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魔法先生ネギま 暗黒騎士鎧伝

作者:アラン
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第1話

黒い外套を羽織った一人の青年が黒い馬に跨り、荒野を進んでいた。
「ふう。次の国まではまだ掛かるか。」




青年―――バラゴはラダマンテ王国に入国し、城下町を歩いていると、人っ子一人いない事にに気付いた。
「何故、誰もいないんだ.........。ん?」
バラゴは城下町の中央部―――広場の方から黒煙が立ち上がっていることに気が付いた。
「火事?いや、だとしたらすぐに消そうとして水を掛けたりして黒煙が揺らぐはずだ。
 ということは祭りか何かやってるのか?」

バラゴは手鏡を取り出すと、手鏡に話しかけた。
「どう思う、ラルヴァ?」
「さぁ?私が知るわけないわよ。・・・でも、この国の至る所からかなり強い陰我を感じるよ。」
若い女性の声が手鏡型の中に写る髑髏―――手鏡型の魔道具・ラルヴァから響いた。
「・・・嫌な予感がするな。」
バラゴはラルヴァをしまうと広場に向かって全速力で駆けだした。





バラゴが広場に到着するとそこでは金髪の少女が火刑に処されていた。
「うわぁぁぁ!?助けてぇ!?」
少女の泣き叫ぶ声が広場中に響いていた。

「お前たち何をしている!?」
バラゴは近くにいる町人の胸倉を乱暴につかむと問いただした。
「何って......、魔女狩りだよ。」
「っ!?ふざけるなっ!すぐにやめろ!!!」
町人の言葉に驚いたバラゴは声を荒げた。
「はぁ?さてはお前!魔物だな!!!魔女を助けに来たのか!?」
その町人の言葉に他の町人もバラゴの周りに集まってきていた。
町人達の手には木材や鍬など凶器になるものが持たれていた。
「死ねぇ!魔物めぇ!!!」
町人達は一斉にバラゴに襲い掛かるが、バラゴは飛び退くと黒鞘に納められた剣を引き抜くと、
襲い掛かってきた町人達を、ある者は鞘で急所を突いて無力化し、ある者は剣で切り裂いていった。


バラゴに剣で斬られた町人は真っ黒な血を噴き出すと、塵一つ残さずに消滅していった

「マカイキシ魔戒騎士 メ!」
「ホラー共が......。」


「残りは全部ホラーだな、ラルヴァ?」
「えぇ。」
「なら、遠慮はいらんなっ!!!」

バラゴは右手に持つ三角の紋章が描かれた剣―――魔戒剣を頭上に振り上げ、その先端で円を描いた。
すると、空間に円形の裂け目が生まれ、そこから魔界より召還された黒光りする漆黒の鎧がバラゴの全身を包み込み、彼の手にする魔戒剣も深淵剣へと変化した。

バラゴが鎧を纏うと、ホラーである町人達は悪魔のようなホラーの真の姿を現し、バラゴに一斉に襲い掛かった。


ウォォォォォッ!!!!

バラゴが闇夜の如き漆黒の鎧を纏った姿―――深淵騎士キバは深淵剣を構えると雄叫びを上げながら、赤黒いマントを靡かせながら、駆け出し、すれ違い様に一撃でホラーを切り裂いていった。


広場にいたホラーを次々と討滅していたキバだったが、斬っても斬っても、広場の外から新たなホラーが現れ、ホラーの数減ることはなく、逆に増えていっていた。


キバは難とか少女が火炙りにされている広場の中央に辿り着くと、深淵剣を地面に突き刺した後、少女の手足を縛っていた縄を引きちぎった。
『大丈夫かい?』
「・・・うん。」
少女は怯えながらキバの問いに答えた。
『そうか。』
キバは頭と右掌部分の鎧だけを解除すると、その右手で少女の頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「私の名はバラゴ。君の名前は?」
「・・・エヴァンジェリン。」
『良い名だ。』
少女―――エヴァンジェリンは目を細めると頬を赤らめながらうっすらと笑みを浮かべた。
「ん?火傷が・・・無い?」
「っひ!」
キバ―――バラゴのその言葉を聞いたエヴァンジェリンは顔に絶望を浮かべ、震えだし、頭を抱えながらしゃがみ込んでしまった。
「どうし―――」
「私はバケモノじゃないぃ!斬らないでぇ!イヤ!イヤァァァァ!」
「なっ!?」


『キシャァァ!』
『くっ!?』
ザシュッ!

