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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第77話「VS偽物」

 
前書き
前回ラストで押しているように見えましたが、実際は優輝達の方が弱いです。
おまけに不利な状況です。(ジュエルシード戦後で万全ではない)
ただし、リミッターが外れた事によって技術においては優輝は偽物を上回ります。
 

 






       =out side=







「....もういいの?」

「うん。もう行かなくちゃ。きっと、戦いは既に始まってる。」

 八束神社にて、そんな会話が交わされる。

「くぅ....。」

「...手伝えないのは、悔しいけど...。」

「...一定以上自衛できないと、多分戦場に立つことすら難しいからね...。仕方ないと思うよ。」

 臨海公園の方を見据え、身に纏う衣装がボロボロな少女が言う。

「だから、無事に解決するのを信じてて。信じられるっていうのは、式姫(あたし達)にとって力にもなるから。...大丈夫、あたし達は負けない。」

「...でも、まだ傷が...!」

 衣服だけじゃない。少女は未だに体に傷が残っている。
 戦闘自体は可能だが、それでも万全ではない。

「銀の効果が解けただけでいいよ。これぐらいの傷なら、向かっている内に治る。」

「そう...なの?」

「だって、あたしは吸血鬼だもん。再生能力なら、人一倍だよ!」

 一定まで治してくれた巫女に対し、少女は笑う。

「...じゃあ、行ってくるよ。事情を知っている人に何か聞かれたら、上手く説明しておいてくれると助かるかな。」

「......頑張ってね。」

「任せてよ!」

 そう言って、少女は飛び立った。

「何もできない...っていうのは、やっぱり悔しいなぁ...。...それに、あの子は違うけど、ほとんどが私より年下なんだよね...。」

「くぅ....。」

 残された巫女と子狐は、飛び立った少女を見つめながら、そう呟いた。

















「っ!」

 優輝を囲うようにいくつもの剣が創造される。

「打ち崩せ!」

 すかさず優輝は一つの魔力結晶を取り出し、その魔力で同じく剣を大量に創造、包囲していた剣を相殺して撃ち落とす。

「っぁ!」

     ギィイイン!!

 一息つく暇もなく、吹き飛ばした所から偽物が斬りかかってくる。
 それを優輝は棍で受け流すように防ぎ、そのまま棍を回転させて反対の端で叩く。

     ギャリィッ!

「甘い!」

「それはどうかな!」

 しかし、それは防御魔法で逸らされ、反撃の一撃が棍では防げない位置から迫る。
 だが、優輝は棍を双剣へと“創り替え”、逸らす。

「何っ!?」

「驚くフリをしてる暇があったら...。」

     ギギギギギィイン!

「もう少しカモフラージュするんだな。」

 あっさりと凌がれた事に驚く偽物だが、それは見せかけだった。
 不意を狙って創造した剣を射出するが、先程と同じ手口で優輝は相殺する。

「はっ...!言ってろ...!」

「はぁっ!」

 偽物も武器を双剣に変え、怒涛の剣戟を繰り広げる。
 斬り、防ぎ、払い、受け流し、弾く。
 また、互いに不意を狙って射出される武器群がお互い相殺され続ける。

 あまりに激しい攻防だが、それでも二人に傷は一つもない。

「(...埒が明かないな。このままだとこちらが不利....か。)」

 斬り合う中、状況を解析した優輝がそんな結論を出す。
 そして、すぐさま動きを変える。

「はっ!」

   ―――“霊撃”

 二刀の刃が互いにぶつかり合った瞬間、優輝は霊力を放出して間合いを取る。
 すぐさま、優輝は武器を双剣から槍へと“創り替える”。

「“Anhalt auf(アンハルト・アウフ)”...!」

 優輝は、ある青い槍兵を思い浮かべる。
 それは、ただアニメ上での存在と動きでしかないが、それで充分だった。

「っ、く...!」

「は、ぁっ!」

 一息で偽物へと接近し、超高速の突きを連続で放つ。
 導王流・弐ノ型を織り交ぜたその突きは、導王流で受け流す事も難しく、偽物は逸らす事に専念していた。

「ぜぁっ!」

     ギィイイン!!

