漫画家の部屋
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第一章
漫画家の部屋
立浪咲の従兄である立浪銀一は漫画家だ、ペンネームを使っているが本名はそうだ。咲はこの従兄の家によく通っていた。黒目がちの大きな二重の目と細く長い眉に薄いピンクの唇を肩をにかかる高さの黒髪を持っている、小学四年生だ。
それで二十歳になったばかりでデビューして連載をはじめた銀一の家によく行くが彼はその従妹が両親と一緒に過ごしている自宅に来るとこう言った。
「漫画読む?」
「だから来たの」
咲は銀一ににこりと笑って答えるのが常だった。
「私もね」
「そうだよね、こんな駆け出しの漫画家のところにね」
銀一も笑って言う、丸眼鏡で痩せた顔である、口の周りには少し無精髭があり髪型も無造作な感じである。背は普通位だがやはり痩せている。服も何かくたびれている。
「可愛い女の子が来ないよね」
「可愛いの?」
「咲ちゃんはね、漫画のキャラのモデルにしたい位だよ」
「じゃあラブコメ漫画のヒロインに」
「いや、俺四コマとロボットものだから」
その二つの連載を持っているのだ、最初はロボットものだけだったが自分のサイトで発表していた四コマがある編集者の目に止まりそちらの連載も先月からはじまったのだ。
「咲ちゃんは主人公の妹かな」
「ロボットものの」
「ぶっちゃけ小さい娘も出るとね」
漫画にである。
「人気出るからね」
「じゃあ出してね」
「うん、そうするね」
「それじゃあ今日も漫画読ませてね」
「好きなだけ読んでね」
「うん、本当に漫画多いわね」
「漫画家だからね」
銀一は自分の部屋に入ってコーヒーを飲みつつ話をしている従妹に答えた。
「勉強の為にも」
「漫画家も勉強なの」
「そうだよ」
その通りだというのだ。
「アシスタントしていた頃からね」
「ずっと勉強してるの」
「漫画のね、ライトノベルやイラスト集も読んでるよ」
見ればそうした本もかなり多い、部屋は机と椅子、執筆に使うパソコンの他はそうした本等で埋め尽くされている。布団は今は畳まれていて部屋の中にはない。
「描いてない時はね」
「いつもなの」
「読んでるよ」
勉強でというのだ。
「そうしているよ、あと漫画家も体力必要だから毎日朝は雨でも走ってるし」
「あら、そうなの」
「食事も気をつけてるしね」
「何か普通のお仕事みたい」
「さもないと長く続けられないからね」
漫画家という仕事もというのだ。
「これでも色々気をつけてるよ」
「そうなの、けれどね」
「けれど?」
「ずっとお部屋汚いわよね」
あちこちに漫画やライトノベルが積まれていて寝るスペースがやっとという位だ、どう見ても掃除をしているとは思えない。咲は布団があったスペースに出されたちゃぶ台に座って向かい側にいる銀一と話をしているのだ。夏なのでアイスコーヒー、かなり甘くしたそれを飲みつつ。
「お兄ちゃんの部屋」
「それ言うの?」
「だってどう見てもね」
その部屋の中を見回しつつ答えた。
「汚いから」
「実際にっていうの」
「だからね」
「まあ汚いことはね」
「実際よね」
「そうだよ、しかも最近特に忙しいからね」
銀一は壁にかけてあるカレンダーを見て言った、今は六月だが。
「締切とコミケもあるから」
「コミケ?」
「同人誌だよ、そっちも書かないといけないし読み切りと自分のサイトでの発表と漫画投稿サイトへの投稿もあるし」
「何か色々やってるのね」
「だからもうね」
「お掃除する暇もなの」
「ないよ」
「夏だからこれから暑くならない?」
「クーラーあるから、万が一壊れたら扇風機があるし」
備えもあるというのだ。
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