魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic13そんな何気ない日常~Eilie & Children~
†††Sideアイリ†††
本局・医務局と聖王教会、両方の遺伝子検査でマイスターの遺伝子を用いて生み出されたクローンだって確定を受けたフォルセティ、それとオリヴィエのクローンだって確定を受けたヴィヴィオ、その2人が機動六課にやって来て早3週間。
「すぅ、すぅ、すぅ・・・」
アイリの隣で寝てるフォルセティの寝顔を見守りながら「ホント、マイスターだよね♪」独り言を呟く。フォルセティの保護責任者になったマイスターは、自分をパパって慕うフォルセティと同室で暮らすことになったんだけど、マイスターは朝が早いからフォルセティを見てる時間が少ないっていうことで、アイリもこの部屋に引っ越してきた。
(本局の寮の時のようにマイスターと一緒に寝られることが出来て嬉しい❤)
しかも夫婦のようにフォルセティを挟んでの川の字で、同じベッドで寝ることが出来る。後見人ということで図らずともママになっちゃったはやても立候補したけど、マイスターと一緒に寝てくれるならって条件付きだったから、はやては顔を真っ赤にして立候補を断念。マイスターと一緒に寝ることへの恥じらいと、すでにヴィータが同じベッドで眠ってるからスペースが無いからね。
「・・・ん、うぅ~・・・?」
フォルセティがマイスターを探すように両手をわしわしと動かし始めた。このまま放っておくと起きちゃうかもしれないね。だから「はーい。お姉ちゃんですよ~❤」フォルセティの手をアイリのパジャマにしがみ付かせたうえで、起きない程度に抱きしめてあげる。するとフォルセティはまた、穏やかな寝息を立て始めてくれた。
「・・・。そろそろまずいかも・・・」
それから30分後の午前7時半。そろそろアイリも起きて、着替えとかの身支度をしないと。始業時間は午前9時から。その時間までにご飯も食べないといけないから、結構慌ただしかったりする。ちなみに終業時間は20時。21時までの間に交替部隊への引き継ぎになる。
「ぅ・・・ん・・・」
可哀想だけど起しちゃおうかな、って考えてるところでフォルセティが目を開けた。二度寝を阻止する意味も込めて、「おはよ~」朝の挨拶を掛ける。こうすることで二度寝をほとんど阻止できる。一度なにも言わないで撫でてたら二度寝しちゃって、盛大に遅刻してシャマルから怒られたこともあるんだよね。
「・・・おはよう、アイリおねえちゃん」
目元を右手(フォルセティの利き手はマイスターとは逆なんだよね)でコシコシ擦りながら挨拶を返してくれた。アイリのパジャマを掴んでた左手も離して、ベッドに手を付いて上半身を起こした。アイリも倣って上半身を起こして、そのままベッドから降りる。
「じゃあフォルセティ。身支度を整えに行くよ~」
「うん!」
六課の隊員寮は3階建てで、マイスターたち男性は2階、元々アイリも居た女子(これ大事な線引きね)は3階で寝泊まりする。ちなみに男性は3階へは上がれない。上がったら最後、シグナムとヴィータから総攻撃を受ける・・・予定。洗面台は共通で、それぞれの階層の中間に位置してる。そこで洗顔や歯を磨いたりするんだよね。
「はーい、ガラガラってして~・・・ペッ」
「ガラガラ~・・・ペッ」