「ぐ...!調子に乗るな!」

 渾身の一突きが偽物の二刀を捉え、偽物は大きく後退する。
 しかし、その間に射出された剣が優輝を襲う。

「っ...!」

     ギギギギィイン!

 払い、回し、弾く。
 長く、小回りが利かない槍を器用に扱い、剣を全て弾く。

「はっ!」

「っ、ぐっ...!」

 しかし、それは悪手だった。
 背後に短距離転移され、長剣に武器を変えた偽物に斬りかかられる。
 咄嗟に槍を盾にして防ぐも、横に大きく吹き飛ばされてしまう。
 例え基本身体能力が偽物に勝っていても、魔力による強化で簡単に覆された。

     ドドドォオン!

「吹き飛べ!」

「ぐ、ぁあっ!?」

 吹き飛ばされた先に剣が射出され、優輝はそれを上に跳んで躱す。
 しかし、そこへ偽物の攻撃が叩きつけられ、威力を受け流すも吹き飛ばされる。

「ちっ...!」

「遅い!」

 崩れた体勢を立て直すために魔力で足場を作り、宙を駆ける。
 だが、身体強化によって速くなった偽物は、追いついて追撃を仕掛けてくる。

「ぐぅ...!」

「ぜぁっ!」

 魔力に物を言わせた身体強化に加え、導王流を無効化する導王流の動き。
 その二つが合わさり、優輝は再び大きく吹き飛ばされる。
 咄嗟に槍から長剣に創り替え、受け流そうとしても無意味だった。

「さぁ、これはどうする?」

 吹き飛ばされた所に、優輝では不可能な量の創造された剣が叩き込まれる。
 魔力源がジュエルシードだからこそできる物量だ。

「“扇技・護法障壁”!!」

 大量の剣を、優輝は霊力による障壁で防ぐ。
 物質化しているとはいえ、魔力でできた剣なので、圧倒的な剣群を凌ぎきる。

「“模倣(ナーハアームング):セイント・エクスプロージョン”!!」

「っ.....!!」

 だが、凌ぎきった所に、魔法陣が足元に展開し、爆発する。
 それを咄嗟に短距離転移で躱すが...。

「っ、バインドか...!」

 どれか一つにはかかるように、バインドが張り巡らされており、それに引っかかる。
 すぐに解析して解けるとはいえ、それが通じるのは他の者との戦い。
 一瞬の隙も見逃さない偽物のような相手にはその一瞬が命取りだった。

「“アォフブリッツェン”!!」

 一瞬で偽物は間合いを詰め、十八番の技を放ってくる。
 回避は不可能、防御魔法で防ぐしかない状況だが...。

「...はっ。」

「っ!?」

 優輝はそれを薄く笑った後、()()()()()()()()()()長剣ではなくシャルで防いだ。
 シャルには魔力が込められ、炎を纏って一閃を防げるようにしてある。

「なっ....!?この力は...!?」

「“Anhalt auf(アンハルト・アウフ)”...!誰を参考にしたかは、僕の記憶を持っているお前ならば、よくわかるだろう...!」

「緋雪の力....!」

 そう。優輝は緋雪の力をその身に宿し、バインドを無理矢理破壊しつつ、そのまま炎剣を以って攻撃を防いだ。

「緋雪の力と僕の導王流...その無駄にある魔力で凌いでみなっ!!」

「ぐぅ....っ!?」

 さらに魔力が込められ、力で押し切るように偽物を弾き飛ばす。
 だが、創造された剣群が優輝を襲う。

「...爆ぜろ!」

 しかし、それは優輝の魔力を起爆剤とした魔力結晶による爆発で弾け飛ぶ。

「ぜぁっ!!」

「舐めるな...!!」

     ッギィイイイイイイン!!!

 さらに身体強化をした偽物の長剣と、優輝のシャルがぶつかり合う。
 力は拮抗し、鍔迫り合いへと持ち込まれる。

     ギャリィイッ...!

