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ラブライブ! コネクション!!

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Track 1 両手を広げて
  活動日誌0 ミュージック・スタート! 1

 
前書き
ここから本編(雪穂の活動日誌)になります。
分割話数になっている為、サブタイトルの最後の話数の後書きに
Comments として他のメンバーからのコメントが入ります。 

 
「……新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」

 壇上の理事長先生が私達を見渡してから、微笑みを浮かべて言葉を(つむ)いだ。
 その瞬間に私、高坂 雪穂(こうさか ゆきほ)は心の底から込み上げる物と言うか、安堵(あんど)と言うか――そんな感情に全身を包まれていたのだろう。
 
 合格発表で受験番号はこの目でしっかりと確認した。制服だって間違いなく私の手元に届いたモノだ。
 そして、その制服を身に包んで音ノ木坂の校門を通り、学院の先生や先輩方に案内されて入ってきた入学式の会場。
 今、私は他の新入生と共に新入生の席――この場に座っているのだ。
 疑う余地がないことくらい理解はしているんだけど。それでも、今この瞬間に私は祖母や母が通っていた――そして、お姉ちゃんの通う国立音ノ木坂学院(こくりつおとのきざかがくいん)の生徒として認められた。たぶん、そんな気になったのかも知れない。

「…………」
「…………」
「「…………クスッ」」
「「…………」」

 私は思わず隣に座っていた親友の絢瀬 亜里沙(あやせ ありさ)の横顔を見た。その瞬間、亜里沙も私を見つめ返してきたのだった。
 たぶん同じことを考えていたのだろう。自分の顔は鏡で見ていないからわからないのに――きっと2人は同じ表情をしているんだと思えた。それは亜里沙も同じみたい。
 私達は同時に小さく笑うと、照れくさそうに正面に向き直るのだった。

♪♪♪
 
 今日は此処(ここ)、国立音ノ木坂学院の入学式。
 亜里沙のお姉さんの絢瀬 絵里(あやせ えり)さん。そして、私のお姉ちゃんの高坂 穂乃果(こうさか ほのか)
 ――更に7人の先輩達が集まって、スクールアイドル μ's(ミューズ) として輝きながら駆け抜けた姉達の去年1年間が発信され続けてきた場所。
 私の知っている喜びや悲しみや苦労も当然あった。だけど私の知らない色々な困難や苦労や悩みもあったのかも知れない。
 ううん――絶対にあったと思う。ただお姉ちゃんが私に見せまいとしていただけなんだろう。
 でも、それは別に私が妹だからとかって理由ではない気がする。
 単に、お姉ちゃんの輝いた場所がスクールアイドルだったから――学校の部活動だったからなんだと思う。そう、去年の私は音ノ木坂の生徒じゃないから。
 それにお姉ちゃんには素敵な仲間がいた。支えあえる皆がいたのだから。
 私の知らない困難や苦労や悩みは、仲間で乗り越えてきたんだと思う。
 私は、ただ応援しているだけの存在――ただ、勇気と希望をもらっているだけの存在だった。

 ――だけど、今日からは違う。私も音ノ木坂の生徒なんだ。
 1年間とは言え、お姉ちゃんと同じ校舎で同じ時を刻む――

「…………」
「…………?」
「…………」

 私は脳裏に浮かんだ1年間(・・・)と言う単語に顔を曇らせた。
 それに気づいた亜里沙が心配そうに私の顔を覗きこんできたのだけど、苦笑いで返したのだった。だって彼女(・・)には私の悲しむ1年もないんだから。
 入れ違いで入学した彼女には共に刻む時間すらない。私が悲しむことなんて贅沢(ぜいたく)なんだろう。
 そもそも、こんなことをお姉ちゃんが聞いたら――まぁ、ぜっっったいに! お姉ちゃんには言わないんだけどねっ!
 きっと笑顔で、こう言うんじゃないかな?
 そう――
「大丈夫だよ、雪穂。1年もあるんだから! ファイトだよ!!」
 って。
 正直な話、何に対してのファイトなんだか疑問なんだけどね? それでも、お姉ちゃんの1年もあるは説得力があるんだよね?
 
 去年の音ノ木坂は生徒の減少による廃校(はいこう)の危機に(ひん)していた。現に私の耳にも噂が届いて、他の学校を受験しようかと思っていたくらいだし?
 それを救ったのが、スクールアイドル μ's の存在。
 彼女達の活躍により、新年度の募集も(とどこお)りなく済んで、私も入学式の席に座れている訳なのだ。
 ふいに周囲を見回す。マンモス校の様な密度はないものの、それなりの密度は保っている会場。合格発表の時も番号に空欄があったのだから定員割れではないはず。
 なにより、会場に(まと)う空気が希望に溢れている気がする。
 それは、新入生だけではなく――先生や先輩方の全ての人から(かも)し出ている雰囲気。とても、廃校の危機に瀕していたなんて思えないくらいに。
 そんな雰囲気を作った立役者は、紛れもなく μ's なんだと思う。
 そして――
 そんな μ's を作った立役者は、紛れもなくお姉ちゃんなんだとも思っている。

