| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

艦隊これくしょん 災厄に魅入られし少女

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

プロローグ1 災厄に魅入られし少女

 
前書き
プロローグのため、非常に短いです。
文章におかしな部分があるかもしれませんが、よろしくお願いします。 

 
少女はどこにでもいるごく普通の人間だった。普通に起き、普通に食事をし、普通に家族と出掛け、普通に友達と遊び、普通に寝るという、ごく普通の生活を送っていた。
数年前に突如現れた謎の生命体"深海棲艦"によって制海権を奪われた世界、日本を初めとした世界各国は制海権を取り戻す為に在りし日の艦船の魂を宿した少女"艦娘"を造り、深海棲艦と戦争を行っていた。時折少女の住む場所にも避難勧告が来るが、それでも深海棲艦による被害は少なかった。
そのため、少女は戦争とは無縁の生活を送っていた。いや、送るはずだった。
"あの日"が訪れるまでは…………


………
……



「ふわぁ〜〜………」

その日も少女こと黒夢凰香はいつも通りに起きた。しかし、今日はいつもとは違う。
今日は家族と友達と共に海に釣りをしに出かけるのだ。凰香はよく父親に連れられて海に釣りに出ていた。そのため、凰香は子供でありながら漁師顔負けの腕前を持っていた。

「凰香ー!早く着替えないと遅れるわよー!」
「はーい!」

一階で母親の呼ぶ声が聞こえてきたので、凰香は返事をするとすぐにパジャマから動きやすい服とズボンに着替える。そして一階に下りると、母親は昼に食べる弁当を作っており、父親は釣竿や餌、クーラーボックスなど釣りで使う道具を用意していた。

「おはようお母さん!」
「おはよう。早く朝ごはんを食べちゃいなさい」
「うん」

母親にそう言われた凰香は椅子に座り、母親がよそってくれたごはんと味噌汁を食べる。そしてすぐに父親の手伝いに向かった。

「お父さん、私も手伝う!」
「おお、そうか。じゃあその箱を車に積んでくれ」
「はーい」

父親にそう言われた凰香は釣り針や重りなど、小道具がたくさん入った箱をトランクに入れる。
そして準備を終えたとき、母親が弁当を持って家から出てきた。

「さあ、皆を待たせちゃいけないから、早く出発しましょう」
「そうだな。じゃあ、行こうか」
「うん!」

凰香は頷き、両親と共に車に乗り込み、友達が待っている港へと向かったのだった。


………
……



友達と集まった凰香はそこから港で船を借りて、外洋の方まで出ていた。そして今は皆で釣りを楽しんでいた。

「よいしょっと!」

凰香は自分の釣竿を引き、水中から魚を引き上げる。

「凰香ちゃん、すごーい!」

それを見ていた友達である少女が驚くように言った。先ほどから凰香はずっと魚を釣っているのだ。

「えへへ、ありがとう!」

凰香は照れ笑いを浮かべながらそう言うと、釣り針から魚をはずして、クーラーボックスの中に入れる。すると、母親が言った。

「随分とたくさん釣れたわね。今日はお魚づくしにしようかしら」
「「やったー!」」

凰香と友達の少女は同時に喜ぶ。すると、それを見ていた友達の母親が凰香の母親に言った。

「今日はお誘い頂いてありがとうございます」
「いえいえ、いつもうちの凰香がお世話になっていますから」

そう言って、母親達は笑いながら世間話を始める。一方、父親も友達の少女の父親と笑いながら世間話をしていた。
凰香は新たに餌を付けて釣りをしようとした時、遠くに何かがいることに気がついた。片方は魚に似た何かや人間と機械が合体したようなもの、人間の女性など様々な姿をしており、その全てが黒色と白色をしていた。もう片方は凰香と同い年くらいの少女から大人の女性などがおり、腕や背中、脚に武器を付けて海の上に立っていた。そして、両方とも武器を使って戦っていた。

「凰香?どうかしたのか?」

凰香が何かを見つめていることに気がついた父親が、隣に立って凰香の見ている方向に視線を向けた。
その瞬間、父親の表情が驚愕に染まった。

「か、艦娘と深海棲艦?!」
「な、なんだって!?」

友達の父親も驚愕して、父親の隣に急いで来て艦娘と深海棲艦が戦っている方向を見た。

「そんな!今日は深海棲艦が現れたなんて話は聞いてないぞ!」
「港の人も今日は海に出ても大丈夫だって言ってたわよ!?」
「それよりも早くここから離れた方がいいんじゃないの!?」
「そうだな!早くここから離れよう!」

父親がそう言って、すぐに船のエンジンを入れる。友達の父親もすぐに船を出せる準備を始めた。
母親と友達の少女、その母親は不安気な表情を浮かべていた。しかし、凰香は艦娘と深海棲艦の戦いをずっと見つめていた。
すると、深海棲艦の方から一人の女性が近づいてくるのに気がついた。先端が赤く染まった黒い二本の角が生えた白の長髪に黒色の鉢巻のようなものを巻いており、胸元に黒い金属の飾りが付いたお腹が丸見えの白色の半袖の服のようなものに黒いミニスカートのようなもの、黒い手袋に金属の刺々しいブーツのようなもの、太ももに付いた鎖の先端には碇が繋がれており、背中からは長い大砲のようなものが二本ずつ付いている生物の顔のようなものが四つ付いていた。

「あ……」

その深海棲艦の女性を見た凰香は声を漏らした。凰香が見てきたものの中で、一番綺麗だったからだ。

「ーーーー!」

深海棲艦の女性が慌てた様子で凰香達に向かって何かを叫び、右手で指差していた。

(『早く逃げて!』……?)

