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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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百八 共闘

轟音と共に撒き散らされる土煙。
濛々と立ち上る粉塵の中、愉快げな嗤い声が響き渡る。

「く……ひ、ヒヒヒッ!面白い!面白いでありんす!突然強くおなりでありんすな~」
独特の模様とチャクラを身に纏って佇む君麻呂の前で、ギタイは岩石に埋もれた状態で哄笑した。

砕けた岩場。巨大な岩の上方からひょっこり顔を出したギタイがにたりと唇を歪める。岩石を突き破って出てきたギタイは先ほどの奇妙な体躯とは違い、元の人間の姿形をしていた。
「でも、あちきにもそんな裏技くらいありんすよ~!」

そう熱り立つや否や、鼻息も荒くギタイが手に力を込める。血管が浮き出る筋骨隆々な腕。
その皮膚の下を何かが蠢いているのを見て、君麻呂は訝しげに眼を眇めた。うぞうぞと這っていたソレがやがてギタイの皮膚を突き破って顔を出す。
戸惑ったように鎌首をもたげるソレは、チャクラ蟲である。

使い手の身体関係なくチャクラの性質を変えられ、その上、チャクラの補給が出来る貴重な代物。
黄泉からチャクラ蟲を手渡されたクスナによって、体内に注入された使い勝手の良い蟲だ。クスナ本人はこの蟲を使うのを随分渋っていたが、ギタイには何故こんな便利なモノを使うのに躊躇するのか不思議であった。

チャクラの補給が出来るというならば、要は、この蟲の体内にはチャクラが多分に入っているということだ。この蟲のチャクラを直接取り込めばどうなるか、想像しただけで期待で身体が震える。

身体を喰い破って出てきたチャクラ蟲を、ギタイはむんずと掴んだ。そのまま無理やり蟲を引き千切り、口許を覆う覆面を脱ぎ捨てる。ねじ切られた蟲を頭上に掲げると、その断面から光を放つ体液がぬらぬらと滴った。
その体液が口内に入り、ギタイの喉が大きく鳴るのを、怪訝な顔で見つめていた君麻呂は、次の瞬間、眼を見張った。
「ヒヒ…ッ」

急激にギタイの身体から膨大な紫色のチャクラが迸る。チャクラは一直線に天へ伸び、空を切り裂く一条の光の如く輝いた。森近辺が一瞬照らされる。

「みなぎる、みなぎるでありんす―――!」
チャクラの光が消え去った直後、天を仰いで嗤ったギタイの足元から岩がメキメキと音を立てて迫り上がっていく。ギタイの四方を取り囲んだ岩は彼の姿を完全に覆い隠した。やがて、巨石の内側が赤く輝き始める。
その周辺で凄まじい熱気が立ち上っていることから、岩の中心が赤熱している事は一目瞭然だった。

灼熱を帯びた岩は、次の瞬間、崩壊する。周囲に飛び散った岩の砕片が大小問わず君麻呂にも飛来してくる。それらを避けていた君麻呂が躱し様に見た光景は、ギタイの変わり果てた姿だった。
ギタイの容姿は激変していた。それはもはや、人とは呼べない、異形のモノだった。

頭にある顔は三つ。蛇のように尻尾が一本うねっている下半身。足は無く、代わりに顔の数に比例してか、腕が六本あった。それは下半身を除けば、まるで阿修羅の如き出で立ちであった。

ヒヒッ、と裂けた口許を大きく歪めて、ギタイは獰猛な笑みを三つ浮かべた。君麻呂の全身を覆う禍々しい文様をちらり、と見遣る。

「同じ異形同士、仲良くするでありんす~!」
「………貴様と一緒にするな」


【呪印】を纏った君麻呂は、不本意だ、と顔を歪めて身構えた。



















天を裂くように伸びた一条の光。
紫を帯びたチャクラの光は、森の奥にいたクスナの眼にもしっかと見えた。
「あのバカっ、直接チャクラを呑みやがったか…ッ‼︎」

チャクラ蟲を混入させたクスナだからこそわかる。彼の眼から見て、その光がギタイのチャクラであることは明白だった。
チャクラ蟲のチャクラを直接呑み込めば、膨大な力と引き換えに何が起こるかわからない。顔を歪めたクスナを見兼ねて、彼と対峙していたナルトは口添えした。

