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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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ピースウォーカー・後

 
前書き
想定以上に長くなったので、前後に分割しています。こっちは後半なので、前半を読んでいない場合は先にそちらからお願いします。
 

 
新暦67年9月24日、16時41分

「お~い。棺桶と倒した教会騎士達、持ってきたで~」

「わかった。ひとまずその辺に転がしといて」

ふぅと一息ついて、はやてとシグナムが手にある鎖を置く。今の所、棺桶が暴れ出す気配は微塵もなく、敵の教会騎士達も目を覚ます様子は無かった。

一同は現在、壊れた次元航行艦の影に身を潜めている。つい先ほど、例のSOPのリンカーコア封印のせいで、管理局組はまるで蚊取り線香の煙を吸った蚊のように墜落した。落下中に教会の屋根や木を踏み台にして何とか着地した矢先に、それを狙ったかのように突然サヘラントロプスのコクピットに魔力が集まっていき……意識が無いオリジナル・なのはの叫び声を響かせながら周囲に破壊の光が降り注いだ。

インフィーニートゥムと呼ばれるその攻撃を受け、全員が必死に逃げながら物陰に急いだものの、一番近くにいたせいでフェイトはまともに喰らって意識を失ってしまった。何とか傍にいたジャンゴが彼女を回収し、なのはに護衛されながら射程範囲から離れているここまで運び、そして頭から血を流している彼女をマキナが治療しているのが今の状況である。
なお、ザフィーラも機銃などからはやて達の盾になったことで所々出血しているが、治療は後で良いと言ってシャマルに包帯を巻いてもらい、痛みを我慢していた。

それで彼のおかげで大した傷を負わずに済んだはやてとシグナムに、先程マキナはポー子爵を封印した棺桶と、気絶したまま放置されていた敵の教会騎士達の回収を頼んでいたのだ。

「しっかし今のあんたら見てると、SOPって寒気がするね。正直、鳥肌が立つよ」

「ふっ、否定できないな……」

「そうね……治癒術師なのに見てるだけしかできないって、こんなにも悔しいものなのね……」

「…………チッ、言われなくてもわかってんだよ……クソッ!」

「まさに今、魔法の無い世界のボディーガードの気持ちが実感できたな……」

「あ! 動いちゃ駄目です、ザフィーラ! 傷が開いちゃいます!」

「いくらベルカで名を挙げたヴォルケンリッターでも、無力化されたらこんなもんだよなぁ。姉御に助けられる前のアタシを彷彿とさせるぜ……」

彼女達の無念に一瞬ブルーな気持ちになるアギト。ひとまずフェイトの治癒を終えたマキナは彼女を連れて、再び前線に戻ったジャンゴとなのはを傍目に双眼鏡でオリジナル・なのはのシリンダーを眺めた。二人には悪いと思ったが、わずかでも情報を掴んで突破口を見い出そうと目論んだのだ。

「これまでの戦闘から見るに、魔法を使うと冷却のためにコクピットが開く仕組みで、閉まっている間はシリンダーに攻撃が通らない。精密機械が密集しているコクピットに攻撃すればダメージ効率ははるかに高いけれど、高町も巻き込まれることになる。そしてシャマルの検査魔法で手に入れた情報もまとめると、生命維持装置は高町の心臓を外部から動かしているらしい……」

「つまりシリンダーから出たら、心臓が止まるってことか?」

「正解。でも……良かった、まだ手の施せる範囲だ」

「マジで!?」

「うん。アギトは覚えてるよね? 前に自爆魔法を取り除いた魔力の手。あれなら移動中でも心臓マッサージができる。もちろん慎重にやる必要はあるけど、鼓動さえ戻れば回復は時間の問題だ」

「流石だぜ、姉御! 希望が見えて来たぞ!」

オリジナル・なのはの命を助ける方法を見つけたマキナに、アギトは喜びの声を上げ、後ろで聞いていたはやて達も目に光が宿った。しかし次の瞬間、聞き逃せない言葉が聞こえてきた。

『弾道計算終了。発射体勢に移行』

「ッ!?」

機械音声でそう言った後、教会の前に跳躍したサヘラントロプスは人型から前傾姿勢に変形……レールガンにエネルギーをチャージし始めた。もはや救出がどうとか悠長に言えるような状況ではなく、マキナはふぅと息を吐いて悔し気に呟く……。

「なんてこった、もう時間切れだ。これ以上は無理だ……!」

「ッ! ま……待ってマキナちゃん! い、今まさに助ける方法を見つけたんやろ!? だったら……」

「その気持ちは痛いほどわかるけど……応援が来ないどころか、八神達まで無力化されてしまった以上、高町の救出に割く力も全部サヘラントロプスの破壊に向けなければ、どっちつかずになって取り返しのつかないことになる」

