ソードアート・オンライン ~白の剣士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
マザーズ・ロザリオ編
絶剣
前書き
劇場版はイイぞ・・・
エクスキャリバーのクエストから早数日。雪羅、雫、シューの三人はとある場所に来ていた。
「まさか、こんな時期に墓参りとはな・・・」
「まぁ、こんな時にしか来れないからね」
「最近、聴取やら何やらでゴタゴタが多かったしね・・・」
数は減ったものの、今でも定期的に行われるSAOに関する聴取。これに加え雪羅は現在もアクアの開発に携わり、雫は領主補佐として雪羅のサポートをするのと同時に、最近では教員免許を取得するために勉強に勤しんでいる。
シューに至ってはダイシーカフェでアルバイトとして朝から晩まで働いている。何故SAO帰還者専用の学校に通わないのかと理由を尋ねたところ、本人曰く料理の勉強をしたいらしい。しかし最終学歴が中卒、高校中退というのも何と無く気になり、シオンたちが入学して暫くして受けた編入試験を一発で合格し、見事編入してきた。
「まったく、なんでこんな高台に慰霊碑なんて建てたのか菊岡さんに問いただしたい気分だ」
「君はなおのこと大変だしね」
「坂と冬はバッテリーを喰うから嫌いだ」
「アハハ・・・」
雪羅の愚痴に対して顔を見合わせて苦笑いをする二人。そんなこんなしていると頂上の慰霊碑に到着した。
花を手向けるとそれぞれ手を合わせて黙祷を捧げた。
黙祷を終えて帰ろうとした時、雫はシューの姿に何かを感じとった。
「シュー?」
「知ってたか?あいつはここに来るたびに、ああやって長い時間黙祷を捧げるんだ」
「えっ?うん、そういえば確かにそうだった気がする」
確かにシューは慰霊碑に来ると普通の人よりも長く居座っていることが多い。ただ何かをするわけでもなく、ずっと手を合わせている。そう思った雫は自分の思ったことを述べた。
「罪滅ぼし、なんだろうな・・・」
「雪羅?」
「悪い、雫。先に下に行っててくれないか?」
雪羅のお願いに雫は何も聞くことはなく、そのままもと来た道を下って行った。後ろ姿を見送った雪羅は今なお手を合わせているシューの横に移動した。
「今日はどんな謝罪を述べているんだ?」
「・・・多くのプレイヤーを殺した。この手で・・・」
「それは仕事だったからだろ?それにお前の本心でやった事ではない」
雪羅の意味深な発言に対してシューは弱々しく返す。
「それでも、僕は、関係のない人間を巻き込んだ・・・」
「だとしても、あれだけの犠牲で済んだのはお前が抑えつけられたからだろ?そうでなければもっと多くの人間がここに刻まれていた」
雪羅は目の前の大理石の壁に触れたそれは固く、冷たい感触。悲しみの声が聞こえてきそうだった。
「そろそろ、罪滅ぼしの為に戦わなくていいんじゃないか?」
「・・・・・」
シューはその言葉に応えることが出来なかった–––––
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
新アインクラッド第22層の森の中に存在するログハウス。そこに住む家主とその友人たちは今まさに冬休みの課題に取り組んでいるのだが・・・
「うにゅ・・・むにゃ・・・」
勉強に勤しんでいたはずのシリカは隣に座っているアスナの肩に頭乗せて気持ち良さそうな寝息を立てている。
「ほらシリカちゃん。今寝ちゃうと夜眠れなくなっちゃうよ?」
ツンツンと頬を突くと、小さな欠伸と共に目を擦るシリカを見ながらシュタイナーは優しく話しかけた。
「ほら、あと少しだから頑張ろ?」
「はい〜」
「まるで兄妹だな」
「そうだね。世話焼きなところが特に」
そんな微笑ましい光景を一瞥するとシオンはすぐ近くでロッキングチェアで眠っているキリトを見る。膝の上にピナとユイを乗せユラユラと揺れている姿を見て、先ほどの続きを話した。
「まぁ、でも睡魔の原因はこいつにあるんだろうけど」
「本当に気持ち良さそうに寝てるよね」
「スプリガンの寝顔には催眠効果でもあるのかねぇ?」
リズの冗談にその場に今ものはみんな含み笑いを浮かべ、話は新たな話題に移った。
「そういえばアスナはもう聞いた?《ゼッケン》の話?」
「ゼッケン?運動会でもするの?」
「違う違う、人の名前よ」
リズベットは笑いながら手を横に振ると先ほどのアスナが淹れてくれた紅茶を飲むと、シュタイナーは質問した。
「そんなアバターいたかな?」
「ううん、通り名よ。あたしもきゃらネームは知らないんだけどね。とにかく、あまりにも強すぎるんで、誰が呼び始めたのか、ついた名前が《絶剣》。絶対無敵の剣、空前絶後の剣・・・そんな意味だと思うけど。噂をよく聞く様になったのはたぶん1週間くらい前になるけど」
「俺たちがエクスキャリバーを取った後くらいか」
シオンがそう言うとリズベットは疑問を投げかけた。
