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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#25
  FUTURE’S MEMORY~PHANTOM BLOOD NIGTMAREXIII~


【1】



 GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!



「OH!! MY!! GODッッ!!」
 壁面が罅割れ、熱帯樹の幹が解れる巨竜の咆哮。
 その鋼のような鱗でびっしり覆われた全長は目測で50メートル以上は有ろうか、
にも関わらずその巨体に似つかわしくない敏捷性で近代都市の路上を踏み砕く。
「うおおおおおッッ!?」
 映画の中でしか視た事のない大顎が鉄筋ビルを二階ごと咬み砕いた。
「のあああああああ!!」
 博物館に展示されている化石の脚が、
そのものと成って現実(リアル)に道路の真ん中へと叩き落とされる。
「ふぬああああああああ!!」
 寓話の中にしか出てこない鋼鉄の尾が街路樹も電話BOXも
路駐の車も全部まとめて吹っ飛ばした。
「どうした!! 人間の老戦士よ!! 
アノ “冥獄(めいごく)” を討ち果たしたというその手並み、
この私に見せてみよ!! それともまさか臆したのかッッ!!」
 その風貌とは裏腹の精悍なる叫びで紅世の巨竜、
イルヤンカは地響きを立て街路を進む。
 ソレと対する一人の男、ジョセフ・ジョースターは
建物と建物の影に身を潜ませ、
電子メーターと配管の奥で息を殺していた。
(無茶をぬかすな!! 誰だってビビるに決まっとろうが!! 
よりにもよってエライのと当たってしもうた!! 
何とかアラストールと連絡がつかんかのう?)
 戦うという選択は度外視して、
ジョセフは如何にこの絶望的な窮地を脱するか頭を巡らせた。
 嘗て、 『神』 と成った男をこの地球から二度と戻れない場所へと
「封印」 した者とは想えぬ消極的な態度だが、それもある意味必然。
 相手が巨大過ぎて 『スタンド』 も “波紋” も通用するわけがなく、
蛮勇のみで真正面から立ち向かっても蟻のように踏み潰されるだけ。
 ナチスの特殊工作兵、波紋使いの吸血鬼、そして最強生物 『柱の男』 と
若き頃は様々な強敵と戦い勝利してきたジョセフだが、
流石にここまで巨大な存在との相対は初めてだった。
「兎に角、ケータイでシャナに連絡じゃ。
出てくれよぉ~、我が盟友よ」
 老齢の割りに大きな躯を出来るだけ小さく丸め込み、
現在単身で鋭意奮闘中の少女へ掛ける。
 通話が繋がるまでの待ち時間が、
下腹部が弛緩するほどにもどかしい。
 やがて聴こえる耳慣れたコール音。
 安堵の吐息を漏らすと同時に、
何故か躯にもポカポカとした暖気を感じた。
「ふぅ、これで一安心じゃな。
一度視せてもらったがアノ “ケンゲン” とかいう物凄い能力を使えば、
如何にあの(ドラゴン) といえど一溜まりもあるまい。
その時になって泣いてももう遅いぞぉ~、クックック」
 正に虎の威を借る狐。
 一度視せてもらった(封絶の中で顕威も百分の一以下に抑えた)
アラストールの 『真の姿』 を想えば無理もないが、
その為に幾つかの 「制約」 が付く事を彼は忘れている。
 ともあれ若き頃を彷彿とさせるような小癪極まる表情。
 元より上から目線の者を策に嵌め、
その困惑しまくった表情を見下ろすのが彼は大好きなのであった。
 そうやって小さくなりながらほくそ笑む、
シャナやヴィルヘルミナが見たら幻滅するような
老戦士の背中をナニカが押す。
「あぁ~、もううるさいのぉ~。
いま取り込み中じゃ。要件なら秘書を通して」
 そう言って振り向いた先、眼球のない巨大な漆黒の瞳が映すのではなく
呑み込むように、轟然と見据えていた。
「何をしている? キサマ?」
 臓腑を最深から掻き回すような、身体中の冷や汗を搾り取る声。
 先刻まで背中を押していたのは、鋼鉄の鱗で覆われた巨竜の鼻先その一部であった。
「イ、イヤァ~、孫にちょっとメールを、の……
最近のケータイはリアルで写真も送れるというからその、記念に、
あ、何なら二人並んで撮」
巫山戯(ふざけ)るなぁッッ!! 貴様ァァァッッッッ!!!!」
HOLY(ホリィ)!! SHIT(シット)!!」
 とっさに波紋でガードしていなければ、鼓膜が破れていた巨竜の恫喝。
 即座にハーミットを上空に伸ばし、ビル屋上の柵に巻き付けて遁走を図る。
 後はそのまま、象と蟻の追走劇。
 静止したシンガポールの街並みを砂城のようにブチ砕きながら、
巨竜が老人を猛襲する。
 



