八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第九十七話 蛍の光その二
「あの歌親父も好きでして」
「止様もですね」
「ああ見えても音楽好きなんですよ」
ジャンルはよければ何でもだ、ロックもポップスもクラシックも聴く。
「それでなんです」
「蛍の光もですね」
「好きなんです」
「止様らしいですね」
「あの歌が好きなことは」
「はい、奇麗な曲もお好きでして」
それでとだ、畑中さんは僕に話してくれた。
「そうした曲も聴かれるのです」
「あれで芸術好きですからね」
女の人やお酒だけじゃない、それも親父の一面だ。
「ですから」
「そうですね」
「はい、まあその親父にです」
僕は畑中さんに幼い時のことを話した、親父との思い出の一つを。
「子供の頃鑑賞会に連れて行ってもらいまして」
「植物園のですね」
「その時からです」
「毎年行かれていますね」
「はい」
その通りという返事だった。
「そうしています」
「そうした事情があったのですね」
「最初連れて行ってもらって何て奇麗なんだろうって思いました」
夜の温室の中で飛ぶ無数の蛍達がだ、その光はネオンの灯りとはまた違った自然の幻想的な美しさがあった。
「本当に」
「そして今年も」
「行きます、ただ僕だけじゃなくて」
「八条荘の他の方々もですね」
「声をかけたいです」
「わかりました、では朝御飯の時にです」
畑中さんは僕に申し出てくれた。
「私からです」
「皆にですか」
「お話をさせて頂きます」
「いつも悪いですね」
「いえ、これが私の仕事なので」
「執事さんの」
「はい、ですから」
いつも通りの淀みのないはっきりとした返事だった。
「ご安心下さい」
「それじゃあ」
「今朝はハムエッグとサラダにです」
畑中さんは今朝のメニューも僕に話してくれた。
「メルバトーストです」
「あの薄くスライスしたパンを焼いたやつですね」
「はい、そちらです」
「あのトースト食べやすいですね」
「ジャムとマーガリンを用意していますが」
畑中さんはマーガリンのことも話してくれた。
「ラム酒を入れたものでして」
「独特の味がしますね」
「はい、ラム酒の」
そうしたマーガリンだというのだ。
「こちらも楽しまれて下さい」
「わかりました」
「果物のジュースもありますので」
飲みものはこちらだった。
「楽しまれて下さい」
「いいですね、栄養的にも」
「小野さんならではですね」
「美味しくていつも栄養も考えてくれていますね」
「それがあの方のお料理です」
ただあらゆる種類のお料理を作ることが出来るだけじゃない、小野さんの凄いところは味と栄養の双方を両立させられることだ。
「朝もそうですし」
「お昼も晩もですね」
「そちらも楽しまれて下さい」
「わかりました」
僕は畑中さんのその言葉に頷いた、そしてだった。
僕は畑中さんと一緒に朝御飯を食べる為に食堂に赴いた、するとそこで畑中さんは実際に皆に鑑賞会のことを説明した。
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