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FGOで学園恋愛ゲーム

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二十七話:試練


 人生とは試練の連続だ。
 小さなものから大きなものまで、様々な試練が人に降りかかる。
 試練とは常に理不尽なものであり、運命に思うがままに弄ばれるのが人だ。
 しかし、それを足掻き、乗り越えていく力を持つのもまた人であり、人生である。
 

 そして、その醜く足掻く様こそが人の美しさなのだ。


『だからってこれはないよねぇ!』
【ぐだ男選手、ヒュドラ相手に逃げることしかできないかー!?】
『触れたら即死の毒持ち相手にどうしろと!?』

 九の首を持ち、切っても増えて再生する蛇・ヒュドラから全速力で逃げる、ぐだ男。
 試練という名の障害を越えていく、障害物競走。
 人生の厳しさを体に叩きこむ競技なのだ。

『いくらなんでもこんな人生やりすぎだよ!』
【恨むならゼウスとヘラを恨め! と、アルケイデス君からコメントが来たよ】
『やっぱ神って糞だわ!』

 天上にいる迷惑夫婦を呪いながら、ぐだ男は駆ける。
 しかし、いつまでも逃げていてはゴールには辿り着かない。
 頑張るといった手前、リタイヤだけはしたくない。

『ダヴィンチちゃん、何かヒントは!?』
【さっき、別のヒュドラを倒したヘラクレス君は、9つ同時に首を落としていたよ】
『ナインライブスゥウウッ!!』

 腹の底から叫んでみるが、どこかの正義の味方のようにはできない。
 ぐだ男はぐだ男で、切り抜ける策を見つけ出さなければならないのだ。

『なにか…なにか策はないのか……あれは!』

 ヒュドラの近くにあるものを発見し、ぐだ男は一か八か走り出す。

【ぐだ男選手、これは一体?】

 真っすぐにあるもの目がけ向かっていき、そして―――それを踏み台にして飛び上がる。


【カニを踏み台にしたぁ!?】


 友情出演を果たしていた巨大なカニを、全力で踏みつけて高く跳躍するぐだ男。
 そのまま一気にヒュドラの上を飛び越えていく。

【ここで補足を入れよう。カニ君はヒュドラの親友で、友を助けるために挑んだけど、あっさり踏みつぶされる悲しい宿命を背負っているのさ】
『殺してないよ!? でも、踏んでごめん、カニさん!』

 どこか哀愁の漂う背中を見せるカニと、それを慰めるヒュドラ。
 そんな美しい友情を背中にして、ぐだ男は遅れを取り戻すべく走っていく。

『さあ、今度は何が来る…!』

 前を走っているのは、フィンとディルムッドの槍術部の若きエース達。
 足の速さでは群を抜いており、単純に考えれば追いつける要素などない。
 しかし、これは障害物競走。何が起こるかは誰にもわからない。
 例えば、走っていったその先で―――


【イノシシィイイッ!!】


 イノシシと対決しているということもある。
 体から血を流し、肩で息をするフィンとディルムッド。
 そして、牙をギラつかせるイノシシ。

『ま、魔猪だぁーッ!』
「ディルムッド、あれは我々の手で仕留めよう。安心したまえ、水の準備はできている」
「こ、零さないでくださいね、主」
「ははは……もう、過ちは繰り返さないさ」

 どこで手に入れたのか、槍を構えながら主従は語り合う。
 フィンには、水を使い傷を癒す術がある。
 しかし、かつてその力を持ちながら、ディルムッドを癒すことができなかった出来事があった。
 その出来事は、二人の関係に深い溝を生んでいた。

「そういうわけだ。ぐだ男君、ここは我々に任せて、先に行きたまえ」
『でも……』
「ご安心を。ここで立ち向かわければ、試合に勝って勝負に負けるも同然。すぐに片づけて追いついてみせます」

 爽やかな笑みを浮かべて、ぐだ男を先に進ませようとするフィンとディルムッド。
 それは男の意地であり、戦士としての誇りであった。
 余りにも眩い生き様に、ぐだ男は涙を堪えられず下を向く。

『ちゃんと追いついて来いよ…。絶対だぞ! 絶対だ!』
「大丈夫さ、問題はない」
「ぐだ男殿の方こそ、私達が来るまでに進んでおかないと、簡単に抜いてしまいますよ」

 互いに言葉を交わし、背を向ける。
 ぐだ男は、背後から聞こえる男達の雄叫びと、魔猪の咆哮に背中を押され走り出す。
 だが、胸の中でざわつく不安が消えることはなかった。


【フィン選手、ディルムッド選手アウトー!!】

『やっぱり死亡フラグが立ってた……』

 死亡フラグに槍兵。これだけ状況が揃っていれば結果は一つしかない。
 デッドエンドである。

『兄貴なら…兄貴なら、戦闘続行で何とかなったかもしれないのに…!』
【クー・フーリン君は、俺が超えたらあいつらの立つ瀬がないって言って不参加だよ】
『この人でありィイイ!!』
【教師として一応言っておくけど、そんな言葉はないからね】

