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巻き添え

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第二章

「だからこそ」
「双方の対立の解消」
「それを目指すべきであり」
「この度のマルグリット様のご成婚はその為のものですね」
「まさに」
「私も考えたのです」
 その婚姻の提案者がこの太后だ、他ならぬ彼女だからこそ余計に言うのだ。
「ここはです」
「何としてもですね」
「国内の対立を解消し」
「そのうえで神聖ローマやイングランドにあたる」
「スペインにもですね」
「そうです、しかし」
 ここでだ、太后は難しい顔になった。そのうえで側近達に言ったのだった。
「新教側も厄介な物がいます」
「コリニー提督ですね」
「新教側の領袖であられる」
「あの方ですね」
「提督はギーズ公と同じです」
 太后は眉を顰めさせて言った。
「まさに」
「ギーズ公は旧教の強硬派の領袖ですが」
「提督は新教の強硬派の領袖です」
「その行動も極端です」
「他国の新教徒達とも平気で手を結びます」
 即ち外患を国内に持ち込む様なことをするというのだ、これが国にとって迷惑な話であることは言うまでもない。
「そして戦いの際旧教徒に残忍な行いもします」
「ギーズ公も確かに問題ですが」
「あの提督も問題です」
「二人で権力闘争も行っていますし」
「あのお二人を何とかしなければ」
「私は提督の方をより問題視しています」
 太后は強い声で言った。
「彼は王の傍によくいて王に何かと囁いています」
「そのことを考えるとですね」
「王が新教に寄ってしまいますね」
「新教に寄るのも問題ですから」
「だからこそ」
「はい、提督はまたパリに戻ってきます」 
 今は離れているがというのだ。
「婚姻に参列する為に」
「ギーズ公も来られますし」
「下手をすれば衝突が起こりますね」
「折角の宥和の為の婚姻だというのに」
「そうなりかねませんね」
「注意しておきましょう」
 太后は為政者として考えていた、王も彼女もこう考えていた。だが。
 パリで宝石商を営んでいるミシェル=アルゲッティは続々とパリに来る新旧双方の貴族達を見てだった。家族に言った。
「ちょっとパリを離れるか」
「えっ、どうしてなの?」
 妻のカロリーネは夫の言葉にその栗色の目を瞬かせて問うた。ミシェルの長い黒い髭を生やした顔を見てだ。
「また急に」
「折角のお祝いの場なのに」
「もうすぐ結婚式よ」
 子供のフランソワとマリーも言う、名前はフランスのものだがユダヤ人である。
「それでどうしてなの?」
「そんなことを言うの?」
「危ないからだ」
 ミシェルは黒い目を深刻なものにさせていた、髭は濃いが髪の毛はそろそろ薄くなりだしている。 
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