部屋に置いてある歯磨きセットやタオルを持って洗面台で顔を洗った後、一緒に歯磨きを終える。プライソンに生み出された後、それなりにまともな生活をしていたのか、ある程度の日常生活の常識など、フォルセティは教えるまでもなく出来てた。ヴィヴィオも、フォルセティと一緒に習ったらしく、ある程度は自分で出来るけどこの子ほどは出来ない。
「それじゃあ・・・――」
歯ブラシやコップの水を切った後、フォルセティと顔を合わせて、「ニッ♪」ってニッコリ笑顔をつくる。フォルセティの歯は綺麗に磨かれてるから「ん、オーケーだよ♪」上手に出来ました、の意味を込めて頭を撫でる。すると、えへへ♪ってはにかんでくれるフォルセティ。
「ああもう! 可愛いな、このこの!」
「ひゃぁぁぁぁ!」
ギュって抱きしめてその場でグルグル回る。っと、こんなことをやってる場合じゃなかった。マイスターとアイリとフォルセティの愛の巣に戻って、「次はお着替えね~」パジャマを脱ぐ。アイリは陸士隊の制服で、フォルセティはスキッパーシャツとアンクルパンツへと着替える。
「フォルセティ、手伝おうか~?」
「だいじょうぶ~!」
フォルセティは何が恥ずかしいのか、アイリと一緒に着替えたくない、見られたくない、なんて言っちゃうんだよね。う~ん、おマセさんめ~。だからアイリ達はそれぞれ部屋の隅っこに寄って、背中を向け合いながら着替える。
「できた~」
「はーい」
フォルセティに振り返って、ちゃんと自分で着替えが出来てるのを確認した。次は櫛でその綺麗な銀色の長い髪を梳く。マイスターは、ヘルメットを被るためっていう理由で後ろ髪をバッサリ切る、なんて愚行を働いてくれちゃったからね~。髪の梳きがいがあるっていうものだね。
「きもちいい・・・」
「寝ちゃダメだからね~」
以前のマイスターのようにうなじ付近で後ろ髪を1本に纏めてゴムで結う。そして今度は「かして~」フォルセティが、アイリの後ろ髪を櫛で梳いてくれる。最近はマイスターもやってくれないし。幸せ倍増。
「ありがとう、フォルセティ。それじゃあパパ達に逢いに行こうか」
「うんっ!」
フォルセティと手を繋いで部屋を出て、1階の食堂へ向かう。階段をゆっくり下りてる中、「パパ! シャマルせんせー! ザフィーラ!」食堂に向かってロビーを歩くマイスターとシャマルとザフィーラの姿を発見。フォルセティが大手を振りながら「おはよ~!」朝の挨拶をした。
「おはよう、フォルセティ、アイリ。ちゃんと起きられたようだな。アイリも、いつもありがとう」
「あら、おはよう、フォルセティ君、それにアイリちゃんも♪ あとね、せんせーじゃなくて、おねえちゃん、ね❤」
「ああ、おはよう」
「おはよう! 気にしないで、セインテスト調査官。アイリが好きでやってる事だし、それに十分幸せだしね~♪」
「ん。シャマルせんせーおねえちゃん!」
「あぅぅ~・・・。せんせーは要らないのよ、フォルセティ~」
アイリも挨拶を返す。フォルセティがタタタっと階段を急いで掛け降りようとするものだから、「あっ・・・!」足を踏み外して前のめりに倒れた。アイリは慌ててフォルセティを追ってジャンプ。抱き止めて、廊下に激突する前に飛行魔法を使えば、無傷で済ませられるはず。
「「あ」」
マイスターもおんなじ考えだったみたいで、フォルセティに向かって階段を駆け上がってた。マイスターはまずフォルセティを抱き止めて、次にアイリがマイスターにドーン!
