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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第74話「足掻く」

 
前書き
一方椿たちは...的な話。
原作での闇の書戦みたいな感じですね。
 

 








       =奏 side=







「.......。」

 私は困惑していた。目の前に広がる光景に。

「奏ちゃん、退院できたんだってね。おめでとう。」

「....いえ、あの、■■さんこそ、いつもお見舞いに来てくれてありがとうございました。」

 自身の記憶を探ってみても、今会話している相手を知らない。
 その事が、私を大きく混乱させていた。

「切っ掛けはちょっとした事だったんだけどなぁ...。まぁ、ドナーが見つかって本当によかったよ。その人にも感謝しなきゃな。」

「....はい。」

 会話の相手の言葉に、少し微笑みながら返事をする。
 ...嬉しく思っているのだ。自分が生きている事に。

 確かに、私は前世で生きるのをほぼ諦める程の心臓病に掛かっていた。
 だから、こうして退院できる程に回復したのが嬉しいのだと思う。
 ...だとしたら、今正面にいる彼は誰...?

「(...安心する....。)」

 彼と近くにいるだけで、私は深い安心感を覚えていた。
 それはまるで、私の全てを包み込むような、そんな暖かさだった。

「さぁ、行こう奏ちゃん。やりたい事、いっぱいあるんだろう?」

「...はい!」

 手を差し伸べられて、私は元気よく返事をしながらその手を取る。
 ...先ほどから私は喋っているけど、全部私の意思は無視されている。
 つまり、勝手に喋っているのだ。

「(...誰?誰なの...?)」

 安心感があると同時に、彼が誰なのか非常に気になる。
 ...いや、気になるというより、思い出せない...?
 私は、彼を知っている...?



   ―――...トクン...



「...生きる事の素晴らしさを教えてくれて、本当にありがとうございます。...()()さん。」

 小さな鼓動の音と共に、彼の顔が明らかになる。
 ...その姿は、あの優輝を青年に成長させた...そんな姿だった。







   ―――...トクン...









 ...心臓の音が、私に何かを訴えかけている...そんな気がした。





















       =out side=







「くっ....!」

 ノイズの走る偽物のビル街を、椿は駆ける。

「は、ぁっ....!」

 魔力によってできた足場を利用し、何度も跳ぶ。
 その度に、寸前までいた場所に赤い短剣が刺さり、爆発する。

「(強い...!)」

 苦し紛れに反撃の矢を放つも、それは躱される。

「“チェーンバインド”!」

 遠くの方で、ユーノの声がし、鎖状のバインドが暴走体へと迫る。
 ...が、それも躱され、反撃の砲撃魔法が繰り出される。

「ぐぅぅぅ....!」

 何とかユーノは防御魔法でそれを凌ぎきり、すぐさまそこを飛び退く。
 瞬間、その場所に椿にも放たれていた赤い短剣が突き刺さった。

「(ただ魔法が強いという訳じゃない...。この暴走体、戦闘技術が高い...!)」

「(僕が攻撃魔法に適正がないのを理解していて、危険性が高い椿ばかり攻撃している...。理性がないはずなのに、どうしてそこまで状況判断が上手いんだ...!?)」

 攻撃を躱しつつ、椿とユーノは同じことを考える。
 それほどまでに、闇の書を再現した暴走体は強いのだ。

「っ...優輝がすぐに倒せないのも納得ね...!」

「ブラッディーダガーとなのは達の魔法...相当厄介だ...よっ!」

 二人とも一度空中で背中合わせになり、小言を漏らしてすぐにそこから飛び退く。
 当然かの如く、寸前までいた場所に魔法陣が現れ、爆発を起こした。

「この...!」

 爆風により、飛べない椿はダメージはないものの、大きく吹き飛ばされる。
 その間にも霊力の矢を番え、暴走体に向けて放つ。

「っ、駄目ね...!」

 しかし、やはりそれは躱される。
 すぐさま椿はシュラインに自分のすぐ真上に魔力の足場を作らせ、それに手をついて地面へと一気に跳び、魔力弾を躱す。

「それに、空中は戦いづらいわね...!」

 葵とのユニゾンで空中戦に慣れた椿だが、飽くまでそれは“飛べた”からだ。
 飛べない状態では、やはり空中戦は戦いづらかった。

「っ、っと、はっ、くっ...!」

 ビルとビルの間を飛び回り、暴走体の魔力弾を避ける。
 ユーノもユーノで、空中で防御魔法を駆使しつつ何とか凌いでいた。

「っっ.....!!」

     ギィイイン!!

