Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
それは水面に小石を放るが如く
前書き
久しぶりの内容がこんなんでいいのか・・・いや、良くない(反語
「氷符『アイシクルフォール』!!」
高らかな宣言と共に展開される、氷柱の牢獄。
数日前に受けた助言により生まれ変わった弾幕が敵を圧倒していく。
それもその筈。今少女が敵対している相手は知人であり、互いに弾幕ごっこと称して幾度とこのようなやり取りを繰り返してきてきた。
つまり、手の内も互いに知り尽くしており、本来の用途である決闘としての意図はない、まさにお遊びをしていたに過ぎない。
当然知人である以上、チルノの性格や性質も理解している。
彼女がここまで高度な弾幕を創作するなんて、まかり間違っても有り得ないと認識しており、故に予想外の結果が、混乱に拍車を掛ける決定打となる。
そして、その一瞬の油断。それがこのお遊びの終わりを告げる狼煙となったことは言うまでもないだろう。
「あいてて………チルノ、どうしたのさアレ。まるで逃げ道がわからなかったよ」
地上で埃を払う動作と共に立ち上がる少女―――蛍の妖怪リグル・ナイトバグが、詰め寄らんばかりの勢いでチルノへと迫る。
そして、遠巻きで二人の情事を眺めていた者達も集う。
「す、凄いよチルノちゃん!」
理屈抜きに素直に功績を賞賛しているのが、大妖精―――友人達の間では大ちゃんと呼ばれている少女。
「リグル平気なのかー?」
張り付いた笑顔でリグルの心配をする少女、妖怪ルーミア。
「明日は雨ならぬ氷柱が降る日かな~」
などと少しズレた思考をしているのが、夜雀の妖怪ミスティア・ローレライ。
彼女達は妖精と妖怪の垣根を越え、友人関係を築いている。
共通して幼い容姿をしていることもあってか、友人になるのに時間は要さなかった。
しかし両者共に自由な傾向にあることから、今のように一貫しない流れになることもしばしば。
それも端から見れば微笑ましいものではあるのだが。
「アレって、アタイのアイシクルフォール?」
「それ以外に何があるってのさ………」
溜息混じりにリグルが答える。
自分の成したことがとんでもない事だと、本人はそれに微塵も気付いた様子はない。
それに気付いていないからこそのチルノだと言えるのだが。
「アレはね、エミヤシロウって奴に教えてもらったんだ」
「エミヤシロウ?聞かない名前だね。どんな外見だった?」
チルノの漠然とした説明によれば、背の高い男性で白髪で赤いレザージャケットのようなものを着ていたらしい。
服装に関しては変わる可能性があるから当てにはならないが、白髪で男性という点は記号としては
十分。
リグルは何故その男がチルノに技術を教えるようなことをしたのかを考える。
理由あってのことか、ただの気まぐれか。
どちらにせよ、彼女が強くなったことは決して悪いことではない。
だが、強くなると言うことは、あらゆる点で重きを置かれる可能性があるということ。
しかし、妖精であるチルノは強くなることで肯定的には捉えられない。
むしろ厄介な相手として扱われ、面倒なことに巻き込まれかねなくなってしまう。
妖精という奔放な性質を持つ以上、大人しくしていろという願いはまず聞き届けられない。
エミヤシロウの善意による結果かもしれないが、リグルにとっては友達を危機に晒しかねない要素を刷り込まれたようにしか思えなかった。
「そーなのかー」
だが、周りはそうとは考えていない様子。
ならばせめて自分だけでも、エミヤシロウに警戒をしないと。
この警戒が徒労に終わればそれでよし。そうでなければ―――
拳を握りしめ、まだ見ぬ青年の姿に敵意を向けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜―――それは、妖怪が最も活動的になる時間帯。
それがより顕著になる種族、それは吸血鬼。
夜の眷属とも比喩され、血液を啜り同族を量産していく。
妖怪の中でも繁栄力は随一とされ、その上戦闘能力にも優れている。
そんな驚異的な存在は、今宵も根城で月を見上げながら、従者の淹れた紅茶に舌鼓を打つ。
「―――咲夜。最近、とある妖精が実力をつけたという噂を聞いたのだけれど」
口に出したのは、幼い外見ながらも齢五百を超えるこの館―――紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
