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幽雅に舞え!

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ティヴィルとの決戦!

「探したぜ……この前のオカマが街を破壊しようとしてやがるからてめえもいるんじゃねえかと踏んでみたがやっぱりだな!」

 どや顔でルファを指さすエメラルドは既にモンスターボールを地面に叩きつけ、自慢の御三家を繰り出している。上に放り投げなかったのは以前そうした際にボールをキャッチされた

からだろう。そういう対策は怠らないのもまた彼らしい。

「ってことは、ポセイの奴がここに来ないのは……」
「俺がブッ飛ばした、文句あるか!」
「……やれやれ、あいつも運のないこった」

 呑気に肩を竦めるルファ。ルビーにはこの状況は解決しがたいため、既に意識はフワライドたちに向かっていて、町に入ろうとする彼らに応戦している。
 
「悪いけど、俺はもうティヴィル団から抜けるんだ。そこの嬢ちゃんのおかげでな。ここは勘弁してくれねえか?」
 
 ルファは正直に言うことにしたらしい。だがそれを聞いてはいそうですか、というエメラルドではない。
 
「ふざけんな!悪の手先のそんな言葉、誰が信じるかよ!やれバシャーモ、火炎放射だ!」
「シャッ!」
 
 バシャーモの放つ火炎放射は、ルビーのキュウコンが放つそれに比べれば本数は一本だけだが、正に業火の柱。威力は確実にこちらの方が上だろう。それに対するルファは――軽く身

をひねって躱した。背後に近づいていたフワライドがまともに浴びて倒れる。
 
「やれやれしょうがねえな……ならちっとの間、静かにしててもらうぜ?」
 
 ルファが刀を抜く。エメラルドは上等だ、と吠えた。そして二人はぶつかり合――わない。
 
「ジュカイン、リーフブレード!ラグラージ、波乗り!」
「っと!効かねえなあ!」
 
 エメラルドの猛攻を、ルファは身をかわし、避けきれない広範囲の攻撃はポケモンに一点突破させて凌ぐ。そしてその間にも、やたら威力の高いエメラルドの攻撃は町に侵入しようと

するフワライドをバタバタと倒していく。
 
(まさか、彼は……)
 
 それを見ていたルビーは勘づく。これは恐らく偶然ではないと。ルファは意図的にエメラルドの攻撃を誘導し、その威力を利用してフワライドたちを倒しているのだ。それは単純にポ

ケモンバトルが強い、というだけで出来ることではない。ポケモンなしでは全く戦えないルビーとは違う、彼自身が強いからこそ出来ることだった。

 
(まあいいや、その辺も彼が聞いてくれるだろう)
 
 結局そこはサファイア任せにしつつ、ルビーは自分が巻き込まれないように守りつつ、フワライドを倒していく。二人のようで三人による撃退が始まった。



「レアコォーイル、電撃波!」
「オーロット、身代わり!そしてウッドホーンだ!」
「フフーフ。当たりませんねえそぉーんなもの!」
 
 走る電車内でのバトル。それは間違いなくサファイアにとって不利だった。何故なら車両というのはそう広くなく、いつもの影分身により敵の攻撃を躱すことを中心としたバトルが難

しいからだ。おまけに時折揺れるのがサファイアやポケモンの足取りを乱す。故にサファイアはオーロットで様子見をしつつ、対策を練る。今も電撃波を影の大樹で守りつつ攻撃を仕掛

けるが、揺れでバランスが崩れて上手く攻撃できない。
 
「それではそぉーろそろ見せてあげましょう。真・トライアタック!」

 レアコイルの磁石が体から離れ、三角形の頂点を作り出す。発生した強力な磁力でレアコイルの体の周りが熱くなり――そこから、バーナーのように炎が噴き出た。影の大樹に直撃し

、焼け落ちる。
 
「もう一度身代わりだ!」
「無駄ですよ、こちらももぉーう一度です!」
 
 再びオーロットが影で大樹を模した身代わりを作り出すが、レアコイルの炎によって焼き尽くされてしまう。一見すれば防げているようだが、身代わりには体力を使うのだ。このまま

