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幸せは歩いて渡る

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第四章

 するとだ、そこにいたのは。
 先輩から聞いた通りの実に人相の悪い男だった、特に目付きがだ。
 服装も学校の制服を柄悪く着ていてズボンのポケットに手を入れて背中を丸めて周囲を不機嫌そうな顔で睨み回しつつ歩いている。
 その彼を見てだ、友人達は言うのだった。
「絡まれたら厄介だからね」
「因縁もつけてくるから」
「早く出ましょう」
「見ないようにしてね」
「何か皆」
 リンがその大谷を見るとだ、その彼を見てだ。
 周りは避けていた、害虫を見る目で彼を見つつ。
 彼が食券を買って料理を受け取る時も食堂のおばちゃんも嫌な顔をしている、彼が座った席の周りからは学生達が急いで食べて帰り周りの席は開いたままだった。
 リンは友人達に勧められて早く食べてだった、それから。
 彼女達と一緒に食堂を出てだ、彼女達に言った。
「あの人皆から嫌われてるのね」
「だって性格滅茶苦茶悪いから」
「弱い者いじめが大好きでケチで図々しいのよ」
「しかも強い相手にはへらへらして」
「自分は部活行かなくても他人には行けとか行ってないだろとか言ってね」
「自分より成績悪いと凄く馬鹿にしたりするっていうし」
「最悪の奴なのよ」
 それこそというのだ。
「底意地も凄く悪いし」
「後輩なんかもう何されるかわからないわよ」
「伊達に学園一の嫌われ者じゃないわよ」
「関わってはいけない奴なのよ」
「そうみたいね」
 周りの嫌いっぷりと本人の雰囲気を見てだ、リンもわかった。
 それでだ、友人達にこう言ったのだった。
「真壁先輩と本当に逆ね」
「テニス部のよね」
「あの人は評判いいじゃない」
「あの人嫌いな人いないでしょ」
「物凄くいい人だって評判じゃない」
「そうなのよね」
 確かにドン臭く要領も悪いがとだ、リンも答えた。
「いい人なのよね」
「あんないい人いないわよ」
「ああした人こそが幸せになれるのよ」
「人徳が備わってね」
「そうなるのよ」
「いい人はいいことをするから人徳が備わる」
 ここでだ、リンはこのことに気付いたのだった。
「そういうことね」
「そうよ、大谷に人徳なんてないでしょ」
「それも全く」
「そういうの見ればわかるでしょ」
「いい人には人徳が備わるの」
「それで幸せになれるの」
「少しずつでも」
 リンはまた言った。
「そうなっていくのね」
「そういうものでしょ」
 友人の一人がリンに言った、皆で食堂を後にして彼女達の校舎に戻る渡り廊下を歩きながら。
「人って」
「そうよね」
「だから真壁先輩はね」
「幸せになれるのね」
「ああした人こそね」
 渡り廊下を歩きながらそうした話をした、そしてこの日の放課後もだ。
 リンは熱心に部活の練習をして後輩達に公平で優しい真希を見て微笑んで頷いた、彼のことがわかったからこそ。
 そしてだ、先輩の一人にこんなことを言ったのだった。
「幸せって自分自身が導くものなんですね」
「どうしたの、急に」
「いえ、真壁先輩を見て思いました」
「そうなの」
「はい、そうしたものだって」
「まあいい人は幸せにならないとね」
 先輩はこうリンに答えた。
「やっぱりね」
「そうですよね」
「さもないと世の中間違ってるわよ」
「本当にそうですよね」
「ええ、いいことをする人こそが幸せにならないといけないわ」
「人徳が備わって」
「彼みたいな人こそね」
 先輩も真希を見て言った、見れば彼は温厚な笑顔で今も後輩の作業を手伝っている、嫌な顔一つしないでそうしている彼は確かに幸せが感じられた。


幸せは歩いて渡る   完


                         2016・7・24 
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