「ふんぬぅぅ・・・!」
アイリとフォルセティ、2人分の体重を、階段の上っていう不安定なところでマイスターは支え切ってくれた。アイリは慌てて「フェーフォルム!」本来の姿、30cm程度の小さな体に戻る。それだけでマイスターの負担は減るからね。
「よいせっと。ありがとう、アイリ。・・・こら、フォルセティ! 危ないじゃないか!」
フォルセティを床に降ろした後、マイスターは階段を駆け降りようとしたフォルセティを怒鳴った。シャマルが「あの、セインテスト調査官。そんな大声で・・・」注意するマイスターを窘めようとした。
「いや。こればかりはきちんと教えておかないといけない。ちょっとした事ですごく痛い思いをしたり、みんなに迷惑を掛けたりするんだ。自分も大変だし、周りの人にも大変な目を遭わせてしまうんだ」
「ご、ごめんなさい・・・パパ・・・」
涙を浮かべはするけど泣かないように耐えるフォルセティは、ちゃんとごめんなさいが出来た。マイスターは「お前に怪我が無くて良かった。これからは気を付けような」そんなフォルセティをギュッと抱きしめた。
「っ、うん・・うん・・・ごめんなさい・・・!」
それから涙をマイスターのハンカチで拭ってもらったフォルセティが、「えへへ♪」マイスターやアイリ、みんなに満面の笑顔をくれた。アイリもシャマルもメロメロになりながら、改めて食堂へ向かう。
「あっ、はやてママ、リインおねえちゃん、ヴィータおねえちゃん、シグナムおねえちゃん! おはよ~!」
「おはようや、フォルセティ♪ それにセインテスト調査官、シャマル、アイリも♪」
「おはようです、フォルセティ♪」
「おーっす」
「ヴィータ。挨拶くらいはしっかりやれ。フォルセティが真似でもしたらどうする。おはよう、フォルセティ」
「?? おーっす?」
「ほら見ろ。フォルセティが真似をしただろうが」
「へーい」
「へーい」
「いかんぞ、フォルセティ。ヴィータのようなガサツな大人になっては、お前の両親が悲しむぞ」
「そこまで言うかよ。女ならまだしも男なら多少はガサツで良いだろ? セインテスト調査官やクロノ提督は紳士過ぎんだよ。なあ?」
到着した食堂で、はやてとヴィータとシグナムとリインと合流。挨拶を交わすんだけど、シグナムがヴィータの口調を真似るフォルセティを優しく諭す。ヴィータもヴィータで、男らしくなるのが良いって意見。
「はやてちゃんはお母さんとしてどう思います?」
「おおう!? あー、そうやね・・・」
シャマルから意見を訊かれたはやての顔が赤くなる。フォルセティから、ママ、って呼ばれるのはもう慣れてきたみたいで顔を赤くしなくなったけど、誰かにお母さん扱い、特に不意打ち気味にされると、今みたいに顔を赤くしてビクッてなるんだよね。
「えっと、えー・・・ど、ルシ、あー・・・う~ん・・・」
はやてはどもってはわたわたと手振りを繰り返す。言葉の中にマイスターの名前がチョロッと出て来たから、アイリ達の目がマイスターに集中。
「私としては健やかに育っていってくれれば、それだけで良いと思う。口調や性格なんかも、これからの生活で定まって行くだろうし。ガサツでも、淑やかでもいいさ。フォルセティらしさがあれば」
マイスターはそう言って微笑みながらフォルセティの頭を撫でた。くすぐったそうにはにかむフォルセティ。こんな家族団らんって感じが、この3週間続いてる。すでに六課公認の大家族みたい。
「う、ん、そうやね。そう、そうゆう感じや! 元気に居てくれるだけで十分なんよ!」
そんなやり取りをしてると、「おはようございます!」早朝の訓練を終えたフォワード4人がやって来た。フォワード4人とも「おはよう!」挨拶を交わして、朝ご飯を調理カウンターからテーブルへと運んでる最中に・・・
「「おはよう~!」」
なのはとフェイト、それに「おはようございます!」可愛い服を着たヴィヴィオがやって来た。3人にも「おはよう!」挨拶を返して、そのまま朝ご飯を始める。アイリは、マイスターとはやてとフォルセティの4人掛けテーブルに着いて、リインは小さな体だからテーブルの上に直座り。
「今日も暑くなりそうやな~」
「もう8月ですしね。海水浴をしていた頃が懐かしいですぅ~」
「楽しかったよね~。また、家族みんなで海水浴に行きたいよね~」
そう何度も行ってるわけじゃないけど、チーム海鳴で海水浴に行った思い出を振り返る。ふと、フォルセティを見ると、「???」小首を傾げてた。何か判らない単語でもあったのかな?