「二兎を追う者は一兎をも得ず、と言いたいんか? でも……!」

「そりゃあ私だって高町を救出したいのは山々だが、核発射の阻止が間に合わなくなったら本末転倒なんだよ。それとも何? 一人を生かすために百万以上の人が死ぬのを見過ごせと?」

「…………」

はやては言葉を返さなかった……否、正確には返せなかった。さっきマキナが時間切れと言った時、同じタイミングで実ははやても同じ事を考えていた。ただ、心が受け入れられなかったのだ。

見方を変えれば過去に起きた闇の書事件と似た状況、当時の主やグレアム達の立場とほぼ同じ境遇にいる事に、マキナもはやても思う所はあった。だからこそマキナの言葉の裏にある本心……諦めたくない気持ちは、はやてが最も察していた。それこそ我が身の如く……ゆえに彼女の悔しさも同じく感じていた。

「せめて……せめて破壊を任せられる戦力さえあれば、こっちが救出に専念できるんだが……!」

CALL音。

「って、こんな時に通信? あれ、この回線は……もしや!」

ハッとした表情でマキナが急に届いた通信を繋げると、相手は知人である若い少年……ロックだった。

『こちらはミーミル解放軍。ウルズからあなた達が決戦に挑んでいると聞いた、僕達も力を貸す。マキナさんに恩を返す良い機会でもあるけど、何よりフェンサリルの人間として全てを人任せにしたくない。自分達の世界は自分達で守る! 僕達は皆、その信念の下に集った!!』

「アンビリバボー! ここに来て君達が応援に駆けつけてくれるなんて、まだ私達の運は潰えていなかった!」

『現在、あなた達の位置から東に1~3キロの地点に、これまで温存していた全戦力を配置している。戦闘ヘリ200機、戦車150機、シャゴホッド級100機、他にもまだまだいるぞ!』

「うわぁ、まさに大軍だね!」

『例え相手が新型メタルギアだろうと、これだけの火力で一斉攻撃すれば一瞬でガラクタにできる! あなた達はそれに巻き込まれないように、急いでそこから離れてくれ!』

「わかっ……あ、いや、攻撃はちょっとだけ待って! 君達が来てくれたおかげで、最後の賭けができるようになった! お願いだ、一斉攻撃はその勝負を終えてからにしてほしい!」

『最後の賭け? 何か事情があるようだが……すまない。攻撃開始の秒読みはもう始まっている。恩人であるマキナさんの頼みでも、この世界に生きる大勢の人の命と未来がかかっている以上、待つことはできない……!』

「あ~そこを何とかって言いたいけど、やっぱり無理か……!」

レジスタンスが援軍に来たことで光明が差したように思えたが、マキナが説得してもオリジナル・なのはの救出に時間は割けないことに、はやて達は悔しさを募らせる。その間にアギトは前線にいるジャンゴとなのはへ、味方から凄まじい一斉攻撃が始まるから戻ってくるように伝えた。

「え、一斉攻撃って……! それじゃあオリジナル・なのはは!?」

「残念だが、もう間に合わねぇ! 早く戻ってくるんだ!!」

「飛んでる私からはよく見えるけど……あっちにどこかの征服王の宝具を連想するほどの大部隊が展開してる。あんなのに巻き込まれたらひとたまりもないよ。ジャンゴさん……悔しいけど、離脱するしかない……!」

「クッ……結局、僕はまた救えなかったのか……!」

悔し気に呟きながらジャンゴとなのはは即座に前線から離脱する。その直後、

『3……2……1……攻撃開始!!!』

豪雨のようにミサイルと砲弾が飛んできてサヘラントロプスを襲撃、業火と爆発が延々と包み込んだ。教会もその炎で崩れていき、中にあった工場もクローン達の亡骸も全て引火して燃えていく。

『発射まで170秒。……165秒。……160秒。……1……55秒。……150……150……ビョウ。ヒャクヨ、ンジュウゴ……ビョ……』

容赦ない爆撃を受けて、サヘラントロプスも耐え切れずに砲撃姿勢を崩し、機械音声が乱れながら右横に倒れる。それでも爆撃は降り注ぎ、完全に破壊するまで収まる気配が無かった。