少女の傍らに仕えるは、メイド長―――十六夜咲夜。
レミリアの右腕であり、人間でありながら吸血鬼にあらゆる価値を認められた希有な存在。
「噂、ですか?」
「ええ。確か氷精だったかしら。頭の弱そうな奴だったと記憶しているけれど、それが急激に力をつけた。それはとてもおかしなことよ」
「確かに、不自然ではありますね」
「能力を使いこなしているという話は聞かないし、そうなるとスペルカードの中身を弄るしかない。あれは一定のアルゴリズムを符に封じ込めることで、発動するだけで望んだ弾幕を再現することができるが、アドリブの利かないという欠点も持ち合わせている。スペルカード宣言をしていない、ただの弾幕から発展したという可能性も本来ならあるのだけれど、その氷精自らが、とある人物の意見を参考にしたと証言しているらしいし、むしろその方が信憑性があるでしょうね」
妖精は物事を筋道を立てて考える力がない。
基本的に感情論がすべてで、その有り様はまさに子供そのもの。
そんな子供が、古今東西のあらゆる実力者が集う幻想郷で〝実力をつけてきた〟と認識されるには、余程のテコ入れと第三者の干渉があったと考えるのが現実的なのだ。
あくまで噂の域を出ない為確信するには至らないが、今回の場合、証言として干渉があったという事実がきちんと存在している為、ほぼそうだと考えてもいいだろう。
「それで、お嬢様はいったい何をおっしゃりたいのですか?」
「その氷精に教えを説いた奴に、興味があるのよ。私達からすれば時間の無駄の一言で片付けられる行動を起こした人物に、ね」
再び紅茶を口にするレミリア。
見計らったように咲夜が紅茶を注ぐ。
流れるような作業は、それらすべてが一帯となっているかのように感じられる。
それ程繰り返された工程であり、当たり前の光景なのだ。
「その程度のことに興味がごありで?」
「幻想郷はそれだけ娯楽に乏しいということよ。貴方には仕事があるからわからないでしょうけれどね」
「その仕事を与えているのは誰でしたっけ?」
「―――ま、まぁそれはいいのよ。とにかく私は興味があるの。だからどうにかして探して来てほしいんだけど、誰に頼もうかしら」
「ぼかしているつもりでしょうが、仮に美鈴を偵察に出したところで門番代役は私が務めるのであしからず」
「うー………」
あくまで澄まし顔で事実のみを告げる咲夜に、威厳に満ちていたレミリアは過去の存在となる。
このやり取りも、紅魔館にとっては日常に過ぎなかったりする。
「―――はぁ、でも美鈴は普段からアレだし、あの場に置いておくよりは働いてくれるでしょう」
「そ、そうよね!当然だわ!」
そんな会話と共に、夜は明けていく。
今日も紅魔館は平和である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私の耳に、とある噂が入る。
氷精が急激に弾幕勝負で力をつけた、という記事にし甲斐のありそうな内容である。
そして、同時に気になる噂も耳に入った。
赤い服装と白髪の男性が、氷精強化に一役買っているというものである。
単純にそれだけでも記事の対象になるが、私の興味は共示義によってより色濃くなっていた。
赤い服装の男性―――それは、つい先日探偵紛いの推測で出した情報と合致したものであった。
幻想郷では、力を持つのは基本的に女性という、半ば常識に近い勢力図ができあがっていた。
事実、私も能力を持つ男性は未だ数人しか知らない。
その一部は能力持ちというだけで、弾幕勝負は私よりも劣るのが基本。
だからといって女尊男卑といわけでもなく、至ってまともな関係を維持しているので問題はない。
そういうことではなく、そんなマイノリティを貫いていた男性の一人が、妖精の強化に携わっていたというのは、とても珍しいことなのである。
それも含め、先日推測した探し人の特徴と符号したということもあり、最早見て見ぬふりなんて不可能な域に達していた。
恐らく、パチュリーさんにも噂は行き届いている筈。
何かしらのアクションを起こす性格とは思えませんが、いざというときは再び頼ることにしましょう。
「兎にも角にも、行動あるのみですね」
私の予想を超えて、その男は面白さを演出してくれる。
ただの好奇心で始まった小さな騒動が、少しずつ波紋を拡げている。
記者としての勘は、この波紋はまだまだ拡がっていくと告げている。