「隊舎の前に海があるのに、泳げないっつうのも酷な環境だよな~」
「別にオフシフトであれば、泳ぐくらいは問題ないだろう。はやて部隊長とセインテスト調査官は、この件について何か問題があるでしょうか」
「私からは何も言うことはあらへんよ。オフの使い方はみんなに一任してるからな」
「私としても同じ意見だよ、シグナム副隊長。自由に過ごしてくれて構わない」
マイスターがそう答えた後、「かいすいよく、ってなに?」フォルセティが訊いてきた。さっき小首を傾げてた理由はそれだったんだね。後ろのなのはとフェイトとヴィヴィオのテーブルからも、「なーにー?」ヴィヴィオが海水浴について質問してた。
「えっと、海水浴というのは、海に入って泳いだりして楽しむことだよ、ヴィヴィオ」
「なのはちゃんの言う通りやね。水着ってゆう専用の服を着て、海に入って遊ぶんよ」
なのはとはやてからそう教わったフォルセティとヴィヴィオは「へ~」上手く想像が出来ないのか力ない返事をした。そんな2人の様子に、「今年はダメだが、来年は海水浴に行こうか」マイスターがそう言った。
「そうやね~。今年は六課の仕事でてんやわんややから、遊びに行くのは無理やろうし。来年なら休暇を合わせて家族旅行って感じで行けるやろ」
「ホント、パパ、ママ・・・?」
「ああ」「うんっ」
「やった!」
マイスターとはやての間に座るフォルセティが満面の笑顔を浮かべて、両手を挙げて万歳した。フォルセティはもう里親に出すことなく八神家で引き取ることになったから、実質の養子だね。ファミリーネームをどうするかは、マイスターとはやての間で相談中。マイスターとしては、セインテストの名は後世に残すつもりはないとのこと。
「それじゃあ私たちもお邪魔しようか♪」
「はやて、セインテスト調査官。私たちもお邪魔していいかな?」
「もちろんや♪ すずかちゃんやアリサちゃんにも声を掛けて、チーム海鳴で久しぶりの旅行っちゅうことで♪」
「どうせならスバル達も一緒の方が良いですよ!」
フォークで突き刺したミニトマトを口に運びながらリインがそう提案した。キャロとエリオ、それとスバルは「ありがとうございます!」誘いを受けたことにお礼を言うんだけど、ティアナだけは少し考える素振りをした。
「ティアナは嬉しくないですか・・・?」
「泳げねぇとかか?」
「あ、いえ。お誘いは嬉しいですし、泳げもしますけど・・・。来年の今頃は、あたしは何をやってるんだろう、って思って・・・」
ティアナはさすがと言うか、機動六課解散後の進路について考えてたみたいだね。ティアナは小さく首を横に振ってから、「でも、その時はよろしくお願いします」海水浴の誘いを受けた。
「ちょーっと横から失礼します!」
別のテーブルに座ってたシャーリーが輪に入って来た。そして「同窓会という形の旅行というのはどうでしょうか!」そう提案してきた。みんなで「旅行?」小首を傾げる。シャーリーのプランは、休暇が合わないメンバーが出ることを考えて最低でも2泊3日。メンバーが入ったり抜けたりしての代わる代わる作戦。
「まぁ一緒したいメンバーとは日程が合わない、なんてデメリットが生まれる可能性が大ですが・・・」
「そうやね~。そやったら幹事はシャーリーに任せてみよか。でもま、来年の話やし、とりあえず同窓会旅行の計画はゆっくり考えてこ」
「はいっ、幹事の任、承りました♪ いやぁ、今から楽しみです!」
そんなこんなで来年、同窓会旅行する予定が組み上げられた。シャーリーは同じテーブルに座るオペレーターのアルトやルキノと、どこの世界、どこの観光地などなど、早速旅行先を話し合い始めた。ちょっと気が早いよね・・・。
「あ、ヴィヴィオ。またピーマン残してる。ダメだよぉ、ちゃんと食べないと」