『GUUUUUUUUUUUUUUUUUUUGAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAA――――――――――!!!!!!!!!!』




 真の姿を晒して以来類を見ない、余りにレベルの低い戦いに憤激したのか
巨竜はその頭部を高々と(もた)げ力任せに(たた)き付ける。
 途端、大地が地下を突き抜け岩盤ごと陥没しその反動と余波と衝撃波、
三つの力場が絡み合って放散し全方位を劈いた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――
―――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
 風の前の塵に同じ、その放散に巻き込まれたジョセフは
ただその身を翻弄され、大きく跳ね上がった後
アスファルトに背部を強打する。 
「う、うおおおおおおおおお!! 
こ、腰が! 腰がッッ!!
ま、マズイ!! 完全にヤっちまったかもしれん!!」
 鍛えているとはいえ老齢の躯にはイケないダメージだったのか、
ジョセフは立ち上がる事も出来ず路面で悶絶する。
 その百数十メートル離れた先には、
古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる
巨大な擂り鉢状の陥没痕(クレーター)が拡がっていた。
 そしてその中から、鈍色をした鋼鉄の両翼を羽撃かせ、
紅世の巨竜がゆっくりと姿を現す。
 一体どんな原理で飛んでいるのか、
揚力など無きに等しいにも関わらず激重の巨体は軽やかに宙を浮き
やがてズシンッ! とジョセフの躯を一回跳ね上がらせて目の前へと着地する。
 漆黒の双眸に感情の色はないが、
全身から発せられる威圧感は明らかに怒気を滲ませていた。
「……失望させてくれるものよ、惰弱者めが。
我が真の姿を顕すほどでもなかったな」
 暴風のような吐息を漏らし、イルヤンカは潰れた麦穂のように
無価値な存在としてジョセフを見下ろす。
「ハ、ハハハ、別に頼んではいないのじゃがのぉ~。
まぁ見ての通り手も足も出ん、腰もヤっちまいおった。
こんなジジイを殺しても自慢になるまい。
ここは一つワシを見逃すというコトで手を打たんか? 
その大きさは伊達じゃあるまい」
 全力疾走の連続で息が切れたのか、ぜぇぜぇとジョセフは呼吸を乱す。
「……」
 矮小なる者の卑屈な態度に、さしものイルヤンカも堰が切れたのか
唸りを漏らしてその断崖のような前脚を持ち上げた。 
 最早一瞥する価値も無いと判断したのか、
一秒後には感触もなく潰される老人に最後の言葉を告げる。
「お主の “次の言葉” は 『所詮人間などこんなもの』 じゃ」
「所詮人間などこんなものか、さらば脆弱なる存在……ハッ!?」
 想いもよらぬ言葉に、自身の心を正確に見透かされたコトに、
意図せずそして本能的に巨竜の全身が止まる。
 眼下で、逆水平に構えた指でこちらを差す老人の表情は、
これから原形もなく圧殺されるコトに絶望している者の表情ではない。
 相手を想い通りに操作している、掌の中で転がしている、巨大な存在でさえ、
そんな、自分の()っている “アノ女” 以上に不敵な(かお)
 驚愕による錯覚か、ソレとも全くの別の理由か、瞬間、
眼下で這い蹲る老人の全身から眩い光が発せられた。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!