「椿!っ、くっ....!」

 しかし、攻撃は遠距離だけじゃない。
 暴走体直々にも、パイルスピアで攻撃してくる。
 それを椿は咄嗟に短刀で防ぐも、空中では踏ん張りが利かず、ビルに叩きつけられる。
 ユーノが助けに動こうとするが、魔力弾が襲い掛かり、その対処に追われる。

「このっ....!」

 蹴りを放ち、暴走体を引きはがした椿は、すぐにそこから動く。
 相手は暴走体でありながら卓越した戦闘技術の持ち主。立ち止まっていたらすぐに攻撃の餌食になってしまうと、理解しているからだ。

「(攻撃が当たらない!放つ隙もない!ユーノ曰くS級ロストロギアらしいけど...その再現とはいえ、強すぎるわね...!)」

 椿も相当な戦闘経験を積んでいる。
 その経験を以ってしても、“勝つのは厳しい”と思わざるを得ない程だった。

「(遠距離の方が勝ち目が薄いなんて...弓術士として泣きたくなるわね。...でも、ベルカの騎士の割には私でも近接戦が可能!なら...!)」

 そう、暴走体...闇の書とはいえ、再現している姿はリインフォースそのものだ。
 そのリインフォースは、ベルカの騎士としては近接戦にそこまで強くはない。
 シャマルと同様、後方支援が主な戦い方なため、それが暴走体にも影響され、後衛型の椿でも接近戦で渡り合えるのだ。

「...保険として持っておいて正解だったわね...。」

 暴走体から逃げ回りつつ、椿は懐から御札を一枚取り出す。
 それに霊力を流し込み、“収納”していたものを取り出す。

「葵とユニゾンしているならレイピアだけど...私個人なら刀の方が扱えるわ!」

 短刀を仕舞い、回避不可能になった魔力弾を、取り出した刀に霊力を込め、切り裂く。
 この刀は、事前に優輝が創造しておいたものである。
 武器を紛失した時の保険として御札に収納しておいたのだ。

     ギィイイン!!

「っ...!!」

 魔力弾を潜り抜け、椿は暴走体へと斬りかかる。
 霊力を込めたその一撃は、パイルスピアによって受け止められてしまう。

「まだよ!」

   ―――“霊撃”

 片手を刀から離し、霊力を掌に集めて掌底を放つ。
 ...しかし、同じように暴走体も掌に魔力を集めていた。

「ぐっ...!」

 霊力と魔力がぶつかり合い、相殺するように爆発が起きる。
 咄嗟に椿は後ろに跳ぶが、爆風は躱しきれずに吹き飛ばされてしまう。

「っ、させない!」

   ―――“チェーンバインド”

 吹き飛ばされる椿に対し、追撃を行おうとする暴走体だが、バインドに阻まれる。
 魔力弾を凌ぎきったユーノが、その行動をさせまいと動いていた。

「くっ...!」

「椿!僕が防ぐから....っ!!」

     ギィイイイイイイン!!

 バク転の要領で魔力の足場に手をつき体勢を立て直す椿。
 それを見て、バインドによってできる隙を突くようにユーノは言うが、暴走体に引っ張られ、おまけに暴走体もユーノに襲い掛かってくる。
 パイルスピアによる一撃を、ユーノは咄嗟に防御魔法で防ぐが...。

「っ、あがっ...!?」

「ユーノ!」

 パイルスピアの穂先が防御魔法に食い込み、そこから砲撃魔法が放たれる。
 幸い、威力はそこまで高くなかったのか、ユーノの防護服で傷はない。
 だが、ダメージは大きかったようで、すぐさま身動きが取れなかった。

「させ、ないわよ!!」

   ―――“弓技・閃矢”