エヴァンジェリンがいきなり泣き叫び始めたことに動揺したバラゴは背後から襲い掛かってくる一体のホラー反応が遅れてしまったものの、冷静に右掌に再び鎧を装着すると、背後から襲ってきたホラーの頭を貫手で貫いた。
エヴァンジェリンにホラーの黒い返り血が降りかかるが、バラゴは貫手を放つと同時に空いていた左手で鎧のマントを引き剥がしエヴァンジェリンに頭から被せたため、エヴァンジェリンがホラーの返り血を浴びることはなかった。

「なんで、なんで私を助けたの?」
エヴァンジェリンはバラゴが被せたマントから顔を出すと驚きの表情でバラゴを見た。
「フンッ!」
バラゴは地面に突き刺したままだった深淵剣を引き抜くとブーメランの要領で広場中央めがけてじわじわと近づいてくる正面のホラーたちに投げつけた。
深淵剣は正面のホラーを切り裂いた後、地面に落下することなく、放物線を描き、広場中央に向かうホラーたちを延々と斬りつけ続け、牽制していた。


ギュッ

バラゴはキバの鎧をすべて解除すると、エヴァンジェリンの肩に手を置きながら語りかけた。
「お前は人間だ。」
「えっ」
「エヴァンジェリン、いや、エヴァ。たとえその身が人と異なろうが、人の心を持ち続ける限り、お前は人間だよ。」
「・・・ッ、バラゴォォォ。ウッ、グスッ、ウエェェン、エェェン」
エヴァンジェリン―――エヴァはバラゴの言葉を聞いてタックルするかのように抱き着いた、目に涙を流しながら。
先ほどの絶望からきた深い哀しみの涙ではなく、自らの存在を認められた喜びによる嬉し涙であったが。

バラゴは抱き着いてきたエヴァに驚いたものの、力いっぱいに抱きしめ返した。


バラゴは抱き着いているエヴァを優しく引き剥がすと、着ていた外套を脱ぎ、革手袋と一緒に渡した。
そして、深淵剣を手元に戻し、頭上に円を描いた。

「お前は俺が守る。だから見てろ。深淵騎士キバの戦いを!』
バラゴは再び、キバの鎧を装着した。

『雷轟!』
ヒヒィィィィィンッ!
キバは深淵剣で宙に王とそれを囲むように円を描き、それを斜めに切り裂くと、そこから嘶きと共に漆黒の魔導馬・雷轟が現れた。

キバはエヴァが革手袋を着け、外套を着たことを確認すると、エヴァがそれまで被っていたマントを雷轟の背に敷き、雷轟に跨った。
『エヴァ乗れ!』
「うっ、うん。」
エヴァはキバの後ろに跨ると、両手でキバの鎧の腰回りを掴んだ。

『しかし多いな。ラルヴァ、一体どれだけいるんだ。』
「この広場に来る前にも行ったと思うけど、この国全体から凄まじい陰我を感じるのよ、
 ・・・もしかするとこの国の民のほとんどがホラーに。」
『なんだと。』
「バ、バラゴ?だ、誰の声?」
不安がるエヴァを安心させるため、ラルヴァをエヴァに手渡した。
「こんばんは、お嬢ちゃん。」
「誰?」
「私はラルヴァ。バラゴの相棒よ。」
「ラルヴァ、おね、え、ちゃん?」
「ふふっ、悪くないわね。そうよ、エヴァ。ラルヴァお姉さんよ。」
「お姉ちゃんっ!」
エヴァとラルヴァのやりとりを聞いていたバラゴはキバの仮面の奥で穏やかな笑みを浮かべた。
『エヴァ、お守り代わりだ。この国を出るまで懐に入れておけ。』
「うん。」

『数が多い、アレを使うか。―――雷轟!』

ヒヒィィィィィンッ!
キバの掛け声に雷轟は嘶きで答えると同時に後ろ脚の蹄を叩きつけた。
そして雷轟の蹄音の力によって深淵剣は巨大な深淵斬馬剣へと変化を遂げていた。
雷轟は全速力で駆け出すと、その背に乗ったキバは深淵斬馬剣を振るい、ホラーたちを薙ぎ倒していった。



雷轟に跨ったキバはエヴァを後ろに乗せながらホラーを討滅しつつ、着々と国と国外を隔てる壁に近づいていた。
『エヴァ、ラルヴァ、もう少しで、この国を出られる!』
「うん。やっ―――」
グサッ!
「ゴフォッ!」
その時、ハリネズミのようなホラーの攻撃によってエヴァは後ろから心臓を貫かれエヴァはそのまま雷轟から落馬してしまった。

