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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第六十話 憩う

 
前書き
遂に六十話です。
ちなみに文字数が前よりも長いことになっていますので、そこんところご容赦ください。 

 
 雲一つ無い、よく晴れた昼下がり。
 私とレックスとタバサはグランバニア城から少し離れた草原に立っていた。
 これから私が何をするかと言うと、魔法の校外授業といったところ。具体的に説明するならレックスとタバサの、魔法を使った実戦訓練だ。
 十分な準備を整え旅に出発できるまで2人が魔法を使えるように、それも実戦レベルになるまで鍛える。
 それが私の新しい仕事だった。
 ストロスの杖入手の旅のレックスとタバサの同行許可をオジロンさんからもらってから一週間で魔法の講義の授業を必要最低限な分は終え、今こうして実際に使う為の訓練を開始したというわけ。

「先ずは魔法を成功させることね。二人とも自分がどの系統の魔法が得意かわかっているわね?」
「はい、先生。私はイオ系統とヒャド系統の魔法を使うことができます」
「僕はホイミ系統です」

 2人がどの魔法に適正があるか、既に適正検査を済ましてわかってある。(ちなみに2人の適性検査をしたのは魔法研究家として活動するようになったのはマーリンだ。)
 適正検査の結果タバサはイオ系統とヒャド系統をメインとした『魔法使い』タイプの魔法を覚えられ、レックスの方は回復と補助に大幅に偏った『勇者』タイプの魔法を覚えられるということがわかった。
 ちなみに私だが、元々魔法の素質が私にあったのかそれとも『特典』がまだある程度残っているのかわからないが、攻撃呪文がメラ系統、ヒャド系統、バギ系統のみの『賢者』タイプの魔法を習得できた。

「じゃあ実際に魔法を使ってみようか。私も魔法を使うので、私がやったら真似してみて」
「「はい、先生」」
「先ず、手のひらを翳して」

 今こうして言っているけど、実は魔法の行使には手のひらを翳す必要はない。
 じゃあなんでわざわざ手を翳しているのかというと、要は魔法の始点を固定するための自己暗示といったところだ。

「手のひらを翳したら、自分が唱えようとする魔法に意識を集中します。私がこれから唱える魔法は『メラ』なのでメラに意識を集中させますが、この時にメラを発動する様子をしっかりとイメージしてください」

 私は小さな火の玉が自分の手のひらから放たれ、真っ直ぐ飛んで行く様子を想像する。
 すると、魔力が手のひらに集中して赤いエネルギーを形成した。

「この状態になったら呪文を発動する対象に意識をより強く集中させて、詠唱するだけ」

 今回私がメラを撃つのはもう使われなくなった木材だ。
 手のひらを木材に向けて、木材に意識を集中させるとそれに比例して赤いエネルギーが強く発光する。
 そして一言、詠唱。

「メラ」

 私が呪文を唱えた瞬間赤いエネルギーは一際強く輝いた後、その姿を小さな火の玉に変えて木材に向かって勢いよく放たれた。
 実験台になった哀れな木材はバラバラに砕け、破片が燃えだす。
 草原に火が移って火事にならないようにさっさとヒャドを唱えて消火した。

「ま、ザッとこんな感じね。魔法の使用に慣れてくればより短い時間と高い精度で発動できるようになるわ」
「すごいです、先生!」
「僕も早く使えるようになりたい!」

 はしゃぐ2人に、微笑ましい気持ちを感じつつ私は2人に指示を出した。

「じゃあタバサはヒャドの呪文の練習ね。実験台はまだ木材が幾つか残っているからそれを使って。やりかたはさっき私が教えた通りだから後は氷のイメージを強く思い浮かべればできるはずよ。それでレックスはホイミの呪文の練習ね。実験台は……私でいいわ」
「先生でいいんですか?」

 おそるおそるといった感じでレックスが尋ねた。
 まぁ、無理もないだろう。初めて使う魔法の実験台が人なのだから。

「安心して、レックス。ホイミは回復呪文だから私が怪我するといったことは無いから。頑張って」
「ミレイ先生がそう言っているんだから頑張ってねお兄ちゃん」

 タバサにも応援されたのが良かったのか、レックスはとりあえずさっきまでの怖気付いた態度を止めて私に向き合った。

「よろしくお願いします。先生!」
「よろしくね、レックス」
「それじゃあ、ホイミ!」

 レックスが手をかざして、詠唱した。
 これまでに幾度となく見た回復呪文の金と青緑の光が手のひらから放たれて私に降りそそ……がなかった。
 理由はレックスの魔法が私に当たる前に終了してしまったからだ。

「まぁまだ1回目だし。ホイミ!」

 今度のホイミは金と青緑の光がレックスの掌に集中してーー霧散した。

「ホイミ!」

 3回目は私に当たりこそしたものの何の効果も発揮しなかった。
 その後4回目、5回目と続けてレックスはホイミを唱えていたけど結局どれも成功しなかった。

「まぁ全部失敗してもまだ最初なんだから。そのうち練習していればできるようになるわ」
「そう……ですね」

 レックスは少し落ち込んでしまっているようだった。
 年齢が年齢だから落ち込むのも無理はない。私も子供の頃は何気ない些細な失敗で落ち込んでいた。

「先生、終わりました」
「もう?随分早かったわね。それで結果はどうだった?」

 するとタバサはこの時を待っていましたとばかりに笑顔でこう言った。

「全部成功でした」
「全部!?」

 木材の方を見やると、確かにヒャドの一撃を受けて砕けた木片がそこらへんに転がっていた。
 ヒャドがいくら基礎呪文といってもいきなり魔法を完成した形で使うなんて、そう簡単に出来ることではないのに。
 こうして教え子の実力を見ると、彼女は本物だなと思わせられることがよくある。
 それは特典の力を利用していた私とは違って、純粋にタバサ本人が持っている才能で身につけた力だ。そしてその才能を持ち前の勤勉さで磨き上げることで身につけた力。

