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ラブライブ!~夕陽に咲く花~

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第12話 誰の為に僕は動く?

 
前書き
今回短め 

 





.....µ’s、ファーストライブ2日前。



音ノ木坂にもスクールアイドルなるものが誕生し、学校のどこにいてもその話題で持ちきりだ。誰が始めたのか、いつライブが催されるのか、どこでやるのか。
それが本当に興味あっての話なのか、或いは単に流行りに合わせてノッただけの話なのかはさておいて。先輩の努力が多少効果が出始めている。
いい傾向だと思う、うん。強いていうならそのままライブに足を運んで欲しいという願いもあるけれど、そこまでトントン拍子に事が運ばないことを僕は知っているからあくまで願いまでに留めておく。


ストロー。
僕はコップに差したそれを取って、くるくると手で遊びながら何も考えずにひたすら暇を持て余す。
何事も無く、ただ時間が流れるだけ。携帯ゲームでもしようとRPGアプリを開くも、飽きっぽい僕はすぐに閉じてはまたストローで遊んでいる。


「あ、いたいた」


背後から聞き慣れた女の子の声がして、僕はストローから目を離して振り向く。


「やっほー春くん!」
「待ってたよ凛ちゃん、花陽ちゃん......それに」



僕は手を振る凛、花陽......そして花陽の背後にいる紫髪の女性に目を向けてから、『どういう状況?』の意味を込めた眼差しを花陽に送る。


「あ〜。うん、えっとね──」
「それはウチが話すわ」




───東條希という音ノ木坂の副会長


そんな人がどうして僕らの待ち合わせにやって来たのか僕はまだ知らないんです。






───第12話 誰の為に僕は動く? ───





......何故副会長がここに?

当然のように僕は疑問に思った。だって、副会長と出会ったのはほんの数週間前だし、しかも出会いはあの神社で1度きり。そこそこの会話はあったけど僕らの待ち合わせに現われる程ではない、と思う。
追い返すつもりは全く無いけど、やはり首をかしげてしまう。



「お久しぶりやんなぁ、高橋君」
「お、お久しぶりです東條先輩」
「ふふ、えりちと同じようにウチのこともそう堅苦しく呼ばなくてもええんよ?」
「え?は、はぁ......」


前に会った時のようにフレンドリーに話し、同じように関西弁を披露してニコニコ笑顔を絶やすことなく話す。対して僕は気のない返事しか出来なかった。


「ごめんね春人くん。急に......」
「大丈夫だよ花陽ちゃん。ちょっとビックリしたけどね。東條先輩が来るとは予想できなかったから」
「む?それは失礼とちゃうん?」
「え、あ、いや。そんなつもりは...」


冗談か本気かわからない、だけど東條先輩はぷくりと頬を膨らませて僕を見ているので申し訳なくなる。


「ど、どうぞ先輩。こっちに座ってください」
「お?ええの?ありがとなー」
「ところで、今日は一体どうしたんですか?なんていうか....ここに来る理由が見当たらないんですけど」



 僕がそう訊ねたとき丁度ウェイトレスさんがおしぼりとお冷、それからメニューを持ってきた。
東條先輩は上着のブレザーを脱いでカーディガン姿になると、



「そうやねぇ...今日は少し暑いから。それじゃあ”レーコー”にしようかな」
「え!?れ、れーこー...ですか?」
「そ、レーコー」



 東條先輩の口から聞き慣れない単語が飛び出してきた。果たして"レーコー"というものは何なのか。
僕が質問しようとしたところで東條先輩はすぐに教えてくれた。

「流石にこっちやと通じないか〜。"アイスコーヒー"って言うんよ」
「は、はぁ。かしこまりました。そちらのお客様は?」

なるほど......アイスコーヒーって意味なのか。どこの地域で使われる言葉かは定かではないけど、先輩の喋り方を知る限り関西とかの方言なのかもしれない。

ウェイトレスに話を振られ、花陽は凛と相談して『メロンソーダ』と『オレンジジュース』を注文した後、ウェイトレスはとてとてと厨房の奥へ消えていった。
ちなみに付け加えておくと、メロンソーダは花陽の好きな飲み物だ。僕も好き。