「何が起きているか判断出来ないが…―――過ぎた力は身を滅ぼすよ」
「……ッ」
眼を彷徨わせるクスナを、ナルトはじっと見据え、やがて先ほど輝いた一条の光、即ち、ギタイがいる方向を親指で指差した。
「行きなよ」
「…また、逃がすというのか!?何故、」

一度、巫女の屋敷を襲撃した際も見逃してくれた相手からの再度の催促に、クスナは困惑顔で訊ねる。その顔にはナルトへの敵対心や警戒心よりも、戸惑いのほうが大きく表れていた。
「強いて言うなら、今、君と話した内容を前向きに検討してほしいんだけどね…」
「…………」

ナルトの顔をクスナはじっと見据える。
標的である紫苑と白を追い詰めたと思ったら、その正体がナルトの変化であった事実は、もはやクスナに言い逃れの出来ない真実を突き付けていた。如何に足掻こうとも、この目の前の少年には敵わないだろうという真実。

だからこそ、解せない。自分を一瞬で亡き者に出来るだろう実力者が二回も見逃してくれることが。
しかしながら、それでクスナの寿命が延びているのも事実なので、彼はもうナルトに逆らう気力がほぼ無かった。
(…それでも…俺の主は……)


黄泉の顔を脳裏に思い浮かべつつも、クスナはナルトの言葉を否定する事が出来ない。せめてもの反抗として無言で立ち去るクスナの後ろ姿を、ナルトは静かに見送った。

クスナの気配が完全に消えたのを確認した後、パチンと指を鳴らす。途端、白の術で散りばめられていた鏡が一斉に音もなく消えた。

足穂を鬼の国に帰した後、影分身一人変化させ、白と紫苑に化けたナルトはクスナを誘き寄せた。
その際、わざと目立つ箇所に鏡を置いていたのだが、実際鏡があったのは、森の一角ほぼ全部だ。
クスナの方向感覚を狂わせる為である。故に今、急いでギタイの許へ向かったとしてもクスナはなかなか辿り着けないだろう。


(…それまでに片がついていればいいのだが、)
先ほどまでのクスナとの話し合いの場で、ナルトは小さく嘆息を零した。チャクラの光はとうに消えていたが、その光の発生源を気遣わしげに見遣る。

シズクと対峙していた影分身から、君麻呂が【呪印】を解放したとの情報を得たナルトは、案ずるような視線で森向こうを見据えた。本物の紫苑はまさかこのような事態が行われていたとは知らずに、よく寝入っている。

【念華微笑の術】を発動しつつ、ナルトは紫苑を背負った。そのまま封印の祠に向かう。
必ず自分の後を追い駆けてくるだろうという確信がナルトにはあった。それだけの力と技量は十分ある、と知っているから。

同時に、かなり息の合う間柄だと思うのでこれを機に協力してくれれば、と彼は内心切に願っていた。
















「喰らうでありんす――!」
六つに増えた拳をギタイが地面に叩きつける。

瞬間、地面に六つの亀裂が奔った。手と同じ数の罅割れは火を伴って地面を滑り、君麻呂目掛けて殺到する。

浅く盛り上がった土が赤熱しているその様子から、溶岩がその下に潜んでいるようだった。危険度合いを即座に悟って、君麻呂が地面を高く跳躍したのは正解だった。
「……ッ、」

爆発。ギタイの視線の先が瞬く間に焦熱地獄と化す。
君麻呂が爆発を回避したのを見て取って、彼は己の六つの眼を細めた。
「ちょこまかとすばしっこいお方でありんすなぁ……それではァ、」

まるで手品を披露するかのように、ギタイは愉しげに腕を振り下ろす。勢いよく地面に振り落とされた六つの手から粉塵が巻き上がった。
「これならどうでありんすかァ―――!?」

再び地面を奔った亀裂があちこちで無差別に爆発する。とても攻撃するどころではなく、君麻呂は回避に専念していた。その上、何度も揺さぶられた影響で足場が崩れる。
何十発もの爆発に耐え切れなくなった地盤がとうとう崩壊したのだ。