キバは雷轟から飛び降りると雷轟を魔界に戻すと、エヴァを抱きかかえながら、その名を呼び続けた。

『エヴァ、エヴァ!』
「バラ、ゴ...。」
『エヴァ......。っラルヴァ!?』
エヴァの手には鏡の部分がひび割れ、物言わぬラルヴァが握りしめられていた。
「助け、て、くれて、ありが、と...。」
『エヴァァッ!』
エヴァはゆっくりと眼を閉じ、動かなくなった。



『―――なぁ、けるなぁ』
『ウウウ!ウウッ、ウォォォォォォォォォォォッ!』
キバは深淵剣をハリネズミのようなホラーに向けて投げつけると、そのホラーの後ろにいた複数のホラーごと串刺しに貫いた。
そして、再び雄叫びを上げたかと思うとキバの鎧からは赤紫色の魔導火がマグマのように全身から噴出した。

キバはホラーを魔導火を纏った拳で執拗に殴りつけたり、噛みついて頭を引きちぎったり、頭を握りつぶすなど、最初の頃の洗練された騎士の姿はなく、そこにあるのは荒荒しく暴れ続ける獰猛な獣の姿があった。


キバが獣のように荒荒しく闘う一方で、徐々に魔戒騎士が纏うソウルメタルの鎧の制限時間である99.9秒が迫っていた。

しかし、エヴァとラルヴァの死によって怒り狂い、我を忘れたバラゴは制限時間の事を忘れていた。


そして遂に99.9秒が過ぎてしまった。



~SIDEバラゴ~

その瞬間、鎧が弾かれるような衝撃が全身に走り、地面を叩きつけられたかのような感覚に襲われた。
キバの鎧が生物のように鼓動を発し、脈打っていた。

体が、全身が焼けるように熱い。
全身を襲う激痛の中で、僕の意識は徐々に失われていった。

僕が意識を失う前に聞いたモノは狼の遠吠えだった。


≪バラゴ、もう御止め!優しいバラゴに戻りなっ!≫
≪バラゴ、もう止めて。元に戻って。≫
僕の脳裏にラルヴァとエヴァの声が響いていた。

≪バラゴ。お前の名前は旧魔界語で【希望】!絶望に、闇に囚われちゃダメだよ!≫

ラルヴァのその言葉で、僕の意識は覚醒した。

~SIDEOUT~



バラゴが意識を取り戻すと、キバの鎧を解除されており、バラゴは地面に立ち尽くしていた。

そしてバラゴの周囲には町人達の死体と瓦礫が散乱していた、いや周囲だけではなくラダマンテ王国そのものが瓦礫と化していた。



その日、一つの国が消滅したのだった。

この出来事は後に守りし者たちの間で最高の魔戒騎士が失われ、最強・不死身の暗黒騎士が生まれた【ラダマンテの悲劇】として語り継がれることになった。








バラゴは暗黒の鎧を身に纏い、ラダマンテ王国の近くの深い森の奥の湖の畔に雷轟に跨っていた。
『エヴァすまない、守れなかった。』
バラゴはラルヴァを握りしめるエヴァの亡骸を抱きながら暗黒騎士キバの仮面の奥で涙を流していた。
雷轟は主人を乗せながら、湖の中央を目指し歩みを進めていた。
『ラルヴァすまない、黄金騎士の系譜に連なる深淵騎士の称号を汚してしまった。』



雷轟が湖の中央に辿り着くと、キバ―――バラゴはラルヴァとエヴァの亡骸を湖面にそっと離した。

少しずつ、ゆっくりとラルヴァとエヴァが湖に沈んでいった。



『さよならだ。行こう、雷轟。』
ヒヒィィィィィン!
雷轟は嘶きと共に駆け出し、瞬く間に湖から走り去っていった。























バラゴが雷轟に跨り、湖を去ってから数時間後、湖の底からナニカが浮かんできた。

「ケホッ、ケホッ!」
湖の底から浮かんできたのはエヴァだった。
「大丈夫かい、エヴァ?」
エヴァの手から若い女性の声―――ラルヴァの声が聞こえてきた。
エヴァはすぐさま腕を上げ、ラルヴァを胸のあたりにまで持ってきた。
「うん、大丈夫だよラルヴァお姉ちゃん。私って真祖の吸血鬼らしいから。」
「なるほどねぇ、良かった、良かった。」
「お姉ちゃんこそ大丈夫?」
「ん?あぁ、大丈夫だよこれくらいは。見た目は結構酷いけど、時間を置けば勝手に直る。どうやら気絶しちゃってたらしいねぇ。」
エヴァはなんとか泳いで、湖の畔に上がった。
「アレ?バラゴお兄ちゃんは?」
エヴァは周囲を見渡すとバラゴの姿が見当たらなかった。