 前に海未(うみ)さんと、ことりさんに聞いたことがあった――
「なんで、お姉ちゃんがリーダーなんですか?」 
 って。
 だって、お姉ちゃんだよ?
 そりゃあ、優しいところもあるし、明るいし、元気だし。でも、リーダーって、ねぇ? 海未さんの方が向いていると思うし。
 だから、素直な質問をしてみた訳なんだけど――その時、海未さん達は一瞬だけ驚いた表情を浮かべて顔を見合わせていたけど。すぐに吹き出し笑いをしていたっけ――なんでかな?
 でも、笑いを(おさ)えた海未さんが優しい微笑みを浮かべながら言った――
「……わかりませんか?」
 それを隣で聞いていた、まるで自分が褒められたかのように嬉しそうに微笑むことりさんの笑顔に――
「……わかりませんよ」
 恥ずかしくなって、ソッポを向いて答えたんだっけ。
 だって――
 2人の表情に、私の心の奥に大切にしまっていた答えが正解なんだって言われた気がしたから。
 だから、私の表情を見ていた2人は何も言葉を繋げなかった。ううん――繋げる必要はないって理解していたんじゃないかな?
 私はお姉ちゃんの妹で、2人はお姉ちゃんの親友――そんな感じ。
 その後は、恥ずかしそうにソッポを向いている横顔を無言で優しく見守られていたのを覚えている。
 
 もちろんお姉ちゃんに話しても――
「えー? そんなことないよぉ。みんなの力なんだよ? 私、何もしてないもん」
 って、本気で言い返してくるんだろうけど。

 でもね、お姉ちゃん?
 他の μ's の皆さんや学校の皆さん。そして μ's を愛する人達は、きっとわかってくれているんだよ?
 お姉ちゃんが諦めずに頑張ってきたから、みんなが集まってくれたんだよ?
 お姉ちゃんが諦めずに頑張ってきたから、みんなの願いが叶ったんだよ?
 それは μ's を愛する人達の1人として。近いところから μ's を――お姉ちゃんを見てきた私が保証するよ?

 だから――
 そんな μ's を作った立役者は、紛れもなくお姉ちゃんなんだと思っている。

 そして去年の1年間でお姉ちゃんは文字通り光輝いた。
 学院の危機をスクールアイドルとして救った。スクールアイドルの祭典、ラブライブ! で頂点に輝いた。一躍(いちやく)注目を浴びる存在になった。
 とは言え、スクールアイドルになったのも去年だった。基礎だって何もしていない状態からのスタート。
 そもそも、スクールアイドルをやるキッカケって、私が持っていたUTXの入学案内だって言うし。
 つまりは、全てが去年1年間で始めて、叶えた物語(・・・・・)

 そう――
 お姉ちゃんは文字通りやりきったんだ! たぶん誰よりも濃密で光に()(あふ)れた1年だったんだと思う。
 だから、お姉ちゃんが言う1年もある(・・・・・)って言葉は誰よりも重く、説得力のある言葉なんだよ? 少なくとも、私には。

 それにね? 確かにお姉ちゃんと過ごせる時間は1年なのかも知れない。
 だけど、お姉ちゃんに素敵な仲間がいるように、私の隣には亜里沙がいる。
 彼女との時間は3年もあるんだ。そう、濃密で満ち溢れた1年が3倍(・・)あるんだ。
 だから、お姉ちゃんよりも濃密で満ち溢れた時間を亜里沙と過ごしてやるんだから!!

 今までは、ただ応援しているだけの存在――ただ、勇気と希望をもらっているだけの存在だった。
 だけど、今日からは違う。私も音ノ木坂の生徒なんだ。
 1年間とは言え、お姉ちゃんと同じ校舎で同じ時を刻む。そして、亜里沙と共にアイドル研究部に入部して、お姉ちゃん達の背中を追いかけるスクールアイドルになるんだ。
 だから、これからは同じ景色を見て、同じように悩んで、同じように苦しんで。
 そして――
 同じように喜びを分かち合い、一緒に笑い合える。
 ユニットは違うけど、同じ音ノ木坂学院アイドル研究部の一員として色々なことを共有できるんだ。
 きっと私だってお姉ちゃん達にも勇気と希望を与えられる存在になれる! 
 ――のかは、わからないんだけどね。

 とにかく、今日から私もお姉ちゃんと同じ舞台に立つことが許された。
 つまりは私にとって、亜里沙にとって。
 ううん――私達にとってのスタートなんだ!

「…………」
「…………」
「――!」
「…………クスッ」
「…………クスッ…………」
「「…………」」

 そんなことを考えていた私の視界に突然2本の指が映りこむ。驚いて隣に座る指の持ち主を見つめると、亜里沙は満面の笑みを浮かべていた。
 私は(あき)れながらも、笑顔を浮かべて彼女のピースサインの横にピースサインを並べた。
 別に彼女の笑顔と行動に呆れた訳じゃない。
 ただ――私が心の中でやろうと思っていたことを目の前で行動に移してきたから。
 やっぱり亜里沙には敵わないし、親友になって良かったって思える――と言うか、親友でいられることに感謝しているくらいだしね?
 ――なんて、ぜっっったいに! 亜里沙には言わないんだけどねっ!
 
 2人は一瞬だけ見つめると、合図をした訳でもないのに同時に指を水平まで上げた。
 いや、さすがに今は入学式の最中だから――掛け声も当然、心の中でしただけだよ?

 だけど、何故か私には亜里沙の声と私の声――2人の掛け声が脳内に響いていた。
 隣で微笑む亜里沙の表情から、彼女にも響いていたんだろうと感じた。
 私達は微笑みを交わして、再び正面に向き直るのだった。
 
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