「イーヒッヒッヒッヒッ!ぜぇんぶ壊してあげるでありんす!!」
崖壊滅の原因たるギタイが哄笑する。
己自身も崩れゆく崖の崩壊に巻き込まれながら、高笑いを上げるギタイをよそに、君麻呂は周囲に眼を走らせた。一瞬、視界の端で何かがチカッと光ったが、それに気づかず、共に墜落する岩石に激突しないよう宙で体勢を整える。


全壊した岩場。
先に落ちていた君麻呂の頭上に大きな影が下りる。人間とは思えない巨大で歪な姿のギタイが君麻呂の後を追って墜落してくる。障害物である岩石をその異様な姿で押し潰しながら迫り来るギタイを前に、君麻呂は思案顔で我が身を見下ろした。

胸元から広がる【呪印】に、ひそやかに眉を顰める。
(ナルト様が病気を治してくださったおかげで、そこまで負担はかかっていない…。だが、)
【状態2】になるのなら話は別だ。


【状態1】だからこそ呪印に蝕まれるスピードが遅いものの、浸食され尽くしたら己を失くす。強制的に力を引き出せる反面、死の危険を伴う。それが【呪印】だ。
だがその前に、長時間の【呪印】解放は徐々に身体が浸食されると同義。それならば。

(あまり時間はかけていられない…やはり【状態2】になって、)



『―――君麻呂』


刹那、君麻呂は全身を槍に貫かれたような錯覚に陥った。
君麻呂の良からぬ考えを一蹴するかのように、脳裏に響く声音。
名を呼ばれただけなのに、心臓を鷲掴みにされたかのように凍りついた君麻呂は、暫し声を失った。

『君麻呂。それ以上の【呪印】解放は認めない』
「――な、ナルト様」

【念華微笑の術】で語りかけているにもかかわらず、動揺した君麻呂は思わず声の主の名を口にする。傍にいない相手の声を聞いただけで狼狽する君麻呂の脳裏に、ナルトは【念華微笑の術】で直接彼を咎めた。
『君麻呂。お前は【呪印】に頼らずとも十分強い。それに、周りをよく見てみろ』

ナルトに促され、君麻呂は改めて周囲を見渡した。そこで彼は初めて、かつての自分には無かったモノが見えた。
それは、似た者同士であり、相容れない存在であり、決して負けたくない相手の…。

不意に、ギタイの伸縮自在の手が君麻呂に襲い掛かった。頭上から迫り来るギタイの腕は君麻呂の前にあった大岩を突き、爆発させる。
爆発の余波を受ける君麻呂の全身から禍々しい文様が緩やかに引いていった。【呪印】を抑え込んだ君麻呂を見て、ギタイが嘲笑する。

「あんれ~?その妙な模様が無くなったらチャクラがやけに少なくなっちゃったでありんすよ~?引っ込めないほうが良かったんじゃありんすか~?」
「必要無い」
そう断言する君麻呂の表情は何故か苦々しいものだった。
左肩に手をやり、引き抜かれる骨の太刀。脊柱の鞭よりも威力が低いはずの太刀を眼前に掲げる君麻呂を、ギタイは呆れた眼で見遣った。
「そんな骨一本でどうするつもりでありんす?」

自分に到底届かない長さの太刀を鼻で笑うギタイの視線の先で、墜落する岩の影で君麻呂の姿が一瞬掻き消える。瞬間、宙を舞う岩を蹴って、君麻呂がギタイの懐に飛び込んできた。

相手の急な接近に、ギタイの反応が僅かに遅れる。反射的に伸ばした腕を無駄の無い身のこなしで避けた君麻呂が骨の太刀を繰り出した。しかしながらその突きはやはりギタイに到底届かない。
「ソレじゃ、リーチが足りないでありんす。まだ、さっきの鞭のほうがマシだった……アガッ!!??」

嘲りの言葉を、ギタイは最後まで言い終えられなかった。背中に突然、凄まじい衝撃を受け、彼は身体をくの字に折った。
三つある内、比較的背に近いほうの顔が己の背後を確認する。其処には、宙に浮く鏡が一枚浮いていた。

その鏡から伸びた太刀はどう見ても、君麻呂の骨に他ならない。慌てて前方を見ると、君麻呂の前にも鏡が一枚浮遊していた。
彼が手にする骨の半分が鏡の中に呑まれており、残り半分の太刀の切っ先がギタイの背後の鏡から伸びている。