シャーリー達が主要世界の有名どころの海水浴場や観光地をモニターで探し始める姿に苦笑してると、なのはがヴィヴィオを叱る声が聞こえてきた。そっちを見ると、「ピーマンにが~い!」ヴィヴィオが顔をしかめた。
「ほら、フォルセティはちゃんとピーマン食べてるよ」
「ヴィヴィオ。ピーマン、おいしいよ?」
フェイトがヴィヴィオの肩を叩いて、フォルセティの方へと振り向かせる。フォルセティはスプーンにすくったピーマンを食べて見せた。ヴィヴィオとフォルセティは同じオムライスを食べてて、ヴィヴィオは供えられてるピーマンに苦労してるけど、フォルセティは軽快に食べてる。
「えらいよ~、フォルセティ。お肉もお野菜もたくさん食べて、パパみたく格好ようなろうな~♪」
「うんっ!」
「ヴィヴィオ~。お野菜ちゃんと食べないと、ママ達のように美人にはなれないよ~」
スバルがそう言うと、「うぅ~・・・」ヴィヴィオは悲しげな表情を浮かべてママ達、なのはとフェイトを見た。そして残ってたピーマンをスプーンにすくって、「あむ・・・!」パクっと一気に頬張った。ヴィヴィオ。食べるのは良いけど、さすがに一気食いはまずいんじゃ・・・。
「むぐむぐ・・・む・・・ぅ・・・あ゛ぁぁぁ~~~・・・」
数回は咀嚼してたけど案の定苦さに耐えきれずに口を半開きにして、フルフルと首を横に振った。フェイトが慌てて「お皿に出して、ヴィヴィオ!」皿を差し出そうとするけど、「待って、フェイトちゃん! ヴィヴィオ、ほらお水で流しこんで」なのはが水と一緒に飲み込むように言った。ヴィヴィオは少し迷ったようだけど、コップを手に取って一気に飲み干した。
「はふぅ」
「うん、えらいよ、ヴィヴィオ。・・・ゴメンね、フェイトちゃん。でも吐かせるよりかはもう飲み込ませた方が良いかな、って」
「あ、うん。そうだね。偉いよ、ヴィヴィオ。よく食べれました♪」
「うんっ!」
そんなこんなで、いつも通りに楽しい朝ご飯タイムを終えた。みんなで食器を片付けて、午前中のお仕事に入る。マイスターとはやてとリインは部隊長室。なのはとヴィータとフォワードは訓練。フェイトは捜査主任っていうことで外回り。ちなみにアリシアは今は聖王医療院でリハビリ中。今月中には完全復帰できるとの事。で、アイリは医務官だから医務室へ・・・なんだけど。
「アイリちゃん。医務室はいいから、フォルセティとヴィヴィオの面倒をザフィーラと一緒に見てあげて」
「ヤー。手が必要なときは・・・」
「ええ。ちゃんと呼ぶわね。それまではフォルセティとヴィヴィオのことお願いね」
3日に1回は医務官じゃなくてチャイルドマインダーのような仕事をしてる。最近はフォアワードも、医務室を使う必要のないレベルの怪我しかしなくなったし、暇と言えば暇なんだよね。整備班も軽い傷しか負って来ないし。シャマル1人で十分対処しきれる。
というわけで、アイリは白衣を脱いで医務室を出てく。向かうのは隊員寮。親代わりのマイスター達が仕事の時、フォルセティとヴィヴィオは、寮母のアイナさんや遊撃戦力のザフィーラと家事の手伝いや遊びとかやって、マイスター達の終業時間まで時間を潰すからね。
「おお、やってるね」
海上に建設された空間シミュレータからドッカンドッカンと爆発音が続く。セカンドモードの練習も終盤だって言うし、次はサードモードだね。さらに派手な戦闘訓練が拝めそう。どんどん強くなって頼もしくなってくのが判るのが楽しいね。
『ザフィーラ。アイリだけど、フォルセティとヴィヴィオって今なにしてる?』
『我々は今、寮の1階にてかくれんぼをしている』
『おお、かくれんぼ。アイリは今日も子守り側だから、参加させてもらっても良い?』
『ああ。今は一回戦ゆえ、二回戦からの参加になるが』
『ヤー。じゃあ終わるまで待ってるね』
ザフィーラとの思念通話を切る。到着した寮のエントランスを潜って、時間を潰すために食堂へと向かうんだけど、ロビーの片隅にある観葉植物に自然と目が行って、「ぅえ!?」ビックリした。
