嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり
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第1章 第7話 メリーさん
「…あ〜…俺の名前はシグレ・アカツキだ。サイグリエってのは間違いだ」
「そ、それは失礼しました…」
「いいんだよ、気にすんな。お前はなんにも知らなかっただけなんだからな」
「それよりも…どうしてアカツキ様がここへ?しかもその様子ですと怨霊のようですが」
「ああ、俺はあの村の地中深くに今も死体が置いてある。それに魂ごと封印してあってずっと退屈してたところに、その、何ていうの?恩恵?持ちのお前が何かの拍子で俺の魂を掴み取ったんだよ」
「そ、そうだったのですか…」
「気に病むことはねぇぜ、むしろ感謝したいくらいだあんな所から出してくれてよ。そうだ、お前に俺の魔法を使えるようにしてやる」
「それって…!?」
「白の魔法、俺が考えついた魔法だ。俺しか使えない、俺専用だけどな性質さえ同じなら使えるんだよ。『テトロネルアンフェロア』」
そこで気を失ったルイスだが、目を覚めた時には白の魔法が使えるようになっていた。それと同時にアカツキの記憶が頭に流れて来るのを感じていた。
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朝日とともに目を覚ましたルイス。重い瞼を開け寝台から出ようとした時寝台の向かいにある机の上にある物が置いてある。
「…また」
昨日飛ばしたはずの黒いドレスを着た水色髪の人形が置いてあった。
「これは…呪術的なものなのだろうか」
置いていても何があるかわからない、と、もう1度昨日ように飛ばそうと近づいた時人形から声がした。
「私メリーさん、今度君の元へ行くね」
「っ?!」
明らかに人形の方から声がした。しかし反射的にルイスは周りを見渡した。もちろん何も見えない、本当に人形から声が聞こえたのだから
「これ…からか…今度って、いつなんだ…」
警戒しながら人形に触れ人形を飛ばした。
1度頭の中をリセットして部屋を出て仕事を始めた。ルイスの仕事は基本は屋敷内の掃除で窓拭きが主だ。それをほとんど朝食の直前時に終わらせた。
そしてそのまま調理室の方へと向かい配膳の手伝いをする。
食堂へと向かい扉を開けようとした時ルイスの脳内に直接何かが流れるような感覚の頭痛がし、動きを止め頭に手を当てた。
「ルイス君?どうかしましたか?」
後ろに付いてきていたマリーが心配するような口調で話しかける。
「あ、あぁ、大丈夫だよマリー。ちょっと頭痛がしてね…」
「それ、本当に大丈夫なんですか?無理はしない方が…」
「一瞬だったから大丈夫だよ。体調も精神面も問題ないし…むしろ僕自身に問題がないから逆に心配だけどね」
「そうですね、昨日みたいに誰か来るかも知れませんし…」
「まぁ、大丈夫だよ。何とかするし、みんなもいるしね」
「…はい、そうですね」
その返しを聞いてからルイスは扉を開けて朝食を配膳した。その後は滞りなく朝食を終え、昨日カルロスが言ったように話をした。白の魔法の話、アカツキの話、そして…
「とりあえず最後だが…レイジャル・テスタロット、兄の話をお願いしたいね」
兄であるレイの話をする。
「兄さんは誰もが認めるような実力を持つ天才でした。例外はありますが全ての魔法を使用できどれも最高位に位置していました」
「まあ、それは昨日の戦い振りを見て頷けるよ。頭も切れるようだしね」
「はい、兄さんは相手の表情や感情からどんな行動を取るか、どんな行動を取ればいいかがわかるほどでしたから。…そして兄さんは最も吸収を得意としていました」
「吸収?」
「はい、鬼族は誰しもある一定距離内にいる範囲のものから魔力を吸収する事が出来ます。それでも本当にほとんど触れる距離まで近づかなければならないのですが、それが兄さんの範囲は半径5m圏内です」
「……」
「兄さんは凄い人です。弟の僕にとても優しくとても協力的でしたけど…そのせいと好んで蒼の魔法を使うせいでほかの鬼たちからはいい目はされませんでしけど」
「そんなレイがどうして『タロットの騎士』を1人も殺せずに死んでいるんだい?」
「……」
その問にルイスは一瞬言葉が詰まった。畳み掛けるようにカルロスはまた問うた。
「並の鬼では敵わないっていうのはよく聞く話だし、実際そうだったろう。でもレイは違うだろう、とても強い。それなのになぜ全員が健在だったのか、それが知りたい、君はその光景を見ていた筈だからね」
とても真剣ですこし恐怖すら感じさせるほどのオーラがした。魔法を使えないと自負していたカルロスだがこの雰囲気が既に魔法でも使っているのではないかと錯覚させる何かを持っている。と、感じさせられる。
