グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第70話:人を褒めるときは大きな声で。悪口を言うときには、より大きな声で!
(グランバニア城・宰相兼国務大臣執務室)
ユニSIDE
「何だコラ……俺の不敬罪を密告るってのか!?」
「あ、いや……べ、べつに……」
あからさまな不機嫌さにラウルも自分がしくじった事に気が付いた。
「言えば良いじゃねーか! 言い付けろよ勝手に!!」
「ち、違うんです……」
「何が違うんだよ。言い付けてこいよ! 陛下は執務室に居るぞ。言いに行ってこいよ!」
「か、勘弁して下さい……」
「勘弁してやるから言ってこいよ!」
「……………(汗)」
ラウルは半端じゃない汗をかいて困っている。
「言いに行くのが面倒ってのなら、呼び出してやるよ! ちょっと待ってろボケェ!」
「え!? あ、あの……」
二進も三進も行かない状況に業を煮やしたウルフ閣下は、ラウルに向かって“陛下を呼び出す”と告げ、懐からMHを取り出した。
ほ、本当に呼びつける気!?
(プルルルル………プルルルル………ピッ)
『何?』
「あ、陛下。ちょっとお話しがあるんです」
『う、うん……だろうね。でもさぁ……僕、執務室に居るよ。サボって出掛けてないよ』
「知ってます。でも話があるんで俺の執務室へ来て下さい」
『……普通、部下の方から「話がある」って時は、そっちから出向くよね?』
「普通はそうですが、この国は普通じゃないんです。早く来て下さい!」
国王陛下に対して一方的な態度で用件を伝えると、やはり一方的に通話を切り上げてMHを懐へ仕舞い込むウルフ閣下。
やっとビアンカ様からのプレッシャーが終わったのに、今度はリュカ様からのプレッシャーが押し寄せてくるらしい……
逃げ出したい。
こんなオフィスからは脱兎の如く逃げ出したい。
しかし、そんな願望は叶う訳も無く、何時もより不機嫌そうなリュカ様がウルフ閣下の呼び出しに応じて現れた。
「あんまり“王様だから”とか言いたくないけど、一方的に国王を呼び出す意味はあるんだろうね?」
「ありません。少なくとも俺には呼び付ける理由はありません。でも俺の部下には、陛下を呼び付ける理由があります……そうだよな!」
ウルフ閣下の言葉を受け、リュカ様の視線が棒立ち状態のラウルに向かった。
「あ、あの……そ、その……」
だけど当然の如くラウルは喋る事が出来ず、唯吃るばかり……
「何? 言いたい事があるなら言って良いよ、呼び出された訳だし」
「は、はい……そ、そうなんですが……そのぉ……」
言って良いと言われて簡単に言える内容でもない。
「おい、お前が言ったんだぞ! お前の口で言い付けろ。然もないと俺の主観で今回の事を説明するぞ……お前には言い訳のチャンスも与えないでな!」
「そ、そんな……い、良い訳なんって……」
ラウルが困惑するのも無理は無い。
リュカ様にウルフ閣下の不敬を密告すれば、今後直属の上司たるウルフ閣下に睨まれる。
かといってリュカ様が自ら出向かれたのに、何も言わないのであれば、それが不敬罪とされるかもしれない。
ウルフ閣下はリュカ様達から絶大なる信頼を得ている為、普段から無礼な発言も許されている。
だからこそラウルは『言い付ける』と言って戯けて見せたのだろうが、そのこと自体が気に入らないウルフ閣下の怒りを買った。
「あーもーいい! コイツじゃ話が進まないよ。ウルフ……説明しろよ!」
「やれやれ……自分の発言には責任を持ってほしいなぁ」
呼び付けられたのに何も話そうとしないラウルに苛ついたリュカ様は、とうとうウルフ閣下に話す様指示を出す。
「先程ビアンカ様が私の執務室へお見えになりました。理由は“私が陛下を困らせて、それに悩んで夜の相手をしてくれない。だから欲求不満だ!”との事です」
「そ、それはそれは……悪い事したねぇ」
「いえ……私からもキッチリ言っておきました。『年増女の性処理事情なんか知らん!』とか『仕事の邪魔だ』とか『オバサン』等とね」
「僕の美しい妻に向かって、それは酷いなぁ……まぁでも、そう言って打ち負かさないと何時までも居座っちゃうもんね。仕方ないか……」
し、仕方ないで済むんですか!?
