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提督はBarにいる。

作者:ごません
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ちょっとお洒落に


 あぁ、そういえば中々珍しいキノコが混ざっていたっけな。それでちょっとお洒落に一品作ろうか。

「ん?提督よ、それはマッシュルームか?」

「そうだ。このキノコは山形の知り合いが送ってくれたんだがな、そいつの家は代々キノコの栽培をやってるんだ。」

「なるほど、それで最近作るようになった物を送って貰ったのか。」

「中々生のマッシュルームなんて貴重だろ?だから、その香りを活かして『アヒージョ』でも作ろうかと思ってな。」

「アヒージョってなぁに?提督。」

 ビールを飲み干し、今度はジントニックをチビチビやっている島風が聞いてくる。アヒージョとは、スペイン語で「ニンニク風味」を表す言葉であり、首都のマドリード以南の地方でよく食べられる料理だ。南ヨーロッパでは良く見られるオリーブオイル煮、といえば伝わりやすいだろうか。有名なのはエビのアヒージョだが、キノコやエスカルゴ、チキンに牡蠣、砂肝等々そのバリエーションは多い。

「ふ~ん、良くわかんないや。美味しいの?」

「うーん、ご飯のお供にはアレだが、パンやお酒にはこの上なくマッチする料理だぞ。」

「んじゃ、お願いしまーす。超特急でね‼」

 さて、急かされてるから急ぎましょうか。とは言っても準備は簡単、マッシュルームを食べやすい一口サイズにカットしてニンニクはスライス、辛味付けの鷹の爪は種を取り除いたら準備完了。

 次に、小さめのセラミックの鍋にオリーブオイルとニンニク、鷹の爪、塩を入れる。本式の作り方だとカスエラと呼ばれる耐熱の陶器で調理してそのまま客に提供されるのだが、独り暮らしで面倒くさいならば、鍋焼きうどんなんかに使う小さい一人用の土鍋なんかでも良いかも知れない。後ポイントとしては、ニンニクを焦がさないように点火する前にオリーブオイルに予め入れておいた方が良いだろう。

 油が温まってニンニクの香りが立って色付いて来たら、マッシュルームを投入。揚げる訳ではないから、油温が上がり過ぎると失敗するぞ。そのまま油でグツグツと煮てやって、素材に火が通ったら完成だ。もしもエビ等のシーフードで作る場合には、仕上げにシェリー酒で臭み消しと香り付けを同時にやるのを忘れずにな。キノコ等の素材その物の香りを楽しむ場合には使わない事。

「さぁ完成、『マッシュルームのアヒージョ』だ。熱いから気を付けろよ?」

 島風が急いでフォークにマッシュルームを突き刺し、一思いに口に放り込んだ。瞬間、

「あひ、あひ、あひひひ……」

 と悶絶。なんともその熱がり方がアヒージョにぴったりで、武蔵と共に吹き出してしまった。

「どれ、無くなる前に私も一口……」

 武蔵はフォークに突き刺さず、なんと素手でつまみ上げて口に。いや、熱くねぇのかお前。

「フム、これはビールではないな。提督、赤ワインを貰おう。」

 指に付いたオリーブオイルを嘗めとりながら、武蔵が注文してきた。しかしまぁ、良く飲むねぇ武蔵は。

「当たり前だ、営倉にいる間一滴も飲めなかったからな。今日はその分飲まなくてはな!」

 フハハハハ、と高笑いする武蔵。ながもんに続いてお前もこれからたけぞうって呼んでやろうか。……いや、ダメだ。たけぞうだと二〇一流とか編み出しそうだからダメだ。

「まぁいいけどよぉ。明日からまた通常業務に戻ってもらうからな?差し支えの無いようにしろよな。」

 ちなみにだが、ニンニクとオリーブオイルの組み合わせは、他の国でも見られる。特に、イタリアのアーリオ・オーリオなんかは有名だな。パスタのアーリオ・オーリオは、別名ペペロンチーノ……まぁ、こっちの方が有名だな。



「ねぇねぇ、武蔵さん知ってる?」

 アヒージョを肴に赤ワインを楽しんでいた武蔵に、ジントニックを飲み干して、今度はチチをストローで啜っていた島風が思い出したように話しかける。

「ん?どうした島風。」

「最近ねぇ、あきつ丸さんのお酒の好みが変わった、って。」

 それを聞いた武蔵は、かなり驚いていた。

「何だと?それは本当か。」

「うん、最近鳳翔さんのお店に行くと、ワインとチーズばっかり頼むんだって。」

「あれだけ『日本男児たるもの、日本酒以外有り得ないであります!』と豪語していたあきつ丸がなぁ。」

 クックッと喉を鳴らし、笑いながら武蔵もグラスを傾け、中身のワインを喉に流し込む。俺も思わず吹き出しそうになったが、ここで吹いたらあきつ丸が余りに不憫だったので何とか堪えた。そもそも、あきつ丸も艦『娘』なのだから、日本男児ではないのだが。しかし、話を聞くだけで情景が目に浮かぶわ。

「まぁ、いい事じゃないか。陸軍からの派遣組も、そうやってウチの鎮守府……というか海軍の空気に慣れてきたって事だろ?」

「いや提督よ、それは慣れてきたのではなく『毒された』というのでは無いのか?」

「ブフッ!」

 すまん、あきつ丸。我慢しきれなかった。 
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