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世の中全て

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第五章

「じゃあいい加減っていうのは」
「こだわらず欲を出さず無理をしないでね」
「そうしてるってことなの」
「そうだよ、遊ぶことは遊ぶこと」
「あくまでなの」
「遊ぶことであってね」
「こだわらずのめり込まない」
「そうなんだよ」
 彼の場合はというのだ。
「だからいいんだよ」
「成程ね」
「これでわかったかい?」 
 母は娘を見てにこりと笑って言った。
「お父さんが言ってることが」
「まあね、ただね」
「飲む打つ買うはだね」
「お母さんがよくてもね」
 娘である自分としてはというのだ。
「困るわ。子供達が真似したら」
「あはは、それはないわよ」
「ないの?」
「あの人の真似は滅多に出来ないし孫達は誰もだよ」
 それこそというのだ。
「そこはあの人が教えるからね」
「だといいけれど」
「遊びは欲を出したら駄目なんだよ」
「遊びに徹するっていうのね」
「そうしないと駄目だってね」
「お父さん子供達に言うの」
「負けて悔しい、嫌だって思えばね」
 遊びのことでだ。
「それでもう駄目なんだよ」
「遊べないのね」
「お父さんの考えではね、あんたの子供達にも言うさ」
 向山自身がというのだ。
「だから安心するんだ、じゃあ安心してね」
「そしてっていうのね」
「今からどうするんだい?」
 娘のその目を見てだ、母は娘に問うた。
「それで」
「今からって」
「折角来たのにお茶も飲んでいかないのかい?」
 綾子に今問うたのはこのことだった。
「そうしないのかい?」
「ああ、そういうことね」
 ここでやっと娘も理解して頷いた。
「どのお茶を飲むのか」
「何を飲むんだい?」
「じゃあ昆布茶いい?」
 少しだけ考えてからだ、綾子は答えた。
「それじゃあね」
「じゃあ一緒に飲もうね」
「それでお父さんは今日も?」
「今日は競輪に行ってるよ」
「遊んでるのね」
「そうだよ」
 まさにというのだ。
「そうしてるよ」
「今日はそっちね」
「そうだよ、楽しんでるよ」
 遊んでそしてというのだ。
「いい加減にね」
「全く、冗談みたいな生き方ね」
「だから世の中それでもいいんだよ」
「冗談でも」
「そうだよ、冗談でもだよ」
「そういうものなの」
「欲がないならね」
 その場合はというのだ。
「いいんだよ」
「そうなの」
「じゃあ今から昆布茶入れるからね」
「ええ、二人で飲みましょう?」
「お菓子は羊羹がいいかい?」
「何でもいいわ」
 お茶のあてについてはこう答えた、そしてだった。
 綾子は母と昆布茶と羊羹を楽しんでこの日は実家を後にした、次に実家に来た時は夫と子供達も一緒であったが。
 孫達はすぐに自分達の祖父のところに行く、それを見てだった。
 夫の淳は笑ってだ、妻に言った。その眼鏡をかけた如何にも真面目そうな顔で。
「お義父さん相変わらず人気あるね」
「そうね」
 微笑んでだ、妻は夫に応えた。
「いつも通りね」
「あれっ、そこで嫌な顔をしないんだ」
「これまでみたいに」
「いつも子供達がお義父さんのところに行ったら影響受けるからって」
「嫌がっていたっていうのね」
「そうしていたのに」
「ちょっと考えが変わったの」
「そうなんだ」
「だからね」 
 それでというのだ。
「別にいいってね」
「今は思ってるんだ」
「そうなの」
「またどういう心境の変化かな」
「欲がないのならね」
 母から聞いた言葉を思い出しつつだ、夫に答えた。 
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