「あのな。"レーコー"って言葉は実はもう殆どの若者は知らないんよ」
「え?そうなんですか?」
「そうなんよ。何処に行っても"レーコー"って言葉が通じなくて、きっといつかはわかる人現れると思うていつも敢えて"レーコー"って言うんよ。ちなみに、関西の方言やで」



じゃあなんで東條先輩はその言葉を知ってるのかな?
花陽と凛も特に追求すること無く、メニューを眺めて「これおいしそうだね」、「ホントだ。これ春くんに奢ってもらおうかにゃ」などと小声で話してる。
聞こえてるし、奢ったりしないからね?僕は君達の財布......じゃないと信じたい、から。


「奢らないよ?」
「聞こえてるにゃ!」


寧ろ、聞こえてないと思っていた事に驚きだよ。
カランと、氷がコップの中で動く音がする。





「そんじゃ、そろそろ本題を話すね」
「...お願いします」



ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。
僕達の間に緊張感が漂っているのは気のせいだと思いたい。
先輩が、口を開くのを待つ。




「───音ノ木坂学院スクールアイドル"µ’s"について」



その時、花陽の目が光ったような気がした。ううん、間違いなく光った。




「ウチの学院で最近出来て、3日後に講堂でファーストライブが行われるんよ」
「は、はぁ」
「どうしたん?その気の乗らない返事は。あの子達の"手伝いをしている"からもっといい反応来るかと思ったんよ?」


ガタタタンッ!!と椅子を引きずる音を立てて立ち上がったのは目の前に座る凛と花陽。


実を言うと、僕がµ’sのお手伝いをしているなんて事は花陽と凛。特に花陽には時が来るまで話さないって決めていたのだ。
何故なら...


「な、なんで春くんが!?もしかしてまた誑かしたのかにゃ!?それはりん、許さないよ!?」
「説明してください春人くん!音ノ木坂学院に新たに出来たスクールアイドル"µ’s"は創立者の高坂穂乃果さん、弓道部のエース園田海未さん、そして家庭科教師イチオシの才能を持つ南ことりさんの3人で結成されたアイドルグループで今度行われるファーストライブに絶対行きたいんですねぇ春人くん聞いてますかねぇー!」



こうなることをわかっていたからだ。

日常。
僕は苦笑いして軽く流すという偉業を成そうとしたけど、テーブルを大きく叩いて接近してきた花陽から視線を外すなんてできるわけなかった。
キラキラ輝いた瞳の中に少し汗をかいた僕がいる。


「モテモテやんなぁ」
「モテモテとは違いますよ。」
「そう?」
「そうです、てか花陽ちゃん落ち着いて。近い近い」
「だって春人くんが私の話聞いてないから!」




 微笑ましいといった様子で僕らのやり取りを見ている東條先輩はウェイトレスが持ってきたアイスコーヒーに口を付けて、「あ、これおいしい」と呟いている。


「待って、落ち着いてよ二人とも。た、確かに僕は先輩方のお手伝いしてるけど、それはお願いされたからなんだ!」
「ふ~ん」
「ふ~ん」
「ほ、ほんとだよ?別に深い意味は無いからね?」


 やっぱり何も変わらない
僕が他の女の子と何かしらの関わりを持つと二人の機嫌が悪くなるこの現象。
この前の出来事で少しは変わったかと思っていたけど、やっぱり女の子の心境というものは僕にはわからない。
 ゆっくり誤解を解こうと、一連の流れについて話そうとしたところで、


「っぷふ!」
「ふふっ!春人くん冗談だよぉ!」
「え?じょう...だん?」
「そうだよ!ちょっと春くんをからかってみただけだにゃ!だって春くんはいつも女の子と一緒に居るし...少しくらいは嫉妬しちゃうに決まってるにゃ...りんとかよちんの方が春くんとのお付き合いは長いわけだし」