 ユーノが射線上に入らないように閃光の如き矢を連続で放ち、追撃を阻止する。
 すぐさま弓を仕舞って椿は暴走体へと斬りかかる。

「ユーノ!チェーンバインドだと引っ張られるわ!他のバインドにしなさい!」

「っ、わかった!」

 勢いよく斬りかかったため、少しだけ暴走体を押す。
 その間に椿はユーノに忠告し、暴走体から放たれる赤い短剣を躱す。

「(っ、バインドの位置を読まれている...!かといって、チェーンバインドだと椿の言った通り引っ張られてしまう...!)」

 飛び回りながら互いの武器をぶつけ合う椿と暴走体を見ながら、ユーノはそう思う。
 座標を指定しておく設置型のディレイドバインドの位置を読まれているのだ。
 さらに、他のバインドでは捉えきれない程暴走体の動きは速かった。

「(バインドが躱されている...?でも、おかげで動きが制限されて読みやすい...!)」

 だが、それでも椿にとってはプラスの効果だったようで、得意ではない接近戦で何とか渡り合う事ができていた。

 ...しかし、それも長続きはしなかった。

   ―――“Blitz Action(ブリッツアクション)

「っ!ぁあっ!?」

 見失う程のスピードで暴走体は動き、椿の後ろへ回り込む。
 咄嗟に刀を後ろに振り抜く椿だが、暴走体の一撃を殺しきれず、吹き飛ばされた。

「くっ...!(動きが止まる瞬間に魔力弾!?この暴走体...やっぱり戦術が上手い...!)」

 椿に一撃を放った瞬間の隙を狙い、ユーノはバインドを仕掛けようとしたが、飛来する赤い短剣によって中断せざるを得なくなる。

   ―――“Divine Buster(ディバインバスター)

「っ!!くっ!」

 吹き飛ばされている椿に向けて、暴走体はなのはの砲撃魔法を放つ。
 それが視界に入った瞬間、椿は咄嗟に進行方向に足場を作らせ、弾かれるように上に跳んで砲撃魔法を避ける。

   ―――“Blitz Action(ブリッツアクション)

     ギィイイン!!

「っぁ...!」

 しかし、そこへ移動魔法で加速してきた暴走体に攻撃され、刀で防ぐもののさらに吹き飛ばされてしまう。

「椿!」

 遠くに吹き飛ばされていくのを見て、ユーノもすぐに追いかける。

「(魔法を多用してきた...!“温存していた”っていうの!?理性がないのに!)」

 先程までは魔力弾を主に使い、接近戦にはほとんど魔力を使っていなかった。
 しかし、椿が接近戦を始めたためか、移動魔法も使うようになっていた。

「(っ、そういえば、優輝と奏が吸収される寸前も移動魔法を使っていたわね...。状況に応じて戦術を変えるなんて...。理性がないにしてはえらく芸達者ね!!)」

 砲撃魔法を躱し、パイルスピアの一撃を受け流す。
 すぐさま足場を作って飛び退き、移動魔法からの攻撃を躱す。
 さらには魔力弾も飛び交っているため、度々パイルスピアの一撃をまともに防ぐ事になってさらに海の方角へと吹き飛ばされてしまう。

「(何とかして援護をしないと...!バインド?捉えきれない!チェーンバインドなら得意だから捉えられるけど...引っ張られて余計な被害を増やすだけだ!)」

 どんどん海の方角へ押されている椿を追いかけつつ、ユーノは思考を巡らす。
 攻撃魔法が使えず、目で追うのがやっとのユーノでは、援護すらままならなかった。

「(考えろ...!優輝ならこの程度で終わらない!機転を利かせるんだ...!チェーンバインド以外では捉えられない...なら、チェーンバインドを拘束以外に利用すれば....!)」

 そこまで考えたユーノはチェーンバインドを発動する。
 ただし、何かを拘束する事もなく、魔法陣だけをその場に待機させた。

「(...僕のバインドは、防御魔法同様に自他共に認める程十分に強固だ。...なら、ちょっとやそっとの魔力弾では、壊れないはず!)」

 椿と暴走体の位置を大まかに見極める。
 そして、暴走体の放つ魔力弾に向けて、バインドを放った。

「っ!」

 放たれたチェーンバインドに魔力弾が妨害され、結果的にバインドによって魔力弾を撃ち落とすという図が出来上がる。
 それを見た椿は、好機とばかりに暴走体のパイルスピアを受け止め、蹴りを放つ。
 蹴り飛ばした先には、闇の書の再現だからか海に生えている巨大な角のような柱。
 叩きつけられるように暴走体は激突し、そこへ椿が畳みかける。