 以外に、細やかな気遣いができるクー・フーリンを褒めながら、ぐだ男は走る。
 後ろから追ってきてくれる者はいない。
 ただ、前を独走するヘラクレスを追っていくだけである。
 決して置いてきた者の意志を無駄にしないために。

「やっと来たのね、子イヌ」
(アタシ)の歌を一人で聞きたいなんて贅沢なんだから」
「そうそう。でも、そこまでして(アタシ)を求められたら答えないわけにはいかないわね」
『なんで三人もいるんですかぁ!?』

 次の試練に現れた者達を見て、ぐだ男は絶叫する。
 ランサー・エリザベート、キャスター・エリザベート、ブレイブ・エリザベート。
 まだ、バーサーカーの枠も残している自称アイドルだ。

「それは……ほら、細かいことを気にしてもしょうがないわよ」
(アタシ)が三人いるってことは(アタシ)の美声が三倍よ、三倍」
「こんなにありがたいものを独り占めにできるんだから、感謝しなさい」
『三倍案件は英雄王に持っていってください』

 聖杯の泥を相手にしても、我を保てる王であってもこれには耐えられないだろう。
 天の岩戸に引きこもった良妻狐ですら、1秒で引き籠りをやめて逃げ出すレベルである。

「なによー! (アタシ)だけだと不満だっていうの?」
『いや、もうお腹いっぱ―――』
「ふむ、強欲なものよ。だが、その強欲に答えてやるのも皇帝の役目よな」
「余達が来たのだ。万雷の拍手をもって迎えるがいいぞ」

 どこから聞こえてくる声に、現実逃避をしたくなりながら、ぐだ男は顔を上げる。
 真っ赤なバラが雨のように降り注ぐ中、彼女達は現れる。
 真紅の衣装を身にまとう、ネロ・クラウディウス。
 純白のドレスが眩しい、ネロ・ブライト。
 そう、我らが皇帝陛下のお出ましである。

「あら? あんたも増えてるの」
「うむ。理由などどうでもいいことだな」
「それよりもだ、喜ぶがいい。今日は余とそなたらで―――五重奏(クインテット)を行うのだ」


『やめろてめぇええッ!!』


 突きつけられた余りにも残酷な現実に、彼は悲痛な叫びをあげる。
 だが、いくら叫ぼうとも手を差し伸べてくれる神はいない。

【因みにさっき通過したヘラクレス君は、8回ほど蘇生していたよ】
『カリバーンよりも上…だと…?』

 大英雄ですら殺してみせる魔声に、今更ながらに戦慄する。
 一体どうやって、この試練を超えろというのか。

「先程は、あのヘラクレスに余の美声を聞いてもらえたからな」
「うむうむ。尊敬するヘラクレスに、感動で体を震わせながら賛辞を贈ってくれたことを余は一生忘れないぞ」
『バーサーカーは強いんだね……』

 体に異常なまでのダメージを受けながらも、紳士として対応したヘラクレスの強さに感動しながら、ぐだ男は考える。
 この試練を乗り越えるには何かで彼女達の気をそらす必要がある。
 その間に先に進む以外に道はない。彼女達には競技が終わってから謝ればいい。

『カリギュラさーん! 姪っ子のコンサートが始まりますよー!!』
「ウオオオオッ!」
「叔父上!? 先程も聞いていたではないか。今はこの者に―――」
「ネロォオオオッ!!」

 会場に来ていたカリギュラを、ネロ達の元に向かわせ足止めをする。
 次に、エリちゃんズを止めるために、似た者同士の彼女を呼ぶ。

『ニトリ様、来てください!』
「不敬ですね! 誰がお値段以上ですか! メジェド様にその心臓を捧げますよ!」

 わざとニトクリスを怒らせて呼び込み、エリちゃんズとの化学反応を起こさせる。

「あら、その白いの可愛いわね。こう、見た目に反してバイオレンスそうなところが」
「メジェド様の良さがわかるとは、中々に良い目をしておられますね。先程から聞いていましたが、あなたの歌も冥府の亡者のようで大変よろしい」
「分かってるじゃない。あんたのこと気に入らないって思ってたけど、考えを改めるわ。いいわよ、もっといい歌を聞かせてあげるわ」

 性質が似ているのか、意気投合しているエリちゃんズとニトクリスを置き、ぐだ男は逃走する。
 後で何かを言われようとも、今を生き残ればそれでいいのだ。

『さあ、最後の試練は……借り物競争か』

 机の上にいてある4枚の紙を見て判断する。
 ここにきて、ようやくまともな物が来たなと思いどれを引こうかと考える。
 しかし、どういうわけか全部表にされていることに気づく。