凰香が深海棲艦の女性が言っていることがわかった瞬間、

ーーーードガァァァァァァン!!ーーーー

深海棲艦の女性の背後で爆発が起きたのと同時に、凰香達が乗っていた船が突然爆発した。凰香の乗っていた船が攻撃されたのだ。だが、深海棲艦は誰も凰香の乗っていた船を攻撃しておらず、全員が驚愕に染まった表情でこちらを見て呆然としていた。では、誰が凰香の乗っていた船を攻撃したのか?その答えは一つしかない。
そう………………艦娘だった。
船の爆発によって凰香は海に吹き飛ばされてしまう。それと同時に、凄まじい激痛に襲われ、右肩から物凄い量の血が噴き出る。今の爆発によって、右腕が千切れてしまったのだ。
海に吹き飛ばされた凰香は、左腕だけで海面に浮いている船の残骸にしがみつき、溺れないようにする。

「痛い……痛いよぉ………!」

想像を絶する激痛に襲われながらも、凰香は泣くのを我慢する。そして、顔を上げてしまった。
凰香の眼に映ったのは、今まさに沈もうとしている船と、船と共に沈んでいく父親と母親、友達の少女とその両親だった。

「あ……あぁ………あああああああああああああああああああああっ!!」

凰香は眼を見開いて絶叫し、そして意識を失ってしまった。


………
……


「う……うぅ………」

意識を取り戻した凰香は、気がつけば見慣れない砂浜に倒れていた。どれくらい意識を失っていたのかはわからないのだが、かなり流されてしまったらしく、凰香は何処かの島に流れ着いてしまったようだ。だが、周囲には凰香以外には誰もおらず、凰香がしがみついていた船の残骸しかなかった。
凰香は立ち上がろうとしたが、その際に信じられないものが眼に映った。

「あ…れ?なんで、右腕が………?」

凰香の眼に映ったのは、千切れて無くなってしまったはずの右腕だった。それも全体が黒く染まり、指先が鋭く尖り、赤いオーラを纏った異形の右腕だった。

「……ヤット眼ガ覚メタノネ」
「!?」

凰香が呆然として自分の異形の右腕を見つめていると、突然背後から空間に響くような女性の声が聞こえてきた。
凰香が驚いて背後を振り向くと、そこには先ほどの深海棲艦の女性が立っていた。しかし、先ほどとは違って女性の身体は淡く光っていた。
凰香は驚きのあまり、尻もちをついてしまう。すると、深海棲艦の女性が言った。

「大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です。………えっと、お姉さんは?」

凰香は恐る恐る聞いた。こうして深海棲艦と話をするなんて初めてだからだ。今までは『深海棲艦=怖いもの』と教えられてきたが、目の前にいる深海棲艦の女性は凰香達を助けようとしてくれた。もしかしたら、深海棲艦は全部が全部怖いものではないのかもしれない。
すると、深海棲艦の女性が言った。

「ソウネ、艦娘ヤ提督カラハ『防空棲姫』ト呼バレテイルワ」
「『防空棲姫』さん…ですか。私は、黒夢凰香って言います」
「凰香チャンネ。身体ノ具合ハドウ?」

防空棲姫にそう言われてハッとする凰香。なぜ千切れたはずの右腕があるのか?なぜ右腕は異形のものになっているのか?
防空棲姫が体調のことを聞いてきたということは、防空棲姫が凰香に何かをやったのだろう。
すると、防空棲姫が言った。

「アナタハサッキ瀕死ノ重傷ヲ負ッテイタノ。デモ、アナタヲ助ケルノニ必要ナモノガ無カッタ。ダカラ、アナタニ私ノ魂ヲ宿サセテ深海棲艦ニサセルシカ方法ガ無ッタノ」
「じゃあ、今の私は………」
「ソウ、今ノアナタハ半分深海棲艦ヨ。言ウナレバ、『第二ノ防空棲姫』ッテトコロカシラネ。ソシテ今ノ私ハ幽体ヨ。マア、実体化スルコトモデキルケドネ」
「!」

防空棲姫の言葉を聞いた凰香は衝撃を受けてしまう。自分は右腕が治っただけではなく、身体の半分が深海棲艦になってしまっているというのだ。この右腕が凰香が深海棲艦なっているという証拠なのだろう。
凰香は防空棲姫にあることを聞いた。

「あの……他の、皆は………?」
「………ゴメンナサイ。他ノ人ハモウ助ケルコトガデキナカッタノ………」

防空棲姫が悔しそうな表情でそう言った。それは凰香にとって到底受け入れることのできない事実であった。
凰香の両親も、友達の少女も、その少女の両親ももうニ度と会うことができない。凰香はそれを知ってしまった。
防空棲姫からそう聞かされた凰香は両眼からポロポロと涙を流していく。だが、懸命に泣かないようにと我慢する。
すると、防空棲姫が凰香を優しく抱きしめて言った。

「コレカラハ何ガアッテモ、絶対ニ私ガアナタヲ護ルカラ」
「……あ……あぁ……うわぁぁぁぁぁぁん………!」

それを聞いた凰香は我慢することができず、防空棲姫の胸の中で声を上げて泣き叫んだ。
そんな凰香を、防空棲姫は泣き止むまでずっと優しく抱きしめてくれたのだった。 
 

 
後書き
次回は、防空棲姫の話です。
それでは、ありがとうございました。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