 封絶の放つ黄霞に紛れ、光の余韻がたゆたう神奇なる光景、
その中心に立つ者、は。
「――フッ」
 神でさえも嘲弄するような、豪放磊落(ごうほうらいらく)を絵に描いたような若き男。
 鍛え抜いた両腕を剥き出しにするノースリーヴのシャツ、
はち切れんばかりの大腿部を微細に誇示する黒革のパンツ、
首元に(シルク) でも羊毛(ウール)でもない素材のマフラーを巻き
開けた額には三角模様のバンダナをしている。
 先刻の老人の姿は影も形もなく……
否、別人というよりは “同じ人物が”
「キサマは……一体……」
 紅世の徒にとって、己が姿を変えるコトは自在で有るが、
“存在そのものを” 変えるコトは出来ない。
 否応なく膨れあがったその力に、嘗ての英雄の勇姿に、
イルヤンカは心中を震わせた。
「フフフ、流石に “今のままじゃ” 話にならないンでね。
使わせてもらったぜ、 『波 紋 の 奥 義(とっておきの策)』 を」
 狡猾さの中に宿る正統な意志、
相反する要素が同時に存在するこの姿こそ、
紛れもない、全盛時の力に充ち充ちた
若き日の 『ジョセフ・ジョースター』
 スタンド能力でも、ましてや自在法でも為し得ない、
時間を逆行させたが如くのその術が、意外に整った口唇から告げられる。
「 『神 仙 転 生 波 紋 疾 走(ゴッド・リヴァース・オーバードライブ)
熟練の 『波紋使い』 が老いないように、
極度に練られた波紋は老化した肉体を一時的に若返らせるコトが出来る。
コノ(ワザ)は発動までに時間がかかるんでね。
“オレ” としても一種の賭けだったぜ」
 若返った肉体に精神も同調するのか、口調も昔のソレに戻っている。
「キサマ……全て演技(いつわり)だったというのか?
姑息な術も逃げ回っていたのも、全てはその “業” の時を稼ぐ為」
「チッチッチ、なぁ~に言ってんの。
全て計算でカタがつくなら誰も苦労しないって」
 目の前で凄む巨竜に怯む事なく、若きジョセフは指先を振った。
「相手を策に嵌めるには、まずは自分自身が本気(マジ)じゃないといけないってコトさ。
アンタのその姿を視た時はマジで小便チビりそうになったし、
追っかけ廻されてる間は何度も死ぬかと想った。
いずれも “演技じゃなく本気だったから” アンタを欺けたのさ。
似非(ブラフ)だったら見抜かれる。
これ、ギャンブルやビジネスの世界じゃジョーシキなんだけど、アンタ解る?」
「……」
 ニシシ、と幼子のように笑う男を眼下(まえ)に、
イルヤンカは奇妙な実感をその鋼鉄(てつ)の胸中に感じていた。
 凄惨酷烈相荒ぶ戦場の雰囲気が、どうして一瞬の内にこうまで(ゆる)む?
 若返ったとはいえ、巨大な自分に比すれば石ころにも満たない小さきモノ。
 にも関わらず、この男の存在から発せられてる気配は一体何だ?
 敵で有りながら同胞(みかた)で在るような、
不世出の英雄で在りながら稀代の悪党でも有るような、
異様な雰囲気。
 猛進爆突の勢いを絶やさなかった巨竜の首が、初めて後ろに下がった。
 古の王としての誇りも有るが、歴戦の直感(かんかく)
見縊らない方が良いという老獪さがこの場合は勝った。
 しかし。
「いずれにしても、コレで終わりだ。さらば人間の老戦士」
 波紋法とは全く違う意味合いで、周囲の空気が巨竜に呑み込まれていく。
 膨大なる気流の集束、ただソレだけで河面がさざめき樹木は軋む。
 (いにしえ) よりの伝承として、竜はその口から火を吐くと云う。
 紅世の “甲鉄竜” イルヤンカもまたその例に漏れず。
 空気中の火気物質を体内に集め、ソレを己が自在法と組み合わせ
海浪の如き大火流として放出する。
 上級クラスのフレイムヘイズでも、
直撃を受ければ灰燼(はい)も遺らない。
 爆心源の瞬間最高温度は10万度、
その熱量もさりながら火流自体の衝撃と圧力、
射程距離が凄まじ過ぎる。
「……」
 急迫する破滅の大火流を前に、ジョセフは変わらず不敵な表情。
 (ネタ)の割れた手品を視るように、
詰み慣れたチェスの定跡をなぞるように、
打ち合わせた両手を無駄のない動きで広げる。




 ヴァッッッッッッッジュアアアアアアアアアアアアアアアアア
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――
――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