「まるで、持ってきた弾全てを撃ち尽くす勢いだ……」

「や、やめてくれ……! あの中にはなのはが……なのはがいるんだ……! あいつはまだ生きてるんだ……あの時アタシが守れなかったあいつが、あそこにいるんだよ……!」

「駄目や、ヴィータ……! 行ったらあかん。私らは失敗した、助けられへんかったんや……」

爆撃の中に駆け付けようとするヴィータを、他の騎士達と共に押さえながら悔し涙を流すはやて。その悲痛な光景を見て、ジャンゴと共に戻って来たクローンの方のなのはは何を思い付いたのかマキナの隣へ行き、

「………ねぇ、マキナちゃん。その通信、まだ繋がってる?」

「え? ああ、一応ね。……どうするつもり?」

「心配しないで、ただの伝言だよ」

安心させるように優しく微笑み、通信機越しでロックに話しかけた。

「あなたがロック君だね。初めまして、私は高町なのはのクローンだよ。現在、新しい名前を考え中で、今はオリジナルの名前を借りてる状態かな?」

『はぁ……こちらこそ初めまして。それで、何の用だ?』

するとなのはは佇まいを正し、強い目で通信の向こうにいるロックを見つめる。ただならぬ雰囲気を感じた彼も、顔つきを変えて彼女の言葉に集中した。

「え~、コホン。……改めましてロック皇子、第12代ミーミル皇帝ハジャル・ラピス・ミーミルからのご遺言をお伝えしたく存じます」

『遺言? ……わかった、聴こう』

「はっ! では……『これからはお主が導け』……遺言は以上です」

『父さんは……確かにそう言ったのか?』

「はい。一言一句の間違いもなく、お伝えしました」

『そうか……必要なことは全て込められている一文、父さんらしい遺言だ……。先王の遺言の伝達、感謝する。それで……褒美にあなたは何を望むつもりだ?』

「では、僭越ながらお願いいたします、ロック皇子。私達に……時間を下さい。私のオリジナルを助けるための、最後の賭けに挑むチャンスを下さい」

『なるほど……あなたの考えは理解した。この一斉攻撃を一時的に停止しろ、と要求しているわけか。フェンサリルの……家族のために戦っている仲間達に、一度だけその銃を下ろせとな』

「……はい」

あちらでは爆音が響き渡るのに、両者の間には冷たい空気が流れる。ここで口を挟むと悪印象を与えかねないと判断したはやては、マキナと同じく無言で事の成り行きを見守る。そして……緊張のあまりに誰かがゴクリと唾を飲んだその時、厳かにロックは告げる。

『―――10秒だ。10秒だけ猶予を与えるように仲間達に伝える。これ以上は何と言われようとも無理だ。それで納得できるか?』

「10秒……わかりました。それで構いません」

『停止のタイミングはそっちで決めるといい。ただ、それまでは攻撃を続行させてもらう』

交渉成立。たった10秒だが、されど10秒。ほんのわずかでも、なのはが救出時間を確保したことに、マキナは呆れながらも苦笑した。

「まったくもう……ロックの度量が広かったからこそ丸く収まったものの、他人の遺言、それも前皇のを交渉材料に使うとか、皇子相手に無礼過ぎでしょ……。普通なら投獄、最悪不敬罪で首を切られても文句は言えないよ?」

「あ、あはは……ごめん、つい……」

「はぁ……笑って許してやれるのはここまでだ。次から変な真似したら、話の最中だろうと説教するからね?」

「う! ぜ、善処します……」

「なんか不安になる返事だけど、ホント頼むよ……? ま、なのはのおかげで貴重な10秒をもらえたのも事実だから、そこは素直に称賛しよう」

「あ、ありがとう。でも私が言うのもなんだけど、たった10秒ぽっちで何とかできるの?」

「そこは作戦の内容を練り上げて、奇跡を為し遂げるしかない。さぁ、作戦会議だ!」

マキナが景気よく声を上げたのを皮切りに、意識のある者全員が作戦会議に身を乗り出して参加した。リンカーコアを封印されても、絶対兵士プログラムのように思考まで操作されてる訳ではない以上、最後の賭けに万全を期して挑むために、はやて達も頭の中を必死に回転させて作戦を構築していった。

「え~まず、もらった10秒の間にやるべきことを順にまとめるで。最初はサヘラントロプスの傍まで移動、そこからコクピットに接近、シリンダーを破壊、なのはちゃんを解放、心臓マッサージしながら撤退……ってところやな」

「当然わかってると思うけど、時間が圧倒的に少ないから、どれか一つでも手こずった時点で作戦失敗になることは皆も納得してもらうぞ。二次被害で犠牲を出したら元も子もないからな」

