| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

幽雅に舞え!

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

久々の二人旅。初めての気持ち。

ポケモンセンターで手持ちのフワンテとヤミラミを回復させた後、サファイア達はカイナシティの市場へと向かう。目的や買いたいものは、特に決まっていない。ただカイナに着いてからもあわただしいこと続きだったので、少しの間ゆっくりしようということになったのだ。

「……すごい、こんなにたくさんの物がある場所初めて見た」
「都会が近くにある港町だからね。博物館や造船所もあるし、ホウエン最大の交易都市といってもいいかな。とはいえ、さすがに圧巻だね」

 二人とも都会に来るのは初めてとあって、どこを見ても品物で満ち溢れている場所を珍しそうに見ている。花、漢方薬、アクセサリ……様々な種類の店を一つずつ興味深そうに。

「あ……この目玉付の髪留め可愛いね」
「そのセンスはどうなんだ……」
「いいじゃないか、ボクになら似合うと思わないかい?」

 ルビーが目玉付(もちろんレプリカである)の髪飾りをとってにんまり微笑んだのをツッコむサファイア。店員に許可を取って、軽くつけてみせる。少々不気味な目玉はルビーの髪にとまると少し愛嬌のあるアクセサリーに見えるから不思議なものだ。

「……そうだな、うん。似合ってるよ。買うか?」
「へえ、買ってくれるのかい?なかなか甲斐性があるじゃないか」
「いや、今は俺とお前でお金は共有してるんだから甲斐性も何もないだろ……」
「野暮だなあ」

 からかうようにルビーが言うので、憮然とするサファイア。二人での旅をするにあたって、面倒がないようにお金は共有している。ルビーの提案で、サファイアとしてもお金に頓着はしていないのでそうなったのだ。

 購入した目玉のアクセサリを、鏡の前で位置を調整するルビー。その姿はどこにでもいる女の子のよう……というか、実際そうなんじゃないかと最近サファイアは思い始めていた。彼女の口調や態度は特徴的だが、内面はそんなに変わっていないんじゃないかとこういう時に思う。

「待たせたね、じゃあ行こうか」
「ああ」
「ところでサファイア君?」
「どうしたんだ?」

 髪飾りをちらちらと見せるようにサファイアの隣を歩くルビーは、少し間をおいてこう切り出した。


「二人でこうして買い物しながら歩いてると……なんだか、デートみたいな気がしないかい?」

ズバリ言われて、サファイアの顔が少し赤くなる。その顔をルビーが覗き込もうとするので、無駄であると知りつつ赤くなった顔を隠すように額のバンダナを指で軽く引っ張る。そしてこう返した。

「何言ってるんだよ。こんなの……」
「ふふ、やっぱりまだそうは思ってくれないかな?」


「……俺だって、そう思ってるよ。ただ、言うのが恥ずかしかっただけで……」


 言ってて自分でも己惚れだと思い、すごく恥ずかしくなった。だがそれは、言われた側もそうだったようで――ルビーの顔が、ぽっと赤くなって縮こまる。

「……」
「…………」
「………………バカだなあ、最初から言ってくれればボクだって……その、準備とかして待ち合わせとかしたのに……」
「なんだよそれ……ルビーって意外なところでメルヘンだな……」

 真っ赤で顔をそむけあってぼそぼそという二人。道行く通行人のおばちゃんがあらあらまあまあと言っているのが聞こえてますます恥ずかしくなってくる。

それに耐えかねて、サファイアはルビーの手を取ってどんどんと歩き出した。

「え、ちょっと、どこへ……」
「知るもんか!どこか冷たいものがあるところまで歩く!」

 初々しい二人は、あてどなく市場をさ迷い歩く。さながら逃避行のように――



 さすがに温暖なホウエン地方とあってアイスクリームやが見つかりそこで二人分注文をする。最初は二人とも恥ずかしくてお互い別の方向を向きながらちまちまと舐めていたが、時間とアイスで頭も冷え、15分後にはサファイアはアイスを齧るように食べていた。舐めるのはなんだか女々しい感じがするからだ。