「はっ!」

「っ!」

     パキィイン!

 鍔迫り合う剣を横へと押し込み、優輝は回し蹴りを放つ。
 それを偽物は咄嗟に防御魔法で防ぐが、一撃で割られる。

「ちっ!」

「っ!爆ぜろ!」

 ギリギリで凌いだ偽物は飛び退き、剣群を優輝に差し向ける。
 だが、それは優輝が放った魔力の衝撃波で吹き飛ばされた。

「何...!?」

「はぁっ!」

 しかし、さすがに同じ手を使った訳ではない。
 弾かれた剣の内、二振りの剣が再び優輝へと向かう。
 同時に、偽物も再び斬りかかり、三方向からの攻撃を防ぐ事になる。

     ギギギィイン!

「これ、は...!」

「疑似三刀流...凌いでみろ...!」

 同じく創造した二振りの剣で二刀を受け、偽物からの剣は直接シャルで受け止める。
 創造した剣を操作し、まるで三人で攻撃するように優輝を攻撃する。

「(包囲された状態...力が互角なら、ここから離脱しなければ...。)」

 縦横無尽に振るわれる二刀と直接の攻撃を凌ぎながら優輝はそう思考する。
 そして、すぐさま行動に移す。

     ギギギィイン!

「逃がさん!」

「っ!」

 もう一刀創造し、一瞬だけ三方向全ての攻撃を止める。
 その一瞬を利用し、上に飛び上がる。

 しかし、その動きは予想されていたのか、大量の武器群が優輝を襲う。

「ちっ!」

「はっ!」

 それを魔力結晶の爆発で防ぎ、背後からの強襲も防ぐ。

「圧殺!」

「な...ぐぅっ!?」

 しかし、自身ごと掛けられた重力魔法により、地面へと叩きつけられてしまう。

「っ、そのためにわかりやすい上を...!」

「その通り...!押し潰れろ...!」

 優輝にとって、先程攻防の後で上を取るというのは、常套手段だった。
 なのに、敢えて偽物がその行動を取ったため、重力魔法に掛かってしまったのだ。

「はぁっ!」

「っ...!」

 さらに一際魔力が込められ、優輝は地面にめり込むように押し込まれる。
 その瞬間に偽物は飛び退き、そこへ創造した剣が殺到する。

     ドドドドドォオオオン!!

「...耐えたか。」

「は、ぁ....!」

 剣に込められた魔力が爆発するが、優輝は“アイギス”で耐えていた。
 爆発と重力魔法で出来たクレーターから飛び出し、間合いを離して息を整える。

「(...一手でも間違えれば負けるのは必至。...だけど、それは相手も同じだ。)」

 まだまだ死闘は続くだろうと思い、仕切りなおされた戦闘を再開した。









 一方、椿と葵の偽物は...。

「はぁっ!」

「っ...!」

     キキキキキィイン!

「ふっ!」

「っ!」

     パシィイッ!

 レイピアの連撃を短刀で凌ぎ、一瞬の隙を突いて掌底を繰り出す。
 しかし、その掌底は渾身の霊力は込められていないため、受け止められる。

「くっ...!」

「っと。」

 すぐさま御札を袖から落とし、発生させた風の刃で後ろに下がらせる。

「っ....!」

「へぇ...!」

     キキキキィイン!

 間髪入れずに椿は間合いを詰め、短刀を振るって偽物を攻め立てる。
 しかし、そのどれもがリーチの差で防がれてしまう。

「(やっぱり、まともに攻撃しても通じない...!)」

「....そろそろ、本気で行くよ。」

「っ!」

     ギィイン!!

 静かに偽物がそう言った直後、振るわれたレイピアの一撃で椿は後退する。

「(しまっ...!)」

「“呪黒剣”。」

 後退し、間合いが開いた瞬間、椿はその場から飛び退く。
 瞬間、連続で黒い剣が地面から現れ、次々と椿を襲う。

「くっ...!」

 ユニゾンしなければ飛べない椿ならば、このまま偽物からの攻撃も来て厄介極まりなかった...が、今はシュラインを所持しているため、魔力の足場を跳んで上空へと回避した。

     ギギギィイン!