「それじゃあ早速意見を出すけど、移動しながら攻撃、もしくは作戦開始と同時に私が砲撃してから別の誰かが接近した方が、時間のロスは少なくなるんじゃないかな?」

「高町の治療には私が行く必要があるけど、これまでの戦闘や治癒で残り魔力も少ないし、魔力の手は制御がシビアだから他の魔法を使う余裕はない。だから私はダークハウンド……自前のバイクで接近し、高町を確保したら治療と並行して即座に離脱する。ただ、悪いけど高町を乗せるとバイクの定員が満杯になるから、撤退時の協力はできそうにない」

「マキナが治療と搬送を担当するのは良いけどよ、シリンダーはちゃんと破壊できるのか? そっちのなのはを疑ってるわけじゃねぇが、アレ相当頑丈にできてるようだしな……」

「ヴィータの疑問は大丈夫。僕がおてんこさまと合身(トランス)して直接コクピットに乗り込むから、なのはの砲撃でシリンダーが壊れていなければ、そのまま僕がソルフレアで破壊してオリジナル・なのはを引きずり出すよ」

「助け出した後は下で待っているマキナちゃんに渡して、魔力の手で心臓マッサージしながら離脱させるのね。それならギリギリ大丈夫そうだけど……ジャンゴさんは撤退が間に合うの?」

「確かにベクターコフィンには今、ポー子爵を封印している。棺桶バイクが使えないのに、どうやって逃げるつもりだ?」

「ん~とりあえずトランスの力を利用して太陽魔法ダッシュの速度を上げて、限界まで早く走るつもりだけど……正直かなり厳しいかもしれない」

「それだったら私が飛行魔法でジャンゴさんを迎えに行くよ。砲撃を撃った後は私のやることが決まってないから、ジャンゴさんの離脱をサポートできる余裕は残ってるはず」

「どうやら作戦の内容が整ったみたいやな。……よ~っし! まず作戦開始の合図と同時にこっちのなのはちゃんがシリンダーに砲撃、マキナちゃんがバイクでトランスしたジャンゴさんを運び、ジャンゴさんがコクピットに突撃、あっちのなのはちゃんを救出してマキナちゃんのバイクに乗せる。そこからは地上と空中に分かれて一目散に離脱って流れやね!」

「1秒も無駄にしないためにも息の合った連携が必要だ。仲間を信じて、自分を信じて、この作戦を成功させよう。……アギト。撤退する時、私は治療に意識を集中する必要があるから、アギトはバイクの操縦をサポートしてほしい。頼りにして良いかな、相棒?」

「ああ! 任せろ、姉御!」

互いにニヤリと笑い、力強くハイタッチするマキナとアギト。そこにある強い信頼関係に、はやてはあんなやり取りをいつか自分もしたいと羨ましく思った。

作戦開始に備えてマキナはレックスの収納領域からダークハウンドを取り出し、アギトを肩に乗せてエンジンをかけて待機。なのははロックと繋がってる通信機をそばに置き、砲撃の魔力をチャージ。そしてジャンゴは手を掲げ、叫ぶ。

「行くよ、おてんこさま!」

「うむ、了解だ!」

「「太陽ォー!!!!」」

煌々と光り輝く姿(ソルジャンゴ)に変身した。その燃えるような姿から発せられる太陽の光は凄まじく、そばにいるだけで闇を吹き飛ばしそうな程であった。事実、彼の輝きは夕方になって弱まりつつあった太陽の光を一気に4段階ほど上げていた。そんな身体のジャンゴを後ろに乗せることになったマキナは、率直に言う。

「あっつ! 背中が焼けるように熱い!!」

「ごめんマキナ! 悪いけど、我慢して!」

熱したカイロを直接背中に貼り付けたような感覚から早く解放されたいマキナは、さっさと作戦を始めるようになのはに視線を送った。そしてチャージが完了したなのはは、通信機に向けて声を送る。

「ロック君! お願い!」

『全軍、攻撃中断! 敵機の状態を確認する!』

ロックの攻撃中止命令が発せられてミーミル解放軍の一斉攻撃が一時的に止まり、最後の賭けであるオリジナル・なのは救出作戦が開始された。

『10』

合図を送ったなのはがすぐにディバインバスターを発射、サヘラントロプスを覆う煙を吹き飛ばしながら直撃させる。同時にマキナのバイクも発進、アクセル全開でサヘラントロプスの足元に走っていくが、なのはの砲撃が当たったはずのコクピットを見てマキナは眉をひそめる。