「アスナが知らないのは無理ないけど、なんでアンタ知らないの?」
「そう言えばアスナは京都だったな。まぁ、俺は少しイギリスまで、な」
「イギリス?」
「あぁ、ちょっと野暮用でな」
シオンは紅茶を啜ると、先ほどの絶剣の話に戻した。
「で?そいつ、どんなヤツなの?」
「デュエル専門で、24層主街区のちょっと北にさ、でっかい樹が生えた小島があるじゃない?あそこに午後3時になると現れて希望者一人ずつ対戦すんの」
「何人挑んだんだ?」
「今は知らないけど、以前30人くらいで押しかけて行った奴らがいるんだけど・・・」
「全員返り討ち、か・・・」
リズベットは頷くとさらにHPを3割以上削れた人がひとりもいなかったことを付け加えた。
「ちょっと信じられませんよねー。あたしなんか、まともに空中戦闘できる様になるまで半年くらいかかったんですよ。なのに、コンバートしたてであの飛びっぷりですからね!」
若干興奮気味に言うシリカを他所に、エリーシャは目の前のタルトを食べ、満足感に浸ると更に続けた。
「しかも、そのデュエルに賭けているものも凄いんだ」
「へぇ?なにかレアアイテムでも賭けてるの?」
「それが《オリジナル・ソードスキル》を賭けてるだよ。必殺技級のやつ」
それを聞いてシオンは思わずピュウと口笛を鳴らした。アスナも興味を持ったのかその情報を尋ねる。
「OSSかぁ〜。何系?何連撃?」
「えーと、見たとこ片手剣系汎用ですね。なんとびっくり11連撃ですよ!」
「じゅういち!?」
「ほう?」
アスナは今にもひっくり返りそうな声を上げる中、シュタイナーは興味深そうな表情を浮かべた。
「それだけ挑む価値があるってだね・・・」
「シオンさんは興味あるんですか、OSS?」
ケーキを食べ終えたシリカが尋ねるがシオンは意外にも首を縦には振らなかった。
「いや、勝負に関しては興味をそそるものはあるがOSSに関してはあまり」
「へぇ、意外ね」
「確かにそれだけの連撃は魅力的だが、残念ながら俺の型には合わないな」
シオンは立ち上がると徐に剣を取り出し外に出た。その後をみんなが追っていくと、外で剣を構えるシオンを見た。
「剣も銃もそうだが、攻撃には遠近とはまた違うパターンある。それは・・・単発か、連撃かだ」
振られた剣は積もった雪を掠め、舞い上がる。部屋の光に当てられキラキラとした雪を眺めながらシオンは更に続けた。
「ユージーン将軍の8連撃《ヴォルカニック・ブレイザー》も、その11連撃のOSSも言ってしまえば連撃の類だ。例えるなら、ガトリング砲だな。休むことのない怒涛の攻撃、一度ペースにハマれば敗北は必須。リーファ、そのOSSをデュエルの中で見たやつはどれほどいるんだ?」
リーファは少し考えた後、首を横に振って応えた。
「最初の演舞で見せたことはあったけどそれ以降は多分いなかったと思う。私とリズさんも挑んでみたけど結局速さで押し切られちゃって・・・」
「対策は講じた。でも勝てない。となると、恐らく自力の差だろうな」
「じゃあどうしよもないじゃない?」
「いや、ないわけじゃない」
リズベットの言葉を聞くとシオンは剣を納めながら応えた。
「まず一つが全ての攻撃を受けきる方法。これならゴツい装備で機動性に欠けるかもしれないが死ぬことはない。もう一つが遠距離からの魔法、または狙撃による攻撃。距離を取れる広いフィールドならこれが有効だな」
「でも、それを実践した人は沢山いますよね?」
「まぁ、そいつらはスピードについていけなかったんだろうな。どんなにすげぇ盾を持っていたとしても攻撃が見えなきゃ防ぎようがないからな」
「じゃあどうするの?」
「簡単さ、初撃を完全に止めればいい」
シオンのあっけらかんな回答に一同はポカンと口を開いた。
「連撃というものはいわば"流れ"そのものだ。それを塞き止められれば、そこから先の動作ができなくなるという擬似的なバインド状態になる。当然だ本当は振り抜いていたはずの二撃目が出ないんだからな」
「なるほどね出どころを止められればそれだけ相手にはプレッシャーになるしね」
「まぁそれをできるやつなんて、数える程度だけどな。ハハッ!」
シオンは高笑いを上げながら部屋の中に戻っていくと、エリーシャは残った紅茶を飲み干したシオンに問いかけた。
「けど、止められない場合はどうするの?スピードの問題もあるけど、パワーで押し切られる可能性もあるし・・・」
「あぁ、勿論これが成功法というわけじゃない。当然スピード、パワーの両方を兼ね備えた連撃も存在する。その場、俺ならこうする」
脚を組み直して背もたれに身体を預けると目を細め、いつもの微笑みから表情を変えた。
「止められないのなら、止めなければいい」
「えっ?」
「さて、講義はここまで。俺は用があるからここで失礼するよ」
「僕もそろそろお暇しようかな」