「・・・っ!?エヴァこの森を出て、ラダマンテ王国の様子を見に行こう。」






エヴァがラルヴァを持って森を出て最初に見たの瓦礫の山となったラダマンテ王国のなれの果てだった。

「やっぱ、そうか。」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「多分バラゴは私らが死んだと勘違いしたんだろうね。エヴァの事は治癒能力が高いだけの女の子だと思ってたろうし。」
「そうなの?」
「あぁ、別にあいつはそういうので差別なんてしないからいいけどさ。
 問題はその後だ。あいつはホラーに憎しみを抱いてる、普段は理性で押さえてるけどさ。」
「え?」
「あいつの両親はあいつが子供の頃に死んでる。」



ラルヴァはエヴァにバラゴの両親が死んだワケを話した。

ラルヴァが話した内容はこうだ。

バラゴは当時の深淵騎士だった父と魔道具製作のスペシャリストだった魔戒法師の母との間に産まれた。
父からは魔戒騎士になるための厳しい修業を授けられ、母からは法術や魔道具の作り方や炊事・洗濯等の家事を教わりながら幸せに暮らしていたという。

しかし、そんな日々も長くは続かなかった。

バラゴが10歳になった誕生日。
修業を終え、父と共に帰宅したとき、家で待っていたのは母ではなかった。
体が弱かったバラゴの母は心の隙を突かれてしまい、ホラーに憑依されてしまったのだった。

バラゴの父は魔戒騎士としての使命を果たすべく、魔戒剣を手に立ち向かっていった。
しかし、バラゴの父は鎧を纏わなかった、自らの手で愛する妻を手にかけてしまうという現実をその目に焼き付けるために。


結果的にバラゴの母に憑依したホラーは討滅された。
そして消滅する間際、バラゴの母はその意識を取り戻した。
愛する夫に≪迷惑をかけて御免なさい≫という謝罪と愛する息子には≪愛している、これからもずっと見守っている≫という言葉遺したという。

愛する妻の最期を見届けた後、バラゴの父も亡くなった。
鎧を纏わなかったことが災いし、とどめの一撃を放った瞬間に致命傷を喰らってしまったのだ。
≪守りし者となれ。バラゴ、その名の通り、人々の未来を照らす希望の光となれ。≫
その言葉を遺して息を引き取ったという。

その後、バラゴは父と親交のあった黄金騎士ガロの称号を受け継ぐ者に引き取られ、魔戒騎士としての修業を受け、15歳の時に深淵騎士キバの称号を受け継ぎ、旅をしながらホラー狩りを続けていたという。



「またホラーに大切なものを奪われたんだ。前回と違って今回はホラーを倒せるほどの力があった。
 怒り狂ったろうね、バラゴは。そして、我を忘れて鎧を解除せず、心滅獣身となった。
 そして、ホラー諸共この国を滅ぼした。でも何らかの拍子に最後の最後で意識を取り戻し、あいつは意図せずして暗黒騎士になった。」
バラゴの身に何が起こったかを語るラルヴァの声は深い哀しみに満ちていた。
「そして、あいつは死んだと思ったあんたの身体、
 あいつにとっては亡骸が辱めを受けないように湖の底に沈めて一人孤独に旅立った、って事だろうね。」
「そんな!探しに行こうよ!」
「いや、その前にアンタは修業しなきゃね。」
「えっ、なんで?」
「一生あいつに守られるつもりかい?あんただってそんなのヤだろう。」
「う、うん。」
「私の知り合いに真祖の吸血鬼がいてね。後天的になったアンタと違ってアイツは純粋な真相だけどね。
 とりあえず、そいつのトコに行くよ。」
「うん、分かった。」
エヴァはラルヴァに言われるまま、目的地に向かって歩き出した。



「そういえばその人の名前は?お姉ちゃん。」
「あぁ、名前ね。名前は










 ダーナ。ダーナ・アナンガ・ジャガンナータ。【狭間の魔女】って言われてるよ。」





 
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