『9』

「シリンダーが割れていない!? コクピット部の装甲が閉じていたのか!」

「でもなのはの砲撃がトドメになって装甲が壊れたから、僕が直接シリンダーを壊せばまだ間に合う!」

背中越しにそう言い切ってくれたジャンゴに、マキナは「ならやって見せろ」と言わんばかりに進路方向上にある土台から崩れた聖王の石像と、その頭の先がサヘラントロプスのコクピットに向いているのを利用し、バイクで無理やりその上を走る。

『8』

とんでもないオフロード走行でバランスが危うくなるが、マキナは更にバイクからアンカーを射出、サヘラントロプスの肩部に引っ掛ける。そのまま石像の傾斜をジャンプ台代わりに使い、アンカーで引っ張って空中でも加速……傍から見ると彗星のようにサヘラントロプスのコクピットへ向かう。

『7』

「飛べ!」

マキナの言葉に返事を返す間もなく、ジャンゴは隕石じみた勢いのバイクから跳躍し、シリンダーへ一直線に光を纏った蹴り(ソルフレア)を放つ。

『6』

「ハァァァアアッ!!!」

パリィィィンッ!!

アンカーを外しながら何とか着地し、ドリフトで急転回したマキナは、ジャンゴがシリンダーを一撃で粉砕したのを音だけで判断する。ドバァっと外にあふれ出てきた刺激臭のする薬液などお構いなしに、ジャンゴはシリンダーの中に上半身を突っ込んでオリジナル・なのはと生命維持装置を繋げているコードを切断していく。

『5』

「あれ? オリジナル・なのはも左腕が無いのか……偶然かな?」

『4』

「……よし、解放できた! 今から飛び降りる!」

目的のオリジナル・なのはをしっかり抱えてジャンゴはコクピットからジャンプ、出来るだけ衝撃が伝わらないように丁寧に着地した。

『3』

「マキナ! 彼女を早く!」

「魔力構築……ッ!!」

ジャンゴがバイクに乗せたオリジナル・なのはの体内に、マキナはすぐさま魔力の手を入れて心臓マッサージを施す。そして落ちない様に彼女の右手を掴みながら、マキナはバイクのアクセルを強く踏む。

『2』

「ぐっ! わかっちゃいたけど、コントロールが難しい!」

「僕も急いで離脱しなきゃね! ダッシュダッシュダッシュ!!!」

即座に離脱を試みる両者だが、バイクと人の足ではやはり速度に差があった。距離と残り時間を考えると、バイクでもギリギリ間に合うかどうかの瀬戸際だった。

『1』

「もう時間が無ぇ! 早くしろ!!」

「もっと早く! もっと急ぐんや!!」

ヴィータとはやてが次元航行艦の影から身を乗り出し、手を回しながら大声を上げる。そんな彼女達に向けてマキナは、「わざわざ言わなくても意地でも戻ってみせる!」と言いたげな表情を浮かべ、アクセルを更に強く踏んだ。そんな彼女の後ろでは、走ってくるジャンゴに手を伸ばすなのはの姿があった。

「ジャンゴさん! 私の手を掴んで!!」

「わかった! うりゃぁあ!!」

全身の力を込めて跳躍したジャンゴの手と空中にいるなのはの手がガシッと握り合い、飛行魔法で急速に離脱していく。

『0』

「マキナちゃん!!!!!」

「いっけぇぇえええええ!!!」

はやてが叫び、マキナが吼える。そして……、

『攻撃再開!』

約束の10秒が経過したことでミーミル解放軍が攻撃を再開、サヘラントロプスに放った無数のミサイルやバズーカが降り注いで大爆発が起こった。逃げ切った彼女達は最後の賭けに……勝ったのだ。

しかし……、




―――グシャアッ!

「うごぁっ! ……な、な……にが……!?」

―――ビシュンッ!

「あぁあああッ!!!! め、眼が……右眼がぁアアアア!!!!!!!」

勝利を喜んでいる場合ではなかった。悪夢はまだ続いていた。

作戦成功間際にマキナとはやてに襲いかかった事態……あまりに必死過ぎたせいで、最後の最後まで気付かれなかった闇が目を覚ましたのだ。

「は、はやて!? 一体どこのどいつがこんな真似を!」

「今のは狙撃だった……まさかスカルズ!?」

「迂闊だった! 奴らを捕らえていたバインドが、SOPのリンカーコア封印で解除されていたことに気付けなかったとは!」

「駄目……止まらない! 眼の出血が止まってくれないわ!」

治癒魔法が使えなくても必死にシャマルは手当てをするが、あまりの激痛にはやては悲鳴を抑えられなかった。だが、今起きている問題はそれだけでは無かった。

「…………」

「あ、姉御!! 返事をしてくれ、姉御!! ……お、お前……一体どういうつもりだ! なんでお前を助けた姉御にこんなことをする、高町なのは!!」

アギトの怒りを受けても、オリジナル・なのはは反応を示さなかった。誰がどう見ても、今の彼女になのは本来の意思は、全く見受けられなかった。それどころか、今の彼女は人間とは思えない異形の姿に変貌していた。