「トリシュ!? 何やって・・・!?」
「しーっ。大きな声を出さないでください、アイリ。ヴィヴィオに見つかってしまいます」
観葉植物の裏に隠れてる(最早もろバレなレベルだけど・・・)ペプラム・トップスと片側にだけスリットのあるロングワンピースっていう私服姿のトリシュタン――トリシュが居た。トリシュは聖王教会騎士団の1つ、金水仙騎士隊ゴルト・アマリュリスの騎士隊長。シャルと同じようにパラディンに昇格することは諦めてないけど、いつまでも平隊員のままじゃ格好つかないってことで隊長に昇級したんだよね。
『まさか、トリシュもかくれんぼしてるの?』
『あ、はい。フォルセティとヴィヴィオの様子を確認しに来たんですけど、フォルセティに誘われてしまってつい・・・』
聖王教会から週1で騎士がやって来て、フォルセティとヴィヴィオの様子を確認することになってる。シャル、ルミナ、トリシュ、クラリスのローテーション制でね。シャルはマイスターへの暴行の所為でフォルセティとヴィヴィオに恐がられてたけど、お菓子づくりでその日の内に2人のハートをキャッチ♪した。
『なるほどね。二回戦はアイリも参加するからよろしくね~』
『判りました。では後ほど』
観葉植物の裏に隠れきれてないトリシュに手を振って、アイリは食堂へ向かった。んで、食堂には「フォルセティ・・・」が隠れてた。テーブルの下に体育座りをしていて、お口にチャックって、ファスナーを閉めるようなジェスチャーをした。
(ああんもう! 可愛すぎるぅ~!)
その可愛さにアイリ、もうメロメロだよ。とりあえずアイリもお口にチャックってジェスチャーをして、フォルセティの隠れてるテーブルから離れたところの椅子に座る。それからのんびりしてると、「フォルセティ~!」を呼ぶ声が聞こえてきた。食堂の入り口を見ると、狼姿のザフィーラ、トリシュを引き連れたヴィヴィオの姿を視認。
「あ、アイリさん」
「やっほー、ヴィヴィオ。ザフィーラとトリシュは見つかっちゃったみたいだね」
「うむ」
「ヴィヴィオは人探しのプロですね。すぐに見つかってしまいました」
「えへへ♪」
トリシュに褒められたヴィヴィオが照れ笑いを浮かべた。最近のヴィヴィオは人見知りすることもなくなって、最初から懐いてたなのはやフェイト、それにフォルセティと同じ顔なマイスター以外の人にも、懐いてくれるようになった。
「ヴィヴィオ。次はアイリも混ぜてくれる?」
「うん、いいよ~♪ フォルセティを見つけた後だけど・・・」
「それで良いよ、ヴィヴィオ」
ヴィヴィオが1人離れて食堂内を歩き回る。その間、「アイリ。本気で隠れるのはダメですよ?」トリシュからそんなことを言われたから、「そんなこと解りきってるよ」苦笑する。トリシュのあの半端な隠れ方を見ればね。
「ヴィヴィオに見つけてもらい易いように隠れるんでしょ? 手心はちゃんと加えるよ」
「フォルセティ、見ぃ~つけた!」
「見つかった~」
ヴィヴィオが身を屈めながらテーブルの下を覗き込んだ直後、フォルセティを発見したね。というわけでロビーに集まって、「ジャンケン、ポン!」二回戦のオニをジャンケンで決める。んで、「アイリがオニ~!」ということに。
「60秒数えてね、アイリおねえちゃん」
「あと異性が入れないような・・・トイレ、更衣室に隠れるのもダメですので、そこを注意して捜してください」
「お風呂は?」
「この時間帯は誰も使ってないようですから、オーケーです。あとキッチンは危ないのでダメですから」
フォルセティとトリシュから聞かされたルールに「は~い」応じて、外へと体を向けて目を瞑り、「い~ち、にぃ~」数え始める。フォルセティとヴィヴィオが「かくれろ~♪」可愛い足音を立てて去ってった。トリシュは普通に、でもザフィーラは・・・
(完全に気配を消してる・・・!?)