「はぁっ!っ!くっ!」

 しかし、放たれた一撃は紙一重で躱され、逆に椿が叩きつけられそうになる。
 椿は咄嗟に刀を無理矢理後ろに振り抜き、柱を切り裂きつつ、反撃を防ぐ。
 さらに、それだけでは押し切られると判断したのか、足を柱に付けて椿は踏ん張る。

「させないよ!」

「喰らいなさい!」

   ―――“チェーンバインド”
   ―――“風車”

 鍔迫り合いになった状態から、暴走体は赤い短剣を展開し、椿を攻撃しようとする。
 だが、そこへユーノのバインドが短剣に絡みつき、破壊する。
 同時に、同じく鍔迫り合いの体勢のまま、椿が風の刃を放った。

「ユーノ!そのバインドで魔力弾を妨害し続けてちょうだい!」

「分かった!」

 移動魔法により躱された所で、椿がユーノにそう叫ぶ。
 その直後に、椿がその場でバク宙をすると胴があった辺りを魔力の刃が通り過ぎた。

「いつまでも...調子に乗ってるんじゃないわよ!」

 追撃に放たれたパイルスピアの一撃を躱しつつ、パイルスピアに刀を引っ掛ける。
 引っ掛かった刀に引っ張られるのを利用し、そのまま暴走体の後頭部に膝蹴りを放つ。

「(入った!)」

 ここに来て、ようやくまともなダメージが暴走体へと刻まれる。

「はぁっ!」

 椿を引き剝がそうと放たれた魔力弾をユーノが妨害し、椿は刀をパイルスピアから離し、斬り返しのように一閃を放つ。
 狙うはパイルスピアが装着された腕。ここで攻撃手段を削ぐつもりだ。

「かはっ!?」

「椿!?っ!」

 しかし、その一閃が腕に当たる直前に、暴走体が魔力を放出して椿は吹き飛ばされる。
 ユーノがそれに驚くと同時に、襲い掛かってきた魔力弾と砲撃魔法を躱す。

「(僕に狙いを定めてきた!?厄介性が増したから!?)」

 椿を吹き飛ばすと同時に、暴走体はユーノに対し弾幕の如く魔力弾を放つ。
 展開したままであったチェーンバインドを振り回しながら、ユーノは凌ぐ。
 バインドによる妨害を編み出したためか、ユーノも暴走体に狙われるようになっていた。

「くっ...!」

「っ!」

 防げるとはいえ、圧倒的物量で攻められ、ユーノは押しつぶされそうになる。
 そこへ、暴走体の背後から体勢を立て直した椿が斬りかかった。

     ギャリィイッ!

「は、ぁっ!」

 振り向きざまに振るわれたパイルスピアに刀を引っ掛け、弾くように逸らす。
 そのまま一回転し、その勢いを利用して斬りかかる。

     キィイイン!

「叩き割るわ!」

   ―――“霊撃”

 防御魔法で斬撃が防がれるも、追撃で霊力をそこに叩き込む。
 障壁に罅が入り、暴走体が魔力弾を放とうとするが、そこへユーノの妨害が入る。

「同じ手は食わないわ!」

 防御と妨害が破られ、魔力を放出して椿を吹き飛ばそうとする暴走体だが、それを察知していた椿は霊力を込めた刀による逆袈裟切りで相殺する。
 そのまま斬り返しの一閃を放つが...。

「っ!(防がれた!)」

 それはパイルスピアによって阻まれてしまった。

「っ、ユーノ!避けなさい!」

   ―――“verdr''angen(フェアドレンゲン)

 椿とユーノはその場と飛び退きつつ、障壁を張る。
 瞬間、暴走体を中心に薙ぎ払うかのような魔力の波が迸る。

「「ぁああああああっ!!?」」

 咄嗟に障壁を張らなければ、今のでやられていた。
 そう二人が確信するほど、今の魔法は単純且つ強力だった。

「ぐ、くぅ....!」

「っ、やっぱり強い...!たった一撃で...!っ!」

 炸裂し、辺りを包む煙幕から二人は吹き飛ばされるように飛び出してくる。
 椿はすぐに体勢を立て直すが、ユーノがまだ崩れたままだった。
 それを見た瞬間、椿はユーノの方へすぐさま跳ぶ。

「えっ...!?」

「はぁっ!!」

     ギィイイイイン!