あの時……オリジナル・なのはの身体に異変が生じた。彼女の身体から放出された赤黒い光が集約していき、無くなったはずの“左腕”を構築したのだ。ダーク属性の赤黒いエネルギー体で形作られた禍々しい左腕……皮肉にもマキナの魔力の手と似たその腕が後ろから彼女の身体を貫き、心臓を奪い取ったのだ。

そしてオリジナル・なのはは飛行魔法を発動、なんの躊躇もなく心臓ごと左腕を引き抜き、地上から数メートル上空に浮遊する。不意打ちをくらったマキナはバイクから転落、叩き付けられた彼女の身体が転がり、滝のように出る血が地面に真っ赤な湖を作り出していく。

操縦を担当していたアギトがマキナの下に慌てて駆け付けたため、バイクはコントロールを失って壊れた次元航行艦に衝突、大破してしまった。だがアギトはそんなことよりも、生命の気配が凄まじい勢いで消えていくマキナの容体を見て頭の中が真っ白になっていた。そして裏切ったオリジナル・なのはが視界に入り、先の怒声をぶつけたのだ。

「ど、どうなってるの……!? 私のオリジナルに、一体何が起こってるの!?」

「間違いない……性質は変異体に近いが、あれはヴァンパイア化だ。彼女に宿っている暗黒物質が、ソルジャー遺伝子を介して暴走しているんだ!」

「暗黒物質の暴走!? で、でもポー子爵は、私のオリジナルはグールにすらなれないって……!」

「ああ、だからあの姿はオリジナル・なのはの無意識下にある生存本能と暗黒物質が融合した影響だろう。変異体と同じく他者を取り込むほどに強くなる……そして奪って得た力を肉体の維持にも回しているんだ」

「じゃあマキナちゃんの心臓を奪ったのは、彼女の力を吸収するつもりで……!」

「それだけじゃない。暗黒物質によって無理やりエナジーを引き出してきたオリジナル・なのはと違って、マキナは感情の爆発によって自力で目覚めた……つまり彼女より暗黒物質への耐性が強いんだ。彼女の生存本能が、それを欲したんだ! 奪わなければ身体が崩壊するから……!」

「もしかしてサヘラントロプスの生命維持装置は、肉体の崩壊を防ぐだけじゃなくて、暗黒物質の暴走を抑えていたのかもしれない……! ポー子爵が言っていたのはこの事だった……その意味に気付かず私達が解放したことで、その枷が外れてしまった……」

「しかし彼女の肉体は限界寸前だから、あの姿はもって数分しか維持できない。だけどその分、力はヴァランシアが求めたクイーン同然だ。あれを一言で表すなら、さしずめ“リトルクイーン・オブ・イモータル”とでも言うべきか」

リトルクイーン・オブ・イモータル、高町なのは。ジャンゴの表現したそれは、今のオリジナル・なのはを的確に示していた。そして当の彼女は左手に持つマキナの心臓を……、

―――ガブッ! グチャッ……グチャァッ!

「ま、マキナちゃんの心臓を……食べた!?」

「……なのは、君は狙撃型スカルズの殲滅に向かってくれ。彼女の相手は僕がやる……本格的に暴走する前に彼女を止めなくてはならない。ただ、君達では友達の彼女を浄化するのは、どうしてもできないと思う……僕がやるしかないんだ」

「ジャンゴさん……。……わかった、だけど一つ言わせて。責任は私も背負う……彼女は私だから、本当なら私に止める義務があるはずなんだ。だからその……ごめんなさい!」

ジャンゴに辛い役目を背負わせることの謝罪を言い、なのははジャンゴを地上に降ろしてから狙撃型スカルズの浄化に向かう。口元がマキナの血で濡れるリトルクイーンをジャンゴが悲しい眼で見つめていると、彼を次の標的として狙う彼女が正面に降り立った。