『ラッキーなのかな? 取りあえず何があるのか……』

 そこまで言葉にして、あんぐりと口を開ける。
 書いてある内容が余りにも、あんまりなものであったために。


【旦那様と呼んでくれる可愛いクラスメイトと鐘】
【自分を息子(異性)として愛してくれる母と婚姻届け】
【特技が暗殺で毒殺な可愛い少女と婚約指輪】
【恋敵として背中を狙ってくる儚げな美女と槍と遺書】
【意中の女性(しっかりと名前を呼びましょう)】


『細かく設定しすぎいッ!?』

 明らかに特定の女性にしか行きつかない、お題に白目をむく。
 因みに先に来ていたヘラクレスは、銀髪で赤目の少女というお題を引いていた。
 その結果として、現在はイリヤを連れていくための切嗣の説得で足止めをされている。
 すぐに選べば、リードできるチャンスなのだが、ぐだ男は動けない。

『5択中4択がデッドエンドしかない……人生の墓場エンドが2つに物理エンドが2つ。ははは……殺意を感じる』

 乾いた笑い声をあげながら、ここまで来てしまった自分を恨む。
 こんなことならば、前の試練で気絶しておくべきだったのだ。

『でも、前に進むしかない……それしかできない』

 しかし、諦めるという選択肢は彼の中にはない。
 諦めるぐらいならば、最初から挑みなどしない。
 何よりも、彼女から応援してもらったのだから。

『いい加減、腹をくくろう』

 5枚目の紙を掴み取り、彼女のもとへ走り出す。
 そして、書かれている通りにその名を叫ぶ。


『ジャンヌ・オルタッ!!』
「へっ!? な、なによ、いきなり叫んで。恥ずかしいから呼ばないでくれる」
『俺と一緒に来てほしい!』

 突如呼ばれ、視線が集まる状況に顔を赤らめて無視しようとするジャンヌ・オルタ。
 だが、ぐだ男は彼女の事情など知らないとばかりに、手を差し出す。

「べ、別に私じゃなくてもいいでしょ」
『君じゃないとダメなんだ!』
「そ、そんなこと言われても……」

 彼女はどこまでも真っすぐな瞳を見られずに、目を逸らす。
 それでも、彼は彼女を見つめ続ける。
 やがて、耐えきれなくなったのか、彼女は小さく溜息を吐く。

「わかったわよ……早く終わらせなさい」
『ありがとう。大切にするよ』
「…? ええ、丁重に扱いなさい」

 一体、どんなお題で自分が選ばれたのか知らずに首を傾げるジャンヌ・オルタ。
 しかし、内容を知るダヴィンチちゃん等は、ニヤニヤとその様子を見つめるのであった。

【さあ、ゴールに向かわないとヘラクレス君が追い付いてくるよ】
『急ごう』
「あ…! 急に手をつないんでじゃないわよ…ッ」
『嫌だった?』
「……嫌じゃないわよ。ただ……ああ、もう! ほら、行くわよ!!」

 急につながれた手に戸惑い、叫んでしまうが嫌ではないのか振り払うことはしない。
 そのまま顔を赤らめる彼女の様子に、思わずドギマギしてしまいながら彼は走り出す。
 だが、そのムードを破壊するように、後ろから猛烈な追い上げが来る。

「え、えーと。やっちゃえ、バーサーカーさん!」
「■■■■■■■■■!!」
【おーっと! ヘラクレス選手、イリヤちゃんを肩に乗せて爆走してるぞー!!】

 切嗣の説得(物理)が終わり、再スタートしたヘラクレスが猛然と迫ってくる。
 心なしか、肩にイリヤを乗せた方が速くなっているのは気のせいではないだろう。

「ちょ、追いつかれるわよ、あんた!」
『こうなったら―――俺もジャンヌ・オルタを背負う!』
「は? あんた、正気……て、キャッ!?」

 ヘラクレスに対抗するように、共に走っていたジャンヌ・オルタを背負い、速度を上げる。
 背中に当たる柔らかな存在に、意識が行きそうになるが、煩悩を打ち消すように足を動かす。
 そして―――ゴールテープを切る。

【ゴール!! ほんの僅かな差でぐだ男君の勝利ーっ!!】
『はぁ…はぁ…殺されるかと思ったけど何とか勝てた』
「いいから、とっとと下ろしなさい!」
『いた!? 分かったから叩かないで!』

 勝利の余韻に浸る間もなく、喧嘩を始める二人。
 それだけであればいつもの光景であったが、今回は爆弾があった。
 ぐだ男が選手の控え場所に向かった後に、彼女はお題の書かれた紙が落ちていることに気づく。

「大体、私が呼ばれるってどんなお題だったのよ。えーと、意中のじょせ…い…?」

 お題の書かれた紙を見て、訳が分からずに固まるジャンヌ・オルタ。
 次第に内容を理解していき、ゆでだこのように顔を赤くしていく。

「な、なんなのよ……これ」

 呆然とした声は、誰にも聞き取られることなく風に消えていく。
 その日は、一度もぐだ男の顔を見ることができずに終わったのだった。

 
 

 
後書き

強引かもしれませんが、そろそろ終わらせます。
残り1,2話ですかね。 
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