「っ...!優輝みたいな事を...!」

「はぁっ!」

「くっ!」

 そこへ複数のレイピアが殺到し、咄嗟に短刀で全て逸らす。
 その間に蝙蝠となって背後に回った偽物がレイピアを振るい、椿は屈んでそれを躱す。

「“弓技・三瞬矢”!」

 飛び退き、間合いを取りつつ神速の三連撃の矢を放つ。

「っ、らぁっ!」

     ギギギィイン!

 しかし、それは渾身の力で振るわれたレイピアにより弾かれてしまう。
 だが、それによって間合いを離す事はできた。

「(接近戦に持ち込まれれば私に勝ち目はない。なら、遠近を合わせた戦法で...!)」

 短刀を右手の小指と薬指で持ちながら、何度も矢を放つ。
 短刀と弓矢を同時に扱う事で、遠近両方の攻撃をこなせるようにする。

「はっ!」

「甘い!」

 繰り出される矢、それを弾きながら接近しようとする偽物。
 しかし、椿も常に距離を取るように動いているため、鼬ごっことなっている。

「あたしだって、遠距離の手段はある!」

「っ!」

     ギギギギィイン!

 放たれた矢が、射出されたレイピアによって相殺される。
 弾け飛ぶ矢の霊力とレイピアの魔力が晴れた時、偽物の姿はそこから消えていた。

「っ...!」

「はぁっ!」

     ギィイイン!!

 背後からの殺気に気づき、振り向きざまに短刀を振るう。
 そこへちょうどレイピアが振るわれ、椿は大きく後退する。

「(遠距離攻撃を適格に潰してきた...!なら...!)」

 再び矢を放ち、先程と同じようにレイピアに相殺される。
 そして、またもやそこから偽物の姿は消え...。

「“霊縛呪”!」

「っ!」

 背後からは読まれると思い、横から蝙蝠が集まって現れた偽物が攻撃を放つ。
 しかし、それも読んでいた椿の術式により、レイピアを持つ腕が止められる。

「シッ!」

「く...!」

 拘束が魔力で無理矢理破壊されると同時に、椿の短刀による袈裟切りが決まる。
 肩からばっさりと斬られた偽物だが...。

「残念ながら、その程度の攻撃は無意味だよ。」

「...厄介ね。」

 あっさりと再生して回復され、徒労に終わる。

「(倒すには再生も無意味な一撃必殺が妥当ね...。でも...。)」

     ギギギギィイン!

 風切り音と共に放たれる矢は、全て弾かれる。

「(身体強化魔法...偽物とはいえ、葵なら使えて当然か...。)」

 吸血鬼の力に加え、身体強化魔法によって強化された偽物の力は、容易く椿の矢を弾いてしまう。

「(加え...。)」

「こっちの番だよ!」

     ギィン!ギギギィイン!!ギギィイン!

「(レイピアの投擲による遠距離攻撃ね...!)」

 反撃として放たれたレイピアを、躱し、短刀で逸らす。
 それだけで椿は後退する程の衝撃を受ける。

「(近接戦は元より圧倒的不利。遠距離もこれじゃあ...。)」

 元々、偽物も含め葵は遠距離攻撃が効きづらい。
 式姫として椿と共にあった時から、何度も椿の矢を受け、その度に蝙蝠となって回避しているため、遠距離攻撃はほぼ反射的に回避されてしまうのだ。

「第一、例え当たっても致命打にはならないわね...!」

 霊術によるトラップを仕掛け、それを利用して矢を命中させるも、確実に致命傷となる位置だけは躱されていた。

「(私が勝つには、術を上手く利用するしかない...!)」

 霊力を練り、レイピアを飛び退いて躱してから斬りかかる。

     キィン!

「っ...!“神撃(しんげき)”!!」

「っ、“闇撃(あんげき)”!」

 繰り出された突きをギリギリで逸らし、魔を祓う霊力を叩き込む。
 偽物もそれに対抗し、闇属性の魔力をぶつけてくる。

     バチィイッ!!