その鏡に向かって繰り出された君麻呂の骨の太刀が、ギタイの背後に浮かんでいる鏡に移動し、その背中を突き刺していたのだ。
「な…なんで、ありん…」

ギタイの全身を覆う岩の鎧。背後からの不意打ちにより、鎧はメキメキと音を立てて罅が入る。その隙を、君麻呂が逃がすはずが無かった。

「―――【鉄線花の舞・花】」

骨の太刀をそのまま巨大な骨の矛にする。既に太刀に貫かれているギタイの背中の中心に、更なる重く強烈な衝撃が迫る。
最硬化した骨の矛は、既に罅が入っていたギタイの岩の身体に亀裂を走らせ、その鎧を完全に打ち砕いた。

鏡を通しての強烈な一撃を受けたギタイの身体が吹っ飛ぶ。君麻呂の骨の太刀、否、矛を背に突き刺したまま、ギタイは上方から降ってくる大岩に激突した。君麻呂の骨を巻き込みながら、墜落してくる岩々に押し潰される。

致命的なダメージをその身に受けたギタイの巨体がそのまま谷底へ落下してゆく。それを尻目に、君麻呂は宙に浮かぶ岩を足場にして、跳躍した。同時に、二枚の鏡が掻き消える。

崖から張り出した岩に左手を伸ばした君麻呂は、左肩に力が入らない事実に困惑し、そこでやっと自分がまだ左肩の骨の生成をしていなかった事に気づいた。骨の生成をする余裕が無かったのだ。

力が入らずに出っ張った岩から手が滑り落ちる。再び空中に放り出された君麻呂の手を誰かがパシッと掴んだ。



「――これで、僕の失言は聞かなかったことにしてくださいよ」
「……一生憶えておくよ」


激しく口論した際、不用意に発せられた「――ナルトくんを殺そうとしていたくせに…ッ!!」という一言。その事をチャラにしてくれ、という白の申し出を君麻呂は一蹴した。

苦い表情を浮かべる白に手を引っ張られる。崖上に引っ張り上げられた君麻呂は、二枚の鏡を出現させた術者たる白を改めて見据えた。

「…べつに貴様の手助けなど無くても、あれくらい切り抜けられた」
「礼くらい言ったらどうですか?僕だってナルトくんに頼まれてなかったら、君の援護など向かいませんでしたよ」

白の呆れた声を背に受けながら、君麻呂は左肩の骨を生成する。新たに生成した骨の様子を確認しつつ、君麻呂は崖下を見下ろした。
谷底には川が流れていたが、其処にギタイの姿は無い。けれど白の鏡を通して貫いた感触からして、あの斬撃がギタイに致命的ダメージを与えたのは明白だった。

【念華微笑の術】において、ナルトの『周りをよく見てみろ』という発言で、君麻呂はそこで初めて、白の鏡に気づいた。墜落してくる岩に隠れていたが、その鏡から反射する光を受け、白が近くにいる事実を察する。同時に、ギタイのすぐ背後からも鏡の姿が垣間見えたので、君麻呂は白の意図に気づけたのだ。

鏡の中に繰り出した攻撃を、別の鏡からの攻撃に移行する。その離れ技を遠隔操作した白も、即座に察した君麻呂も、当人達は認めたくないだろうが、その思考はやはりどこか似ていた。

「ナルト様は?」
「封印の祠を目指しています。僕達も早く…」

白がそう答えるや否や、崖を背にする君麻呂。森の中へ一目散に駆けてゆく君麻呂に白は顔を歪め、次いで、ふっと口許に苦笑を湛えた。
(素直じゃないですね……君も、僕も)


すれ違い様に、風音で掻き消えるほどの小さな呟き。
君麻呂の素直じゃない一言を、白の耳は確かに拾っていた。




「不本意だが、一応礼を言う…――助かった」
 
 

 
後書き
大変お待たせ致しました!!遅くなって申し訳ありません!

白の術、鏡から鏡に攻撃を移行できると捏造させてもらいました。ご了承ください!
映画編、なるべく早く終わらせられるよう頑張りますので、もう暫しご辛抱願います!
これからもどうぞ宜しくお願い致します‼
 
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