「……落ち着いたかい?」
「それはこっちの台詞だぞ」
「人をいきなり連れ回しておいてよく言うね。ボクは君が発情してご休憩所まで連れていかれるんじゃないかと気が気がじゃなかったんだよ?慰謝料を請求したいくらいだね」
「それ、絶対嘘だろ……アイスで勘弁してくれ」
「やれやれ、しょうがないなあ」

 どうやらルビーもいつもの調子に戻ったらしい。少し安心するサファイア。自分はともかく、彼女の調子が狂うとやりにくいことこの上ない。いつもならこんな時冷静にしてくれるジュペッタをモンスターボールから出して、恨めし気に言う。

「……というか、ジュペッタ。どうして何もしてくれなかったんだよ」
「----」

 ジュペッタがけらけらと笑う。それくらい自分で何とかしてください、と窘められた気がした。ルビーはルビーでボールからキュウコンを出し、アイスを少しあげている。キュウコンは一舐めしてぶるりと身震いした後、ルビーの頬をぺろりと舐める。

「あはは、ちょっと冷たかったかな?」
「コォーーン……」
「よしよし、こら、そんなに舐めないでおくれ。ボクは食べ物じゃないんだから」
「コンコン!」
「----」
「コン!」

 ジュペッタがキュウコンに何事か話しかけて、頭を下げる。もしかしてうちの主がそちらの主に失礼しましたというようなことを言っているのだろうか、なんてサファイアは想像した。

 そんなポケモンたちとルビーを見ながら食べていると、あっとういう間にアイスはなくなった。ルビーはまだ食べ終わるのに時間がかかりそうだ。

「ん……そろそろ行こうか?」
「いや、ゆっくり食べててくれ。ちょっと散歩してくる」
「そうかい。迷子にならないように頼むよ?」
「わかってる」

 そう言ってジュペッタと一緒に軽くルビーたちから離れる。考えるのはやはり、彼女のこと。

(俺は、ルビーのことをどう思ってるんだろう)

 ムロタウンに着くまでは、一緒に旅をする仲間だと思っていた。逆に言えば、それ以上の認識はしていなかった。だがムロタウンで記憶を取り戻してから、彼女に対する認識は変わりつつある。あの時のように、彼女を守りたいと。それこそシリアに対する憧れと同じくらい強く。その理由が、なんとなくつかめなかった。

「なあジュペッタ、お前はどう思う?」
「……」

 ジュペッタは答えない。答えられないのだろう。主の経験したことのない感情は、ジュペッタにもわからない。しばらく自問自答し、サファイアは目の前で拳を握る。思い出すのは、あの博士に負けた時のこと。

「……あの時、俺はもっと強くなるって誓った。シリアに追いつくために。悪い奴らに負けないために……その強くなる理由が、もう一つ増えたんだ。ルビーを守りたいっていう理由が。……今は、それだけでいいと思う」

 保留といえば保留だろう。だが決意を新たに、サファイアはルビーの元へ戻る。彼女も食べ終わったところの様で、笑ってサファイアを見た。

「ふふ、散歩はもういいのかい?ならそろそろ市場も出ようか。たまには楽しいけれど、さすがに人混みが疲れてきたよ。」
「わかった。じゃあもうそろそろ出よう。そうだ、コンテストを見ていってもいいか?せっかくカイナシティに来たんだしさ。」
「いいよ、観客席が空いてるといいけれど」
「ここにあるのはノーマルランクらしいし、観客はそこまでいないんじゃないかな」

 なんて話をしながら、カイナシティの中でもひときわ煌びやかな建物、コンテスト会場へ向かう。中もまた、綺麗な電飾があちこちに彩られ、ステージの中心には天井の開いた開放的な空間だった。その客席で彼らが見たのは――ムロタウンに着いた時に出会った、あの少年だった。