 自然界でも類を視ない、界面接触型の水蒸気爆発がシンガポールの首都を震撼させた。
 事実、漏れた火流の一部は河面の深度を半分以上に引き下げた。
 しかしソレはあくまで余剰であり、着弾地点の惨状はその比ではない。
 空気が燃え、大地が熔け、形容(カタチ)有るモノスベテ焼塵と化す爆熱地獄。
 その中心部で、古の巨竜と伝説の波紋使いの攻防は “続いていた”
「う、ぬうぅ……!」
「へへ、へ……ッ!」
 命中精度を絞る必要もない巨竜の炎、
しかし破壊されるのは周囲の背景のみで
目的の人物には決して到達しない。
 不敵な表情を崩さない男の周囲数メートルで、
透明な障壁(バリアー)のようなモノが存在し火流の直撃を防いでいるのだ。
 宝具ではない、自在法でもない、アノ “万条の仕手” でも、
“初代・炎髪灼眼の討ち手” でも、
如何なる者でも防ぎ得なかった自分の炎を
取るに足らない一個の人間が完全に封殺している。
 その事実に、さしもの鋼鉄の鱗にも冷たい雫が伝った。
(な、何故だ……!? 
フレイムヘイズではない只の人間にどうしてこのような能力(チカラ)が……!? 
否、コレは彼奴自身の力というより何か別の……)
 驚愕と思考を別個に分ける歴戦者の老練、
ソレを見抜いたジョセフが燻る熱波に歯を食いしばりながら告げた。
「……ようやく、解ってきたかい? 
何でアンタの炎がオレに通用しねーのか?
眼を凝らしてよぉ~く視てみな? 煙で見えずれーけどよ」
 云われるまでもなく、イルヤンカの漆黒の双眸は既に像を絞っている、
その巨眼に映ったモノは、驚天のその事実とは。
( “泡!?” ) 
 極大に対する極小、大火流に対する微細粒、
眼を凝らさなければ解らない、本当に本当に小さな “泡” が、
何千、何万、何十万、何百万と集まって炎の猛突を防いでいた。
「フフ、フ……」
 しかもソレは、両手を広げる男の手から
細胞分裂のように絶え間なく生み出され続ける。 
 何故 “このようなモノ” で!? 
 賢明だが紅世の徒で在るイルヤンカには理解不能の解答(こたえ)が、
ジョセフの口から告げられた。
「シャボンで造った泡の中に更に泡を、次から次に生み出し続ける。
コレを繰り返すとどうなると想う? 
そう、オレと炎の間に 『空気の層』 が出来て熱をシャットアウト! 
蒸発しちまってもどんどん泡を生み出し
ソレに波紋を送り込めば溶岩だって防げンのさ!!
“アノヤロー” のモノマネみてーでちとイメージが悪いが、
オレとシーザーの合体技で一本先取ってトコだなッ!」
 空気がなければ炎は燃えない、気体は液体に著しく弱い。
 フェノール樹脂、ショック・アブソーバー等に応用される原理であるが
ソレは戦闘に於いても同様である。
 科学、というよりは自然の、 『万物の法則』 を取り入れた
波紋の戦闘思考法。
 宝具、自在法を駆使する討滅戦とは異なる、理外の発想。
 人間の存在を侮る者に到達し得る領域ではない、
そして、ソノ 『神』 の創った絶対の法則の裡では、
巨竜の咆哮云えど従属するしかない。




 グァジュンンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!