足音1つ立てないで去ってった。本気過ぎる。とにかく60秒数え終えて、「アイリ、いっきま~す!」ザフィーラとトリシュをターゲットに絞って捜す。トイレと更衣室はアウトだって言うし。じゃあお風呂から捜してこうか。まずは女子風呂。この時間は誰も使えないから、脱衣所でバッタリハプニングは起きない。
「お邪魔しまーす」
脱衣所に入って棚の周りもしっかり見て、誰も隠れてないことを確認。次は浴場に入るんだけど、「おっと」浴場をデッキブラシで掃除中の、アイナさんとは別の寮母さんが居た。その後ろ姿に「あ、ごめんなさい」一言謝って、脱衣所へと戻った。
「・・・って、んん~?」
なんか違和感を感じたから、そろ~っと浴場と脱衣所を隔てるスライドドアを開ける。寮母さんはデッキブラシでゴシゴシと床を磨いてる。でもずっと待っても一向にこっちに顔を向けようとしないんだよね。だから・・・
「寮母さ~ん」
声を掛けてみる。すると寮母さんは小さく頷くだけで、仕事を中断しないし、こっちに振り返ろうともしない。髪の毛は三角巾で隠れてるから判らないけど、やっぱりどう考えても「トリシュ、見ぃ~つけたっ♪」だろうね。
「見つかってしまいました~」
トリシュが三角巾を取りながら振り向いて、「結構自信あったんですけど・・・」早々に見つかったことにガックリ肩を落とした。というかね、「本気過ぎない?」用具ロッカーにデッキブラシをしまって、脱いだエプロンや三角巾を綺麗に畳んで棚の上に置くトリシュにそう言う。
「相手がアイリですし。手加減は無用かと」
「そっか。で、無断で借りたの?」
「いいえ! 寮母さんのお1人にちゃんにお願いしてお借りしました!」
「そんなムキにならなくても・・・」
かくれんぼの為だけにそこまでやるトリシュの真面目さにちょこっと感動、んで少し呆れる。とにかくトリシュは発見したから、次はザフィーラだね。隣の男性風呂へ突貫。
「トリシュ・・・?」
「さ、さすがに男性の脱衣所に入るのは・・・」
顔を真っ赤にしてもじもじしてるトリシュに「じゃ、そこで待っててね」そう言って、アイリだけで脱衣所に入る。まず棚の周囲をぐるっと見て回って、誰も隠れてないことを確認。次は浴場。スライドドアを開ける。浴場をぐるりと見て「異常な~し」ということでドアを閉めて、脱衣所からも出る。
「トリシュ、次」
「あ、はい」
次は風呂場に隣接するランドリーに突撃。男女と別れていて、とりあえず男性用のランドリーに入る。ドラム型の洗濯機と乾燥機が10台ずつの計20台。幾つか稼働中のもあるね。あと、誰か知んないけど、ランドリーの片隅にある洗濯物干しにトランクスを干してくれちゃってる。だから・・・
「~~~~っ!?」
トリシュがまた顔を真っ赤にして、両手で目を隠した。アイリはマイスターの下着を干すこともしてるから、男の人の下着くらいは別に気になんないんだけどね。
「居ないなぁ~」
「アイリ、早く出ましょう!」
「廊下で待ってればいいのに・・・」
とりあえずランドリー内を見て回る。どこも異常無しか~、と思った直後、「うひゃあ!?」マジでビビった。何せ洗濯機の中に子犬フォームのザフィーラが居たんだから。アイリは洗濯機の蓋を開けて、「何やってるの!?」声を荒げる。ザフィーラは床へと降り立って、子犬フォームから本来の狼フォームに戻った。