「……あの子は!」
「……!」

「なんということでしょう!初出場の少年、ジャックがなんと決勝戦まで勝ち進みました!それではいってみましょう、コンテストスタート!」
「出てこい、オオスバメ!」
「いくよ、ポワルン」

 実況者の声と共に両者がポケモンを出す。相手はオオスバメを繰り出し――ジャックと名乗った少年は、小さな雨雲のような、灰色のポケモンを繰り出した。


「さあ出ましたジャック選手のポワルン!これまで雨、晴れ、と華麗に天候を変化させる技を繰り出してきましたが、今度は何を見せてくれるのでしょうか?」
「見たことないポケモンだ……ルビーは何か知ってるか?」
「……見たことはないけど、聞いたことはあるかな。どんな天候をも自在に操る変わったポケモンの噂。その特徴は――」
「オオスバメか……砂嵐でもいいけど、ここは魅せにいっちゃおっかな。ポワルン、霰!」
「先手必勝だ、燕返し!」

 ポワルンによって、天開きの会場に霰が降り始める。しかしオオスバメが迅速に間合いを詰め、翼がポワルンの体を切り裂こうとして――その翼が、弾かれた。ポワルンの体が天候が変わった瞬間に凍り付いていき、その翼をはじいたのだ。

「――天候によってその姿とタイプを変えること。今は恐らく、氷タイプになってるね」
「そんなポケモンがいるのか……」

 サファイアが感心していると、ジャックにスポットライトがあたり、彼が天を指さした。そしてあどけなさの残る声で彼はこう口にした。

「それでは……レディースエーンドジェントルメーン!これから起こる景色を決してお見逃しのないように!」

 会場全体の目がジャックに集まる。それを満足げな表情で受け止めて、ジャックは指示を出した。

「ポワルン、粉雪!」

 ポワルンの氷の身体から、その身の分身のように小さな氷が宙に吹き、霰によって地面に氷が積もり始める中でのうっすらと舞う様はまさに幻想的な雪景色。

「綺麗だな……」
「ホウエンじゃなかなか見れない景色だね」

 美しい景色に観客も、対戦相手ですら見とれる。ジャックはにっこりと笑い。さらなる指示を出した。

「それじゃあいっちゃうよ!ポワルン、ウェザーボールだ!」

 ポワルンの体が青く光り輝き、氷の球体が宙に浮かぶ。それは空中で破裂し、天からの雹となって降り注いだ。オオスバメの体を打ち付け、一撃で倒した。さらに降り注いだ雹が地面や壁に当たって砕け、まるでダイヤモンドダストのような大自然を思わせる光景を生み出す。ほとんどの観客は、景色に見とれている間にオオスバメが倒された、そのような感覚を抱くほどだった。実況者すらぽかんとして、倒れたオオスバメを見て自分の仕事を思い出したかのように我に返る。

「な、なんとー!ジャック選手、決勝戦を実質一撃で決めてしまいました!コンテストにおいてはあまり早い決着は望まれませんが、これほどの景色を見せつけられては文句なしの優勝でしょう!」

 その声で観客たちも我に返り、歓声をあげる。その声に手を振って応える少年の姿に魅了された女性客もいるようだった。

「それではジャック君、今の気持ちは?」

 用意されていた優勝ステージに立ち、マイクを受け取るジャック。

「えっーと、初めてのコンテスト、とっても面白かったよ。人にバトルを魅せるのってとっても楽しいね!」

 それはとても子供らしいコメントで、実況者も微笑ましげに見つめる。だが彼はそこから驚くべき言葉を口にした。

「だけど、まだちょっーと物足りないかな。だからここでボクは、もう一戦バトルがしたいです!」

 おお、とどよめく観客。実況者は少し困り顔をしていたが、彼は構わず続ける。


「そしてその相手は――お兄さん、君に決めた!!」


 ジャックが観客席を指さし、スポットライトがそちらに向く。そこにいたのは――誰あろう、サファイアである。


「……えっ、俺?」


 突然バトルの相手に指名され、混乱するサファイア。しかし状況は、彼に構わず動いていく――
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