そう言ってシオンとシュタイナーは皆を残しログアウトしていった。疑問が残る中、他の皆も時間が時間ということもあり次々とその場を後にした。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「・・・ん〜」
趣のある日本家屋の一室で目が覚めた黒の長髪を垂らした青年、シューは窓から差し込む日差しに目を細めた。母が日本の武術の血筋を引いており父も日本好きな事もあり、こうして母方の実家の身を置き、毎日早起きの習慣が身に付いている。
『さて、今日もやるか』
早々に布団を畳み、服を着替え、長い髪を纏め玄関先の戸締りをするとこれも習慣となっている型の稽古に入る。これはSAOにいる時にも欠かさずやっていたことである。命のやり取りを少なからず経験した彼は、いつ自分がそうなるか分からないということから護身用に始めたものである。
「シュー」
呼ばれた先を見ると縁側で見つめる優しい瞳を持った老人がいた。彼こそがシューを引き取った張本人、皇宗源。シューの母方の祖父にあたる人物である。
「じぃちゃん、おはよう」
「今日は何時もより早いのお」
「うん、今日は調子がいいから」
「そうかい、無理はせんようにのお」
「うん、分かってる」
そう言って早めに切り上げると縁側に置いてあったペットボトルに入った水と数錠の錠剤を飲み干した。
「大丈夫なのか?」
「痛み止めを飲んでれば大したことはないよ」
「そうじゃない、わしが言っているのはココのことじゃ」
そう言って宗源はあるところを指差した。その場所を見てシューは大丈夫と言った。
「症状を抑える薬がある。問題ないよ」
「しかし、治せるものなのだろう?」
「まぁね。でも、治す気はないよ。これは戒め、あの世界で多くの人間を殺した自分に対する・・・」
そう言ってシューは水を一気に飲み干し、宗源を一人残して家の中へと戻っていった。
シャワーを浴び、朝食を摂った後は服を着替え出かける準備をしていると後ろから母親に声を掛けられた。
「シュー、今日も行くの?」
「うん、夕飯には戻るから」
「シュー」
「ん、なに母さん?」
「・・・あなた、なんだか最近変わってきたわね」
「変わった?」
母の何気ない一言に反応すると母は普段から見てきた息子の変化を語った。
「えぇ、前みたいによく笑うようになった」
「いつも笑ってる気がするけど?」
「本当の意味で、よ・・・」
母はそう言うと気をつけてねとだけ言って台所へと戻っていった。残されたシューは何気なく頬を触った。まるで表情を確かめるかのように。
「『本当の意味で』か・・・。そういえば・・・」
最後に本気で笑ったのは、いつだっただろうか––––––
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
神奈川県横浜市都筑区。緑多き土地に存在する建物、横浜港北総合病院のまだ真新しさが残る大きな看板を一瞥したシューは慣れた足取りで中央の受付に向かった。
「あら皇さん、今日も面会ですか?」
「はい、お願いできますか?」
「只今先生をお呼びしますのでお掛けになってお待ちください」
シューは受付の看護婦にお礼を言うとビニール素材の椅子に深く腰掛けた。大広間の大きなディスプレイに映るニュースを見ていると、足早に近寄ってくる白衣の姿があった。
「やぁ、すまないね。待たせたかな?」
「いえ、いつもすみません倉橋さん」
左胸の辺りに【倉橋】とネームタグを付けた男性医師はトレードマークの縁の太い眼鏡の位置をクイッと直すと、シューと共に関係者のみが立ち入ることのできるエレベーターに乗りある場所を目指していた。
「あなたがいつも面会に来てくれているおかげで彼女も大変喜んでいます」
「いえ、これくらいしか出来ませんので・・・」
「イギリスに腕の立つ医師がいます。彼ならば彼女の手術は容易いのですが・・・」
エレベーターから長い廊下を抜けた先にある【第一特殊計測機器室】という部屋に入るとそこには一面横長の大きなガラス窓があるのだか、内部が見えないように黒く加工されている。
倉橋が黒ガラスの下部にあるパネルを操作すると、その黒さは一瞬で透明なガラスへと変化した。その先には部屋の中を埋め尽くしている様々な機器の中にベッドと一体化した一際大きな機械があった。【Medicuboid】と簡素なロゴで書かれたそれは酷く痩せこけた少女の頭部の大部分を覆っていた。
そんな少女に対してシューは何気ない日常の一コマのを錯覚させるかのように決まってこう声をかける。
「やぁ、調子はどうだい?木綿季」
後書き
どうも、劇場版を2週連続で視聴して来た作者です(笑)
マザーズ・ロザリオ編が遂に始まりました。
これからどのような展開になるのか、シューは物語にどう絡んでいくのかは今後のお楽しみということで!
感想、評価お待ちしております!
ではでは〜三( ゜∀゜)ノシ
ページ上へ戻る