防戦一方では、オーロットの体力が尽きる。
 
「なら今度はゴーストダイブ!」

 自身の影の中に身を隠すオーロット。普通のポケモンバトルなら手が出せないところだが、目の前の博士はそんなもの物ともしない。
 
「自分の身を護るポケモンを隠すとはおぉーろかですねぇ。レアコイル、やってしまいなさい!」
 
 レアコイルの攻撃の照準がこちらを向く。やはりこの博士はポケモンで人を傷つけることをなんとも思っていない。ーー故に、読めていた。
 
「今だ、出てこいオーロット!」
「オーッ!」

 レアコイルの影からオーロットが出てきて突撃する。するとレアコイルの体が真っ赤に燃え上がり、仰向けに倒れた。
 
「ノォー!?私のレアコイルが!」
「この前シリアが言ってただろ、お前のトライアタックは強力な反面で、ポケモンに負担をかけてるってな!」
 
 レアコイルの発生させた磁場は強い炎を発生させるほどだ。故にその磁場が崩れてしまえば己自身を焼くとシリアは言っていた。それをサファイアなりに実行したまでだ。
 
「フン・・・まあこぉーの前よりはマシになったようですねえ。こぉーうでなくては面白くありません。出てきなさい、ロォートム!」
「戻れオーロット、そして・・・いくぞフワンテ!」
 
 ティヴィルが影を纏った電球のような姿をしたポケモンを繰り出す。たしかこの前は、芝刈機の姿に変身してリーフストームを使っていた。
 
「フフーフ、随分と小さくて頼り無さそうなポケモンですねえ。ロォートムの攻撃、受けてみなさい!放電!」
「それはどうかな。フワンテ、シャドーボール!」 
 
 車両を埋め尽くさんとするような放電に、フワンテが漆黒の球体で迎え撃つ。が、力負けしてフワンテの体が電撃を受けた。サファイアの体も少し痺れる。
 
「それ見たことですか。そんなポケモンでは私には勝てませんよぉー?」
「・・・いいや」
「?」
 
 サファイアが呟くように言う。電撃を受けたフワンテの体が輝き始めた。その小さな体が、巨大化していく。
 
「本当の勝負は、これからだ!お前の仲間達を傷つけられた怨み晴らせ、フワライド!」
「ぷわわぁー!」
「ほぉーう、進化させてきましたか・・・ですがその程度でなんとかなると思わないことですね」

 特別進化には驚かないティヴィル。むしろ面白そうに笑みを浮かべた。
 
「フワライド、シャドーボール!」
「では見せてあげましょう、我がロォートムの真の力を!ウォッシュロトム、チェンジ!そしてハイドロポンプ!」
 
 先程より大きく威力を増したシャドーボールに対し、ティヴィルはロトムの体を洗濯機のように変型させる。そしてそのホースの部分から、大量の水を放ってきた。シャドーボールが相殺される。
 
「折角の進化もそぉーの程度ですか?」
「まだまだ!フワライド、妖しい風!」

 漆黒の弾丸は相殺出来ても、吹きすさぶ風は打ち消せまい。そう考えて攻撃する。

「ならばウインドロトム、チェンジ!そぉーしてエアスラッシュ!!」

 今度はロトムが扇風機の姿を取り、幾多の風の刃を放ち。またしても攻撃が掻き乱され、ロトムには届かない。
 
「くそっ、なんでもありかあの変型は・・・」
「そぉーのとおり。そしてそろそろ見せてあげましょう、我がロトム最大級の攻撃を」
「!!」
「ヒートロトム、チェンジ!そぉーして・・・オーバーヒートォー!」
「ぷわわぁー!」
 
 サファイアが何か指示をだす前に、フワライドがサファイアを庇うために動いた。進化したその巨体はサファイアの体を覆い隠すのに十分で、ヒーターに変型したロトムの猛火を防ぐ盾となる。
 