「っ...!」

「(今...!)“弓技・閃矢”!!」

 相性の差で、僅かに偽物が怯む。
 すかさず椿は反動で後退しつつ、矢を放つ。

「躱された...!」

 だが、それは蝙蝠になる事で躱されてしまう。
 それを見た椿は、すぐに袖や懐から御札を多数取り出す。

「“戦技・四竜裂斬”!!」

「“神槍”!!」

 上からの四連撃に対し、霊力の槍を御札を利用して繰り出す。
 槍は全て切り裂かれてしまうが、何とか椿が回避する隙は作り出せた。

「くっ...!」

「は、ぁっ!」

     ギギギギィイン!

 連続で矢を放つが、それらは一息に弾かれる。
 数で攻め、何とか当たりそうになった所で...蝙蝠となって躱される。

「シッ!」

「はぁっ!」

 再び実体となって振るわれたレイピアを紙一重で躱し、短刀で反撃を繰り出す。
 しかし、身体強化魔法で偽物の方が一手早く、返すレイピアで防がれる。

「くぅ...!」

「遅い!」

 魔力の足場を蹴って、偽物の周りを回るように斬りかかるが、悉く防がれる。
 それどころか、徐々に椿を押していく。

「っ、“霊撃”!!」

 苦し紛れに放った衝撃波で間合いを取り、さらに偽物から距離を取る。

「この....!」

「甘いよ!」

 距離を取りつつ放った矢は、全て同じように射出されたレイピアで相殺される。
 だが、それは距離を取る際に牽制として放っただけで、当たるとは思っていなかった。
 だから、椿も相殺は予想済みだったが...。

「っ!?」

「...ふふ。」

 咄嗟に魔力の足場を蹴って横に飛び退く。
 寸前までいた場所を闇色の砲撃が通り過ぎ、偽物は薄く笑った。

「(...忘れてたわ...!ユニゾンデバイスになった葵は、ミッドチルダの魔法も使える...!それは、偽物でも同じ...!)」

 油断していたと自らを叱責する椿に、さらに魔力弾が襲い掛かる。

「くっ...!」

「はぁあっ!!」

 短刀で切り裂き、足場を蹴って躱す。
 しかし、躱した先に偽物がレイピアを振りかぶってきて...。

     ッギィイイイイン!!

「っ、ぁああっ!?」

 椿を短刀による防御の上から吹き飛ばした。
 椿もただでやられた訳でなく、自ら飛び退き、すぐさま体勢を立て直して地面に叩きつけられる事は防いだ。

「(力を重点に置いた身体強化...!これじゃあ...!)」

 何とか着地した後、受けたダメージで一瞬怯む。
 その間に偽物は特大の魔力弾を放ち、それに追従するように椿に肉迫する。

「っ....!」

 ダメージは必至と確信した椿は、とにかく魔力弾を凌ごうと短刀に霊力を込め...。





「“極刀・八幡弐刀”!!」

     ザンッ!ドスッ...!

 上から降ってきた何者かによって、魔力弾は切り裂かれた。
 さらに、偽物のレイピアを自分の手を犠牲にして受け止める。

「なっ....!?」

「嘘....。」

 その人物に対し、椿も偽物も驚きを隠せなかった。
 なぜなら...。

「....待たせたね。かやちゃん...!」

 いなくなっていたはずの、葵本人だったからだ。

「葵....?」

「そうだよ。正真正銘、本物のあたしだ...よっ!」

 葵はレイピアの刺さっている手に力を込め、レイピアが抜けないようにしてから霊力を放ち、偽物を吹き飛ばす。

「...一応聞くけど、あの葵の偽物は...。」

「優ちゃんのと同じで、ジュエルシードを核にしているよ。あたしを元にして優ちゃんの偽物が作っているのを見たから。...多分、あっちも一つジュエルシードを手に入れてたんだと思う。」