 煙幕から暴走体が不意打ち気味にユーノへと攻撃を仕掛ける。
 それを椿は庇うように横から妨害する。...が、防御魔法に阻まれてしまう。

「椿!」

「油断は禁物よ!戦場では常に気を張ってなさい!!」

 椿は障壁を利用し、弾かれるようにユーノの方へ跳ぶ。
 ユーノを抱え、すぐさまそこを離脱し、襲い掛かってきた魔力弾を躱す。

「(ただでさえ押されているというのに、直撃ではないとはいえ、魔法を受けてしまった...!これじゃあ、積極的に反撃もできない...!)」

 外からのダメージで優輝達の早期脱出を図り、椿たちは隙あらば反撃をしていた。
 しかし、先程の魔法で小さくないダメージを負ってしまったため、動きが鈍り、攻撃を凌ぐだけでも難しくなってしまっていた。

「まだ動けるわね?離すわよ!」

「分かった!」

 抱えていたユーノを離し、同時にその場から飛び退く。
 瞬間、その場所に雷が落ちる。...フェイトの魔法である。

「っ、くっ、っ...!」

「っ....!ぐぅううう....!」

 再び弾幕のように放たれる赤い短剣や魔力弾の嵐。
 それを、椿は魔力の足場を利用してアクロバティックに避け、ユーノは赤い短剣は躱して魔力弾は防御魔法で凌ぎきる。

「(私たちが傷を負ったから、近接戦から遠距離に変えてきた...!もう、食らいついてこないと分かったというの!?)」

 暴走体の先程までの戦闘スタイルと、今の弾幕を張る遠距離型のスタイルは総合的に見れば同じくらいの脅威ではある。
 だが、今のスタイルは食らいつけば隙が突きやすいため、先程のように近接重視のスタイルで椿たちと戦っていたのだ。
 それを今はダメージを受けたため、食らいつく確率は少なくなったと、理性がないはずの暴走体は判断し、今の状況になっている。

「っ....舐めてくれたものね....!」

「っ、ぁあっ!?」

 悪態をつく椿の下に、耐え切れずに吹き飛ばされたユーノが飛んでくる。

「...くっ!“扇技・護法障壁”!!」

 咄嗟に十枚の御札を取り出し、それを使って柱を背に障壁を二枚張る。

「...ユーノ、魔力は?」

「...もう空っぽだよ。むしろ、よくここまで持った方だよ。」

 障壁に魔力弾がいくつも突き刺さる。
 御札には相当な霊力が込められており、まだしばらくは持つようだ。

「...受け取りなさい。」

「これは....優輝の持っている?」

「魔力結晶よ。それで魔力を回復しなさい。....私も使うわ。」

 椿は御札から魔力結晶を取り出し、ユーノに渡す。
 同じように自分にも御札を使い、霊力を回復させる。

「....耐え抜きなさい。優輝達が戻ってくるまで。そして、隙あらば...。」

 そこで椿はユーノに対し、耳打ちする。それを聞いたユーノは驚く。

「簡単に言ってくれるね...。だけど、了解!」

 暴走体が砲撃魔法を放つ。さすがにそれは耐え切れないと判断し、二人は跳ぶ。
 殺到する魔力弾を搔い潜り、二人は暴走体との間合いを詰める。

「(霊力も回復して、余分な霊力は回復に回した...。)」

「(全快には遠く及ばないけど、これで動きの鈍さは解消した!)」

 喰らったダメージを幾分か回復し、敢えて間合いを詰める。
 ただ耐え抜くのであれば、遠距離よりも近接の方が体力の消耗が少ないからだ。

「“チェーンバインド”!」

「燃え盛れ....術式“火焔旋風”!!」

 ユーノのバインドが魔力弾を相殺し、椿が投げた御札から炎の旋風が迸る。

「“リングバインド”!」

「はぁっ!」

 旋風の範囲外に逃れた暴走体を、ユーノのバインドが捉える。
 一瞬止まった瞬間を狙い、椿は刀で斬りかかる。

     ギィイイン!