今回はビアンカ様が悪いって事で話が進むんですか!?
王家の方に……それも王妃様にあれほどの暴言を吐いて許されちゃうんですか!?
「そうですね……私の抱えてる仕事を考えれば、邪魔をすれば国家運営に支障が出るかもしれませんからね。あれくらいは言わせて戴きます」
……だとしても言い過ぎよアンタ!
「ですが私のスタッフは、私の王妃陛下への暴言を許せない者も居るのです」
「部下が許さないからって僕を呼び付ける理由になるの?」
なりません。部下の管理は上司の仕事です!
「いいえ、私の暴言を許せないと思う者が居る事自体は問題ありません。上司に遠慮せず間違いを正そうとする姿勢は、大変評価が高いです」
「じゃぁ何で呼び出された?」
そうよ、何で呼び出しちゃったのよ!
「私はビアンカ様に悪態を吐いた事に罪悪感は持ってません。なので悪びれる事無く、部下からの『あんな事言って大丈夫なんですか?』という質問にも、問題ないと答えました。しかし納得のいかない部下等は、私に向かって『陛下に言い付ける』と脅しをかけてきたんです」
“部下等”って言わないでよ! その発言をしたのはラウルだけよ!
「部下等の発言を聞いて私はこう考えました……“言い付ける”と宣言するって事は、私は言い付けられたら困ると思われてる。困ると思われてるから、言い付けられない様に部下等に“内緒にして”と懇願する事になるだろう。部下等に懇願するって事は、その件で私は弱みを握られた事になる。若くて生意気な上司の弱みを握った部下等は……」
「そ、そんな事……考えてません!!」
「黙れラウル! 先程お前には弁明のチャンスを与えたのに、そのチャンスを自ら捨てたんだ! 今はもう弁明どころか、発言のチャンスも無い! 勝手に喋って国王陛下と宰相閣下の会話を邪魔するな!」
手厳しい言葉を浴びせられ、泣きそうな顔で項垂れるラウル。
リュカ様はその光景を興味深そうに眺めてる。
一体何を考えてらっしゃるのだろうか?
「オジロンはウルフに部下を託す際に、年下で生意気な者の部下になる事の心構えを教えられなかったんだね。ついつい上司だと言う事を忘れて、生意気な口調を制限してやりたくなっちゃうんだ……そういう事なんだろ、みんな?」
リュカ様は我々を見回して、優しい口調で問いかけてくる。
私は思わず“そんな気持ちは微塵もありません”と言おうとしたのだけど、間髪を入れずウルフ閣下が「陛下、元からの部下である3名は、私との接し方を理解してますから、陛下の仰る様な気持ちは無いです。問題なのはオジロン殿の元部下等だけです」と言い、勝手に私ら3人の弁明をしてくれた。
「申し訳なかったウルフ。お前の仕事の邪魔になる様な事になって……」
リュカ様は私ら3人を見て少し笑った後、真面目なお顔に戻してウルフ閣下に頭を下げた。
これは効果絶大だ。オジロン殿の元部下等は、自分達の心得違いの所為で国王陛下に頭を下げさせてしまったと思ってるだろう。
「みんな今回の件で分かったかな? 僕もそうだが君等の上司のウルフも、自分の言動を咎められたからって怒ったりはしない。むしろ感謝するぐらいなんだよ。でもね……苦言を呈するのなら自らの言葉で言って欲しい。『陛下が何というか……』とか『王家の人々に言い付ける』等という言い方は、非常に腹立たしい。唯の密告屋だからね」
そうか……ラウルがウルフ閣下に『無礼な言葉は拙い』と言った時は、少しも怒る事なく自らの正しさを表明した。
だとしても……だとしてもよ、私達の目の前でビアンカ様に向かって暴言を大声で吐き吐けるのは止めてもらいたいわ。
「……さて、用件は以上だよね? もう帰っても良いよね」
はい陛下。もう帰られても宜しいかと私は思います。
もうこれ以上は胃が保ちません。
「あぁ、序手でなんで別件で相談したい事があります」
「えぇぇ……僕も暇じゃ無いんですけどぉ」
そうですよね! リュカ様は大変お忙しい身ですよね!