「なるほどね...。」

 考えれば辻褄が合う事である。
 一人の人物をそのままコピーするには、何かしらの動力源となるものが必要になる。
 生半可なものでは無理なため、考えられる物として妥当なのがジュエルシードだ。

「なぜ...!?あの時、確かに戦闘不能にまで追い込んだはず...!再生もできないように、銀の武器で確かに...!」

「...そうだね。確かに、あたしは死にそうで死なない状態で山に捨てられた。だけど、わかってたでしょ?...あそこの神社には、親切な巫女さんがいるって!」

「っ....!」

 葵は、那美に傷を治してもらい、自分の霊力で銀の効果を打ち消した。
 そのおかげもあって、ここに辿り着くまでには戦闘可能にまで回復していた。

「詰めが甘いよね。ホント。...でも、仕方ないか。だって、二人は...。」

「その先は言わないでよ。...例え予想通りでも、あたしがここで立ち塞がるのには何の変わりもない。かやちゃんも、知りたければあたしを倒しなよ!」

 “真実”となる事を言おうとする葵を、偽物は遮る。

「...そういう事みたいだよ。」

「単純ね。まぁ、分かりやすいわ。」

 椿は一息吐き...刹那、すぐさま矢を番えて放つ。

「っ!」

     ギィン!

「葵が無事だったっていう事もわかったし、容赦なく倒してあげる。」

「っ...!そうこなくちゃ...!」

 偽物は咄嗟にその矢を弾き、それを切欠に戦闘が再開される。

「葵!」

「いつものだね!」

 斬りかかる偽物に対し、葵が前に出てレイピアによる剣戟を繰り広げる。
 しかし、今の葵は片腕を負傷している。それでは霊力以外のスペックで勝る偽物に徐々に押されていく。

「切り裂け...“風車”!」

「っ...!」

 だが、そこは椿からの援護で飛び退かせ、事なきを得る。

「“呪黒剣”!」

「避けて!」

「っ!」

 飛び退いた偽物はそのままレイピアを地面に突き刺し、黒い剣を出現させる。
 椿は上空に、葵は蝙蝠となる事で、それを避ける。

「ふっ!」

「はぁっ!」

 葵は偽物の上で実体化し、落下に合わせて剣撃を放つ。
 それを迎え撃つように偽物もレイピアを振るう。

     ギギギギギギィイン!

「っ...!(さすがに、出力は偽物が上...!)」

 有利な位置から仕掛けても、全く押し切れない。
 それどころか、魔力弾を放つ余裕もあるらしく、椿はそれを相殺する事に専念している。
 ジュエルシードが核だからこそ、椿と葵の二人を以ってしても倒しきれない...。
 だが...。

「(...でも、それは...!)」



   ―――あたし達の本気を、開放してない範囲での話...!



「っ!?」

     ッ、ギィイイン!!

 葵の一閃が、偽物のレイピアを砕き、後退させる。

「っ、なんで、ここまでの力が...!?」

「....霊脈。あたしの記憶もコピーしているのなら、わかるでしょ?」

「それ、は....。」

 見れば、葵の片手にあった傷は既に癒えている。
 闇の書の姿の暴走体と戦っていた椿の体も、だいぶ癒えていた。

「....へぇ、優ちゃんの偽物とは違うんだ。あたしの記憶をコピーした訳じゃないんだね。」

「それが、どういう...!」

     ギィイイン!!

 戸惑う偽物に、葵は一瞬で肉迫し、偽物が咄嗟に取り出したレイピアと鍔迫り合う。

「....霊脈にパスを繋いだあたし達の本気、まだ優ちゃんは知らない。それどころか、式姫としてのあたし達の本領を、皆はまだ知らない。」

「っ....!?」

「...まだ、わからないのかしら?」

 徐々にレイピアが押され、横合いから飛んできた矢を咄嗟に躱す。
 瞬間、仕掛けられていた霊力の術に囚われ、拘束される。

「私たちは、優輝に出会って以来、未だ本当の全力を出していないという事よ!!」

「くっ....!」

 放たれる神速の矢。それを偽物は蝙蝠になる事で何とか躱す。

「...そしてもちろん、これもまだ全力じゃない。」

     ギィイイン!