「…はい、主様の仰った通り兄さんは何人か殺しています。ですが、精巧なまでに作り込まれ、同じ実力を備えつられた人形だったのですから」
「人形?」
「はい、ただの人形でした。それでも実力は桁違いです。そんな相手が束で相手にしていたらさすがの兄さんでも無理でした」
「そうか……わかった。ありがとう、朝食は終わりだ。これからみんな仕事に取り掛かってくれ」
全員がその言葉にかしこまりましたと答え各々の仕事へとつく。朝食後のルイスの仕事は部屋の掃除だった。リクと共に半分に分け周りながり行っている。
その最中、掃除を始めてから1時間強を超えた頃、背後から視線を感じ振り向く、が、そこには窓があり外の風景を写しているだけで何も視線を感じるようなものは無かった。
気にしすぎかと、息をついた時その声は聞こえた。
「私メリーさん、今夜君の元へと行くね」
その言葉を聞き硬直した。朝と同じ声がまたした。脳へと直接聞こえた声と同時に頭痛がした。
「っ!?」
頭痛に表情が歪み、顔を俯かせた。その瞬間足元に人形があることに気づいた。今までと同じ水色の髪の人形だ。
「ま、また…!?」
ルイスは即その人形を飛ばした。明らかに怯えがある。
「今夜…」
小さくルイスが呟いた言葉、前回とは違う部分、今度から今夜へと変わっている。襲撃予告が明確となりルイス緊張は増していた。
そんな中でも無情に時間は過ぎて行った。昼食が終わり庭へと向かう時、誰もいないエントランスでまたあの声だ。
「私メリーさん、今から君の元へ行くね」
「また…か…」
言葉はただそれだけ、それだけしか告げられないが着々とその時が近づいてくる。
そして人形はまた足元にいる。
「…うざい、壊す。エルメイア」
レイへと人格が変わり、詠唱すると氷の剣が現れその剣で人形を真っ二つに切る。人形は何があるわけでもなくそのままの状態だった。1つずつに別れた水色の眼がいつまでもレイを見つめているような感覚がある事以外は…
それに不快感を抱いたレイは紅の魔法で人形を跡形もなく燃やした後、レイの人格は戻っていく。
「…燃やしてたけど、効果はあるのだろうか…」
という疑問を漏らしながら仕事に取り組みに行った。
そして問題の夜だ。ルイスが最後の仕事見廻りを果たしている最中、いや、陽が沈み外が暗くなった時から警戒は始まっていた。
3階から始まり2階、1階と廻っている時昼間に姿を現したエントランスにて少しだけ距離があるが人形がいた。月明かりに照らされ水色の髪が少しだけ白く見える。
来た、と身構えその場に留まり辺りを見廻すが、声は一向に聞こえない。人形へと向かおうと一歩踏み出した所で突然頭の中に流れる。
「私メリーさん、今麓の村にいるね」
「っ?!」
もう1歩
「私メリーさん、今村を抜けたよ」
もう1歩
「私メリーさん、今門の前にいるね」
人形に近づけば近づくほど聞こえてくる場所も近づいてくる。止まれば来ないのではという考えもルイスは持った、しかし、その確証も無かった。
…もう1歩
「私メリーさん、今屋敷の前にいるね」
そして1歩を踏み出した瞬間目の前の人形がスっと消え、今度は声が耳から聞こえる
「私メリーさん…」
そして…
「今君の正面にいるね」
人形と瓜二つのルイスの肩あたり程の大きさの水色髪の少女がそこに現れた。その少女の手には刃渡り15cmはあるナイフを持ち、それでルイスに向けて突き刺しにかかる。
「っ!」
ルイスはとっさに後ろに飛びながらそのナイフの刃の横に当てるよう手で払い、軌道を逸らしてなんとかかわすも脇を数mm程度切られ服が切れその中で少しだけ血が流れる感覚がある。
「あら、上手くかわすものね」
「お前は…」
「ずっと言ってたでしょ?私メリーさん、今君の目の前にいる『ハイプリエステス』を受けた『タロットの騎士』よ」
「くっ…エリオールグラヴィティション!」
エントランスが丸々包み込むような透明な球体で纏われる。
「…これは?」
「僕だけの異空間だ。僕だけで…君を殺す」
「そう…エイサルネビア」
聞き覚えのない詠唱を聞いたルイスはその瞬間に違和感を覚えた。足に人形がまとわりつき足を動かすことが出来ない。
「君の意気込み…叶いそうにないよ」
そう呟いた少女は持っていたナイフを捨てルイスへと近づく。動こうと藻掻くルイスだが足を磔にされたように動かない。少女が目の前に来た時ルイスは少女を、メリーを退かすように振り払おうと腕を振り肩に触れようとした瞬間、すり抜けた。
「なっ?!!」
そのままメリーはルイスの体を通りすり抜けた。
「だって、私もう死んでるんだもん」
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