「助けたはずの相手と戦わなければならない……か。運命とは、ままならないものだね……残酷過ぎて泣きたいよ」

リトルクイーンと対峙しながらジャンゴは2年前を思い出し、辛い心を押し殺して戦闘態勢に入る。刹那―――

「―――待てよ……! 勝手に、私を倒したと思うな……!!」

「な!? ま、マキナ!?」

心臓を失って生死の境をさまよっていたはずのマキナが、いきなりリトルクイーンを背後から羽交い絞めにする。全身が真っ赤に光り輝く彼女は、ユニゾンしたアギトが心臓の代わりを務めることで辛うじて命を維持していた。そんな身体だから戦闘に回す力なんて少しも無いはずの彼女は、それでもリトルクイーンの動きを命を燃やして止めていた。

「ハァ……ハァ……! 今だ……コイツを浄化しろ!!」

「浄化って……! 今攻撃したら、マキナも巻き添えになる! そうなったらマキナの命は……!!」

リトルクイーンが背中の彼女を何度もひじで殴り、引き剥がそうとする。胸の穴から血が吹き出し、口から吐血し、意識も飛びかけて……それでもマキナは離さなかった。

「ウグゥッ!! 構わない! 私には治癒魔法がある……一撃くらい耐えてみせる……!」

「駄目だ、僕にはできない! いいから早く離れるんだ!!」

「(ジャンゴ……! 姉御を信じてくれ! 頼む……!!)」

「アギトまで……! でも……!」

「あ~もう!! 甘ったれるんじゃないッ!!! ゴホッゴホッ……! この期に及んで、仲間一人信じないでどうする!! それでも希望を守る太陽の戦士かッ!!」

「ッ! …………………………わかった、君を信じる! だから絶対に……耐えてくれ! ――――ハァアアアア!!!!」

迷いを振り払うべく雄叫びを上げて、ジャンゴはソルフレアを放つ。その光を前にしてリトルクイーンは脅威を抱き、必死にマキナを振り払おうと暴れ出す。流石のマキナでも瀕死の身体では完全に抑え込む事はできずに投げ出され……、

「フッ……ユニゾン解除」

「(ッ!?)あ、姉御ぉおおおお!!!」

分離したアギトは、リトルクイーンがマキナの左腕と左脚を切断するのを目の当たりにした。そして……残った右腕でリトルクイーンの左腕を掴んだマキナの決死の覚悟のおかげで、一切の防御ができなかったリトルクイーンにソルフレアが直撃、暗黒物質を浄化していく。

攻撃後、トランスが解除されたジャンゴはマキナ達の方に振り向き……さらに驚愕する。

浄化で肉体が崩壊していくリトルクイーンに、マキナは治癒魔法をかけていた。自分にではなく彼女に。自らの心臓だけでなく、左腕と左脚をも奪った高町なのはに、聖なる光で治療していたのだ。

治癒魔法で一撃耐えるという言葉は、四肢の半分を失った瀕死の自分にではなく、浄化されゆく高町なのはに使うという意味だったのだ。浄化で崩れる端から治療されることで、高町なのはの肉体はかろうじて消滅せずにいた。ジャンゴは急ぎマキナの下へ走り、膝をついて彼女の身体を抱える。

「やれやれ……世話の焼ける奴め……! “リトルクイーンのみを浄化”するなんて……もう二度とできないっての……!」

「マキナ! どうして……!」

「ごめん、ジャンゴさん……。これは、私の意地なんだ……」

「意地とか言ってる場合じゃなくて、早く自分に治癒を!!」

ジャンゴの言葉に、マキナは首を振った。

「もう……魔力が無い。……助からないって、自分でわかってる……」

「そんな……そんな諦めたことを言うんじゃない! 魔力なら僕のを使えばいい! きっと治るから! きっと助かるから! だから気をしっかり持つんだ、マキナ!!」

声音が揺れながらジャンゴが必死に呼びかけるも、残った生命力の全てを治癒魔法に注いでいるマキナの身体は、足元から徐々に結晶となっては粒子に分解されていった。それは彼女の生命が、終わりを告げていることを意味していた……。

「ま……マキナちゃん……!」

シャマルに肩を支えられてやってきたはやては、消滅しつつあるマキナの姿に呆然とした声を漏らす。信じがたい光景にはやては衝動的にそばへ駆け寄って膝をつき、シャマルも口を押さえて目元に水滴が溜まりつつあった。

「八神か……後はあんたに任せる。私にやれないことは……あんたがやるんだ」

「そんなん……言われてもできひんよ……! マキナちゃんがいてくれたから……どこかで頑張ってるって知ってたから、私も強くなろうとした! マキナちゃんの友達に相応しい人間になろうと頑張り続けることができた! なのにマキナちゃんがいなくなったら私は……何もできひんよ……!」