「ぐぅ....!」

「いや、今の時代だと、どうしても本気は出せないんだよね。」

 実体化した所に葵が接近し、再び斬りかかる。オリジナルだからこそできた先読みだ。
 そして、それを受けた偽物は、吹き飛ばされるように後退した。

「...妖という存在があまり信じられなくなった今の時代だと、妖は力を保てない。そして、近い存在である式姫のあたし達もまた、力を失っている。」

「けど、実際に存在した者。未だにここに実在している。霊脈も陰陽師も式姫も、形を変えて現代にもちゃんと残っている。」

 苦し紛れに偽物は魔力弾や砲撃魔法を放つ。
 だが、それらは全てレイピアや矢に打ち消されてしまう。

「...だから、ちょっとした小細工を使えば、あたし達は全盛期の力に近づける。」

「その一つが、霊脈ね。」

 ちなみに、椿が暴走体に苦戦したのは一重に空中戦だからである。
 また、葵が霊脈の力を持ってきた事で、椿と霊脈との繋がりも強くなったからである。
 決して霊脈とパスを繋いでいたのを忘れた訳ではない。決して。

「....なるほど...ね。」

「終わりだよ。あたしの偽物。」

 レイピアを支えに立つ偽物に対し、葵がそう告げる。
 既に勝敗は見え、椿と葵も一切油断していない。....だが...。

「...あはは、あたしが偽物とはいえ、ただで終わると思う!?」

「っ...!かやちゃん!!」

 瞬間、偽物から高エネルギーの魔力を感知し、葵は椿を庇うように立つ。

「かやちゃんは障壁を!あたしが耐えきる!」

「分かったわ!」

   ―――“扇技・護法障壁”
   ―――“龍魂(りゅうこん)

 そして、偽物を中心として魔力の大爆発が起きた。









「っ....どう...なった...?」

「くっ...煙でよく見えないわ...。」

 爆発が治まり、耐え抜いた二人は状況を確認する。

「偽物は...いない!?」

「ジュエルシードもないわ...!」

 煙が晴れ、偽物がいた所には...何もなかった。
 偽物の姿はもちろん、ジュエルシードさえも。

「(殺気も魔力も感じない...確かに、あれは自爆だったはず...。)」

 自爆で自分たちを巻き込むつもりだったのだろうと、葵は読んでいた。
 なお、その爆発も結局力の一端を開放した二人には耐えきられたが。

 ...だからこそ、そこに残るはずのジュエルシードが見当たらない事が引っかかった。









 
 

 
後書き
Anhalt auf(アンハルト・アウフ)…想像した人物などの速度、力などになぞらえて自身の身体能力を強化する魔法。Fateの憑依経験に近い。名前はトレース・オンをドイツ語にしたもの。

弓技・三瞬矢…かくりよの門...ではなく、スマホにある姉妹作であるうつしよの帳の技。
 ゲームでは文字通り三連撃だが、この小説では瞬矢の三連撃を最適化したような技。
 威力、速度、精密度が瞬矢での三連撃を上回る。

神撃…聖属性依存の術。この小説では闇特効の技。ちなみに霊撃より威力が高い。

闇撃…呪属性依存の術。この小説では神撃の対となる技。

神槍…神撃の全体バージョン。小説では霊力の槍を射出する。

極刀・八幡弐刀…防御無視の二連撃か、味方のHP回復&敵視上昇の二種類の効果を持つ技。
 小説では、渾身の二閃を放った後、込められた魔力or霊力によって周りの者を回復させる事ができる技。二閃の威力も高い。

龍魂…かくりよの門ではHPを一時的に増やす術。
 この小説では、龍の如き霊力or魔力を纏い、攻撃に耐えれるようにする技。

明かされる椿たちの真実...!
...まぁ、後付け設定です。(個人的にまだ弱いなぁと思ってしまったので。)
ちなみに最後の自爆はなのは並の魔導師でも咄嗟には防御の上からでも堕とされる威力です。 
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