「フワライド!!」
「ぷわ・・・」
 
 だがそれは相手の最大級の攻撃をまともに受けるのと同じ。フワライドの体が焼け焦げ、すさまじい熱を持ち。
 
「ぷーわーわー!」
 
 その体がみるみるうちに。車両の天井につくまでに大きく膨らんでいく。
 
「こぉーれはまさか・・・熱暴走!?」
 
 わずかだが焦ったティヴィルの声に、これはチャンスだと直感するサファイア。
 
「踏ん張れフワライド、もう一度シャドーボール!」
 
 フワライドのシャドーボールは自分の体と比例するが如く大きく膨らんでいく。ティヴィルがロトムを変型させて攻撃を仕掛けるが、漆黒の球体は縮まるようすはない。
 
「ぷー、わー、わー!」
「ノオオオオオオ!!」
 
 放たれた一撃は確かにロトムに直撃し、戦闘不能にした。サファイアの知る限りのティヴィルの手持ちはこの二体だけだ。降参するように呼び掛ける。

「・・・もう勝負はついただろ!大人しく装着を止めるんだ!」 
「降参・・・?ク、ククク・・・ハーハッハッハ!!」
 
 哄笑するティヴィル。どうやらまだ諦める気はないらしい。次はどんなポケモンが来るのか警戒するとーーなんと、車掌室の装置から雷が飛び出した。フワライドに命中し、フワライドが倒れる。
 
「なっ・・・!!」
「あまり使いたくはありませんでしたが見せてあげましょう。こぉーれが私の最高傑作にして最終兵器!ポリゴンZ !」
 
 装置についている幾つものモニターが光を放ち、一つの立体映像を作り出す。それは赤と青で構成された、なんとも説明の難しいフォルムをした紛れもない一匹のポケモンだった。

「・・・出てこいヤミラミ!その輝く鉱石で、俺の大事な人を守れ!」

 ヤミラミをメガシンカさせて、宝石の大盾を構えさせる。それをティヴィルは笑った。
 
「このポリゴンZの前に防御などぉー無力!冷凍ビーム!」
「ヤミラミ、メタルバースト!」
 
 ポリゴンZが立体映像から冷凍ビームを吐くのを、大盾で受け止め、盾を凍りつかせながらも跳ね返す。だがーー

「フッ・・・」
「なっ・・・!?攻撃が効かない・・・?」
 
 跳ね返した攻撃は、あっさりと立体映像をすり抜け、車両内で散乱した。車掌室の装置が壊れないように電車ごと改造したのか、傷ひとつつかない。
 
「そう!これこそポケモン預かり装置とヴァーチャルポケモンことポリゴンZの能力を組み合わせた無敵の戦略!どんな攻撃でも、私のポリゴンZを傷つけることは出来ません。何故ならポリゴンZは装置の中にいるのですからね!」
 
 また無駄にポーズを決めつつ自分の発明をペラペラ話すティヴィルだが、これは確かに本格的に不味い。向こうからは一方的に攻撃できて、こっちの攻撃は一切通らないのだから。
 
「さあいきますよ!ポリゴンZ、破壊光線!」「また俺を狙って・・・!ヤミラミ、守る!」 
 サファイアとヤミラミの体が緑色の防御壁に包まれ、破壊光線を弾き飛ばす。向こうは反動で動けなくなるが、こちらからも手の出しようがない。
 
(いったいどうすれば・・・待てよ、預かりシステム?)

 ティヴィルは確かに預かり装置と組み合わせている、と言っていた。それなら、勝機はあるかもしれない。だがこれは危険な賭けだ。託すなら相棒のジュペッタだが、果たしていいのかーーそんな思いを込めてジュペッタを見つめる。
 
「ーーーー」
「よし・・・頼むぞジュペッタ」
 
 相棒から帰ってくるのはいつもの返事。任せてください。そう聞こえた。

「何をこぉーそこそ話しているんですか?」
 
 無視してサファイアは走り出す。ポリゴンZが破壊光線の反動で動けない今がチャンスだ。
 
「フフーフ、さては直接『雷同』を壊す気でぇーすね?ですがこぉーの『雷同』はあなた程度に壊せるものでは・・・」

 得意気に語るティヴィルだが、サファイアの狙いはそこではない。『雷同』というらしい装置まで走り抜けーージュペッタの入ったモンスターボールを、預かりシステムの利用法と同じように入れた。ティヴィルがぎょっとする。
 