「っ...!(遅かった!)」

 しかし、距離が遠すぎたため、斬りかかるまでにパイルスピアを着けている腕のバインドが解かれ、刀は防がれてしまう。

「ぐ、く....!!」

 霊力を身体強化に回し、押し切ろうとする。
 だが、拮抗するに留まり、それ以上はいかない。

「(こいつ...!身体能力が式姫の私に匹敵するというの!?)」

 鍔迫り合いの間に、暴走体はバインドを全て解いてしまう。
 幸い、魔力弾の方はユーノがバインドで相殺していたため、反撃を喰らう事はなかった。
 ...逆に言えば、再びバインドに捉える事もできなかったのだが。

「(司の記憶や、暴走体の元となった存在に対する心象が、そこまでの存在に押し上げているのね...。なら...!)」

 椿はさらに霊力を込める。
 先程まではダメージも狙っていたため、スピード重視だったが、今度はとにかく時間を稼ぐために、敢えて鍔迫り合いに持ち込み、力で攻めていく。

「はぁああああ...!!」

 霊力によって、徐々に椿が押していく。
 ...しかし、ここで刀の扱いが得意でない事が裏目に出る。

「っ....ぐっ...!」

 ちゃんとした刀での戦い方がなっていなかったため、がら空きとなっていた胴に向けて、暴走体の空いていた掌から砲撃魔法が放たれる。
 咄嗟に上に躱すが、それによって鍔迫り合いが終わってしまう。

   ―――“Blitz Action(ブリッツアクション)

「っっ...!!」

     ギィイイン!

 一瞬で椿の死角に移動し、暴走体は魔力を纏った拳で殴り掛かる。
 辛うじて椿は刀を間に合わせ、弾かれる形で防ぐ事に成功する。

「これなら....どうだ!」

 暴走体へ鎖型のバインドが殺到する。
 チェーンバインドでは、例え捉えても反撃を喰らうだけだが...。

「術式は固定して、柱へと繋げる...。これなら、十分に拘束の役目は果たせる!」

「っ、今っ!」

 本来なら術者が魔法を保たせるものを敢えて放棄し、辺りに生えている柱に固定する。
 それにより、バインドを引っ張られて反撃を喰らう事もなく、拘束に成功する。
 その瞬間を逃さずに、椿は体勢を立て直しつつ矢を放つ。

「は?」

「えっ?」

 しかし、それは相殺された。...ユーノの仕掛けたバインドに。
 思わず、二人は間抜けな声を漏らしてしまう。

 ...やった事は単純だった。ただ、柱ごと引っ張って、そのバインドで矢を弾いたのだ。
 その過程で、柱が折れていても、至って単純だった。

「...そうよね。身体強化した私と力で渡り合えるんだもの....!」

「せっかく反撃を喰らわない方法を編み出したのに...!」

 すぐにそこを飛び退き、飛んでくる赤い短剣を避ける。
 その直後に移動魔法を用いて、暴走体は椿へと襲い掛かる。

「っ!」

     ギィイイン!!

 魔力の足場で踏ん張り、何とか攻撃を受け止める。
 展開される魔力弾を、ユーノのバインドが貫く。

「っ、ぁっ!?」

 鍔迫り合いと魔力弾とバインドの相殺。
 拮抗すると思える状況だったが、暴走体はパイルスピアに魔力を流し込み、身体強化の要領で一時的に力を増幅させた。
 その力に椿は圧倒され、体勢が崩れてしまう。そして...。

     キィイイン!

「っ、しまっ...!」

 パイルスピアに刀が絡め取られ、刀は弾き飛ばされてしまう。
 弾き飛ばされた刀は、近くにあった柱に刺さる。

「っ、せぁっ!!」

 刀が弾かれ、胴に砲撃魔法を叩き込まれそうになる。
 そこで椿は上に逸れた腕を無理矢理振り下ろし、砲撃魔法を放とうとした腕に当てる。
 その勢いで上に避け、そのまま一回転して足を振り下ろす。

     キィン!