早く解放しなさいよ馬鹿上司!
「それ以上に俺の方が忙しいんッスよ」
「それもそうか。……んで、何の用?」
ああ……先程まで立って居られたリュカ様が、手近なパイプ椅子を見つけて座ってしまった。
まだまだ長くなりそうだわ。
「あと数日もすればホザック王国からVIPが来るでしょ。それなのに我が王宮は殺風景極まりない。以前から口を酸っぱくして言ってましたが、この辺で絵画などを大量に仕入れるべきです」
「ふぅ……その話ねぇ」
「リュカさんが乗り気じゃ無いのは解ってます。でも今後の事を考えても王宮内を賑やかにするのは、重要事項だと思います。今までは親しい連中しか来なかったから、何方も気にしなかったでしょうけど、我が国の事……我が王家の事を知らない人々が来る様になるのであれば、見た目を華やかにする必要があるでしょう」
「う~ん……ウルフの言いたい事は解るよ。でもさぁ……」
「俺もリュカさんの言いたい事は解ってます。リュカさんは画商を信用してないんでしょ? こちらに絵画の知識が無いのを良い事に、舌先三寸で無価値の絵を高値で売りつけられるかもしれないって思ってるんでしょ?」
「うん、まぁね」
「だから俺も考えました。商魂逞しい画商に話を持ちかけるのでは無く、画家の卵を今の内に取り込んでしまいましょう」
画家の卵?
「……つまり如何いう事?」
「芸術高等学校で絵を描いてる者から直接買い取るんです。勿論、相手に絵の説明や売り込みをさせないで、リュカさんが直感で良いなと思った作品を買い取るんです。どうせ授業等の課題として描かされた絵でしょうから、値段はリュカさんの価値観次第で決めて良いと思います。相手が『その値段じゃ安い』と言うのなら、買うのを止めれば良いだけッスからね」
「なるほど……でも「取り込む」ってのは如何いう意味?」
「簡単っすよ。連中も完成してる絵が1枚って事は無いでしょうから、何枚か見た中で作風が気に入った作家が居れば、今の内に宮廷画家にしちゃえば良いんです」
なるほど……そうすればウルフ閣下の仕事も減り、政務にだけ集中できるわけですね。
「なるほど……まだ学生のうちに引き抜きをしてしまおうって事か?」
「そうですよ。学生だからって腕前はプロと変わりありませんからね」
リュカ様とウルフ閣下が王宮内に飾る絵画の事で討議を続けている。前向きで素晴らしい提案だと私は思うのだけれども、何故か悪巧みをしてるような感じを否めない。
「お前アレだろう……税金を使って気になってる画家の卵を飼おうって魂胆だろ!」
「否定はしません。ですが俺も高給取りなんで、一人や二人くらいのパトロンにはなれます。第一リュカさんが気に入った画家に対して、金を出して戴ければ宜しいんです。俺の意見は皆無ですよ」
「口が上手いねぇ……悪い大人に育ったもんだ(笑)」
「師匠の教えのお陰です。大変感謝しております」
全くだ……彼がこの国に来た時は、まだ12.3歳の子供だったのに。
「分かったよ、じゃぁ善は急げだ。早速芸術高等学校に出向いて、生徒の絵を買い取ろうじゃないか! 今から行けば丁度放課後で、授業の邪魔にはならないだろうからね」
「え、今から行くの!?」
「そうだよ、今から行くんだよ。さぁ宰相閣下……今すぐお金を用意しなさい。僕の買い物は基本的に現金払いだ……安く買い叩けるとしても大量に買い込むつもりだから、現金が沢山必要だよ(笑)」
まだ仕事が片付いてないウルフ閣下は呆然とリュカ様を見詰める。
それが可笑しくて堪らないリュカ様は、満面の笑みでウルフ閣下を見詰め彼の頭にソロちゃんを乗せて楽しんでいる。
何一つ反論を許さない雰囲気を醸し出して……
ユニSIDE END
後書き
ビッテンフェルト提督!
この家訓(サブタイトル)は実生活で使えません!!
ページ上へ戻る