと、そこでアリシアの事を思い出す。

「(あの潜在霊力...。)」

 椿と目が合い、葵にも目配せして頷く。
 ...まずは、一端奏と別れるか。





「...やっぱり優輝も気づいていたのね。」

「ああ。さすがにな。」

「あれにはあたしも驚いたよ。」

 奏と別れ、やってきた...というより、戻ってきたのは僕の部屋。
 ...もう、三人の部屋って事でいいんじゃないかな?

「模擬戦の事を頼む時、まさか動揺を隠す事になるとは思わなかったよ。」

「...今のこの状況じゃ、不用意に教えても意味がないものね。」

 会話の内容は、もちろんアリシアの事。
 ...そう、さっきまで一緒にいたアリシアについてだ。

「潜在霊力...あれ、今の優輝を軽く超えてるわよ。」

「江戸の時でもあれほどの陰陽師はあまりいないよ。」

「ましてや、アリシアは霊術の一つも使えないしな。」

 アリシアには、途轍もない霊力が眠っていた。それも、僕を軽く凌ぐほどの。
 さすがに、今の椿たちには及ばないが、初期でこれ程なのは異常だ。

「霊術と関係ない暮らしをしてきた人間が、あそこまで霊力を秘めているのはあり得ないわ。それに、ついこの前まではその兆候すらなかったのに...。」

「何か理由がある....と。」

 まぁ、それ以外に考えられないな。

「変わったのは...偽物との戦いが終わってからか...?」

「...違うわ。あの時、ようやく合流を果たした時。...思えば、あの時点でアリシアから霊力を感じれたわ。...あの時は戦いの傷もあって気にしてなかったけど。」

「そうなのか...。」

 ...となれば、おそらく変わった時期は校庭での初の偽物戦....。
 .....まさか...。

「魅了が解けた...から?」

「...さすがにそこまで単純じゃ...。」

「でも、原因の一つとして考えられそうだよ。」

 あれ以外に僕らの知っている中で原因らしい原因はない。
 だけど、それだけが原因とも考えられない。

「潜在霊力が感じられるようになったのは、おそらくそれまで魅了で抑え込まれていたから...。魅了が心や魂に作用しているのなら十分にあり得る...。」

「じゃあ、霊力が多いのは他に理由が?」

「...そうなるかな。」

 “霊力が増えた”という原因としては考えられないが、“抑えていた”原因としては十分に考えられる。

「霊力が増える要因ってなんだ?」

「...普通に鍛えるのが主だけど...そうね、生と死の狭間を垣間見たり、幽世や黄泉と関われば自ずと増えるわ。」

「だから、幽霊やそういう類は霊力を持っているんだよ。」

 生死の狭間...臨死体験や、所謂“あの世”と関わったら...か。
 つまりは、“死”を体験すると、霊力が増えるのか...。

「...あれ?そうだとしたら、僕や葵は...?」

「...そういえば、優輝や緋雪も転生したんだったわね。」

 僕や緋雪は二回、葵は一回“死”を体験している。他の転生者(奏達)もそうだ。
 ...僕と緋雪の場合、二回目の死は自覚できなかったけど。

「あたしの場合は、別の次元世界の産物...つまりは魔法系のモノに生まれ変わったから増えなかったんじゃないかな?むしろ、霊力を再び持てた事が凄いってぐらいだよ。」

「...僕ら“転生者”の転生も、普通とは少し違う。...だからじゃないか?」

「なるほどね。生死の狭間を彷徨う事もなく、また普通とは違う転生だったために霊力の増加は少なかった...と。」

 椿曰く、司さんや奏にも霊力はあるらしい。だけど、ほぼ魔力で隠れているとの事。
 むしろ僕や葵のように、魔力と霊力を自然と両立させている方が珍しいらしい。
 葵も式姫としての経験がなければ両立はできなかったらしいし。

「...そういえば、聞いてなかったのだけど、“転生者”とか司の前世も知っている...つまり、“前世”を二つ持っている事も気になるのだけど...。」

「...また別の機会に話すよ。」

 そろそろ椿と葵には話してもいいだろう。
 ...というか、父さんと母さんにも話しておくべきかな。

「でも、さっきの話から考えると、アリシアちゃんは生死の狭間を彷徨ったか、幽世関連のモノに接触したとしか考えられないけど...。」

「...そういう体験をしたのか、タイミングを見て聞かないとな。」

 少なくとも、司さんを助けるまでは聞く必要はないだろう。

「そっとしておけば、別に霊力が暴走する事もない。かと言って一朝一夕で戦力に仕立て上げる事もできない。...なら、今は置いておこう。」

「...そうね。今は、それでいいわね。」

 さて、アリシアの事も一時的に放置するって決めたし、何をするべきか...。

「(偽物が言ったキーワードは...リンディさん達が考えているし、僕は別方向で何か役に立てないかアプローチしてみるかな。)」

 となれば、今できる事となると...。
 ...と、そこまで考え、無意識にポケットに手を突っ込んだ際の感触に気づく。

「(シュライン....あ、そうだ!)」

 サポートに徹していたため、今はスリープモードに入って僕のポケットで眠っているシュラインに触れ、僕は今できる事を思い出した。









 
 

 
後書き
かわいい椿達が書きたかった。>冒頭
ヒロインなのにただ家族って感じがしたので...。
椿はともかく、葵も(いつの間にか&分かり辛いけど)優輝の事を好いているので、ちょっと嫉妬っぽい成分を入れました。
奏と葵が対抗しているのは、一歩離れた所から優輝を見ている者同士だからです。他には同じ銀髪キャラだったり。(親近感があるからこその対抗心みたいな?そこまで深い理由はないです。)

もう一話戦闘なしの回が続きます。 
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