「な・・・まさか」
「そのまさかさ。ポリゴンZの本体がこの中にいるっていうんなら、こっちのポケモンも中に送り込んでやればいい!」
「フン・・・相変わらず勘のぉーいいガキですが・・・あなたは意味がわかっていますか?電子空間の中で戦い、負けたポケモンの末路は戦闘不能ではなくデータとして消滅です。自分のポケモンを喪う恐ろしさ、味わっても知りませんよぉー?」

 サファイアにも、確信はなかったがそうではないかという予測はあった。ジュペッタを喪うなど、考えただけでも恐ろしい。が。サファイアは憶さず、ティヴィルを睨み付ける。
 

「俺の相棒は、お前なんかに負けたりしない!」


 斯くして二人の決戦の舞台は、現実世界ではなく電子空間に持ち越されたーー。
 
 
 
 突如として小さく、広大な電子空間に送り込まれたジュペッタは、意外と冷静に己の動きを把握していた。まずは自分がこの空間でどれだけやれるのか、それがわからなくてはどうしようもない。真っ先に敵の居どころに向かわないあたり、サファイアと違って冷静だ。
 
(それに、恐らくは・・・)
 
 ジュペッタにはこの装置が如何なるメカニズムによって動いているのかはわからない。だが町中のフワライドを操るほどとなればそれをコントロールする存在が必要になるだろう。
 
(さっきのポリゴンZの攻撃は、破壊光線を撃ったにしても停止時間が大きかった。そして今も、侵入者である私になにもしてこない。ーーつまり、彼?こそがこの装置を統制している存在とみて間違いないだろう)
 
 そう予測をつけ、緑色を中心として構成された電子空間を進んでいくジュペッタ。すると程なくしてポリゴンZの姿が見えてきた。
 
「・・・ターゲット、ホソク。デリート、カイシ」
「くっ!」
 
 ポリゴンZはこちらの姿を見るや否や、直ぐ様体の一部を砲台に変えて冷凍ビームを放ってきた。だがそれはーー電子空間での動きになれていないジュペッタでも避けられないことはないものだった。あちらとて、本来電子空間での戦闘などプログラムされていないのだろう。

(ならば一気に決めさせてもらう!)
 
 ジュペッタは今の自分に出来る全速力でポリゴンZに肉薄する。やはりポリゴンZの動きは遅い。一気にその鋭い爪で引き裂き、勝負を決めたーーかに思われたが。
 
(手応えがない!?これは・・・)
 
 まわりを見回すと切り裂いたはずの体が再構築され、元のポリゴンZの姿を取り戻していた。・・・単純な物理攻撃は通じないということか、とジュペッタは考える。
 
「デリート・・・デリート・・・デリート・・・」
 
 うわごとのように繰り返しながら、ポリゴンZは砲台を増やして攻撃を仕掛けてくる。片方の攻撃があたり、ジュペッタの片腕がちぎれとんだ。自分の体が消滅していく感覚に寒気が走るが、ここで止まるわけにも負けるわけにもいかない。
 
(この一撃で決める)
 
 ポリゴンZは電子空間での戦闘に適応してきている。長引けば長引くほど、戦闘は不利になるーーいや、待っているのは敗北のみだろう。
 
(相討ちにもやってやるつもりはない。私はまだマスターのもとでやるべきことがある)
 
 ミシロタウンでシリアのDVD を見ながら、あんなチャンピォンになりたいといつも言っていたサファイアの夢を叶えるとジュペッタはカケボウズだったころから誓っているのだ。こんなところで、終わるわけにはいかない。
 
(この爪に火を灯してでも私は・・・勝つ!!)
 
 鬼火の炎を自分の爪に。焼けるような感覚にも構わず、再度ジュペッタは肉薄した。これくらいが自分の足を止める弱気を払うにはちょうどいい。
 
(散魂炎爪・怪)
 
 そして、炎を纏った闇の爪が、今度こそポリゴンZを引き裂いてーー回りの電子空間が、ぶつんと音を立てて暗くなった。装置が止まったのだろう。
 
(さあ戻ろう、マスターの元へ)
 
 ジュペッタは電子空間から脱出する。自分を心配・・・いや、信じてくれているサファイアのところへーー
  
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