色を無くしたこの世界で
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ハジマリ編
第19話 心配
アステリの話から数時間後。
天馬の通う雷門中学校は4時限目も終わり、昼食に入ろうとお弁当を広げる女子達や、購買部へ向かおうとする男子生徒などで賑わっている。
それは昨夜、自らに起こった不思議な出来事が嘘なのでないかと思わせる程に、平凡で日常的な光景だ。
席についたままボーッと窓の外を見る天馬は、今朝のフェイとアステリとの会話を思い出していた。
『敵は強大だ。今回みたいに、フェイ自身の体力を使ってしまうデュプリに頼っていては勝てないだろう。もっと沢山の人達が協力してくれたら、心強いんだけど……』
『だったら、サッカー部の皆にも声をかけてみるよ!』
『でも、そんな簡単に協力してくれるかな……何しろ難しい事情だし』
『大丈夫だよ。ちゃんと説明すれば皆協力してくれるさ!』
『そうだと良いけど……』
『じゃあ、雷門にはボクが案内するね。時間はー……放課後の練習前で良いかな?』
『うん。その時間なら皆、集まってると思う』
『それじゃあ、ボク等はサッカー棟前の階段下で待ってるね』
(『ちゃんと説明すれば大丈夫』だなんて……朝は言っちゃったけど……)
朝の会話を思い出す内に、天馬は自分の発言が軽率であった事に気付く。
アステリの話は、まだ納得行かない所もあるが、大部分は理解出来ているつもりだ。
だから今朝の天馬は「説明すれば大丈夫」と言ったのだろう。
だがそれは、アステリの説明のお蔭でもあるが……大部分はあの『カオス』と言う男の影響だ。
一瞬の内に巨大なサッカースタジアムを出現させたり、自分の流した血から人を生み出したりと言う特殊能力。
それに試合をしている時に感じた、自分達のやってきたサッカーとも、今まで戦ったどんな強敵とも何かが違う……あの感じ。
何が違うのかは分からない。
でも同じフィールドで、同じ一つのボールを奪いあっていて確かに感じた。
『雰囲気』とでも言うのだろうか。
不確かで目には見えない……けれどもその身に感じた不思議な威圧の様なモノ。
それが天馬の頭に「この話は事実なんだ」と言う事を刻み付けた。
でも、他のメンバーはどうだろうか?
突然現れた少年が『世界の危機』だとか『色』がどうのこうの言った所で、不審者扱いされるだけで信じてくれ無いのではないだろうか……?
――もしそうなったら、どうすればいいんだろう……
――どうしたら皆に分かってもらえるかな……
「てーんまっ!」
「わっ!?」
突然背後から声をかけられた天馬は、廊下にまで聞こえそうな程の驚きの声を上げる。
教室中の人がクスクスと笑う中、何が起きたのかと振り返ると楽しそうに笑う信助と葵がいた。
「天馬、ビックリしすぎ~」
「なんだぁ……葵と信助かぁ……」
ホッと胸を撫で下ろし「ビックリしたぁ」と顔をほころばせると、二人も笑顔で「ごめんごめん」と謝る。
「天馬が何か考えているみたいだったから、珍しくてつい」
信助の言葉に「ついって何」と笑う天馬に、葵が少しだけ心配そうな声で何かあったのかと訪ねて来た。
その言葉に天馬の動きが一瞬だけ止まる。
――マズイ……
今、この場で二人に「アステリが~……」とか「モノクロ世界が~……」と言った所で、葵と信助は首を傾げ「寝ぼけてるの?」と言って、信じてくれるハズがない。
「あはは……別になんでもないよ~。ただ、早く放課後にならないかなぁって考えてただけ」
天馬の笑顔とその言葉に、葵も納得した様に「天馬らしいね」と笑う。
その笑顔を見ながら、天馬は再度、ホッと胸を撫で下ろした。
――良かった、何とか誤魔化せたみたい……
「あ、そうそう。天馬、お昼一緒に食べない?」
「狩屋と輝も来るって! ……剣城には逃げられちゃったけど」
二人の言葉に「行く!」と笑うと、天馬は秋が作ってくれたお弁当を持って先を歩く二人と共に教室を出た。
――フェイとアステリは大丈夫かな……
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