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提督はBarにいる。

作者:ごません
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汁物の仕上げ


 鍋にサラダ油を引き、豚肉を炒める。今回は豚バラを使う。アバラ周りのバラ肉は脂と赤身のバランスが、脂の旨味を活かしたい炒め物等にちょうど良い。豚肉の色が八割方変わったらゴボウを加えて炒める。

「ゴボウはどのくらい炒めれば?」

「ゴボウの香りが立ってきたら良いぞ。そこにジャガイモを加えてくれ。」

 指示通りにジャガイモを加える時雨。ある程度炒まったらそこに臭み消しの酒を振り入れる。一気に湯気がたつ鍋に臆する事なく炒めていく。

「提督?私はどうすれば……」

 あ、大鯨が手持ち無沙汰になっていた。いかんいかん、じゃあ今の内にせんべい汁の具材の仕込みをしてもらおうか。

 使うのはニンジン、榎茸、白菜、長葱、干し椎茸、ゴボウ、鶏モモ肉。切り方は豚汁と同様で、白菜は細切りに。鶏モモも小さめで良いだろう。

「提督、豚汁の方は良い感じだよ。」

「お、そうか。そこまで炒まったら大根とニンジン、それと玉葱とコンニャクも加えて炒めてくれ。」

 根菜類が全て入ったら炒めるのはサッとでいい。全体が混ざったら干し椎茸を加えて戻し汁も加えて灰汁を取りながらの煮込みに入る。具材が被るくらいの水の量になるように調整してな。そうしたら長葱と榎茸も加えてしばらく煮込む。灰汁取りは細かくやらないと味が落ちるから入念にな。その間にせんべい汁も仕込み始めよう。



 こちらも鍋に油を引き、鶏モモを投入。豚肉に比べて鶏肉は焦げ付いてボロボロになりやすい。少し焼き目を付けてから炒め始めた方が良いだろう。

「そういえば、せんべい汁は鶏肉なんですね。」

「だなぁ。あんまり鶏以外を合わせようって思考が無かったわ。」

 今回はモモ肉を使ったが、むね肉とか手羽中、手羽先なんかも良いかもな。ささみはパサつくだろうからあんまりオススメはしないがな。

 鶏が炒まったら豚汁同様にゴボウを加えて更に炒める。香りが立ってきたらこちらも酒を振り入れる。ゴボウにも火が通ったらニンジンと椎茸、白菜の下の方、白い部分を炒める。白菜が透き通ってきたら葉の部分を加え、全体に混ざりあったら干し椎茸の戻し汁を加えてこちらも灰汁を取りながら煮込む。

「ふぅ。とりあえず、二品はほぼ出来上がりだな。チョイとと休憩して何か飲むか。」

 二人にそう薦めると、二人は嬉しそうに席に着いた。とは言ったものの何を出したものか。時刻を見ると午後3時。オヤツの時間か。…なら、甘いカクテルでも振る舞うとしようか。

 まずは爽やかな口当たりの物を1つ。リキュールグラスにクレーム・ド・カカオ、クレーム・ド・ミント・グリーン、そして生クリームの順に、静かにグラスに同量注ぐ。するとそれぞれの比重の違いから混ざり合う事なく美しい縞模様を描き出す。見た目にも美しいこれはプース・カフェ・スタイルと呼ばれるカクテルの方式で、口に含む事で初めて味が完成するのだ。

「お待たせ。『グリーン・ホッパー』だ。まずは何も聞かずに飲んでみな。」

 二人は恐る恐る口に運ぶ。

「あ、この味……」

「チョコミント!私、あまりお酒は得意じゃないけれど、これなら美味しく飲めそうです。」

 大鯨が頬を綻ばせてニコニコ笑っている。あぁ、癒される笑顔してんなぁこの娘。

「まぁな。クレーム・ド・カカオは口当たりの良さがウリだから。」

 クレーム・ド・カカオとは、チョコレートの原料であるカカオ豆を焙煎し、アルコールと共に蒸留。更にカカオの浸漬液やカカオ色素で濃い褐色に色付けした物が一般的だ。まぁ今回は彩りを考えて着色せずにバニラの香りとシロップを加えたホワイトタイプを使った。クレーム・ド・ミント・グリーンも同様、ミントを漬け込んだリキュールで、円やかな口当たりと鮮やかなグリーンが特徴だ。甘過ぎず、かといって辛すぎず、絶妙なバランスの一杯だ。



 さて、野菜に火が通るにはもう少しか。ならばもう一杯、今度は温かいカクテルをご馳走しようか。用意するのはマグカップ。温かいカクテルだからな、ガラスのグラスは似合わない。そこにゴールド・テキーラを30ml、クレーム・ド・カカオを15ml。今度は一般的なブラウンタイプを使う。更に香り付けにレモン・ジュースを5ml。そして仕上げにホットコーヒーを適量注いでステアすると完成だ。

「『ホット・パイパー』だ。それを飲んだら作業再開するぞ。」

 二人とも似たような動きでフーフーと息を吹き掛けて冷まし、普通にコーヒーを飲むようにズズズと啜る。

「……なんだか、カフェモカみたいな味だね。」

「でも、お酒が入ってるからか余計に暖まってる気がします。」

 本人の話通り、大鯨は酒が強くないのか顔が赤くなってきている。大丈夫かよ、オイ。



 さて、豚汁とせんべい汁を仕上げてしまおう。蓋を開けるとどちらの鍋もグラグラと煮立っている。豚汁の方には賽の目に切った豆腐を加え、豆腐が温まったら火を止める。味噌汁作りにも言える事だが、味噌を溶き入れる時には必ず火を止める。そうでないと味噌の旨味や香りが逃げてしまう。これは味噌を使う時のいろはのいの字だ。味噌を溶いたらここで味見。塩気の強弱はここで調整してな。

「うん、良い味だ。」

 使う味噌は赤味噌系がオススメかな。野菜の量が多いから、白味噌だと甘く感じるかも。勿論、自分の好みに合わせて合わせ味噌でもOKだ。

 今度はせんべい汁だな。こっちは醤油ベースの味付け。顆粒の鰹だしと昆布茶を少々加えて、そこに酒と醤油。味見をして、自分の基準にする汁物の塩気よりほんの少ししょっぱい位が丁度良いかな。後からせんべいが入るから、味が薄まる事を計算して調整してくれ。

「うん、こっちもいいな。」

「あれ、せんべいは入れないのかい?」

「せんべいは食べる寸前に入れて軽く煮るのさ。そうしないとデロデロになるからな。」

 せんべい汁のせんべいは、柔らかい所とあまり煮えてない所のまばらな食感を楽しめる方が美味いからな。

「さぁて、次はけんちん汁を作ろうかね。」 
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