「む。すまぬ、よもや内側から開けられんとは・・・」
そう言ってうなだれるザフィーラに、「洗濯機は基本そういう仕様ですから。ザフィーラ様、お気を付けてくださいね」トリシュが注意した。
「入ることはもう二度とあるまいが、その忠告はありがたく頂こう」
「とにかく! ザフィーラ、見ぃ~つけた!」
トリシュに続いてザフィーラまで労することなく発見できたのはラッキーだったね。もう一度乾燥機や洗濯機の中を確認して、フォルセティとヴィヴィオが居ないのを確認。ランドリーを出て、次は女子用ランドリー。そっちにも2人が居ないのを確認。ロビーに戻って来る。まずは中央階段の裏にある物置小屋を確認。居ない。さらに食堂など1階にある施設を見て回ったんだけど・・・
「居ないね~」
全然見つけられなかった。さすがにこれは予想外。だから「まさか、さっきのザフィーラみたく、何かあったんじゃ・・・?」なんて不安が募ってく中・・・
「待て。フォルセティは問題ない。我が手伝ったのだ。アイリ、お前はただ捜し切れていないだけだ」
「そういうことです。ヴィヴィオは私が手伝いましたし」
ザフィーラとトリシュからそんなダメ出しが。アイリの捜し方が悪いって言うなら、徹底的に捜してあげるよ。
「フェーフォルム!」
本来の姿に戻って、これまで捜して来た場所を再捜索。ザフィーラとトリシュは、フォルセティとヴィヴィオが隠れるのを手伝った、って言った。つまり独力で隠れられない場所に居る。
「最初はランドリー!」
ザフィーラが隠れてた男性用ランドリーへ。洗剤やら洗濯に必要な物がしまわれた扉付きの棚をロックオン。壁に設けられた棚は天井付近にあって、そこは大人が手を伸ばしてようやく届くところ。そこまで飛んで、ガチャッと扉を開ける。
「あ・・・!」
「フォルセティ、見ぃ~っけ!」
棚の中に隠れてたフォルセティを発見。人型フォルムに変身したザフィーラに降ろしてもらったフォルセティは「あれ~。絶対に見つからないと思ったんだけど・・・」悔しそうに呻いた。そうだね、ヒントが無かったらたぶん見つけられなかったね。
「アイリお姉ちゃんに不可能はないのだ♪」
「おお!」
小さい体のままでフォルセティの頭の上に乗っかって、頭をよしよしって撫でる。さて、次はヴィヴィオになるわけだけど。トリシュが居たのは女子風呂。その辺りに隠れてる可能性がある。
「次は女子風呂! フォルセティ、Go !」
「うんっ!」
フォルセティの頭の上に座ったまま女子風呂に突撃。脱衣所でフォルセティの頭から飛び立って、スライドドアを開けて浴場内を見下ろすために天井まで上がる。そして・・・
「ヴィヴィオ、見ぃ~つけた!」
浴場の隅に山状に積み重ねられた桶の奥に、ヴィヴィオが体育座りで隠れてるのを発見した。
「あぅ~、見つかっちゃった」
「アイリの完全勝利ぃ~♪」
こうして二回戦は終了。かくれんぼはそれから五回戦まで続いて、その後のお昼ご飯までは六課敷地内を散歩をした。こんな何気ない日常が、これからもずっと続けばいいな~、なんて思うね。だから、フォルセティとヴィヴィオを狙うプライソン一派は必ず捕まえて見せるよ。
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