「ったく……情けない奴め。……まぁ、いっか……」

涙混じりに心情を吐露するはやてに嘆息したマキナは、徐に右手を顔の所まで持って行き……、

「ぐッ!」

治癒魔法の一部を使って、清潔さを維持しながら自分の右眼を抜き取った。そしてはやての右目に、強力な治癒の光を発して自分の右眼を植え込んだ。マキナの琥珀色の眼が、はやてに光を取り戻させるために……。

「これで……私は死なない。八神の一部として残るから……八神が生き続ける限り、この世から私の存在は消えない……」

「マキナちゃん……!」

はやてがマキナの右手を掴もうとした瞬間、結晶化して砕け散った。もはやマキナの身体は、切断された左腕と左脚すらも消滅したことで、胴体と頭までしかこの世に残っていなかった。
そんな彼女に治癒魔法を教え、かつ命を救った事があるシャマルは一際強い悲しみで頬を濡らす。治癒術師として治す力はあるのにSOPのせいで使えないことが誰よりも悔しくて……免許皆伝と言えるほどに成長していた愛弟子を救えないことが何よりも辛くて……シャマルはこの世の理不尽を嘆いた。

プログラム体で成長できないから、成長していく彼女に喜びを見出していた。いつか自分より優れた治癒術師となって、多くの命を救ってくれると思っていた。彼女は私が育てたんだと、世界に誇りたかった。だからこそ、シャマルの哀しみは他のヴォルケンリッターとは比較にならないほど強かった。

そして……眼を閉じた彼女から一気に力が抜けていくのを感じたジャンゴは、狙撃型スカルズを殲滅し終えて戻ってきたなのはと共に、必死にマキナの名前を呼び続ける。だが……もう彼女の口から言葉は何一つ発せられなかった。

「(……ごめん……シャロン、迎えに行けなくて……。…………あぁ………………サバタ……さま……、わたし……も、あなたのもとへ……)」

―――パリィン……!

マキナの身体が完全に結晶となって消滅した音に、誰もが感情を抑えきれなくなった。はやてもシャマルも、アギトもなのはも、悲しみの涙を流して彼女の名前を叫んだ。

そしてジャンゴは見た。崩れ去るサヘラントロプスを背景に、オリジナル・なのはの身体が完全に人間のそれに戻り、心臓の鼓動が復活した姿を。ヴァンパイアではなく人間として生存した光景を。命尽きる最後まで誰かを救おうとし、為し遂げた誇り高き人間の魂を。そして……ついさっきまで彼女を抱えていた手に残された、赤いダイヤモンドに秘められし炎の輝きを。

「シャロンの所に連れていくって言ったのに……! 約束したのに……果たせなかった……! サバタが救った命を、守れなかった……! ごめん……マ……キナ……! マキナァァアアァァァァアアアアァアアアアア!!!! うわぁああああぁぁあぁああああ!!!!!!」

この次元世界に来て、何もわからなかった自分を導いてくれた仲間の名前を、ジャンゴも叫んだ。けれども、いくらマキナの名前を呼んでも、彼女の返事は返ってこない。返ってくるのは残酷な静寂だけ。

ジャンゴもなのはもアギトもはやてもシャマルも、誰もがその事実を実感した。変えようのない事実を、受け入れるしかなかった。

マキナ・ソレノイド―――死亡。
 
 

 
後書き
インフィーニートゥム:ゼノサーガ オメガ・レース・ノワエの技。
10秒決戦:ボクタイシリーズ 時間内に太陽チャージでおてんこさまの光を集め、太陽チャージでヨルムンガンドの体力ゲージを削り、トランスでヴァナルガンドの体力ゲージを削ったアレです。
なのはのヴァンパイア化:漫画版ボクタイ シリンダーから解放されたサバタが脱出目前でヴァンパイア化したのが元ネタ。
リトルクイーン:クイーン未満の状態を表すならこれがわかりやすいと思いました。

結晶化はマキナがアクーナ出身なのが理由です。なお、ジャンゴの手元に残された赤いダイヤモンドは装備品です。

ファイアダイヤモンド:暗黒の戦士に憧れ、多くの救済を残して散った少女の心の輝きの結晶。時間経過でLIFEとENEを回復し、全ての状態異常を無効にする。

マキナ・ソレノイド:先代闇の書の主の娘。攻撃も回復も諜報も何でもできるため、ゲーム的に見ればある意味難易度軽減キャラ。彼女がいるのといないのとでは、イージーからベリーハードぐらいの違いがある。ファイアダイヤモンドは彼女の好感度が一定以上の時に手に入るアクセサリー。 
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