 象と蟻の戦力差かと想われた、巨竜の大炎と波紋使いの法儀が互角に終わった。
 鈍色の火の粉と鮮赤の波紋光が余塵となって周囲を彩る。
 今や、イルヤンカの双眸に映る若き男は脆弱な人間のソレではない、
顕現した王のように、神儀を発動させたフレイムヘイズのように、
恐ろしく巨大で荘厳に感じられた。
「……一つ、応えよ。
ソレほどの能力(チカラ)、何故()する?
老いた躯を擬装とするも、その理由が見当たらぬ」
 嘗ての友が、戯れに白骨へと擬態していたがソレとは意味合いが違う。
 相手を油断させるにしても、対価となるデメリットが大き過ぎる。
「それは、その、なんつーか、ヘヘヘ……」
 慮外の質問だったのか、男は困ったように頭を掻いた。
 大火流を前にしても汗一つかかなかったのに、
何故か今は困惑、紅潮した顔で冷や汗を飛ばしている。
 余程重要な秘事だと想われたが、
男の口から出た答えは非常に単純かつ平凡なもの、
だがそれ故にイルヤンカは漆黒の双眸を大きく瞠った。
「……女、がいるんだよ。
一緒に生きて、一緒に歳くって、一緒に死んでいきてぇってヤツが。
「波紋の呼吸」 を続けてりゃあオレァ若いまんまだが、
そいつは老いて先に死ぬ。
そうまでして長生きしたって意味ねーよ。
少なくとも、オレはそう想ってる」
 照れクサそうに鼻を擦り、歴戦の勇士はイルヤンカをみつめた、
瞳は、較ぶものがないほどに澄み切っていた。
 その心中には、メイド姿の彼女、子供を抱く彼女、少女と戯れる彼女、
ありとあらゆる時間と時代の、様々な彼女が無数に去来した。
「……そんな、理由か?
“たった一人の女の為に”
強大な力も余命も捨て去るというのか?」
「アンタ、嫁サンとか子供、いねーの?」
「……」
 目の前に聳える巨竜ではない、あくまで一人の 『男』 として、
ジョセフはイルヤンカに訊いた。
「……そっか、居れば解るんだけどな。
“ソレ以外何も要らねー” って気持ちが」
 実感はない、が、理解は出来た。
“アイツ” がおそらく、そうだったのだろう。
 だから、敵であるにも関わらず、何がなんでも手に入れようとした。
 それを見届けた女同様悲恋に終わったが、
結果など、どうでも良かったのかも知れない。
(静かに眠れ、我が友よ……
もう、お前を起こす者は誰もいない)
 死の淵から甦った自分同様、
“アイツ” もいつか統世王の血で復活させようと想っていたが、
ソレがまるで無意味なコトをイルヤンカは(さと)った。
 抱くべき “彼女” のいない世界を、
アイツが望むべくもなかった。
「礼を言うぞ、人間の戦士。
答えの出なかった疑問に、一つ決着がついた」
「あぁ、そうかい」
 男同士だけに解る、静かに冷たい同調を噛み締めながら、
巨竜と波紋使いは眼を閉じた。 




   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッッッ!!!!




 しかし、いずれにせよ勝者はただ一人。
 吸血鬼と波紋使い、喰らう者と喰らわれる者、人間と紅世の徒、
お互い、相容れる要素は一切無い。
()くぞ!! 波紋使いジョセフ・ジョースター!! 
誰で在ろうと、我等が 『壮挙』 の邪魔はさせんッッ!!」
「年寄りはあの世で茶でも(すす)ってな!!
誰かの(しるべ) がなくても、人間(オレ達)は生きるッッ!!」
 決して譲れない、不屈の信念、不滅の意志。
 背負っているモノは同じ、大切な者も同じ、秘めた覚悟も勿論同じ。
 だから憎み合う、だから解り合う、だから、戦う……!
 古の巨竜と伝説の波紋使い、存在し得ない激戦、
その真の幕が、今壮烈に切って下ろされた。



←TOBE CONTINUED… 



 
 

 
後書き

はいどうもこんにちは。
ライトノベルじゃよくある話で、
好きな子と「永遠」に一緒にいられれば幸せ
という安易な設定をよく目にしますが、
ソレは「意識が永遠に続いたら拷問よ(キラキラキラ)」
という考えを余りにも無視し過ぎていると想うのです。
(別れたらマジでどーすんだ・・・・('A`))
無論「作品」ですからそういう結末も在ってイイとは想いますが、
ヤるとしたなら「終わりの無いのがオワリ」という
リスクと絶望に対してきちんと「決着」はつけて欲しい想うのです。
(ただ「好きなだけ」じゃ理由にさえなってない)
何故ならそういう「立証責任」を果たさないと、
他の人達の「関係」を「侮蔑」するコトに繋がり
(最後はみんな死んじゃいますから)
「自分達だけが特別」「真実の~」と天文学的数値の人達に言い放つ
恐ろしい「傲慢」な行為に繫がってしまうからです。
(皆が永遠に生きられるワケでなし、一緒に死ぬコトも出来ないに加え、
ソレを望まない人もたくさんいる。
だから『○ンゲージ・○ンク』って何じゃそら・・・・('A`)
名前も恥ずかしいわッ!)

詳しいコトはマニアックな作品ですが
『サイファイ・ハリー』という
アニメを観ると解ると想います。
○タレが酔っぱらうと(調子コクと)最悪の事態を引き起こす
というのがよく解ります。
(オマケにワタシが一番好きなキャラ**にしやがって、
(メインの女はアンチテーゼ(都合のいい女として描かれてる)
だからどうでもイイ)
絶対許さない、絶対にだ!)
ソレでは。ノシ 
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