 最後の方は声が小さくて部分部分しか聞き取れなかったけど、敢えて僕は追求しなかった。
花陽は呟いているわけではないけど、かなり嫉妬しているようだ。表情には出ていない。でも瞳が。花陽の透き通った瞳がそう告げている。


———だから僕は二人には話してはダメなんだと。


 


「ごめんね二人とも。別に浮ついた意味を持ってあの人たちのお手伝いをしているつもりはないんだよ」
「じゃあ高橋君はなんのためにあの子たちと行動してるん?」
「花陽ちゃんと...凛ちゃんの為です」





僕は、即答した。



「僕は、2人の通う音ノ木坂を何とかして救いたいです。でも......僕に何が出来るかわからなくて。そんな時に高坂さんがスクールアイドルを始めるって聞いて、僕にも何かできるんじゃないか。そう思って今、あの方たちと行動しています。」





そう、全ては僕の幼馴染みの為に。
僕の行動理由のすべてに当てはまると言っても過言ではない。幼馴染みの為に、笑顔にさせる為に僕はこうしてここにいるのだから。


「ふ〜ん、そうなんや。......優しい子なんやね」
「そんなことはありませんよ。2人の事が大切なだけ、それだけなんです」


なんだか言ってて恥ずかしくなってくるのを感じる。
でも、嘘偽りを言ってるつもりは無いし僕もこうして言葉にすることでしっかりと何のために僕が動いているのか再確認できた。



「えりちはね、穂乃果ちゃん達の行動を認めてないんよ」
「え?」


 突然、東條先輩は話し始めた。
えりち......あの、金髪の生徒会長さんのことだと頭で認識したのは名前を聞いてから数秒後のことだった。


「前にね、穂乃果ちゃん達がスクールアイドル部を設立しようとして生徒会室にやって来た時にえりちと口論になったんよ」
「それは...どうしてですか?」
「『部活は生徒を集めるためにやるものじゃない。思い付きで行動をしたところで状況は変えられないわ』ってな感じで言われたんよ」
「そんな...あの方がそんなことを言うなんて」
「えりち、生徒会でも何か行動したいって理事長にかけもってみたんやけど、断られちゃってねぁ。それで不機嫌だってこともあるかもなぁ」



 絢瀬先輩とは一度しか会ったことはないけれど、とても美しく、聡明な方だ。
廃校という大きな問題が絢瀬先輩を焦燥させているのかもしれないと、僕は思った。


「確かに最近の生徒会長さんはピリピリした雰囲気だよね?凛ちゃん」
「うん...ちょっと怖いにゃ」
「思い悩みすぎ、かなぁ」


 廃校っていう問題は大人の問題でもある。
本来なら生徒会長も...高坂先輩方も、当然在学生でも無い僕も。
どうにかできるような案件ではないのはこの僕ですらわかってるんだ。あの絢瀬先輩がわからないなんてことはないと思う。


「えりちは人一倍も音ノ木坂を守りたい意思が強いんよ。えりちの祖母の母校で失いたくないっていう気持ちが、えりちを焦らせているんよ」






 東條先輩は、一体何を伝えたいのだろうか。
いきなり話題を変えて、僕に何に気づいてほいしいのか。
というか、何故この場でその話を持ち出したのだろうか。





この時の僕は、まだ気づかない。







~☆~






 あれからしばらく雑談した後、東條先輩は高校に戻って生徒会の仕事をするといって僕たちと別れた。
時は17時を10分ほど過ぎたころ。
 僕たち三人の間で重苦しい空気が流れている。
いつもならワイワイと会話が弾んで至福の帰り道なんてあっという間に過ぎ去るのに、今は嫌というほどどろどろと時間が過ぎていく。




「ねぇ春人くん」
「なに?どうかしたの?」
「...ううん、やっぱり何でもないよ」
「??」



 花陽は何か言いかけて、途中で言いとどまる。
多分何を考えてるのかわかる。凛もその話に耳を傾けている様子だ。
僕はストレートに聞き返す。誤魔化したら多分話してくれないから。