「大分早いわ。凄いわね、タバサ」
「ありがとうございます、先生」

 私はタバサを褒めた後に、落ち込んでいる様子のレックスを励ました。

「タバサは魔法が得意だからあっさり成功させちゃったけど、普通だったらそんなすぐに身につかないから気にせずに自分のペースで練習し続けたらいいわ」
「はい。次頑張ることにします」

 レックスはそう言っていたものの、その後の魔法の指導でも中々成果が実らなかった。
 どちらかといえばレックスは魔法より剣の方が得意だから仕方はないとはいえ、そろそろホイミを習得してもらわなければまずいかなと私は危機感を感じ始めていた。レックスも危機感を感じていたのかよりホイミの習得に打ち込むようになっていったけど、焦りからか前よりも失敗する回数が多くなってきた。
 一方でタバサの方は魔法の実力をメキメキと伸ばしていき、ラリホーやマヌーサを習得しイオも十分とは言えないけれども初めてにしては大分扱えている。
 タバサの方は心配はないけれど、でもそのことがレックスの焦りにより拍車をかけてしまっているのか気がつけば均等に2人の魔法の実力を伸ばすつもりが、大分差がついてしまった。


 *

「私、どうしたらいいんでしょう」

 ルイーダの酒場で私は酒を飲みながら、女店主のルイーダさんにそうぼやいていた。

「どうしたらいいもこうも私はアドバイスできないわね。それはミレイちゃんの問題で、レックス王子の問題でもあるから。私はああしろともこうしろとも言えないわね」
「でもそろそろ出発の日にちが迫ってきています。それまでに何とかレックスがホイミくらいまでは習得してもらわないと困るんですよ……」
「生徒が何かが出来ないんだったら、それをしっかり出来るようにしてあげるのが教師じゃないの?」

 確かにそれを言われてしまっては何も言い返せない。教師というのは生徒に何かを教えて出来るようにする仕事で、そして私はその教師だ。
 だから私はレックスに魔法を教えて、レックスが魔法を使えるようにしなきゃいけないのに。
 元の世界にいた頃は学校や塾の先生を教え方が悪いだの授業がダルいだの散々に言ってたけど、自分が教える立場になってみる事で教える側も教える側で色々大変だという事を痛感させられた。
 でも、痛感させられましたはいお終い。じゃ、だめな訳で……。

「色々苦労しているのね、ミレイちゃんも」
「というより皆大なり小なり苦労はしていますよ」
「確かに。それもそうね」

 ルイーダさんは軽く微笑んでから、私につまみとしてナッツやチーズを差し出した。
 適当にそれらをつまみながら酒を飲み進める。……あくまでもチビチビとだ。自分の酒癖が悪いということはあの結婚式に十分自覚させられた。二日酔いの苦しみと、自分が下手すれば結婚式をぶち壊しそうになったことに対する申し訳なさにも。

「ま、でも最近のミレイちゃん見てると苦労しているというか疲れているというかそんな感じするわね。レックス王子もよ。人間、危機感を持つことは確かに大事よ?でもたまには息抜きもしておかないと」
「息抜き、ですか……」
「そう。体に溜まっている悪いものを定期的に抜いておかないと、ダメになるからね。自分はまだ大丈夫だと思って無理すると潰れちゃうから、一回は息抜きしておいた方がいいんじゃないかしら?」

 確かにここ最近苦労することが多くなったなと思う。『影響』や光の教団との戦い、アベルとビアンカの救出、レックスとタバサの指導……と色々と考えることや、やるべき事が山積みになってきた。1日の殆どがやるべき事で占められ、気がつけば自分の時間はほんの僅かになっていた。
 思えばこうして酒場に通い始めたのもレックスとタバサの教師になってからだ。

「そうですね。息抜き、してみます」
「それがいいかもね。ミレイちゃんもレックス王子もほんの1日でいいからしっかり休んでおくべきよ。あ、でも休みすぎてもダメだからね」
「わかってますよ。……ルイーダさん、ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、ルイーダさんは優しく微笑んだ。

「いいのよ、別に。こうして客とコミュニケーションをとる事が私の仕事なんだから。ミレイちゃんも息抜きしたら、頑張りなさい」

 *

 翌日。
 私はオジロンさんに頼み込んだ結果何とか1日だけ休みを手に入れる事に成功して、そしてその日は授業も休みにして、2人(というよりは主にレックス)に息抜きさせる事にした。

「偶には休む事も大事だから、今日は授業は無しね。その代わりと言ってはなんだけど2人共私と出掛けないかしら?」

 私がそう言うと、レックスはどことなく嬉しそうな顔になっていた。
 自分の苦手を否応なく痛感させられる魔法の授業が無い事が、レックスにとってはとても嬉しいのだろう。……こうも露骨に楽しそうにされると教師としてはやや複雑だが。

「楽しそうだから一緒に出かけようよ、タバサ!」
「そうね。では、お言葉に甘えて一緒に出かけさせていただきます、ミレイ先生」

 断られたらどうしようかと考えていたけれど、とりあえず話に乗ってきてくれて良かった。

「それで……、どこに行くんですか?」
「それは着くまでのお、た、の、し、み」
 
 タバサの質問に私は敢えて答えず、意味深な笑みを浮かべた。 
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