自然と口の端が釣り上がる。
まだ見ぬ世界に思いを馳せ、漆黒の翼をはためかせ、空を駆けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「―――なんて噂が最近拡がってるんだけど、知らない?」
ニヤニヤと青年に話しかけるのは、洩矢諏訪子。
対して、目を伏せ黙して語らずを貫くのは、エミヤシロウ。
わかっている癖にさもわかっていない風な態度―――どう見てもそうには見えないが―――でシロウに接するも、本人は無視を決め込むばかり。
当然と言えば当然である。
明らかにからかいのネタにしようとしている相手に、何故餌を与えなければならないのか。
単純な好奇心なら話すのも吝かではなかったかもしれない。
「だんまりか~、まぁいいや。だけど大変だよねー、まだ完全じゃないとはいえ、その男は幻想郷で今や話題の中心となりつつある。良くも悪くも、これからの身の振り方は考えた方がいいんじゃないかなって思うわけよ」
「………そうか」
気のない返事をしつつも、思考は良く回転していた。
ちょっとしたおせっかいがこのような展開になるなんて、彼からすれば予想外のようでそうでもないという状況だった。
生前、彼が行ってきた救助活動が切っ掛けで噂が拡がり、封印指定の魔術師を狙う魔術師に足がつくなんて日常茶飯事。
半ば自業自得の部分もあるが、善意自体に嘘偽りはなかった。
しかしその中途半端な善意が悪意を呼び覚ましてしまい、這々の体で逃げ出すこともあった。
今回もそうだ。
お人好しな行動が騒動を巻き起こした。
幸いなのは、今のところそれが悪意に発展する可能性が薄いという点。
しかし絶対とは言い切れない、と判断に困る程度の差が動きを鈍らせる。
「ま、どんな行動理念を持っているかは知らないけど、これを切っ掛けにやめるようならその程度のものだったって自覚もできるし、その青年にとってはいい転機になるかもね」
何気ない会話だが、エミヤシロウを対象にしていることを前提にしているのがわかっていると、これ以上とない皮肉に聞こえてくる。
お前の信念は所詮その程度なのか、そう間接的に言われているのは言わずもがな。
同時に彼に対しての牽制も行っている。
守矢神社に住むようになってだいぶ経つが、未だに神二人とのわだかまりがなくなってはいない。
神奈子は態度に表すことはないが、警戒していない訳ではない。
現に今も、神力によって本殿から二人の会話に聞き耳を立てており、それに気付いているのは諏訪子だけ。
対して諏訪子はあからさま過ぎる態度で、エミヤシロウから情報を引き出そうとしている。
しかし、逆にあからさま過ぎて彼女の真意がまるで掴めないでいる。
単純な警戒目的で懐入りさせるにしても、ここは幻想郷。
放っておいたところで害が及ばなければ問題ない、というスタンスの住民達に倣って、諏訪子達も本来なら深く関わり合いを持たない筈だった。
しかし、何故か彼女達はエミヤシロウを住まわせるという選択肢を取った。
単純な善意から来るものであれば、何も問題は発生しなかった。
だが、そこにあからさまな警戒が入れば話が変わってくる。
警戒するのはいい。だが、何故そこまでして彼を引き入れたのか?という疑問が沸いてくる。
下手をすれば爆弾と成り得る存在を、危険を冒してまで手元に置こうとする理由がまるでわからない。
故に、諏訪子の発言が何を意図してのものなのかも不明。
だが、何もしない、という選択肢は彼の中には存在しない。
元よりその程度の警告で止まるようならば、彼は英雄と呼ばれることはなかっただろう。
子供のような頑固さが幸い―――災い―――して、今に至っているようなものだ。今更この程度で揺るぐ訳もない。
楽観視はせず、むしろ情報を諏訪子から引き出す気持ちで臨む。
「随分とご執心だな。幻想郷ならば―――いや、感情を持つ存在ならばどんな行動を取っても不思議ではない。いちいち話題に出すようなことでもなかろう」
「言いたいことはわかるけど、前例がなかったからこそ注目されるってことも忘れないように。それに幻想郷に住む妖精は死という概念が存在せず、尚かつ知性が人間に劣ることもあって、それこそ羽虫と同等にしか見られていないんだよ。それこそ、人によっては蜂に芸を仕込んでいるようにしか見えないかもしれないぐらい程度には、ね」
諏訪子の意見を前に、シロウは黙り込む。