「くっ...!ぁ、ぐ、ああっ!?」

 しかし、その一撃は防御魔法に防がれた。
 すぐさま身を捻って飛び退こうとするが、一足遅く足を掴まれてしまう。
 そのまま胴体に魔力の籠った掌底が放たれ、椿は吹き飛ばされてしまう。
 辛うじて霊力で障壁を張り、ガードしたがそれでもダメージは大きかった。

「がはっ!?」

「椿!」

 さらに、吹き飛ばされた事により、強く柱に刺さる刀の傍に叩きつけられてしまう。
 いくら霊力を纏ってバリアジャケットのように防御力を上げているとはいえ、大ダメージは必至だった。

   ―――“Blitz Action(ブリッツアクション)

「ぐ....っ!?」

 叩きつけられ、仕込んでおいた御札がまき散らされる。
 すぐにそこから動こうとするが、移動魔法で加速した暴走体が襲い掛かる。
 繰り出されるパイルスピアの突きを、仕舞っておいた短刀で受け止める。

「ぐ、...く、くっ....!」

 互いに霊力や魔力を身体強化に回し、鍔迫り合いが続く。
 幸いとも言えるのは、身体強化に魔力を費やしているからか、パイルスピアの穂先から砲撃が放たれない事だ。

「ユー、ノッ!!」

「はぁああああっ!!」

 椿が受け止めている間に、ユーノが暴走体の背後から襲い掛かる。

「(まったく...!椿もホント無茶を言ってくれるよ...!)」

   ―――...私が動きを止めるから、貴方が攻撃なさい。

「(僕が攻撃魔法を使えないのを知っていて言ったよね...!)」

 ユーノ・スクライアは攻撃魔法に適性がない。
 それは、魔法に疎い椿でさえ知っている事であった。
 ...だが、攻撃手段がない訳ではない。

「(...優輝に教えてもらった技。ありがたく使わせてもらうよ!)」

 優輝に教わった技を思い出し、それを実行に移そうとする。

「っ...!」

 ...しかし、いくらパイルスピアから砲撃が放たれないとはいえ、他の魔力弾は別。
 弾幕が展開され、攻勢に移ったユーノに容赦なく襲い掛かった。

「させ、ないわよっ!!」

   ―――“霊撃”

 だが、それを読んでいた椿が、“まき散らしておいた”御札から霊力を迸らせる。
 霊力を受け、御札一つ一つから衝撃波から放たれ、魔力弾を全て相殺した。

「喰らえっ!!」

 正面は椿が抑え、遠距離攻撃の手段も椿が塞いだ。
 今、暴走体を守るのは防御魔法の障壁のみ。そこへ、ユーノは魔力を手に込め...。

「叩き、割れぇっ!!」

   ―――“徹衝”

 ただ、真っすぐに拳を振り抜いた。

     パキィイイイイン!!

「もう...一発!!」

 その一撃のみで、暴走体の防御魔法を叩き割る。
 それに動揺したのか、暴走体は怯み、椿が押し切って体勢を崩す。
 すかさずユーノがもう一度拳に魔力を込め、アッパーカットの要領で打ち上げる。

「....これで...!」

 間髪入れずに椿が動き、丁度左肩近くに刺さっていた刀を引き抜く。
 そのまま弓を御札から取り出し、刀を番える。

「終わりよ!!」

   ―――“弓技・瞬矢”

 ユーノの攻撃で怯み、動きが鈍っている所に、神速の矢が放たれる。











 防御も回避も許さない会心の一撃が、暴走体を貫いた。















 
 

 
後書き
verdr''angen(フェアドレンゲン)…“排除する”の意を持つ広域砲撃魔法。多対一に有効で、射程範囲が広い。

火焔旋風…かくりよの門では火属性と風属性依存の術。
 この小説では、火災旋風のような炎を巻き起こし、焼き尽くす霊術。

地の文の赤い短剣は全てブラッディダガーです。あれ結構隙を埋めるのに有効そう。
椿が利用している足場ですが、あれはシュラインが椿の思考を読み取ると同時に展開しています。シュラインが今ジュエルシードに入っているからこそできる芸当です。

優輝の存在による影響で、ユーノが強化されていく....!
元々デバイスなしでベルカの騎士の攻撃を防げる強さですからね。ユーノ君まじ盾キャラ。 
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