「花陽ちゃん.....μ`sに入りたいんじゃない?(・・・・・・・・・・・・)違う?」
「ふぇ!?ち、違うよ!私はそんなことを考えていないよ?」
「嘘にゃ。かよちんまた指を合わせてるよ」




 はっと気づいた時にはすでに遅かった。
花陽が嘘をつく時はこうして人差し指と人差し指を合わせる癖を持ってる。だから嘘だと僕らにバレバレなのだ。



「やっぱり入りたいって思ってるんだね」
「そ、そんなことは...」
「かよちん?本当はやってみたいんじゃないの?」
「......うん、興味はあるよ。でも私なんかがやってもついていけないから」




 花陽は歩を止める。
そして僕には見えた。”変わり切れない花陽の姿”が。
スカートの裾をがっちり握りしめて言葉を紡ぎ出す。


「ほら、私は小さくて取り柄なんてなくて恥ずかしがり屋の人見知り。そんな私がスクールアイドルになってステージに立って沢山の観客の前で踊るなんて...私にはできないし想像もできないよ」
「僕はそんなこと思ってない。花陽ちゃんがなれる、できると思ったらできるよ」
「そうかな...私にはそう思えない、かな」
「かよちん......」



 昔からのコンプレックス。
僕は...未だに彼女の為に何もできていない。






「本当はね、やってみたいって思ってる。あのキラキラしてて可愛い笑顔を振りまいて沢山の人を幸せにさせてくれる。そんな彼女たちがかっこよくて、私とは正反対の手に届かない存在だから。そんな人たちと一緒にやってみたいなって」




 自分とは正反対の存在と、花陽は話す。
そんなことは無い。花陽だって絶対彼女たちと同じように輝くことができるはずだ。
 園田先輩...あの方もどちらかというと花陽のように人前に立つことが苦手としている先輩で、だけどその苦手なところよりも支えてくれる仲間がいるから頑張ろうとしているのが僕には伝わる。



 つまり、花陽にも支えてくれる仲間が必要なんじゃないのかな?
その子は...


「ん?なにかにゃ?」


 僕はちらりと視線を凛に移し、その視線が凛と合う。
「いや、なんでもないよ」と、話を切ってからもう一度考える。
...いいや、凛はきっと快諾してくれないだろう。
 



「まぁ...僕は無理強いしない。本音は、花陽ちゃんにも、凛ちゃんにもスクールアイドルをやって欲しいな。単に二人フリフリの衣装着て踊ってる姿を見てみたいっていう僕の我がままなんだけどね」
「え?えい、りんも?」
「うん。凛ちゃんも」
「りんは......」



 その先の言葉を発することは無かった。
知ってる。だから僕はすぐに話題を切り替える。



「まぁ...明後日は先輩の初めてのライブ。僕は音ノ木坂の生徒じゃないから見に行くことはできないけども心で応援しているから。二人は...見に行ってみたら?きっと楽しめるよ」
「え?春人くんは来てくれないの?」
「無理だよ...女子高に僕が入るなんて警備員や先生方に見つかったら怒られるですまないような気がするんだ」
「春くん犯罪者になるのかにゃ?なったらりん、幻滅するにゃ」
「そ、それは...とにかく、行かなきゃいいんだよ。うん」







 気が付けば、いつもの交差点。
僕と花陽、凛が分かれる交差点で立ち止まってお互いに顔を見合わせる。



「でも、春人くん」
「え?」
「私、副会長さんからこういうものを預かっているんだけど」
「...これは?」


 花陽から渡されたものは黄色の腕章。
なんとなく風紀委員が腕につけていようなシーンを思い浮かべてしまった。
でも、どうしてこんなものを花陽は受け取ったんだろうか...?






「入校許可証だって...」
「......へ?」










思わず僕は、素っ頓狂な声を上げてしまった。


























 
 

 
後書き
ファーストライブは次の次 
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