反論できないからではなく、諏訪子の語った妖精の定義について思考していたからである。
今までに出会った妖精達の姿を思い浮かべる。
幾ら頭を捻っても、どこからどう見ても人間の子供にしか見えない相手を羽虫としか見ていない、という事実を容認することはできなかった。
勿論諏訪子がシロウを嵌めようとしている可能性もあるが、そんなことをする理由も意図も不明とあれば、いちいち気にしていてはキリがないと判断するのも不思議ではない。
ここで一番重要な事実。それは――――――
「………例え誰がどう思っていようとも、ソイツにとって妖精は人間とは何ら変わらない存在だということだろう。幻想郷に住んでいるからといって、そこの常識を押しつけるのはどうかと思うが」
エミヤシロウにとって、妖精は人間と変わらない。
羽が生えていて危ない力を持っていたとしても、彼にとっては子供でしかない。
人間の子供だって、目を離せばハサミやペンを凶器にしてしまうこともある。
何も人間じゃないから危険、なんて認識はそれこそ傲慢が過ぎる。
導く者さえいれば、誰だって善にも悪にも成り得る。所詮その程度の差でしかない。
根本的にどちらかの性質に傾いている、なんて奴は稀だ。いちいち勘定に入れていてはキリがない。
「―――そっか」
先程までの悪戯ッ子のような表情から一変、どこか子供を見守る母親の表情へと変わる。
そのあまりの変化に一瞬戸惑うも、表情には出さない。
だが、シロウにとって諏訪子の反応は、余計に彼女達の目的をぼかす要因となってしまい、混乱する一方であった。
「取り敢えずこの話はもうおしまいにしよっか。早苗ー、ちょっといいかなー」
強引な話の切り上げと共に、諏訪子はどこかへ去っていく。
一人茶の間に取り残されたシロウは、物思いに耽る。
諏訪子の言うとおりこれを切っ掛けに注目されるようになれば、良いこともあれば悪いことも起こってくる。
都合良く良い結果ばかりが手に入るなんて思ってはいない。
本格的にこれからの身の振り方を考えなければ、早苗達に迷惑を掛けてしまう。
特に諏訪子の場合、不利益が働く結果を生んでしまえば、どのような行動を取るかがまだ確信して言えない。
人の噂も七十五日。流石にそこまで引きこもる訳にもいかないが、下手に派手な行動は取らないようにすべきと判断したシロウは、黙々とこれからについて考えることにした。
後書き
前作の人形少女の後書きでやったアンケートの分岐ルートっぽい雰囲気になりましたね。
今回はアンケートを取らず、こちらで勝手にやらせてもらいます。意見取り入れすぎると収集つかないのは経験済み(自業自得)。
出てきたキャラ以外も、後々は巻き込まれていく形になりますが、今回はこのぐらいに抑えました。
別に流石にそろそろ更新しないとマズイなー、という理由で内容削った訳じゃないんだからねっ!
今回の変化
バカルテット+&として一気に登場させました。
今のところルーミアは普通………?
初回登場でのみすちーラブフラグなし。当然だけど。
リグルに敵対される。解釈の問題だね、仕方ないね。
残り二人は正常運転。だがそれがいい。
レミリアと咲夜の性格改変
前作ではレミリアはカリスマ全開+咲夜はパーフェクト従者の筈が、今作はうーと泣くわ主人にズバズバもの申すわで面影なし。
シリアスな雰囲気は軟化したことで、前作よりも取っつきやすい感は出てきましたね。
それに連続する形で、シナリオもそうなるといいなぁ。流石にシロウの前では取り繕うだろうけどさ。
名前は出てないけど、文も噂に気付く
当然と言えば当然。逆に言えば遅すぎたかもというぐらい。
幻想郷の認識とシロウの認識
幻想郷住民にとっての妖精の価値、シロウにとっての妖精の価値を話す形になりました。
相変わらずシロウは諏訪子のことを警戒していますが、今回の例の行動を切っ掛けに少しわからなくなってきます。
単語用語シリーズ開幕。ストックは少しだけ増えたよ。
静謐
世の中が穏やかに治まっていること。また、そのさま静かで落ち着いていること。また、そのさま。
使いにくいなぁ、と思いつつもファンタジー系なら活かしやすいかも。そしてその後に敵がやってくるみたいな。
枚挙に暇がない(まいきょにいとまがない)
たくさんありすぎて、いちいち数えきれない。
まーた使いように困る。
その例は枚挙に暇がない、とかいう使い方はできるけど、文体でも使う機会は少ないよね・・・。
ページ上へ戻る