嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり
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第1章 第2話 使用人紹介
「ぐすっ……ずず……ぐすん」
「なんだ、こんなところにいたのか」
「…兄さん?」
「どうしたんだ?こんなところで」
「ぐすん……」
「また大人達になんか言われたのか?」
「…ん……お前は忌み子で一族の恥だって…」
「またか、気にするなっていつも言ってるだろ?」
「でも…」
「安心しろって、一族全員が、世界中の全員が敵になってもお前の兄さんはお前の味方なんだから、な?」
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主様に招かれ共に馬車に乗り屋敷へと向かう。不安は隠しきれない、それは前例によって証明されるだろう。あの村人たちの表情と言葉が脳裏から離れない。
「安心していいよ」
「え?」
「みんな君の事を理解してくれる。むしろ喜ばれるんじゃないかな」
「ありえません。そんな事…」
「主の言ったことが信じられないかい?」
「そんな事は…」
「なら確かめるのが1番早いさ、ほら着いたよ」
馬車が止まり出ると。広大な庭があり、手入れされた庭園、そしてそびえ立つ立派な屋敷がその敷地にはあった。見るものすべてが初めて見るものばかりだった。
「さ、お入り」
中央の扉を広いエントランスが広がっていた。その中央には何人かの人が立っていた。
「「「「おかえりなさいませ御主人様」」」」
ピシッと揃えられた挨拶にただただたじろいでしまった、というより圧倒された。
「ただいま。今日からここで新しく働くことになったルイス君だ。見てわかるとおりちょーっと短いけど角がある鬼だからみんな仲良くだよ」
とても軽い調子で紹介された。心臓がうるさいくらいバクバクと脈打ち痛い、顔を上げることも出来ない程だった。血がにじむほど力いっぱい握り拳を作っていた、最悪の想像しか脳を過ぎらない。
「怖がることは無い、私は君のように何か特別なものを持っている訳では無いし君のような扱いを受けたこともない。だからあまり軽はずみな事は言わない」
低く少ししわがれたような声で話しかけられる。でも、とポンと肩を叩かれた。それにビクッと反射的に肩を震わせる。
「曰く、鬼は強靭な力で屠り去る。曰く、鬼は膨大な魔力で薙ぎ払う。曰く、鬼の類稀なる能力は何人も抗えず。曰く、鬼は嘘を吐かず忠実なり」
「っ!!」
バッと顔を上げる。おおよそ170後半といった程の老人にしては高い身長に、顔にシワが寄り歳もそれなりに取っていそうな初老の男性が優しい眼をしていた。よく見ると後ろにいる他の使用人であろう人達も優しく微笑んでいた。村で見た憎悪に満ちた眼ではなく、優しさに包まれた眼を見るのは酷く久しぶりの事だった。
「ルイス君、君がどこで何をされたのかは見ていない私達にはわからない。もしかしたらとても凶悪なのかもしれない、とても危険なのかもしれない、だが、主人に尽くすと誓い使用人になったのならそれはどんな相手でも私達と同じ志を持った仲間であり家族だ。だから、歓迎する。これからよろしく頼むよ、鬼の活躍生きている内に見れることを光栄に思う」
「は、はい!!」
と、返事をしながら大きくお辞儀をした。すると、背中を優しく撫でられた。その方に目をやると主様がニッコリと微笑んでいた。
「ね?言った通りだったでしょ」
とても満足げだった。そのまま広間へと移動し各々が椅子に座る。
「よし、じゃあみんな自己紹介していこうか。あ、ほかのみんなも呼んできてね」
「では私から手短にしてから呼んできましょう。私はエグル・カストロス。使用人の中では一番の古株にして使用人の長、と言ってもただ歳を取っているからというだけだがね」
と先ほど僕を諭してくれた老人、エグルさんはすぐに奥の方へ引っ込んでいった。
「それでは次はわたくしがさせて頂きますわ」
と、160弱程度の身長に腰まである薄いピンク色の髪に青い眼をした女性が立ち上がり、3歩後ろへ下がった所でスカートの裾を軽く持ち上げお辞儀する。
「わたくしは、ミリア・メドニカルと申します。約10年前からここでメイドをしていて今年で29になりますわ。主に料理はわたくしが担当して他の手が空いている人に手伝ってもらう感じなの。一つ言っておかなきゃならないのはわたくしは偏見というものが大嫌いなの。だから御主人様やエグルと同じようにルイス君の事ちゃんと見てるから、怖がらないで仲良くしましょう」
「はい、こちらこそ」
ミリアさんが席につき、次にその隣の男性が立ち上がる。身長はエグルさんより少し低い程度で青みがかった黒髪の碧眼で、キリッとした顔立ちをしている。執事の装いをしているが腰には1本の剣が差してある。
「俺は、リク・メドニカル。さっき紹介してたミリア・メドニカルの弟だ、歳は今年で25になる。腰に差してる剣だが護身用だと思ってくれ、だが勘違いはするな別にお前に対してとかじゃない。主人様を守ることが俺の務めだと思っている、だからこそ俺はいつもこれは手放さない」
「リクは寝ている時も近くに置いてないと落ち着かないみたいよ」
「姉さん茶化すな」
「だってリクなんか目つき悪いし、感じ悪いし」
「これは生まれつきだ。これは文句言われても治せるものじゃないんだよ。姉さんが1番わかっているだろ」
「はいはいそうね」
「全く…俺の事はリクと呼び捨てにしてくれ。逆にさんとか君とかつけられる方がこっちとして楽なんだ。逆もまたしかり、俺は主人様以外には敬称はつけないからルイスと呼び捨てにさせてもらう、あと敬語も無しな」
「うん、わかったよリク」
見た目は少し悪い感じだが、中身はとても公平的で表裏のない精神状態が少し不安定な僕にとってもとても話やすい人物だった。そして、ここまでくるともう精神状態が安定して心地よい空間となっている、ここにいる彼らを信頼した証拠だった。そしてリクが席につき、またその隣の女の子が立ち上がる。身長は140程の小柄で、肩までの金髪の赤眼でとてもオドオドとしている。まるでここに来た当初の僕を見ているようだった。
「ええと…私は…マリー・セレスティア……です。……うぅ…」
「ええと、マリーってとっても恥ずかしがり屋でね、最初にあった人にだとこうなっちゃうの。気を悪くしないであげてね、慣れてくるとマリーもしっかり懐いてくれると思うわ」
「気持ちはわかります。僕もそうですから…よろしくマリー」
「は、は、はい…こ、こちらこそ……よろしく…お願いします……」
と、顔を真っ赤にしながら席へと戻った。そして今のところ最後の人物だ。また女の子だが今度は身長こそマリーと同じだが髪の色と眼の色が真逆だった。赤髪に黄色い眼をした天真爛漫という言葉が似合うような雰囲気のある子だ。
「あたしはメル・アルベル!この屋敷で戦闘員をやってるんだ!!」
「戦闘員?」
「そう!御主人は魔法も何も出来ないからな!だから敵とか魔獣とかが来たらあたしがほとんど相手するんだ」
「こんな調子だけどメルは本当に強いのよ。街の方にいる兵士達の隊長格と言っても差し支えない程よ」
「兵士…」
「そう、あたしは強いんだ!!だからタロットの騎士にだって負けないんだ!!」
「っ!!!」
『タロットの騎士』、その名前を聞いた瞬間眩暈に襲われ僕は意識を手放した。
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